旅の交差点


  今、旅が始まったばかりの人がいる。長い旅の真っ最中の人がいる。そして、ちょうど旅を終えようとしている人がいる。それぞれが周る国々も様々。旅人たちが集まってくるバンコクは、まるで旅の交差点のようだ。

  日中の蒸し暑い空気がまだ残る夜7時半。カオサン通り近くの屋台では、一皿20バーツのご飯をつつきながら、あるいはビールを飲みながら会話が続いている。誰もが一人で歩いている旅人だ。もちろん旧知の仲ではない。以前どこかの街で出会った、あるいは、たった今、たまたま同じテーブルに座っただけだったりする。

  まだ若い女性が、2日前に始まったばかりの一人旅のことを、4ヶ月間の予定を、不安に期待が入り交じっているかのように、やや紅潮した顔で眼を輝かせながら話す。やっと3ヶ月目に入ったばかり、などとと言う休学中の大学生は、前回私と、ここカオサン通りで会った後、1ヶ月の間にいかに素晴らしいやさしさに触れてきたのか、語るその顔には白い歯がこぼれている。驚くほど黒く日焼けした20代半ばの男性は、今終わろうとしている自分の旅を話し続ける。長い間日本語をしゃべる機会が無く、ストレスがたまっていたのだろうか、まるで機関銃のように話し続けている。いつまでも止まらない彼の体験談に、いいかげんあきれ、向いの席に座っている大学生君と2人、目くばせしてニヤリと笑い合う。

  彼らの話しを聞きながら、自分の、明日終わろうとしている3ヶ月間という、けっして短くはない旅を振り返ってみる。いや、振り返ろうとしたがそれが出来ない。出来ない理由は分かっている。それは、自分自身の中で、まだ旅が終わっていないからだ。明朝、意図的に飛行機に乗り遅れでもしない限りは終わる。物理的にはこの旅は終わる。しかし、心は、気持ちは、"旅の途中だ" と思っている。思い続けている以上は終われない。次はいつ、どんな形になるのか。長いのか、あるいはわずか数日間なのか。それは分からないが、再び旅に出るだろう。
  買ったばかりの航空券、バンコク → 東京 のチケットは、片道ではなく、1年オープンの往復だ。

  ここは終点ではない。今、旅の交差点に立っている。
 
 

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屋台での一皿

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