マサイマラの星空


  マサイマラ国立保護区の夜空は星でいっぱいになっている。そこに南十字星は出ていないが、もう十分満足だ。
 

  ぜひ見たいものの一つに南十字星があった。赤道より南を行く今度の旅では、かなり高い位置に上がってくるはずで、絶好の機会だと思っていた。雲も人工の光も少ない、星を見るのには良いチャンスが何度かあった。が、一体どれが南十字星なのか、それが判らず、色々な星を勝手に十字に結び付けてみてはこれかな、と想像するばかりだった。
 

  アフリカを離れる日も近くなり、国立公園を周るサファリツアーに参加することにした。現地旅行代理店募集のそれの参加者は、若いスイス人カップル、少し前まで海外協力隊にいたという日本人男性に私という4人だけの小さなものだった。
 

  完全に観光コース化されているとはいえ、すぐ間近で見る野生動物は迫力満点だ。しかも次々と現れる。カメラのフレームに収まりきらないほど近づいてくるキリン。車なんて気にも留めず悠然と道を横切るチーター。丘の斜面を埋め尽くすヌーの群れetc。そしてその後には常に広大な景色の大地。間違いなくアフリカだ。

  私とそれほど歳の離れていない、その海外協力隊員だった男性は、フィリピンで数学や理科を教える先生だったのだという。 理科担当というだけあって、星の観察会などの指導もしていたという。最後の最後、今このツアー中に南十字星を見る絶好のチャンスがやってきたのだ。

  しかし、運の悪いことに、すでにケニアは小雨季に入り始めていた。一日に何度も雨がパラつく。夜空はどんよりとした雲で覆われる。星を見ることが難しかった。

  マサイマラ国立保護区そばのキャンプサイトに連泊していた。ナイロビに戻るという日、早朝4時前にふと目が覚める。もしかして、とテントから出てみると、これまでの雲がウソの様にほとんど消え、夜空一面を星が埋め尽くしていた。急いでテントに戻ると、先生をゆすり起こした。「ビール一本おごるから、星が見えてたら起きて解説してよ」、前夜冗談で約束をしていた。

  うつらうつらしていたんだよね、と言いながら先生も、テントを出て空を見上げると、へえ、これはすごく沢山出てるねえ、としばし眺め続ける。発電機の止まった周囲に人工の光は一切ない。月も沈みかけ、星を見るのには素晴らしい条件だ。

  先生はいくつか初心者向けの解説を交え説明してくれた。残念ながら南十字星は見えない、と。南十字星はさそり座のちょっと前に昇ってくるということ。そして、ギリシャ神話になぞらえ、オリオン座が出ている時にはさそり座は絶対に見えない位置にあるということ。今、オリオン座が出ている。だから南十字星は沈んでしまっているだろうと。
  確かに、天頂、日本では考えられないような空の真上にオリオン座が輝いている。

  先生はさらに解説をしてくれる。もし見えていたのなら、すぐそばに本物よりもきれいな十字型をした通称ニセ南十字星が見え、その側にやや崩れた形の本当の十字星があると。
  そうならば、たぶん見ている、そう思った。何度となく空に結んだ十字に、そうしたものがあった記憶があるからだ。きっと見ている。確証はないけれど。
 

  それにしても、星が沢山出ている。天の川もはっきり見えている。今、冬の星座が出ているのだけれど、この方向で天の川が見えるなんてすごいね、そう先生は言う。夏の星座側の天の川は、銀河を中心側に向かって見るからはっきり見えるが、冬の星座側の時は、銀河を辺縁方向見ることになるので、天の川は見え難いものなのだという。とにかく今、漆黒の闇に沈んだマサイマラの大地、その上には満天の星空なのだ。

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マサイマラ国立保護区
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マサイマラ国立保護区
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