このページでは、「市民のための憲法セミナー」で用いるテキストの抜粋(総論部分)を掲載します。セミナーでは、ここに掲載したテキストの内容を約一時間(ここに掲載していない分を含めると全体で2時間半)で解説します。

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市民のための憲法セミナー

('98.11 初版)

T 憲法の幕開け

 

権力による人権侵害の歴史

市民の蜂起(市民革命)

人による統治から法による統治へ

(法の支配=すべての国家権力が正しい法に拘束されること)

人権侵害を容認しない法を作り、統治者はその枠内で統治をしなければならない

ここでいう正しい法というのが憲法のことである

 

U 近代憲法の性格

@ 統治者に市民を統治する権限を与える(授権規範性)

A 統治の暴走に歯止めをかける(制限規範性)=自由の基本法

B Aのために最適な統治システムを規定する=国家運営の基本法

C 国法体系上最上位に位置する(最高規範性)

 

★ 法律との相違点=憲法は市民が権力者に突きつけた規範であるのに対し、法律は権力者が制定し、市民に対して遵守を要求する規範である。

 

V 日本国憲法の体系

 日本国憲法は図1に示すような体系をしている。ここでは、それぞれに示された概念を説明するとともに、概念間のつなぎを解説する。

 

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一 個人の尊厳(13条前段)

1 国民の一人一人が自分の個性や人格を発揮することについて国家が尊重し、これに対して、干渉したり、阻害したりしないことをいう。

2 憲法の目指す最上位の価値概念である(個人主義)。憲法は、すべての人に着目し、人に対して最大の価値を見いだし、これを国の統治という局面で実現するものである。

3 この価値概念を実現するために、憲法は3つの基本理念を掲げた。それらが次に解説する基本的人権の尊重、国民主権、平和主義の3つである。

 

二 基本的人権の尊重(第3章、13条後段)

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1 国家権力が人権を侵害することを許さない原則をいう。

2 個人の尊厳を実現する上でもっとも大事なことは、国家が市民の権利を制限しないことである(a)。すなわち、我々は国家に干渉されることなく、自由に自分の考えを抱き(思想・良心の自由、19条)、信仰を持つことができるだけではなく(信教の自由、20条)、このような内面を自由に外部に対して表現し(表現の自由、21条)、あるいは、他人の表現を自由に受領することができる(知る権利、21条)。これらは、人間が本来的に有する権利であるとされているが(自然権説)、歴史を振り返るとしばしば為政者によって弾圧されてきたことも疑いようのない事実である。そこで、憲法では、これらの弾圧が二度と起こらないように、明文をもって戒めたのである。

 

三 国民主権(1条)

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1 国政の最終決定権が国民に存することをいう。 

2 基本的人権の尊重というお題目を掲げ、各種の人権を明文で規定しても、為政者の暴挙によって、人権が侵害されることは起こりうることであり、歴史上も証明されている。そこで、基本的人権の尊重を制度的に担保することが必要となる。憲法では、国民に国政の最終決定権を与えることにより、国民と為政者を同化させ、人権侵害の可能性を最小限に抑制する。

3 つまり、国民主権は基本的人権の尊重を制度的に担保するものであり、この意味で、個人の尊厳に結びつくものである(b)

 

四 平和主義(9条)

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1 憲法前文は平和主義について「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」と述べている。

2 国民主権が守られ、基本的人権の尊重が実現された社会が形成されたとしても、ひとたび戦乱が起きれば多くの人が傷つき、肉親を失い、悲しみに巻き込まれることは歴史上明白な事実である。すなわち、戦争は個人の尊厳を標榜する憲法の目的とするところと矛盾するものである。そこで、憲法では、平和主義を掲げることによって、戦争の可能性を極力排除し、もって、個人の尊厳に資することとした(c)

3 憲法は自国の平和のみを祈念しているのではなく、世界の平和を実現することにより、日本が国際社会の中で名誉ある地位を占めることを目指していることに留意する必要がある。

 

五 違憲立法審査権(81条)

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1 政治機関から中立な立場にある裁判所が法律の合憲性を判断する権限を有することをいう。

2 国民主権の原理によっても、時の政府によって、人権侵害立法が行われる可能性は排除できない。(例えば、今問題となっているものに、いわゆる組対法のなかの盗聴条項がある)そこで、中立な立場にある裁判所がこのような立法の合憲性を審査し、違憲と判断した場合には、無効化する必要が出てくる。これによって、立法権によって人権侵害が生じないように制度的に担保するのである(d)

 

六 三権分立(41条、65条、76条)

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1 国家権力を立法・行政・司法に分離し、それそれを異なる機関に担当させて、互いに他を抑制し均衡を保つことをいう。

2 権力というものは常に濫用の危険性があるものである。国家には強大な権力が集中するので、唯一の機関にすべてを担当させると権力濫用の可能性が極限にまで高まる。そこで、国家権力を立法・行政・司法に分け、相互に監視機能をはたらかせ、抑制・均衡をとることが必要である。これによって、一つの国家機関の暴走を防ぎ、人権侵害立法や人権侵害行政を可及的に防止することができるので、基本的人権の尊重に資するとともに(e)、国民主権のあり方を正常化ならしめるものである(f)

3 三権分立の一つの例として、立法府である国会が行政府である内閣を抑制するための内閣不信任案提出権であり、これに対抗する手段として、内閣が国会を抑制するための衆議院議員解散権の規定がある(69条)。また、違憲立法審査権も司法による立法の抑制という意味では、三権分立の具体例の一つと位置づけてもよい。

 

七 間接民主制(43条)

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1 選挙により選出された全国民を代表する議員によって国政が行われる民主政治形態をいう。

2 民主政治の究極のあり方は、すべての有権者が集まって会合を開き、政治提案を行い、それを実現していくという直接民主制である。しかし、有権者の数が膨大な一つの国家でこれを行うことは不可能である。そこで、我が国でも、国民主権の一つの実現態様として間接民主制を採用している(g)。間接民主制によっても、代表者と国民は互換性があり、治者と被治者の自同性が保たれるので、人権侵害の可能性は極小になる(h)

3 間接民主制の具現例は、現在の衆議院、参議院の両議院である。ここでは、具体的な立法は議会の議決を経てなされるのであって(59条)、国民による直接投票による立法は許容されていない。

 

八 憲法改正権(96条)

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1 国民が憲法を改正できる権原を有していることをいう。

2 間接民主制の欠点は、民意が議員を通じて間接的にしか反映されないという点である。ところが、憲法改正は一国の姿を変えるという意味で極めて重要な局面であり、国民主権の観点から見れば、民意の反映が最大限に保障された状況でなされるべきである。そこで、憲法は、全議員の3分の2以上の議員の賛成を得られた発議により、特別の国民投票で過半数を得ることを憲法改正の要件としている。

3 国民の直接投票による憲法改正を保障している点は、国民主権がもっとも端的に発揮される場面である(i)

 

九 侵略戦争の放棄(9条)

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  国際平和追求の手段として、国権の発動による戦争、武力行使による国際紛争の解決は永久に放棄することによって、平和主義を担保するものである(j)

  なお、9条が自衛のための戦争をも否認する趣旨かどうかは争いがある。

 

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