(44)2001/01/01



『A TEENAGE OPERA』

 MARK WIRTZ
 日MSI◎3613 1996


 1960年代後半、英EMIの若手敏腕プロデューサーだった
 マーク・ワーツの未完ポップオペラの復刻盤。
 サイケでキャッチーな歌とインストを満載。



■30年ぶりに復刻された未完ポップオペラ。

 マーク・ワーツについては、以前ちょっと触れたんやけんども、彼はスティーブ・ハウが在籍していたTOMMOROWのプロデューサーとして有名やったんですが、EMIでのプロデュース業と平行して、自分の作品を録音し発表を行っていたんですにゃ。

 先の『PSYCHEDELIA AT ABBEY ROAD 1965〜69』ではSLADEの未発表曲もよかったんですが、実はこのマーク・ワーツ名義で1968年に発売された「(He's Our Dear Old)Weatherman」が収録されていて、実はこれが名曲!もうずっと聴きまくっておったわけざんす。 

 で、イギリスのコレクターズ・レーベルであるRPMからフルアルバムが復刻されていると「(He's Our Dear Old)Weatherman」のライナーに書いてあったのでずっと探しておったんですにゃ。ところが灯台もと暗し、日本のMSIから輸入盤+解説日本語訳文+歌詞付きで発売されておったんで、さっそく買った次第。

 ライナーによると、ワーツは1967年初頭、ミニ“ポップ・オペラ”というコンセプトで楽曲の構想を練っていたらしい。その第一弾としてTOMMOROWのヴォーカルであるキース・ウェストを使ってシングル「Grocer Jack(Excerpt From A Teenage Opera)」を発表。これが同年夏には全英チャート2位を記録したそうな。

 その大ヒットのお陰で、マスコミも含めてオペラに対する注目が高まったんやけども。その後、オペラからの楽曲をシングルとして発表するも、すべてチャートインすらせず・・・。結局アルバムも出ずじまいのまま、アビーロード・スタジオの隅でテープが埃をかぶることになったらしい。

 というわけで約30年後の1996年に英RPMよりこのアルバムが復刻されて、ワーツのコンセプトに沿った形で『A Teenage Opera』がやっと日の目を見たというわけ、らしいですにゃ。もちろんこの復刻のプロジェクトにはワーツ本人が関わっておりまする。

 何はともあれこのアルバム、ビートルズ『サージェント・ぺパーズ』を代表とするイギリスのサイケデリック時代の香りをぷんぷんと思い起こさせる名曲・名アレンジの数々が並ぶ名盤ですばい。


■イギリス・60'S サイケポップの見本市的な楽曲群。

 さて、このアルバムの中で唯一大ヒットした「Grocer Jack(Excerpt From A Teenage Opera)」。キース・ウェストとコロナ演劇学校の子ども達のヴォーカルが絡むなんともメルヘンチックな曲で、大ヒットしたのが納得できるキャッチーな出来。管弦はじめ様々な音を被せ重ね合わせた、ワーツの趣味が出た精緻で荘厳な分厚いつくりですにゃ。

 この曲のエンジニアは、当時アビーロードで『サージェント・ぺパーズ』のミックス作業中だったジェフ・エメリックということで、ホーンのアレンジやかぶり方にそこはかとなく『サージェント・ぺパーズ』が見え隠れするのが面白い。

 ワーツが歌い偽名でシングルリリースした「Mr.Rainbow」。たぶんスティーブ・ハウがアコースティック&エレキ・ギターで関わっているんだろうけど、この曲もポップなメロディーラインとアレンジの素晴らしさが光る名曲。いかにも60年代後半らしい曲作りだなぁ・・・と思わず遠い目(爆)。

 同じくTOMMOROWが関わったキース・ウェストのソロ・シングル「On A Saturday」。これは英EMIから一昨年出たTOMMOROWの復刻CDに入っていたんですけんども、マジに聴いてなかった(自爆)。このアルバムでじっくり耳にしたら、これも美しいメロディーラインを持ったいい曲でしたわぁ(不覚)。キース・ウェスト、なかなかいいヴォーカリストですにゃ。見直しましたわぁ^^;

 なんとあのニック・ロウがヴォーカルをとっているKippington Lodgeなるグループの「Shy Boy」も収録。これもじつに美味しい曲。同曲はTOMMOROWも1stアルバムでやってるんですが、出来はニック・ロウの方が上。でもテンポやバックのキーボードの音が同じなんだなぁ・・・。ワーツは同じリズムトラックの上に二つのグループを被せ直したのか? 謎。

 そして名曲「(He's Our Dear Old)Weatherman」。奥様である元EMI若手女性シンガーのロス・ハンナマンとの共作なんですけんども、これが101種類の音を3分少々に詰め込んだ極めて複雑でポップな作品。この緻密さは本当にスゴイ。後年のYESの構築的楽曲づくりは、ハウがこの時期ワーツから影響をうけたものじゃないかって感じがする。

 まさに“ティーンエイジ・オペラ”という言葉がぴったりの曲で、複雑に構築されたメロディ、リズム、楽器が、シングル盤一枚分のポップな宇宙を見事に作っている。英文ライナーにあるとおり、この曲を認めなかったBBCラジオ1はやっぱり聴く耳を持っていなかったと言えそうだ。これが売れなかったとはなぁ・・・なんでやねん。残念。

 というわけで、主だったところを御紹介。これらの歌の間に様々なインストがちりばめられて、このアルバムは構成されておりまする。しかしこのインストも当時の音楽シーンを思い起こさせるような、ポップな作品ばかり。インスト・アルバムとしても成り立つような出来の高さが、さすがワーツという感じですにゃ。


■時代の裂け目に落ちた、哀れな犠牲。

 このアルバムを聴いていたら、ほんとあの『サージェント・ぺパーズ』から始まった(いや、ザッパの『Freak Out』もと言えるかもしれないが)、コンセプチャル・アルバムの時代を懐かしく思い出しましたにゃ〜^^;

 ヒットシングルの寄せ集めでしかなかったアルバムづくりから、ひとつのコンセプトに基づいて楽曲を制作し構成するという作り方への画期的変化。

 ところでマーク・ワーツはTOMMOROWを見つけた1966年頃、“ピンク・フロイド”なる新人バンドをノース・ロンドンの公会堂で発見して契約にこぎつけたそうな。しかし、そのプロデュース自体は同じEMIの若手社員だったノーマン・スミス(後にハリケーン・スミスの名で「Oh Babe」の大ヒットを放つ)に譲ったらしい。

 大成しなかったTOMMOROW、逆にビッググループとなったピンク・フロイド、運命というのは分からんもんですにゃ。もしワーツがピンフロのプロデュースをやっていたら、このオペラの命運も変わっていたのかもしれない。

 ワーツのその後のプロデュース業やミュージシャン業がどうだったのか、わても全く知らんとですけんども。シングルヒット亡きが故に歴史に沈んだコンセプチャル・アルバム『A Teenage Opera』、これはミュージックビジネスが大きく変動しようとしていた時代の裂け目に落ちた、哀れな犠牲だったという感じ。ほんともったいない話だったにゃ・・・こんなに中味が良いのに(T_T)


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