(9)1999/08/16



『SISTER ROSETTA THARPE』
 Complete Recorded Works 1938〜1944
 In Chronological Order
 Volume1(1938〜1941)&2(1942〜1944)

 Sister Rosetta Tharpe
 オーストリアDocument◎DOCD-5334,5335 1995


 ギターを抱えた異色の女性ゴスペルシンガー。
 カントリーとモダン、両方の要素を併せ持つ
 大衆臭プンプンの独特なスタイルが魅力。
 



■本当のシスターなのにジャズバンドとナイトクラブで共演。

 わてにとってロゼッタ・サープの魅力は一言、「大衆に身近な、くだけた尼さん」だということ。ゴスペルというと、つい荘厳なイメージを持ってしまいがちで、特に女性シンガーの場合はそうだ。鳩が100倍に膨れ上がったような胸のオバさんが天も張り裂けよと歌い上げる・・・みたいな。

 確かにわてもそれは好きなんだけど、元々不信心なタチか、いまひとつ肌に合わないのだ。ロゼッタはCOGIC(チャーチ・オブ・ゴッド・イン・クライスト)という会派に属する本当の尼さん。でもジャズバンドとの共演をやったりした“くだけた”お方だった。またギターを抱えた女性ゴスペルシンガーってのも他に見たことがない。まさに独自の世界を持った人である。(上記タイトル写真参照)

 ロゼッタ・サープのソロにおけるギターとボーカルのスタイルは、とっても素朴。ギター・エヴァンジュリストの流れを汲む人みたいで、なんかカントリー・ブルースに聞こえたりもする。ギターソロも個性的な味わいのあるフレーズで、テクニック云々以前に音楽としての美しさを再度認識させてくれる音である。

 さて、共演したそのジャズバンドは「ラッキー・ミリンダー楽団」で、デュークやベイシーみたいにビッグネームにはなれなかった。しかしその共演はゴスペルとジャズのひとつの融合(のようなもの)が見られて興味深いんである。


■「That's All」に見る、ゴスペルとジャズの触発。

 例えばVol.1と2、それぞれに繰り返し収められたロゼッタ最大の有名曲「That's All」。Vol.1の2)における1938年のソロ初録音ではカントリーブルースのようなギター弾き語りで演奏されている。なんともしっとりとした伝統的な、言い替えると田舎の香りがする響きなのである。

 ところが、1941年11月のミリンダー楽団との録音(Vol.1/22))では、ビル・ドゲッドの軽快なピアノをイントロになんともスィンギーなオーケストラ・アレンジが施されて、「これでも同じ曲か??」と思えるほど変貌してしまう。

 ロゼッタのなんとも猥雑なギターソロ、そしてジャンプするボーカルも、オーケストラに反応して素晴らしいノリの良さである。彼女のギタープレイは、超絶技巧云々というテクニック論を飛び越えて、“存在自体が凄い”という域にあると思う。一見簡単そうで、実は決してコピー出来ない味わいを持っているのである。

 ・・・このギターソロ、「ロックンロール」のノリなのだ!

 しかしこの曲をはじめとしたミリンダーとの共演作品は、単にアレンジの勝利として捉えるのは浅い様な気がする。やはり黒人大衆文化の根っこに流れているゴスペルやブルースといった基層の部分に、絶えず表層は感応してエネルギーを補給しているのだろう。スィング・ジャズ版「That's All」の躍動感の根源は、基層と表層の触発から生まれていると思う。


■フィルムに残された、ブラック・エンタテインメントの至福。

 それを視覚的に見せてくれるのが、貴重な文化遺産とも言える『Soundies』フィルムである。『Soundies』は、言うなれば1940年代のMTV。ジュークボックス似の一回り大きな筐体に、16mmフィルムプロジェクターとスクリーンが組み込まれた代物で、お金を入れるとミュージシャンの画像を見ることが出来る。主に酒場などに設置された。

 このフィルムに、ロゼッタとミリンダー楽団は1941年に3曲を残している。その内の一曲「Four Or Five Times」は『スウィング・スター・オン・パレード第4集・ハーレムの黒人スターたち』(BMGビクター LD BVLP-48 1990)で見ることが出来る。

 ナイトクラブでのステージ風のシチューエーション。楽団の手前にはテーブルに腰掛けたカップルが陣取っている。バンドの、どちらかというとロッキン・ジャズに近いビートの効いた演奏にロゼッタのボーカルが被る。

 そのボーカルにしてもジャズの流れるような唱法とは違って、彼女のギタープレイに似た、言葉をぶつ切りに吐き出すようなスタイル。これを聴いていると、この曲のすぐ向こうにR&Bやロックンロールが見えてくる気がする。

 曲の後半は大ダンス大会で、当時の雰囲気が味わえる内容となっている(1941年のアメリカの美麗チャンネーのお姿も拝めます(笑))。ゴスペル、ジャズ、そしてダンス・・・それらが渾然一体となった40年代の黒人大衆芸能の至福のひとときがそこに流れているのである。

 というわけで、ロゼッタ・サープ、わては声を大にしてお勧めしたいんであります\(^0^)/。


*『Soundies』:
フィルムは当時の人気ミュージシャンのほとんどが残している。それだけロゼッタ・サープも人気者であったということ。しかも音自体も正規盤とは違う『Soundies』用の録音のため、演奏だけでも貴重品。
フィルムの制作は1941年から第二次世界大戦期に集中。戦後衰退しはじめ、テレビの登場で息の根が止まった。

お品書きに戻る   牛耳TOP