★特許法70条、プレアンブル、「おいて」書き、均等論、意見書の参酌、本質的部分

H12. 2.18 大阪高裁 H10(ネ)3763 シュレッダー用切断刃実用新案等

平成一〇年()第三七六三号 実用新案権等侵害行為差止等請求控訴事件(原審・神戸地方裁判所平成九年()第一二九一号)

(争点)

プレアンブル部分に示されている「嵌着」という言葉が考案の本質的部分として均等論の適否が争われた事案

(判旨)

@「おいて」書きの部分には、通常、公知事項や上位概念が記載されることが多く、これらの事項が独立して考案の要旨となることはないということはできるけれども、右の部分も考案の構成に欠くことができない事項であり、考案の要旨ひいては考案の本質的部分を考察するについて、除外されなければならないという理由はなく、「おいて」書きの部分をも含めて考案の要旨を認定すべきものと解するのが相当である。

A 原告らの指摘するとおり、取付台を軸に嵌着させること自体は公知技術ということはできるが、本件考案においては、嵌着方式自体が考案の本質的部分であるというのではなく、スペーサのはみ出し部分により切断刃の刃先片の幅方向の位置決め・固定をすることという考案の本質的部分の構成にとって嵌着方式が不可欠であるというにすぎないから、嵌着方式が公知技術であるからといって「嵌着」が考案の本質的部分ではないという結論を直接に導けるものではない。

B 均等論の適用について判示した最高裁判所第三小法廷平成一〇年二月二四日判決においては、その要件の一つに「対象製品等が実用新案の出願手続において実用新案の登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情のないとき」という要件(均等要件D)が挙げられていることから、均等論の適用における均等要件の存否を判断するに当たって、出願時において作成、提出された意見書等を参酌することは許されるものと解するべきであり、本質的部分の判断にあたってもこの理は妥当する。

  

控訴人(一審原告)     株式会社 キ ン キ

右代表者代表取締役      和

控訴人(一審原告)     近畿工業株式会社

右代表者代表取締役      和

右両名訴訟代理人弁護士    奥  孝

同              石 丸 鐵太郎

同             堺 

同             堀 

右両名補佐人弁理士      角

同              郷

同             西

同            

同            

同             岡 

被控訴人(一審被告)     日本スピンドル製造株式会社

右代表者代表取締役      宮

右訴訟代理人弁護士    

同            

右補佐人弁理士       林 

同             森  

    

一 本件控訴をいずれも棄却する。

二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。

        事      実

第一 当事者の求めた裁判

一 控訴人ら

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、原判決別紙イ号製品目録とイ号図面第一図ないし第七図に記載のシュレッダー用切断刃、同別紙ロ号製品目録とロ号図面第一図ないし第七図に記載のシュレッダー用切断刃及びこれらを使用した破砕機、並びに同別紙イ号製品目録とイ号図面第一図ないし第七図及び同別紙ロ号製品目録とロ号図面第一図ないし第七図に記載の各破砕機用剪断刃を、それぞれ製造し、販売し、販売のための展示等販売の申出をしてはならない。

3 被控訴人は、前項記載のシュレッダー用切断刃及びこれらを使用した破砕機並びに前項記載の破砕機用剪断刃の完成品及び半完成品を廃棄せよ。

4 被控訴人は、控訴人株式会社キンキに対し、金四九五万円及びこれに対する平成九年七月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

5 被控訴人は、控訴人近畿工業株式会社に対し、金二二五万円及びこれに対する平成九年七月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

6 訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二 被控訴人

 主文と同旨

第二 当事者の主張

一 当事者の主張は、次に付加するほか、原判決「事実」欄の「第二 当事者の主張」(原判決四頁末行から五九頁三行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

(以下においては、控訴人を「原告」と、被控訴人を「被告」と呼称し、略称については原判決のそれによるものとする。)

