2000.01.11(2)


ナチスもう一つの暴力装置『武装SS』

芝 健介 講談社選書メチエ39 1995年 定価1500円


美化された武装SSの悪しき実態に迫る
WW2ドイツ軍フェチ必読の書

 プラモデル、特に第二次世界大戦時のドイツ軍物を扱う人はご承知の様に、箱絵(ボックスアート)には本来あったドイツ国籍標識のハーケンクロイツ「卍」が描かれていない。日本製でもそうで、例えばメッサーシュミットBf-109E4の尾翼には単なる◇が描かれているだけだったりする。その理由を教えてくれるがこの一冊である。

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 まず表題の「武装SS(武装親衛隊)」とは何か?

 ヒトラーのボディーガード組織およびナチ党の集会防衛組織として発足した「親衛隊(SS)」を原点とし、その後警察機構との統合の中で、党内警察、国家警察という役割を持ちながらそれは発展した。ちなみに、その中にあのゲシュタポも含まれる。

 その親衛隊の一部を国内治安部隊として武装化を行ったのが「武装親衛隊(Waffen-SS)」で、正規軍として武力の独占化を維持したいドイツ国防軍と確執を続けながらもその規模・人員が肥大化していく。

 職業軍人・エリートの集団であるドイツ国防軍との違いを著者は、社会的に多様な階層から構成されたナチ的世界観を共有する「運動の兵士」とし、一般大衆に対しても戦闘的なラディカルな暴力の政治を象徴する、としている。単なる武装組織ではなく、政治的・思想的にもナチズムに骨がらみなのがポイントである。

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 ところで、ドイツはアートの面でもバウハウスのような芸術・産業の融合を目指す運動が生まれた先進的お国柄。そんな風土の中、ナチスはヴィジュアル・イメージのデザイニングとそのコントロールにおいても抜群の手腕を発揮した。つまり制服・軍服・武器のデザインと儀礼・行進などの所作の様式が、他国とは比較にならないくらいの“美的完成度”を見せた。

 その美が意味するのは、帰属・規律・服従の対価として与えられる“威信の美学”なのだが、特に武装SSはその軍装のデザインで“ファン”が多く、軍装関係でも相当の書籍が出回っている。また大戦末期に各戦線に武装SSの師団が大量に投入されたため、戦記などでも人気が高い。

 そういった表層的な好感度醸成の裏に流れるのが、旧SS幹部や隊員、学者らによる“武装SSの存在意義の美化・正当化”であり、本書冒頭に掲げられた1985年の米レーガン大統領のビットブルク・ドイツ人戦没者墓地公式訪問にまつわる騒動の顛末に合わせて詳しく記されている。

 その「我々は国防軍の一員であり、ユダヤ人や他の民族への虐殺に荷担した親衛隊とは違う」という美化・正当化に対して、綿密に考証し反証しているのがこの本だ。見た目の“美学”に惑わされているWW2ドイツ軍フェチ(WW2ドイツ軍プロペラ機フェチの私もそうだが)の方は必読である。

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 具体的には、武装SS行動部隊による1942年白ルテニア・ミンスクでの匪賊(パルチザン)掃討作戦に名を借りた49集落の村民抹殺作戦などが、代表的な犯罪として紹介される。犠牲者の大多数がユダヤ人、女性、子ども達である。

 また虐殺行為には荷担していないと公言していた国防軍自体も虐殺命令を発し実施していることも紹介され、先の美化・正当化がまったく幻想と虚構の上に成り立っていることが論証される。

 本書は、この様な組織犯罪の事例から、その犯罪を支えるに至った武装SS組織の生成と発展の歴史をじっくりと平易に概観させてくれる。充実した内容でしかもコンパクトに読みやすいものとなっている。

 特に興味深いのは、占領した周辺諸国・諸民族からの武装SS隊員の募集活動。兵員不足の解消という本音と“ゲルマン民族純血主義”という建前の間で揺れるナチスの矛盾と妥協、時代に翻弄され故国に背き悲惨な最期を迎える参加兵の姿が、戦争の残酷さを際だたせている。

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 第一次世界大戦敗戦、第二帝国の崩壊、ヴァイマル共和国成立、世界恐慌の荒波をかぶることで疲弊した、ドイツの中下層の若い世代。彼等がヒトラーというカリスマの元、ナチズムの旗の下、武装SSに参集した。

 現在の日本において、カリスマの対象が美容師やその他市井の人々のレベルでいまだ留まっていることは、まだまだ救いがあると言えそうだ。


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