(17)1999/10/25



『ビリー・ホリディ
 ザ・レディ(コンプリート・コレクション)

 ビリー・ホリディ
 日 CBS SONY◎00DP 570〜577 1986
 史上最高のジャズ・シンガー、ビリーのCBS時代の集大成。
 傍系レーベルの録音まで全168曲を網羅した名盤8枚組
 デビューから円熟期までのビリーを堪能できます。



■ビリーが“暗い”というの大間違い、である!(笑)

昼も夜も 何故なのかしら
あなたを慕う気持ちは
どこまでもあたしの後を追う
うなる交通の喧噪の中でも
あたしの孤独の部屋の静けさにも
あなたを想う 昼も夜も

夜も昼も あたしの心の奥で密かに
激しい想いが
燃え上がる
この苦しみが癒される時は
あなたと共に生きるとき
愛し合いながら
夜も昼も
昼も夜も

(『Night And Day』1939)

 いつだったか女友達とジャズの話をしていて、ビリー・ホリディの話になった。そしたら彼女曰く・・・
「ビリーって、暗いのよねぇ〜(-。-)y-゚゚゚」。
そこでわては「ん?ビリー、聴いたことあるとぉ?(-ー;」と返すと、
「いや、聴いたこと無い!\(^0^)/」(おぃおぃ)。

 ま、かくの如く、ビリーは一見(一聴ではない)“暗い”というイメージに受け取られがちではある。それは代表作の「Strange fruit」が黒人差別を歌ったりとか、売春婦として前歴とか、悲劇的な死とか、そんなことが暗いイメージの底にあるのかな、と思ったりもする。

 しかし、ビリーの歌は聴き込むほど希望を呼び覚ましてくれる、というのがわての感想。ビリーの実人生の中で訪れた悲嘆の数々、その悲しみの深さを知っているが故に、彼女の歌には“明日”を願う女心が滲みて、聴く者を暖かくしてくれる、という感じ。影の奥深さを知らずして、ほのかな光の眩しさを識ることはできないのであ〜〜る。


■フィルムに聴く、ビリーの天性のモダンさ。

あたしの前に横たわるものは
荒れ狂う未来
灰色で冷たい冬
恋の魔術がなければ
終末は悲劇よ
そして、あたしの心に鳴り響く
例のよくある失恋のお話
あたしの人生は あなたを中心に回ってる
あなたなしに あたしにどんな価値があるの
本気なのよ
あなたのもの
身も心も
(『Body And Soul』1940)
 さて、彼女の実人生の中味については油井正一・大橋巨泉訳の『ビリー・ホリディ自伝』(晶文社)に譲るとして、ここでは映像として残されたビリーの姿に触れたい。

 ビリー単独の映像集としてまとめられている内有名なのは、左画像の『The Long Night Of Lady Day』(VAP VHS VPVR-67697)と、もうひとつ『ビリー・ホリディの真実』(ビデオアーツミュージック LD VALZ-2120)がある。

 中でも最もビリーの象徴的なシーンとわてが思っているのが、1935年、20歳のビリーがデューク・エリントン楽団と共演した「Big City Blues」。ちょっとしたミニドラマ仕立てのフィルムで、浮気男を待つビリー、そこに男は別の女と現れ、振られ悲嘆に暮れる・・・というイメージ。

 この曲でのビリーは、ブルースを歌いながらも、そのボーカルスタイルが“極めて流麗でモダン”なのである。当時の大スターでビリーのアイドルでもあったベッシー・スミスのフィルムもその前後に流れたりするが、新旧のスタイルの差は歴然。若干20歳でモダン・ボーカルの神髄をすでに掴んでいたビリーは“やはり天才!”、と言いたくなるクリップだ。

 ビリーのもう一人のアイドルであるルイ・アームストロングも、1933年にコペンハーゲンでのライブ映像を残している。これがまたジャズボーカルの歴史の一頁を作ったルイならではの独自のスタイル。ビリーは、伝統的なベッシーと革新的なルイのエッセンスを融合させて、次代のボーカルのカタチを体の中から創造したのだな、という感じがする。


■性差と時代を超えて・・・

あたしのすべて 奪ってちょうだい
わからないの 一人では駄目なのよ
唇を奪って いらないんだから
腕を取って もう使わないんだから
あなたのさよならは あたしを泣かせるわ
あなた無しに 生きてはいけないの
一番良いとこもって行ったのよ
残りも全部奪ってちょうだい
ベイビー あたしの全てをあげたいの
(『All Of Me』1941)

 というわけで、表現者として希有の才能を持っていたビリー。生きることに傷つきながらも、その哀しみをジャズ史上最高の表現のひとつへと昇華させていった力は、やはり天からの授かりものだったのだろう。他の歌手には感じることのない、天性のものである。・・・あといるとすれば、日本では美空ひばりかな。

 エラでは精緻すぎる、サラでは固すぎる。切ない女心を歌わせれば、この人の右に出るひとはいない、とわては思っている。しかし聴き込むほど、ビリーの歌心は性差を超えて、聴く者の心に優しさと癒しを与えてくれるのだ。・・・「人を、生きることを、信じたい」と思うのである。

 先に紹介したビデオ『The Long Night Of Lady Day』では、黒人の女性解放運動家が出演してビリーへのコメントを残す。「ビリーが生きた時代と女性が強いられた生き方を容認できるものではない。しかしビリーの歌には同じ女性として心から共感を覚えるのです(大意)」と・・・。  

切り抜けるわ あなたのお陰で
あたしにわからせてくれたのよ
人生がどんなに美しいか
心を軽くしてくれたわ
恋のコストを計算させてくれて
赤字じゃなくて 黒字なのを教えてくれた
希望がなくなったと思った時
教えてくれたわ あたしが間違っていること
生き続ける方法を教えてくれた
時間を割いてくれてありがとう
この歌をありがとう
切り抜けるわ
あなたのお陰よ
お返しするわね
あなたが辛い目にあった時は
そんなこと無いようにとは思うけど
苦しい経験をしたんだもの
この借りは忘れないわ
何とか切り抜けてみるつもりよ
(『I'm Pulling Through』1940 以上丸野三保子訳・解説書より)

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