二 当審において付加された主張

1 本件考案の本質的部分について

【原告ら】

() 本件考案の本質的部分は、刃先を取替式にした切断刃において、複数並んだ刃先片の幅方向での位置決め固定をし、さらに刃先片の運転中のズレの防止及び刃先片が幅方向への外力に抗するために、複数並んだ刃先片の間に、はみ出し部分のあるスペーサを組み込み、そのはみ出し部分で刃先片を挟み込んで、位置決め固定をすること(構成要件B、C、D)であるが、取付台が軸と一体型であろうと嵌着型であろうと、刃先片と刃先片との間にそのようなスペーサを組み込み、刃先片を挟み込むことはできるのであり、その作用・効果はいずれも同様であるから、本件考案の構成要件Aの中の「嵌着」は、本件考案の本質的部分の当然の前提となるものではなく、他の構成要件と一体となって本件考案の本質的部分をなすとはいえない。

() また、「嵌着」という言葉は、いわゆる「おいて」書きと呼ばれる構成要件Aの中に記載されているが、この「おいて」書きは、公知の事実ないしは上位概念を表示する場合の用語例であるところ、原審でも主張したとおり、本件考案における嵌着方式による取付台の軸への固着方法は、既に先行例である実用新案公報(甲一二)で開示された公知技術であるから、これをもって本件考案の本質的部分ということはできない。

 そうすると、一体型と嵌着型との相違点は本件考案の本質的部分をなすとはいえないので、均等論の適用を妨げるものではない。

() 被告は、原告キンキが本件考案出願の審査の過程において拒絶通知に対して提出した意見書を理由に、本件考案が取付台と軸の相対移動可能を前提としたものである旨の主張をするが、明細書に記載されていない以上、意見書に書かれた記載を考慮することは許されない。

 また、右意見書では、スペーサの径を大きくして、そのはみ出し部分で各刃先片の幅方向の位置決め及び固定をすれば、取付台の精度は問題でなくなるというメリットを説明したものであって、取付台を軸に相対移動可能にしたか否かについては触れていない(取付台が軸に相対移動不可能であっても、スペーサと刃先片の精度さえ確保できれば、刃先片のズレは生じない。)。

() 本件考案に関する原告近畿工業の実施品が嵌着型となっているのは、取付台のボルト穴が潰れた場合、その取付台のみを交換すればよいとの考えのもとに嵌着式としたのみであって(被告製品の場合は、一箇所のボルト穴が潰れることによって一体となった取付台全体を交換しなければならないこととなる。)、刃先片の位置決め固定のために嵌着式にしたものではない。

 【被告】

() 本件考案の構成要件Aは、軸に取付台部分を備えた切断刃を嵌め(この状態では、取付台部分及び刃先部分からなる切断刃は、軸に対して、軸方向に相対的に移動可能である。)、スペーサを挟んで取り付けることによって、取付台部分及び刃先部分からなる切断刃の位置決め・固定を行うようにしたことを意味するものであって、これ以外のものを意味するものではなく、さらに、本件考案の請求の範囲の「スペーサのはみ出し部分により各刃先片の幅方向の位置決め及び固定を行うようにした。」(構成要件D)の記載自体、刃先片、すなわち、取付台部分及び刃先部分からなる切断刃が、軸に対して、軸方向に相対的に移動可能であることを意味するものにほかならないが、そのことは、原告キンキが、特許庁における審査の過程において、特許庁審査官に対して提出した意見書の記載からも明らかである。

 すなわち、原告キンキは、審査官によって通知された拒絶理由を回避するために提出した平成七年四月一〇日付意見書(甲一三の1)において、「本願考案は、スペーサ自身も一つの組立体の中に含めて構成すべきとの技術思想に立脚しており、その実際的な意味は、本願考案の場合には組み立てた後の組立体としての精度を問題にすればよく、部品単体の精度は、ある部品については必要でなくなる。本願考案では取付台自身の厚さに高い精度は要求されないというメリットを生じる。」などと主張しているところ、右は、取付台と軸の相対移動可能を前提としていると解されるから、原告らは、本件訴訟において右に反する主張をすることは許されないというべきである。

