(32)2000/03/26



『グレイテスト・ヒッツ』
 キャロル・キング
 日 CBS SONY◎ESCA 7772 1999
 60年代を代表するソングライターであり
 70年代、シンガー・ソングライターの象徴となった
 キャロル・キングのデジタルリマスター化ベスト盤。



■永遠の名曲・・・「IT'S TOO LATE」

午前中、ベッドにいれば 時は無闇に過ぎてゆく
どこかが間違っている
あなたか、私が変わったの、
さもなきゃふたりがやる気をなくしたのか

もう、遅すぎる、遅すぎるのよ
ふたりは努力したけれど
心の炎が消えたのを、私はそれをかくせない
私はそれをだませない
とても、とても、だませない・・・

(「It's Too Late」1971)

 「It's Too Late」・・・真のスタンダード・ナンバーと言える名曲ですにゃ。

 わての兄貴はアメリカン・ロックのファンで、中学から高校の頃はCSN&Yやらバッファロー・スプリングフィールドなんぞに凝っておりまして。ちょうどその頃、71年〜72年にかけて大ヒットしてラジオなんぞでかかりまくっていたのが、この「It's Too Late」。で、兄貴もシングルを持っておりました。

 たしか小学校6年だったわても横で聴いていたので、この曲とのつきあいはもう30年近くなるっす。いままで、ふと頭にメロディが浮かんでは口ずさんでいたのでありまする。ほんと、ええ曲ですにゃ。

 とは言え、歌詞の中味なぞ解るわけもない。「いっつ つー れー」なんて歌ってるだけ。いや・・・言葉の意味は分かっても、“味わうこと”は小学生の子どもにはまだ無理な話で^^;。

 ソングライター・チームとして、アメリカン・ポップの歴史に名を残したジェリー・ゴフィン=キャロル・キング。キャロルの亭主でもあったジェリーとの破局を語った、極めて私小説的な作品だと思うんやけんども、なんとも私的領域を超えて、とても広範な訴求力を持った作品っす、この曲は。

朝降る雨を眺めながら
何の感動も受けなかった私
まだ、生きねばならぬと知ったとき
本当に私はうんざりしたわ
あなたに逢うまで、人生はつれなかったの
あなたの愛こそが私の穏やかな心の鍵だったの

あなたは私を、あなたは私を
あなたは私を本当の女にしてくれるから
(「(You Make Me Feel Like A)Natural Woman」1967)

 ソウル好きのわてとしてはアレサ・フランクリンのオリジナル録音の方がなじみが深いこの曲。キャロルのバージョンはアレサの“絶唱”という感じとは違い、淡々とした表現なのじゃが、それが逆にじんとした説得力を持ち得ているのはさすが。

 というわけで、いままでアナログ時代から買おうと思いながらも手が出なかったこの盤。昨年7月からキャロル・キング音源のデジタルリマスター再発プロジェクトが日本でも出始めて、やっと重い腰を上げて昨年末に買ったわけで。・・・とにかく、音が抜群にキレイっす。


■平易な歌詞が普遍的共感を呼んだ・・・という意見に賛成。

ずっと遠い彼方
もう、誰もいないのかしら
戸口にあなたの顔が見えたなら
どんなに素敵なことでしょう
あなたが時の彼方にいるなんて
誰にも教えて欲しくない
昔、私が手を伸ばしたら、あなたはそこに立っていた
あなたをもう一度抱くことが、たったひとつの私の慰め
できることならやりたいけれど
あなたは遠い彼方なの

(「So Far Away」1971)
 今年に入ってCMに使われたというバラードの名作「去りゆく恋人(So Far Away)」。上記はその歌詞やけど、言葉としてはコムズカシイことは言っていないのに、心にしみますにゃ。ピアノとアコギのシンプルなバックに乗って歌われるこの曲なんかはキャロルの象徴的作品かもしれん。

 今月出た雑誌『レコード・コレクターズ』に、キャロルのプロデュースを担当したルー・アドラーのインタビューが掲載されておりました。

 先の「It's Too Late」が入った大有名盤『つづれおり』が世界的にヒットし今でも売れ続けていることについて、“歌詞が平易であるからこそ普遍的な共感を呼ぶことができたのだ”、みたいなことをおっしゃっております。

 ほんと同感ですにゃ。

 それと、キャロルがピアノだけで録音したデモテープが関係者に大好評で、そのデモのムードを壊すことなく正規盤のレコーディングを行った、との談話が興味深かったっす。

 特に『つづれおり』では手練れのセッション・マン、ダニー・コーチマーのギターが渋いフレーズを聴かせてくれるんやけど、やっぱりキャロルのシンプルなピアノと飾り気のないボーカルがじんわりとさせる根幹ですばいね。デモが人気になったのはわかる気がするっす。

 キャロルの詩・歌は造りがシンプルであるがゆえに、聴く人それぞれの経験の度合いによってスルメみたいに味わいを感じ取れる、ということでしょうかなぁ。まるでカルロス・ガルデルの様な人ですにゃ。


■聴くと元気が出る・・・そんな人。

 さて、この『グレイテスト・ヒッツ』を聴いていると、キャロルのシンガー・ソングライターとしての才能の深さをまざまざと思い知らされますにゃ。

 それは技法論的レベルではなくて、人の心を高揚させ激励し慰めてくれる力を持っているということ。シンガーに限っていっても、聴くと元気が出る歌手といえばわてにとってはサム・クックなんかが最右翼なんやけども、女性ならこのキャロル・キングを一押しにしたいっす。

うまくゆくこともあればだめなこともあるもの
望みがかなったと思ったとたん
“おじゃん”になってしまうこともあるの

うまくゆくこともあればだめなこともあるもの
ひとはあれこれ迷いながら
一生を過ごしてしまうことがおおいのね

わかるかしら?・・・“若さ”のことをいってるの
すてきだなあと思うのよ
知らぬまにしのび寄り、去ってゆくものでしょう?
海に浮くセイル・ボートのようなものでしょう?
(『Sweet Seasons』1972 以上松宮英子/福田英子訳・ライナーより)

 ある種の達観、というか透徹した人生観を感じさせる歌詞、そしてアメリカン・ポップスの典型ともいうべき軽快なメロディ&リズムが素晴らしいこの曲。ここでもキャロルは生きることの“喜び”を素直に謳いあげて、聴く者を優しく包んでくれるっす。

 というわけで、29年ぶりにまじに聞き込んだキャロル・キング。偉大な歌手・作家であることを再確認した次第。ブリティッシュ・ロック好きだったわてからすると、兄貴のセンスは「?」ものなのじゃが、キャロルだけは認めるじょ(爆)


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