老いてもなお


  コインランドリーでぼんやりしていると、見知らぬ老人が話しかけてきた。問わず語りによると、彼は70才、土工とのこと。
  ここ3年間そうだが最近はすっかり工事が無くなり、収入があまりなく苦しい。年齢が高く雇ってもらえない。同じような境遇の人のなかには、ホームレスに  なってしまう人も多い。コンビニのゴミ箱から、期限切れ廃棄された弁当を探そうとしても、狙っている人間が多くて大変らしいよ。もう田舎の群馬に  戻ろうと思ってるよ、などと語っていた。

  4月に引越してきて、「この街は、公園でたむろするホームレスがやけに目につくなあ」という印象を持っていたのだが、そういう理由だったと分かった。労働意欲を持ちながらもホームレスにならざるをえない人がでてくる、そんな時勢になっている。そして七十才でも働かないと生活していけないのか、という驚きがあり、また、この国の社会保障制度は、本当に必要な人たちに対しては機能していないという実態も知った。
  帰郷したところで、高齢なのに働かなければ食べていけないような人間を歓迎してくれる家などあるのだろうか。
  老いてもなお、生きていくための努力を求め続けられる。

  気持ちよく晴れた初夏の朝だった。しかし、気分も晴れやか、とはならなかった。

                                                                                          1998年 5月
 
 

INDEX



All rights reserved by Yasuto Oishi.  禁無断転載