() 原告らは、本件考案の作用効果について、取付台そのものの交換容易性を目的としたものであると主張するが、一方で、本件考案の作用効果について、取付台そのものの交換容易性を目的としたものではなく、その本質的部分は、刃先片の取付台への位置決め・固定及びズレ防止と、刃先片の幅方向からの外力に抗することを目的としたものであると主張しており、一貫しない。

2 本件考案の実施可能性について

【被告】

 本件考案を実施する場合において、隣り合う刃先片と刃先片との間にはみ出し部分のあるスペーサを密着して組み込んで、刃先片の幅方向の位置決め及び固定を行うようにした場合、軸端をナットで締め付けると、磨耗した刃先片のみを交換しようとしても、刃先片とスペーサの接触面に作用する大きな摩擦力によって、刃先片のみを取付台から外すことができず、また、仮に刃先片を外すことができても、一旦取付台から刃先片を外してしまうと、そのまま取付台に再度取り付けることができず、本件考案の基本的な目的である「破砕機全体を分解することなく、磨耗した刃先片のみを交換すること」が不可能となる。

【原告ら】

 被告の右主張は争う。

 明細書の「密着」の語は、〇・一ないし〇・二四八ミリメートル程度の隙間があっても、公差の範囲内であって、密着しているというべきであるから、刃先片の交換が不可能ということはない。

3 本件各意匠権について

【被告】

 被告は、第一意匠権について、無効審判請求を提起(平成九年審判第一六四七二号)していたところ、平成一〇年一一月二四日付で、右意匠権の登録を無効とする旨の審決がなされた(乙一一)。

第三 証

 原審及び当審訴訟記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

        理      由

第一 原告らの権利について

一 原告キンキが次の実用新案権及び意匠権を有していること(請求原因1、2の事実)は当事者間に争いがない。

1 本件実用新案権

登録番号      第二一三一七八〇号

考案の名称     シュレッダー用切断刃

出願日       平成三年六月一四日

出願番号      〇三ー〇四四八六六号

出願公告日     平成七年一二月一三日

出願公告番号    〇七ー〇五三七一二号

登録日       平成八年八月一二日

2 本件各意匠権

() 第一意匠

 出願日      平成六年三月二三日

 出願番号     〇六ー〇〇七七八五号

 登録日      平成七年九月二二日

 登録番号     第〇九四一三七八号

 意匠に係る物品  破砕機用剪断刃

 登録意匠     原判決別紙第九四一三七八号意匠公報記載のとおり

() 第二意匠

 出願日      平成六年三月二三日

 出願番号     〇六ー〇〇七七八七号

 登録日      平成七年九月二二日

 登録番号     第九四一三七八号の類似第一号

 意匠に係る物品  破砕機用剪断刃

 登録意匠     原判決別紙第九四一三七八号の類似第一号意匠公報記載のとおり

二 原告近畿工業は、平成八年八月一二日、原告キンキとの間で、本件実用新案権についての専用実施権設定契約を締結し、平成九年七月二八日その登録を受けた(甲九)。

第二 被告による本件実用新案権侵害の有無について

一 次の各事実は当事者間に争いがない。

1 本件実用新案権の登録請求の範囲・構成要件が次のとおりであること(請求原因3()()の事実)

() 本件公報に記載された実用新案登録請求の範囲は、次のとおりである。

「シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分で分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成すると共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞したシュレッダーにおいて、切断刃の両側に密着してスペーサを配装し、このスペーサの外径を取付台外径より大きくとって該スペーサに該取付台の側面をほぼ覆うようなはみ出し部分を形成し、このスペーサのはみ出し部分により各刃先片の幅方向の位置決め及び固定を行うようにしたことを特徴とするシュレッダー用切断刃。」

() 本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりとなる。

A シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分に分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成すると共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞したシュレッダーにおいて、

