★ 特許法65条の3、特許法102条2項、補償金請求権、不当利得請求権、時効

H11. 9.29 東京地裁 H6(ワ)14062 シート材料のウエブを受取るように構成され配置された巻返し装置特許

平成六年泊謌齊l〇六二号 特許権侵害差止等請求事件

(争点)

1 不当利得返還請求権に特許法102条2項の適用はあるか。

2 補償金請求権に相当する損失の不当利得返還を求められるか。

(判旨)

1 不当利得返還請求に関し、特許法102条2項の規定を適用ないし類推適用すべきではない。

2 補償金請求権は、出願公開制度を設けたことにより、特許出願人が受ける不利益と第三者公衆の受ける利益との衡量を図る趣旨で、右規定によって創設的に定められた権利である。したがって、補償金請求権に相当する損失が発生したことを理由とする原告の主張は失当であり、不当利得返還権も認められない。

(コメント)

 原告は、被告が出願公開当時から当該発明を知りながら実施していたので、原告には補償金請求権が発生しており、被告が原告に対してこれを支払っていないことにより不当な利得を得ていると主張した事案である(補償金請求権自体はすでに時効(3年)にかかっている)。このような請求を認めるかどうかは、補償金請求権の性質をどのように考えるかによることとなろう。これを損害賠償的な性格を有すると見れば、損害賠償請求権(民法709条)が時効にかかった後でも、不当利得請求権を行使できるという現実務に照らせば、原告のような請求もあながち不当ではないだろう。しかし、判旨は補償金請求権を出願人と第三者との利益の衡量を図るための特別に創設された権利であると判断し、原告の請求を棄却している。

(判旨の抜粋)

四 争点5(不当利得返還請求権)について

(略)

 なお、被告川之江及び被告日本車輌がロ号装置を販売することにより、エンメピが、被告川之江及び被告日本車輌が得た利益額と同額の損失を被ったと認めるに足る証拠はない。また、不当利得返還請求に関し、特許法一〇二条二項の規定を適用ないし類推適用すべきではない

五 争点6(補償金請求)について

 前記三のとおり、フイナンジアリアは、平成二年三月六日には、被告川之江が製造、販売している「dKワインダー」が、本件発明の技術的範囲に属すると認識していたことに照らすと、フイナンジアリアは、当時、右装置が、公開発明の技術的範囲にも属すると認識していたと推認できる。そうすると、補償金請求権は、右の時点から満三年の経過により、時効によって消滅した(原告が、補償金請求を行ったのは、平成一〇年九月三日における第三回弁論準備手続においてである。)。

 また、特許法六五条に基づく補償金請求権は、出願公開制度を設けたことにより、特許出願人が受ける不利益と第三者公衆の受ける利益との衡量を図る趣旨で、右規定によって創設的に定められた権利である。したがって、補償金請求権に相当する損失が発生したことを理由とする原告の主張は失当であり、不当利得返還権も認められない。

 よって、原告の主張は採用しない。