行って初めて分かること


  緑色の空は本当にある。

  カオサン通りの一本隣の通りにある、馴染みの屋台で一皿20バーツのご飯、ビールを片手に彼の話に耳を傾けている。昨日まで周っていたというヨーロッパ、美術館で感じたというセザンヌ、ゴッホといった印象派の絵についてだ。彼、I 君は美術館もかなり周ったらしい。そこで、緑色の空は本当にある、ゴッホの絵を見てそう思ったのだという。印象派の画家たち、例えばゴッホの絵には、背景の色が緑やオレンジ色がかったものがある。彼にとって美術画集上では奇異に思えたその色が、実際に美術館を訪れ、ヨーロッパの陽の光の元、実物のその絵を見たら、確かにそんな色の空は存在する、そう思ったのだという。空がそんな色なわけがない。ゴッホにはそんな風に見えた、印象を受けた、だけである。今までI 君にはそれが不自然に思えていたのだが、実際に欧州各国を周り歩き、空を眺め、そしてついに実物の絵と対面した時、彼にも緑色の空がとても自然なものに思えたとのことだった。そんな風に見えても不自然じゃない。行ってみて分かった、本当にそんな空はあるよ、と。
 

  今までアフリカのことをどれだけ知っていただろう、そう自分自身を振り返ってみる。気候さえ満足に知らなかった。9月の日中、赤道直下のナイロビの街角を、羽毛の入ったダウンジャケットを着て歩いている人がいることなど想像も出来なかった。
  それが東アフリカへ行って、ジュースのファンタ・パッションフルーツ味からウガリ、マトケといった食べ物に到るまで、どんなものなのか口にする機会を得られた。街角で流れる音楽から、底抜けに明るいギターリズムのポップス、リンガラが圧倒的に好まれることも判った。陽の光の強さを自らの肌を焦がすことによって知った。何度も何人ともかわした握手から、彼らの手の温もりや汗、様々な想いの片鱗を感じた。報道の中でしか知らなかったルワンダの大虐殺も、遠い国の出来事ではなくなった。行くことによって分かった。

  もちろん、1ヶ月間彼の地で過ごした後の今だって、本当はアフリカの何も分かっていないのかもしれない。政治経済はもちろん、「マイフレンド!」と声をかけてくるあの笑顔の裏にある生活の実情も断片すら知らない。1ヶ月はあまりに短すぎる。
  だけどもこれだけは言える。行かないよりましだろうと。何もしないよりは、旅しないよりはずっとましだろうと。

 I 君の話は続く。2年近いその長い旅には興味深い出来事が山ほどある。そして話と同時に、1年半前、中国、ラオス〜タイで出会って以来、偶然にも再びこうして旅先で会う機会が出来た縁にお互い驚いている。
 

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タイ・バンコクの路地裏
 
 

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