B 切断刃の両側に密着してスペーサを配装し、

C このスペーサの外径を取付台外径より大きくとって該スペーサに該取付台の側面をほぼ覆うようなはみ出し部分を形成し、

D このスペーサのはみ出し部分により各刃先片の幅方向の位置決め及び固定を行うようにした

ことを特徴とするシュレッダー用切断刃。

2 被告製品の内容が次のとおりであること(請求原因4()()の事実)

() 被告は、イ号切断刃(原判決別紙イ号製品目録記載のシュレッダー用切断刃)及びロ号切断刃(同別紙ロ号製品目録記載のシュレッダー用切断刃)並びにこれらを装着した破砕機(イ号製品、ロ号製品)を製造し、販売し、販売の申出行為を行っている。

() 被告切断刃の構成を分説すれば、次のとおりである。

(1) イ号切断刃の構成

a シュレッダーのケーシングに軸支される軸に取付台を一体に形成し、取付台に保護カバーを挟んで切断刃を装着し、この切断刃を、取付台を取り囲み、しかも周方向に分割した複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成すると共に、該切断刃で該取付台の外周が表面に露出しないように囲繞し、

b 切断刃の両側に隙間(より具体的には、コンマ数ミリメートル程度の隙間)を設けて保護カバーを配装し、

c この保護カバーの外径を取付台外径より大きくとって該保護カバーに該取付台の側面をほぼ覆うようなはみ出し部分を形成し、

d 軸の取付台に形成した切込部分により構成された端面及びボルトにより各刃先片の幅方向の位置決め、固定を行うようにした

ことを特徴とするシュレッダー用切断刃。

(2) ロ号切断刃の構成

a イ号切断刃の構成aと同じ

b イ号切断刃の構成bと同じ

c イ号切断刃の構成cと同じ

e 軸の取付台と各刃先片間に配設したノックピン及びボルトにより各刃先片の幅方向の位置決め、固定を行うようにした

 ことを特徴とするシュレッダー用切断刃。

二 本件考案と被告切断刃との対比について

1 本件考案の構成要件Aと被告切断刃構成aについて

 当裁判所も、被告切断刃の構成aは本件考案の構成要件Aに文言上該当しないものと判断する。

 その理由は、原判決(六〇頁七行目から六三頁五行目まで)が説示するところ(その要旨は、「実用新案権の登録請求の範囲の確定は、その記載に基づいてしなければならないところ、本件考案の構成要件Aは、切断刃は取付台部分とこれを取り囲む刃先部分からなり、右取付台部分は軸に嵌着されるべきものと記載されているから、取付台と軸は別個独立のものと想定される一方、被告切断刃の構成aは、切断刃の取付台部分と軸とが一体形成されていて別個独立のものとはされていないと認められるから、本件考案の構成要件Aとは異なる。」というものである。)と同じであるから、これを引用する。

2 被告切断刃構成aと本件考案構成要件Aとの均等について

 原告は、仮に、被告切断刃の構成aが本件考案の構成要件Aに直接該当しないとしても、いわゆる均等論により、被告切断刃の構成aは本件考案の技術的範囲に属するものといえると主張するので、以下検討する。

() 均等論が適用されるための要件(均等要件@ないしD)については、原判決が説示するところ(原判決六三頁七行目から六四頁一〇行目まで)と同じであるから、これを引用する。

() そこで、前記1でみた被告切断刃の構成aと本件考案の構成要件Aとの相違点が本件考案の本質的部分でないといえるかどうか(均等要件@を満たすか否か)について検討する。

(1) 本件公報(甲一の2)の【考案の詳細な説明】欄には、次の趣旨の記載がある。

@ この種のシュレッダーにおいては、機能上、切断刃が最も磨耗し易く、一定の使用期間を経過すると、切断刃を新しいものに取り替える必要がある。使用頻度、処理物によってはかなり短期間のうちに取り替えなければならない。しかし、円盤状の切断刃は一体物であるから、これを取り替える場合には、ケーシングと軸受をばらして取り外した後、軸からスペーサと共に切断刃を引き抜く必要があり、非常に煩雑で手間のかかる作業を強いられることとなる。・・・本考案は、かかる従来技術の課題に鑑みなされたもので、切断刃を軸に装着する取付台の部分と磨耗し易い刃先部分とに分割して、刃先部分を取付台に接離可能に構成して、刃先部分のみを取り替えればよいようにした分割タイプのシュレッダー刃を提供することを目的とする。(考案が解決しようとする課題)

