ああ・・・あの患者のことがお聞きになりたいのですね・・・

 そう、当院にあの患者がやって来たのは、昨年の春のことでございました・・・。

 印象と言えば、眼鏡をかけ、すこしくたびれたスーツを着た実直そうな中年サラリーマン。仕事中抜けてきたのでございましょう、お昼の2時頃に、恐る恐る入ってまいりました・・・。

 診察室に入ったその患者に話を聞きますと、小学生の頃から或るレコード・レーベルに異常な“愛情”を感じて感じて、以来もう不惑を越えてもいまだにその愛から抜けきれない・・・と涙ながらに訴えるのでございます。

 私が「そのレーベルはどこのものですか?」と尋ねましたら、患者が差し出したのがこのレコード袋でございました。

 

 見ますと大変古いシングル盤の内袋でございます。中にレコードが一枚・・・ビートルズの「ビートルズがやって来る ヤア!ヤア!ヤア!」が入っておりました。

 ところが、私が「ほぉ、ヤア!ヤア!ヤア!ですか。懐かしい」と申しますと、患者はこちらが問いかけもしないのに、

「この『A HARD DAYS NIGHT』はレコード番号OR-1119で当時発売された盤でジャケットも初回の分ですあっ!そうオデオン盤とはかつて東芝音楽産業株式会社から発売されていたレコード・レーベルなんです一番のビッグと言えば先生もご存じでしょうビートルズ!私は小学生の頃にビートルズのファンになってレコードを買ううちにアップル・レーベルへの変更前にオデオン盤時代があった事を知りましたビートルズを買うならオデオン盤でしか買いたくないとチャリンコを駆って街中のレコード屋を走り回って売れ残ったビートルズのオデオン盤を買い集めたんです!!ところでこの袋は1960年代初頭たぶん61年頃製作のオデオン盤専用の内袋で63年頃より発売全レーベルの統一内袋に変更される前の貴重な単独レーベル袋で極めて希少性が高いものと思うんですよ!いや実はこの袋叔父の持ち物でしてねどうしてもこのオデオン袋が欲しくて叔父が家にいない間に袋を入れ替えてしまったんですぅううう!あぁ〜〜〜〜!私は罪を犯したぁ!!(T_T)でもどうしてもオデオン盤への愛に打ち勝つことは出来なかったのです先生どうしたらいいでし・・・m(_ _;;)m」

と、憑かれたように語り始めました。


“・・・重症だな”

 と私は判断したのでございます。そこでまず患者にオデオン盤に対する愛情を告白させ、少年期の心に蓄積された心情を吐露させることで、自分の心の奥底を見つめさせ己が存在を肯定的に捉えさせる・・・という治療を始めることにいたしました。

 というわけで、その治療のプロセスを記したのが・・・・“このレポート”なのでございます。どうぞご覧くださいまし。


■告白レポート

●告白レポート<1>:「この林檎の“前貼り”がイヤやった」
●告白レポート<2>:「無惨な切り裂き死体・・・」
●告白レポート<3>:「だましの過去」
●告白レポート<4>:「むかつくレコード屋の店員」


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