やせた身体(インド)




  河のほとりに宿をとり、連泊していた。川岸には、いつも絵ハガキ売りの少年がいた。商売熱心だが、とても人なつっこい子供だった。
  その日は、その子とじゃれて遊んでいた。
「よーし、おまえをガンジス川に投げ込んでやるぞ!」
身体をつかまえた。そして持ち上げた瞬間、思わず声を上げそうになった。あまりにも軽すぎたから。10歳だというその少年の体重は、まるで就学前の幼児のような軽さだった。襟元や袖のすきまからのぞく身体は骨ばっていた。

  インドには痩せた人がとても多い。太った人がいないというわけではない。しかし、見かける多くの人が痩せている。インドは決して貧しいだけの国ではない。全人口の1割は、普通の日本人よりも裕福な暮らしをしているのだという。だが、民衆レベルの人々を見ていると、やはり貧困の中にいるとしか思えない人が多い。駅構内に沢山の人たちが野宿し、道端には物乞いの人が無数にいる。リキシャ(人力車)の車夫は、わずか1ルピーのチャイ(ミルクティー)を惜しみながら、なめるように飲む。

  また、気が付いたことだが、そこらじゅうで見かけるヒンドゥ教の神々のポスター、女神はとても太めに描かれている。インド映画のヒロインたちも、健康的すぎるくらいの体つきだ。どちらも日本の美的感覚では、あまり美しいプロポーションとはされないだろう。当初、このことに違和感のようなものを感じていた。
  だが、人々の痩せた身体を思い起こした時、このギャップも解消された様な気がした。女神もヒロインも憧れの対象だ。痩せた人々は、太ることの出来ない民衆は、憧れの対象の、ふくよかな身体を通し、実は裕福な暮らしを見ているのではないだろか。物に満たされた毎日がもたらす健康的な身体。あの肉付きのよい身体は,、豊かな物質生活の象徴なのだとしたら・・・

  いずれにせよ、ダイエットが産業になっているニッポン、インドからはとても遠い国だ。
 
 
 


 
 



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