A 上記目的達成のため、本件考案は、構成要件AないしDの構成を採用したものであり(課題を解決するための手段)、これにより、取付台の部分は刃先部分により表面に露出しないように取り囲まれているため、処理物を破砕する際の磨耗から保護され、使用によって磨耗するのは刃先部分だけとなる上、その取替えは刃先部分を取付台から取り外すだけでできることになり、簡単に刃先の取替作業が行える。また、切断刃の両側に密着したスペーサを取付台より大きく形成したことにより、そのスペーサのはみ出し部分により各刃先片が幅方向のズレを生じないよう取付台外周面上に固定される。(作用)

B 以上説明した本考案にかかる切断刃は、軸に嵌着される取付台の部分とこれを取り囲む刃先部分とによって分割形成され、・・・各刃先片を取付台に着脱可能に構成したので、使用によって刃先部分のみが磨耗するだけとなる。そして、磨耗した刃先部分の取替えは、・・・ボルト等を外すことにより簡単に行えるため、取替作業が大幅に省力化され、保守管理が非常にやり易くなる。また、切断刃の両側に密着したスペーサ外径を取付台外径より大きく形成した場合には、そのはみ出し部分により各刃先片の幅方向の固定が可能となり、長時間の使用にもガタを生じず、その機能が損なわれない。(考案の効果)

(2) 次に、本件実用新案権が登録されるに至った経緯についてみるに、証拠(甲一の2、一〇の1・2、一一ないし一四)によれば、次の事実が認められる。

@ 本件考案の先行技術として、本件公報が引用する実公昭五七ー三一九五三号の考案(以下「本件引用例」という。)が公開されており、その実用新案公報(甲一二)に記載された登録請求の範囲は、次のとおりである。

「ツイン・スリット型破砕機のカッターにおいて、中央に取付け孔を有するカッター母台と、このカッター母台の外周上に径方向外方から螺入のボルトを介して着脱自在に取り付けられる刃体とから成り、上記カッター母台はその外周上に周方向に連続した凹又は凸の取付け座を備えると共に、周方向所定間隔に盲孔構造のボルト孔の複数を備えており、一方、刃体は外周に突刃又は材料引込み用の爪を有する刃体と、該爪を有さない刃体とに周方向に関して等分割され、各刃体はそれぞれ前記ボルト孔のピッチと等ピッチのボルト孔が刃体高さ方向に貫設され、かつ、各刃体の刃体長手方向全体には前記取付け座に嵌込む凸又は凹の着設部を備え、爪を有する刃体は母台の外周に二個以上かつ周方向等配に装置され、この刃体間に爪を持たない刃体が装着され、各刃体と母台外周との嵌合部が刃の厚さ方向を拘束規制する凹凸嵌合であると共に、各刃体は母台に対して高級材料で作成して成る組立分解型の破砕機のカッター。」 

A 原告キンキは、本件実用新案権の出願に際して特許庁に提出した明細書(甲一〇の2)に、登録請求の範囲を次のとおり記載した。

(請求項1)

 シュレッダーのケーシングに軸支された軸にスペーサを挟んで装着される切断刃において、この切断刃を該軸に嵌着される取付台部分とこれを取り囲む刃先部分とで分割形成し、しかもこの刃先部分を周方向に分割して複数個の刃先片で形成し、各刃先片を該取付台に接離可能に構成すると共に、該刃先部分で該取付台の外周が表面に露出しないよう囲繞したことを特徴とするシュレッダー用切断刃

(請求項2)

 切断刃の両側に密着してスペーサを配装し、このスペーサの外形を取付台外径より大きく形成して該取付台からはみ出す部分を形成し、このスペーサのはみ出し部分により各刃先片の幅方向の固定を行うようにしたことを特徴とする請求項1のシュレッダー用切断刃

