(33)2000/05/14



『ダスト・フロウズ・フォワード〜アンソロジー〜
 キャプテン・ビーフハート&ザ・マジック・バンド
 日 P-VINE◎PCD 1163〜4 2000
 一般には“ロック界の奇人”と言われているビーフハート。
 その1965〜82年までの音楽家としての軌跡をつづった
 日本語解説が付いた米盤CD2枚組アンソロジー。



■初めて満足できるベスト盤の登場。

 『世紀の怪人、キャプテン・ビーフハート待望の2CDアンソロジーがライノ編集で登場!』

 いかにも食指をそそる惹句である。

 “世紀の怪人”という掴み。アンソロジー+ライノ編集とくれば、ライノの編集盤の音質、選曲のセンスを知っている方なら、さらに商品価値が高まろうというもの。内容はその期待を裏切らない、さすがの出来なのである。

 いままで数枚のベスト盤を店頭で見ているが、やっとビーフハートの65年デビューから82年の音楽活動休止までの足跡を振り返るコンセプチャルなアンソロジーが出てくれたという感じ。さすがライノさん。

 A&Mでのデビュー曲「DIDDY WAH DIDDY」から82年に英国VIRGINから12inchシングルだけで発売された「LIGHT REFLECTED OFF THE OCEAN OF THE MOON」まで、全45曲。ビーフハートの音楽的進化、深化のプロセスを手軽に追跡できる。

 古くからのファンのわてとすれば、映画『BLUE COLLOR』のテーマとなった「THE HARD WORKIN' MAN」がやっと正式にCD化されたことが一安心といったところ。映画は数年前にBS放送で録画して見ている。映画そのものも面白い作品だったが、やはりビーフハートのテーマ曲を聴けたときは感涙であった。今回のCDで音質的にも素晴らしい状態で楽しめるようになった。


■“怪人”の真の怪異さとは・・・

 この『ダスト・・・』は昨年米盤が店頭に並んで存在は知っていたのだが、わてが英語が疎いという関係上、解説が読めないのがツラく手を出していなかった。待てば買いの日和あり、でP-VINEより英文解説翻訳書付きでやっとこさ発売となった。

 やはりアンソロジーともなれば、ライナーの筆者がどう対象となる音のバックグラウンドを解き明かすかが楽しみのひとつ。バリー・アルフォンソのライナーは、元メンバーの証言も含めたレベルの高いライナーである。ぜひとも『THE DIG』NO.10(シンコーミュージック刊 1996 左写真)でのビーフハート特集と合わせて読んでいただきたいところ。

 『THE DIG』や解説書では、『TROUT・・・』の全曲が8時間で作曲されたという伝説が、実はスタジオ代を惜しんだフランク・ザッパがせかして8時間で録音を終わらせたのが真相、なんてことも暴かれている。しかし、そんなことはビーフハートの素晴らしい音楽の中味とはなんの関係もありはせんのである。

 マインド・コントロールの天才でバンド内では強権体制を敷いていたなんて話も、ビーフハートのカリスマ性を物語るものであるし、やはり強度の思いこみと先導性、扇動性が芸術家には必要であるということだろう。

 でないと、これだけ独特のふたつとは無い音楽を創造できるわけがない。

“怪人”という言葉で括られることが多いビーフハート。しかし真の“怪”な部分とは、音楽の表面的な怪異さにだけにあるのではなく、ヒットアルバムを出して口座を潤わせたいという本人のスケベ心と創られる音楽の落差、それこそが“怪人”たる由縁だとわては思っている。

 本人は“極めて素直”なのである。創られる音楽もまた“素直”だ。己の作品を売れると信じているが、お金持ちになれると思って創っているその作品はコマーシャリズムとはまったく対極にある内容。だから作為的にゲージュツ家またはアーティストしているミュージシャンとはまったく位相が違う人なのだ。

 商品と作品・・・その境界線を期せずしてアンヴィバレントに疾走してきたところが、凡百のミュージシャンとは一線を画すビーフハートならではの面白さと言えるかにゃ。


■空気の彫刻・・・全45曲。

 ビーフハートの音楽を聴くといつも思うのが「空気の彫刻」というイメージなのら。音は空気の振動として鼓膜に当たって認識されるわけで、他のミュージシャンの音にそんな気は起きないが、ビーフハートにはその複雑な積み木細工の如き構築度の高い音を耳にすると「空気の彫刻」という気が湧いてくる。

 ビーフハート自身が幼少から絵画や彫刻で才能を発揮した人で、創られる音楽もその素養というのが大きく作用しているのは間違いないやろうなあ。

 全45曲中、濃度の高いのは『TROUT・・・』と『LICK MY・・・』の二枚の時期に絞られるところだけど、やはり「LICK MY DECALS OFF BABY」の“整理された混沌さ”が個人的にはベストだと思っているところ。ギターのコピーに挑戦してみたが、いやはや指が骨折しそうなほど複雑なフレーズはいまだ手つかずなのだ( ̄▽ ̄;

 というわけで、結論→P-VINEで廃盤にならない内にご購入を(苦笑)。


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