楽園の日影かげで
( with Pictures )


   「親父もお袋も、このザンジバルで生まれたんだ。俺はこのザンジバルの人間なんだ」
興奮したその学生の声はさらに大きくなる。
「ここは昔、タンザニアとは違う独立国だったんだ。あいつらと一緒になってから経済もうまくいかない。今度の選挙で、俺たちザンジバルの候補を応援しているんだ」
話題が選挙になってしまった。暑い日差しを避けて木陰で休んでいた。たまたま、同様に木陰で休んでいた学生だという青年と言葉を交わしていたのだった。どこから来たの、ニッポンでは何やっているの、といったごくありふれた会話が、いつの間にか、現在この島で行われいる選挙になってしまったのだった。今、島中のあちこちに緑色黄色の選挙ポスターがあふれている。

どこの国でも選挙があると、混乱や騒動が簡単に起きる。ここザンジバル島でもそれは同じだ。宿の従業員から、警官が発砲する騒ぎもあったらしいよ、とは聞いていた。選挙の結果いかんでその後の生活が大きく変わり得る。頭が熱くなって当然かもしれない。
 
 
 

 「マイフレンドよ、エイズにだけは気をつけろ。俺は震え上がっているんだ」
笑顔ではあるが、彼の眼は真剣だ。
宿で、雑談をしていた。今、大学生だというその従業員と、とりとめのない話をしていた。話題が女の子のことになっていた。彼の高校の同級生はすでに3人がエイズで死んでしまっているのだという。その誰もがコンドームをつかわなかったからだ、と理由を教えてくれた。若い彼にとって、エイズはあまりにも身近な恐怖になっている。

 アフリカは、性に関しておおらかなところだと聞いていたが、そのおおらかさが、こうしたかたちでのエイズの蔓延につながっているようだ。避妊に対しての意識の低さがコンドームの使用率を低くし、事態を深刻なものにしている。あちこちの街角で、コンドームの使用を促す看板を見かける。アフリカでは、地域によってはHIVキャリアの人間が、人口がの相当なパーセントになるという話すらきく。それこそ生死を分ける事柄だけに、今や彼はすっかり慎重になっているのだという。相手の女の子の今までの経験に神経をとがらせる。
そして、必ずコンドームは使うのだというが、
「だけど、初めての時は、それをどのタイミングで言い出すのか、それが難しいんだよね」
 
 
 

 ここザンジバルは緑豊かな美しい島だ。市街地のストーンタウンは、イスラム文化とスワヒリ文化が溶け合い、また植民地時代の影響から、内陸部のアフリカとは大きく異なる魅力的な街並みと人を創り上げている。そして海岸、ビーチは、パラダイスとさえ称されるくらい美しく静かだ。観光客もまばらな白い砂浜には、インド洋からエメラルドグリーンの波が打ち寄せている。この島が楽園というのにもうなづける。その素晴らしさに私も魅せられている。
 しかし、ここに住む人たちにとっては、ただ楽しいだけ、美しいだけの理想の地ではない。やはり生きていくための生活の場なのだ。失業者も多くみかける。ここは日のあたる楽園であると同時に、数々の問題や悩みという影も含んだ地でもあるのだ、そう感じている。
 
 

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ザンジバルをはじめ、タンザニア各地で選挙ポスターを見かけた

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パジェビーチ
Paje beach

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パジェビーチ
Paje beach

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パジェビーチ
Paje beach

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ストーンタウン
Stone Town

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海から見たストーンタウン
Shot from sea. Stone Town

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ストーンタウン
Stone Town

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ストーンタウン
Stone Town

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ストーンタウン
Stone Town

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ストーンタウンでの夜の屋台
Stone Town
 
 

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