B 右の出願に対し、特許庁の審査官から、次の理由で右考案に進歩性は認められないとして、拒絶通知(甲一一)がなされた。

@ 請求項1については、本件引用例の切断刃の取付台を覆う部材を全て刃を有するものとすることに困難性は認められないし、取付台の形状は当業者が適宜設定し得るものと認められる。

A 請求項2については、基材となる部材に別の部材を取り付ける際に、その別の部材を基材によって挟み込む構造とすることは、本件出願前における常套手段であり、切断刃が取り付けられる部分の幅方向の両側に、常套手段である刃を挟み込む構造を採用することに困難性は認められない。

C これに対し、原告キンキは、右請求項2についての判断は承服できないとして、次の内容の意見書(甲一三の1)を審査官に提出するとともに、実用新案登録請求の範囲を本件実用新案権の登録請求の範囲のものに補正する手続補正書(甲一三の2)を提出し、これに基づいて本件実用新案権の出願公告がなされ、これが登録された。

 右意見書の内容は以下のとおりである。すなわち、「本件引用例は、分割形成された刃体(本件考案の「刃先片」に相当する。)側に凸部を形成し、母台(本件考案の「取付台」に相当する。)に凹溝を設け、両者を凹凸嵌合して刃体を母台に取り付けることによって、各刃体との厚さ方向の移動またはズレを拘束、つまり、刃体を母台側に位置決め・固定しているが、このような凹凸嵌合形態による場合、凹凸の加工精度が母台側と刃体側の双方に高度に要求され、加工に多大の手間が必要となり、この精度を確保するために製作上の困難を招来してしまい、これが結局、製品コストの面に跳ね返ってくる。これに対し、本件考案は、スペーサを取付台より大きく形成したことにより、刃先片の厚さの精度さえ高く確保すれば、必然的に両側のスペーサに挟装された形で刃先片の位置決め・固定が可能となり、右のような刃先片と取付台の凹凸嵌合のような、刃先片及び取付台の接合面の精度確保という問題の生じない、簡素な手段で、刃体を母台に高い精度で位置決め・固定できるようになったのであり、さらに、本件考案の場合、スペーサも一つの組立体の中に含めて構成していることから、組み立てた後の組立体としての精度を問題にすればよく、部品単体の精度は、取付台の厚さについては必要なくなるといったメリットを生じる。」というものである。

(3) 前記(1)の本件公報の記載によれば、本件考案は、二軸式のシュレッダー用の切断刃の改良を目的とするものであって、その作用効果は、原告らが主張するとおり、@ 従来の一体物の切断刃の場合と異なり、ケーシングや軸受をばらすことなく、ボルト等を外すことによって簡単に磨耗した刃先部分の取替えを行うことができるため、取替作業が大幅に省力化され、保守管理が容易になること、A 切断刃の両側に密着したスペーサ外径を取付台外径よりも大きく形成したことで、スペーサのはみ出し部分により、各刃先片が取付台外周面上に固定され、幅方向のズレを生じないため、長期間の使用にも狂いを生じず、その機能が損なわれないこと、の二点に集約されるが、前記(2)でみたとおり、右のうち@の点は、既に本件引用例において開示されて公知技術になっていたのであるから(原告キンキもこれを自認して、当初の請求項1を削除したものと思われる。)、本件考案において独自の考案として残るのは、右のAの点(スペーサのはみ出し部分により切断刃の刃先片の幅方向の位置決め・固定をすること)にあり、これが本件考案の本質的部分と認められる。

(4) そして、前記(2)の経緯(特に原告キンキの意見書)に照らすと、本件引用例が、刃先片の幅方向の位置決め・固定の方法という課題を解決する方法として、母台(取付台)外周部と刃体とに設けた凹凸型の取付け座と着設部による凹凸嵌合を考えたのに対し、本件考案においては、前記のように、スペーサ外径を取付台外径よりも大きく形成することを考えたものということができるところ、(2)BAの拒絶理由に対する前記意見書の記載によれば、

