★商標法2条、商品、不動産、役務と商品との類否

H11.10.21 東京地裁 H11(ワ)438 ヴィラージュ商標

平成一一年()第四三八号 商標権使用差止等請求事件

      原       告    住友不動産株式会社

      被       告    株式会社プロパスト

(争点)

  1. 不動産は商標法上の「商品」足りうるか。
  2. A「建物の売買」という役務と、被告が被告標章を使用した「建物」という商品が類似するか

    (判旨)

    @ 商標法によって保護される「商品」とは、市場において流通に供されることを予定して生産され、取引される有体物であり、これに標章が付されることによってその出所が表示されるという性質を有するものをいうところ、造成宅地は、立地条件、面積等のほぼ同等のものの間で代替性が認められる上、どの業者により宅地の造成工事が施工され販売されるかは、購入者にとって重要な関心事であって、取引上、広告等において施工・販売業者が顧客に対して表示されるなど、市場における販売に供されることを予定して生産され、市場において取引される有体物であると認めることができるものであって、これに付された標章によってその出所が表示されるという性質を備えていると解することができるから、「商品」に該当する。

  3. 商品の販売という役務に用いられるべき標章と同一・類似する標章を、当該商品の名称として使用した場合には、当該役務の提供者と当該商品の出所とが同一であるとの印象を需要者・取引者に与えると解され、「建物の売買」という役務と「建物」という商品との間では、一般的に右役務提供の主体たる事業者は「建物」という商品の販売主体となるものであり、需要者も一致するから、役務と商品との間において出所の混同を招くおそれがあるものと認められる。

(判決文の抜粋)

第二 事案の概要

 本件は、「土地の売買、建物の売買」を指定役務とする登録商標の商標権者である原告が、その登録商標と類似する名称を付したマンションを販売した被告に対し、商標権侵害を理由として、当該名称等の使用の差止め及び損害賠償を求めている事案である。

(中略)

第三 争点に対する判断

 一 争点1(商標権侵害の成否)について

 1 後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

() 被告は、本件マンションの階段入り口部分の表示板に被告標章を付するとともに、被告標章又は「ヴィラージュ白山」という文字から成る標章を付した立て看板、垂れ幕等を本件マンションの外壁又はその周辺地域に掲示したり、右各標章を付したチラシ、パンフレットを配布したりして、その宣伝広告を行い、本件各住居を販売した。(甲五、六)

() 被告は、原告から再三抗議を受けたにもかかわらず、本件マンションの名称として被告標章を用いることをやめようとしなかった。また、「ヴィラージュ」という標章を今後もマンションの名称として用いるのかという原告からの問合せに対し、被告は、「ヴィラージュ」を使わないとの約束はできない旨を答えた。(甲五、七の1、2、八ないし一〇、乙二三)

() 指定役務を「建物の売買、土地の売買」とする登録商標の中には、マンションの名称として用いられているもの(「パークホームズ」「パークシティ」「パークハウス」「アルス」「アールヴェール」「フォレストヒルズ」等。甲一四、一五、一六の1ないし7、一九ないし二四、二七、二八、二九の1ないし7、三四、三五、三六の1ないし4)と、マンションの名称としては用いられていないもの(「リハウス」「ステップ」「そよかぜ」「パル」「赤い屋根」「生活散歩」「ヴェールファン」等。乙一ないし四、三二ないし四一)がある。

 2 原告は、前記のとおり、被告が建物の販売という役務又は建物という商品に被告標章を使用したと主張するので、まず、被告が被告標章を右役務に使用したということができるかどうかを判断し、次いで、右商品に使用したということができるかどうかを判断する。

() まず、被告が被告標章を建物の販売という役務に使用したということができるかどうかを、判断する。

 商標法二条三項三号、四号は、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。)」に標章を付する行為をもって、役務についての標章の使用とするが、右各号にいう「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。)」とは、例えば、ホテル・旅館における寝具、洗面用具、浴衣、レストランにおける食器、ナプキン、タクシー会社における自動車、銀行における預金通帳など、役務提供の手段として用いられる物品であり、顧客に提供される役務との関係で付随的なものである。そして、顧客の支払う金銭との関係からいえば、これと対価関係に立つのは役務であり、右物品自体が対価関係に立つものではない。

 これに対して、本件においては、本件マンションないし本件各住居は顧客が支払う金銭と直接の対価関係に立つものであって、本件各住居の所有権こそが被告と顧客との間の契約の対象であり、本件売買において、本件各住居の所有権移転の外に顧客に対して提供されるべき役務は存在しない。したがって、被告による被告標章の使用は、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。)」に標章を付する行為に該当するとはいえない

 また、前記認定事実によれば、被告標章は本件マンションという被告の販売する個別の建物に付されているものであって、被告の不動産売買の営業一般について付されたものと認めることもできない。

 右によれば、本件マンションやその広告等に被告標章を付する行為や、これらを所持する行為をもって、「建物の売買」という役務の提供につき使用する行為に該当するということはできないから、被告の被告標章の使用について、本件登録商標の指定役務である「建物の売買」という役務に使用したものとして本件商標権の侵害をいう原告の主張は、採用することができない。

