★ 著作権法、同一性保持権、原形をとどめないほどの改変

H11. 9.21 東京高裁 H10(ネ)5108 恐竜のイラスト著作権

平成一〇年尅謖ワ一〇八号損害賠償請求控訴事件、平成一一年尅謌鼈鼬ワ四号同附帯

控訴事件(原審・東京地方裁判所平成八年泊謗O三八五号)

(争点)

著作物に原形をとどめないほどの改変を加えて、表現手法を全く異ならせ、特定人の著作物だと感得する者は誰もいないほどになれば、同一性保持権の侵害にならないか。

(判旨)

著作権法二〇条にいう同一性保持権は、著作者が、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないというものであって、第三者が、本件表紙絵をみて被控訴人の作品であると認識できるかどうか、右表紙に被控訴人の氏名が表示されているかどうかは問題とならない。

(判決文の抜粋)

1 争点1(同一性保持権侵害の成否)について

 原審被告株式会社アド・エヌ(以下「アド・エヌ」という。)は、本件著作物の利用(以下、原判決と同様に「本件利用」という。)により、本件著作物に原形をとどめないほどの改変を加えており、表現手法も被控訴人のそれとは全く異なっているのであって、被控訴人を含めてこれが被控訴人の著作物だと感得する者は誰もおらず、また、本件利用により作成された原審被告キジマ(以下「キジマ」という。)の製品カタログの表紙(以下「本件表紙絵」という。)には、被控訴人の著作物と表示されているわけではないから、右表紙の存在によって、被控訴人の作風が変わったとか、被控訴人が変なものを作ったとか、世の中の人々に誤認されることはない。同一性保持権は、著作物に改変が加えられ、それによって著作者の創作意図とは異なったものがその者の著作物として人々に受け取られることを防止することによって、著作者の人格的な利益を保護しようとするものであるから、右状況の下では、被控訴人の同一性保持権は何ら侵害されていないと主張する。

本件表紙絵は、前記ア数F定のとおりのものであるから、本件著作物と比べて相当に表現内容が変わっていることは確かである。しかし、ティラノサウルスの基本的な構図のみならず、その目・鼻孔・口腔・舌・歯・足・爪等の細部の描写は残存しており、本件著作物とは無関係な著作物が創作されたものということはできない。また、著作権法二〇条にいう同一性保持権は、著作者が、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないというものであって、第三者が、本件表紙絵をみて被控訴人の作品であると認識できるかどうか、右表紙に被控訴人の氏名が表示されているかどうかは問題とならない

控訴人らの右主張は、独自のものであって、採るを得ない。

(筆者コメント)

 同一性保持権の本質は、著作物に化体した著作者の人格的部分を他者によってみだりに改変されることを防止することにあるのであり、精神的自由権の側面が重視されるものである。改変によって得られた著作物によって、著作者の名声が低下する、世間が誤認混同するなどのいわゆる競業秩序法的な意味合いは全く無関係であるとはいえないが、副次的な問題であることは否めない。その意味で、控訴人の主張はユニークだが、同一性保持権の本質から外れるものである。判旨に賛成する。