@ 本件考案は、スペーサ外径を取付台外径より大きく形成したことにより、刃先片の厚さの精度さえ高く確保すれば、必然的に両側のスペーサに挟装された形で刃先片の位置決め・固定が可能となり、右のような刃先片と取付台の凹凸嵌合のような、刃先片及び取付台の接合面の精度確保という問題の生じない、簡素な手段で、刃体を母台に高い精度で位置決め・固定できるようになった、

A さらに、本件考案の場合、スペーサも一つの組立体の中に含めて構成していることから、組み立てた後の組立体としての精度を問題にすればよく、部品単体の精度は、取付台の厚さについては必要なくなるといったメリットを生じる、

というのであるから、それはすなわち、刃先片とスペーサの厚さの精度さえ確保すれば、組立体としての精度は保たれるということを意味するものであり、そのようなメリットを生じさせるためには、スペーサのみならず、取付台も軸に対して移動可能な嵌着状態であることを前提とするものと解される。

 なぜなら、本件考案において、スペーサ外径を取付台外径より大きく形成し、そのはみ出し部分で刃先片を挟装する構成をとる一方、刃先片を固定すべき取付台を軸と一体に形成するという方法を併用するとすれば、取付台の位置は、軸と一体に形成された位置で完全に固定されることになるのであるから、取付台と接合する刃先片の位置も必然的にその取付台の位置によって決定されることにならざるを得ず、そうすると、スペーサのはみ出し部分で刃先片を挟装することによる効果は自ずから限定されるから、取付台の軸上での位置自体や各取付台間の間隔について高度な精度が要求されるのは必然であり、取付台の厚さの精度が不要となるなどという効果が期待できないことは明らかである(例えば、取付台の軸上の位置が設計上の位置よりも一ミリメートルずれれば、取付台と接合する刃先片の位置も必然的にそれによって一ミリメートルずれることになるから、刃先片とスペーサの厚さの精度をいかに確保したとしても、それだけで組立体としての精度が確保されるわけではないことは明白であり、それが、本件考案のような二軸剪断式のシュレッダーにおいては、対向するもう一方の切断刃との位置関係で致命的な欠陥となることも明らかである。)。

(5) そうすると、構成要件Aにおける「嵌着」の意味は、軸に相対移動可能であることを意味すると解するほかなく、本件考案において切断刃の取付台が右の意味において軸に嵌着されていることは、スペーサのはみ出し部分により切断刃の刃先片の幅方向の位置決め・固定をするという本件考案の本質的部分にとって不可欠の構成といわざるを得ない。

 他方、前記2()でみた被告切断刃の構成aは、切断刃の取付台を軸に一体に形成する(削り出し)というものであって、そのような構成を採る以上、前記(4)で説示したように、切断刃の位置決め・固定は、一次的には軸に形成された取付台の位置に依拠せざるを得ず、したがって、イ号切断刃においては、「軸の取付台に形成した切込部分により構成された端面及びボルトにより各刃先片の幅方向の位置を決め、固定を行うようにし(構成d)」、ロ号切断刃においては、「軸の取付台と各刃先片間に配設したノックピン及びボルトにより各刃先片の幅方向の位置決め、固定を行うようにした(構成e)」のであって、被告製品の保護カバーが切断刃の位置決め・固定の作用を有するとしても、それは二次的なものに止まるというべきであるから、被告製品は本件引用例によって開示された従来技術の範疇に属するものと認められる。

 以上によれば、被告切断刃の構成aにおいて切断刃の取付台部分と軸とが一体形成されていて、本件考案の構成要件Aのように別個独立のものとはされていない点は、本件考案の本質的部分における相違点というべきである。

(6) 原告らの主張について

@ 原告らは、取付台が軸と一体であろうと嵌着型であろうと、刃先片の両側をはみ出し部分のあるスペーサで挟装すれば、同様の作用・効果を発揮すると主張するが、その作用効果に相違があることは、前記(4)で説示したところから明らかである。