() そこで、次に、被告が被告標章を建物という商品に使用したということができるかどうかを、判断する。

 商標法には、「商品」についての明確な定義規定はないが、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護する」という同法の目的(商標法一条)や、「商標」が「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用するもの」と定義され(同法二条一項一号)、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」及び「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入する行為」が標章についての「使用」であると定義されている(同条三項一号及び二号)ことに照らすと、商標法によって保護される「商品」とは、譲渡、引渡し、展示又は輸入の対象となるもの、すなわち、市場において流通に供されることを予定して生産され、又は市場において取引される有体物であり、これに標章が付されることによってその出所が表示されるという性質を有するものをいうと、解するのが相当である。

 そして、不動産のうち、土地については、その存在する場所によって特定されるもので、同一の地番により表示される土地が複数存在することはあり得ないものではあるが、造成宅地等においては、立地条件、面積等のほぼ同等のものの間で代替性が認められる上、どの業者により宅地の造成工事が施工され販売されるかは、業者の設計施工能力、瑕疵修補能力、損害賠償能力等の点から購入者にとって重要な関心事であって、取引上、広告等において施工・販売業者が顧客に対して表示されるのが通常であるし、注文建築による住宅等についても、具体的な個別の住宅は注文主と施工業者との間の請負契約により建築されるものであるが、代替性が認められ、施工業者は建築材料、工法等においてそれぞれ特徴を備えており、いわゆるモデルハウスや広告等において施工業者が顧客に対して表示されているものであって、この点は仕立服等の場合と異なるところはない。また、分譲マンションや建売住宅は、地理的利便性、間取り等においてほぼ同等の条件を備えた、互いに競合するものが多数供給され得るものである。このように造成地、建物等の不動産であっても、市場における販売に供されることを予定して生産され、市場において取引される有体物であると認めることができるものであって、これに付された標章によってその出所が表示されるという性質を備えていると解することができるから、これらもまた商標法によって保護されるべき「商品」に該当するものと判断するのが相当である。

 なお、土地・建物は、商標法施行令及び商標法施行規則の各別表に定められた商品の区分には掲げられていないが、右に判示したところに照らせば、このことは、土地・建物が商標法上の「商品」であると解することの妨げとなるものではないというべきである。

 右によれば、被告が販売した建物(本件各住居)は商標法上の「商品」ということができ、被告が本件マンションないし本件各住居及びその広告に被告標章を付した行為は、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」、「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入する行為」及び「商品又は役務に関する広告、定価表又は取引書類に標章を付して展示し、又は頒布する行為」(商標法二条三項一号、二号及び七号)に該当するものと認められる。

 したがって、被告は、被告標章を建物という「商品」に使用したということができる。

 3 本件商標権は、「建物の売買、土地の売買」という役務について登録されたものであるが、商標法上、「役務」と「商品」とは、互いに類似することがあるものとされている(商標法二条五項)。そこで、本件商標権の指定役務である「建物の売買」という役務と、被告が被告標章を使用した「建物」という商品とが類似するものであるかどうかにつき検討する。

 役務と商品とが類似するかどうかに関しては、前述の商標法の目的や商標の定義に照らし、役務又は商品についての出所の混同を招くおそれがあるかどうかを基準にして判断すべきであり、商品の製造・販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一般的であるかどうか、商品と役務の用途が一致するかどうか、商品の販売場所と役務の提供場所が一致するかどうか、需要者の範囲が一致するかどうかなどの事情を総合的に考慮した上で、個別具体的に判断するのが相当である。そして、商品の販売という役務に用いられるべき標章と同一又はこれに類似する標章を、当該商品の名称として使用した場合には、当該役務の提供者と当該商品の出所とが同一であるとの印象を需要者・取引者に与えると解される。

 これを本件についてみるに、「建物の売買」という役務と「建物」という商品との間では、一般的に右役務提供の主体たる事業者は「建物」という商品の販売主体となるものであり、需要者も一致するから、役務と商品との間において出所の混同を招くおそれがあるものと認められる。したがって、「建物」という商品は、「建物の売買」という役務に類似するというべきである。

 4 以上によれば、被告の前記行為は、指定役務に類似する商品について登録商標に類似する商標を使用する行為(商標法三七条一号)に該当するものであって、本件商標権を侵害するとみなされるから、原告は被告に対し、被告標章の使用の差止め及び後記の損害賠償を求めることができる。

 また、被告は、「ヴィラージュ」又は「VILLAGE」の文字と地域的名称とを組み合わせた標章を、被告が将来販売するマンションに使用する意図を表明しているところ、これらの標章もまた本件登録商標と類似するものと認められるから、これらを建物に付して販売した場合には、登録商標の指定役務に類似する商品について登録商標に類似する商標を使用する行為として、本件商標権を侵害することとなるので、原告は、その予防としてこれらの標章の使用の差止めを求めることができる。