A 原告らは、「嵌着」という言葉が「おいて」書きの中に記載されている上、嵌着方式は公知の技術であるから、これをもって本件考案の本質的部分(の一部)とはいえないと主張する。

 たしかに、「おいて」書きの部分には、通常、公知事項や上位概念が記載されることが多く、これらの事項が独立して考案の要旨となることはないということはできるけれども、右の部分も考案の構成に欠くことができない事項であり、考案の要旨ひいては考案の本質的部分を考察するについて、除外されなければならないという理由はなく、「おいて」書きの部分をも含めて考案の要旨を認定すべきものと解するのが相当である。

 また、原告らの指摘するとおり、本件引用例の実用新案公報(甲一二)中には、「回転軸上にカッターとカラーをそれぞれ交互に套嵌することによって構成され」(3欄26行目ないし28行目)と記載されているから、取付台を軸に嵌着させること自体は公知技術ということはできる。しかしながら、前記(3)ないし(5)で説示したとおり、本件考案においては、嵌着方式自体が考案の本質的部分であるというのではなく、スペーサのはみ出し部分により切断刃の刃先片の幅方向の位置決め・固定をすることという考案の本質的部分の構成にとって嵌着方式が不可欠であるというにすぎないから、嵌着方式が公知技術であるからといって前記の結論が左右されるものではない。

B 原告らは、本件考案の本質的部分を判断するに際して、本件考案出願の審査の過程に際して提出した意見書を考慮することは許されないと主張するが、少なくとも、均等論の適用における均等要件の存否を判断するに当たって、出願時において作成、提出された意見書等を参酌することは許されるものと解する(均等論の適用について判示した最高裁判所第三小法廷平成一〇年二月二四日判決(民集五二巻一号一一三頁)において、その要件の一つに「対象製品等が実用新案の出願手続において実用新案の登録請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情のないとき」という要件(均等要件D)が挙げられていることは、右の参酌を許容する趣旨と思われる。)。

C 原告らは、本件考案に関する原告近畿工業の実施品が嵌着型となっているのは、取付台のボルト穴が潰れた場合、その取付台のみを交換すればよいとの考えに基づくのであって、刃先片の位置決め固定のために嵌着式にしたものではないとも主張するが、仮に本件考案に右のような効果が認められるとしても、前述の出願経過に照らすと、本件考案の本質的部分についての前記認定が左右されるわけではない。

(7) まとめ

 以上によれば、被告切断刃の構成aと本件考案の構成要件Aとの前記相違部分は、本件考案の本質的部分に関するものであるというべきであって、均等要件@は認められないことになるから、その余の均等要件について判断するまでもなく、均等論により被告切断刃の構成aが本件実用新案権の構成要件Aの技術的範囲に属するとする原告らの主張は理由がない。

3 そうすると、本件考案のその余の構成要件について検討するまでもなく、被告切断刃が本件実用新案権を侵害するとする原告らの主張は採用することができないから、これを前提とする原告らの請求は失当である。

第三 被告による本件意匠権侵害の有無について

 当裁判所も、被告切断刃にかかるイ号意匠及びロ号意匠が本件意匠権を侵害するものとは認められないと認定判断する。

 その理由は、原判決が説示するところ(原判決七六頁七行目から八六頁九行目まで)と同じであるから、これを引用する(ただし、原判決八五頁九行目の「第三意匠が」の次に「別意匠として」を加え、同頁一〇行目の「なければ」を「ないにもかかわらず」に改める。)。

 なお、乙一一によると、被告は、第一意匠権について無効審判請求を提起していたが(平成九年審判第一六四七二号)、平成一〇年一一月二四日付で、右意匠権の登録を無効とする旨の審決がなされたことが認められる。

第四 結

 以上によると、原告らの請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件各控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条、六五条を適用して主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官     鳥  越  健  治

 

         裁判官     小  原  卓  雄

 

         裁判官     山  田  陽  三