★著作権法2条1項、学校名の著作物性、不正競争防止法2条1項2号、著名性の判断

H11.11.18 大阪地裁 H10(ワ)1743-B ゲームソフト著作権等

平成一〇年()第一七四三号のB 損害賠償等請求事件

(争点)

  1. 原告の創作したとされる架空の高校名は著作物か。
  2. ゲームソフトの表示「甲子園」は原告の表示として著名か。

(判旨)

@ 本件学校名は、そのほぼすべてが、日本に実在する高等学校の通称名ないし略称名の第一文字目と第二文字目の順番を入れ替えて作成されたものであることが認められるが、高等学校名の選択や配列に特段の工夫は見られないばかりか、その加工方法も、極めて簡易かつありふれた手法にすぎず、表現としての創作性を有すると認めることはできないから、本件第一学校名を著作物ということはできない。原告は、本件第一学校名は、実在の学校名を容易に想起できる点に独自性・創作性があると主張するが、この点はいわゆるアイデアにすぎないものである。

A「甲子園」という名称が選抜高校野球選手権大会ないし全国高等学校野球選手権大会を示す普通名称として用いられていることに加え、ゲームソフト「甲子園」及び「甲子園2」の販売本数はいずれも一〇万本台であり(平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日までに販売されたゲームソフトの総売り上げ本数の上位七本はいずれも一〇〇万本を超えている)、右各ソフトの販売に伴って宣伝・広告がされ、あるいは雑誌等の記事に採り上げられたとしても、「甲子園」の名称が何れかの出所を表示するものとして著名となっているものと認めることはできない。

             判    決

    原       告         システムマークワイ株式会社

   被       告         魔   法 株 式 会 社

                主    文

    一 被告は、原告に対し、金八九〇万円及びこれに対する平成一〇年三月五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

    二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

    三 訴訟費用はこれを三〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

    四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

             事実及び理由

第一 請求

一 被告は、原告に対し、金二億三六一三万円及びこれに対する平成一〇年三月五日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二 被告は、別紙目録記載一、二の各家庭用テレビゲームコンピュータソフトウエアを製造、販売してはならない。

三 被告は、保管中の別紙目録記載一、二の各家庭用テレビゲームコンピュータソフトウエアを廃棄せよ。

第二 事案の概要等

 一 事案の概要

   本件は、「甲子園2」なる名称の家庭用ゲーム機用コンピュータソフトウェア(以下「ゲームソフト」という。)の著作権者であると主張する原告が、「甲子園3」、「甲子園4」、「甲子園X」及び「激突甲子園」なる名称の各ゲームソフトを製造、販売する被告に対し、ゲームソフト「甲子園3」及び同「甲子園4」について、@被告は、原告と被告との間で締結されたゲームソフト「甲子園2」にかかる制作物の使用許諾契約により、原告に対して使用料の支払義務があるところ、そのうち三六一三万円が未払いであるとして契約に基づく使用料の支払を、また、ゲームソフト「甲子園X」及び同「激突甲子園」について、Aゲームソフト「甲子園X」に使用されている別紙第二学校名目録記載の学校名(以下「本件第二学校名」という。)及びゲームソフト「激突甲子園」に使用されてる別紙第三学校名目録記載の学校名(以下「本件第三学校名」という。)は、原告が有する別紙第一学校名目録記載の学校名(以下「本件第一学校名」という。)に関する著作権を侵害するとして、著作権法に基づいて、損害賠償及び右各ゲームソフトの製造販売の差止め、廃棄を、Bゲームソフトにおける「甲子園」の名称は、原告の著名表示であるとして、不正競争防止法二条一項二号に基づいて、別紙目録記載一、二のゲームソフトの製造、販売の差止め及び損害賠償を、それぞれ請求している事案である。

(中略)

当事者の主張

2 争点二2(著作物性)について

【原告の主張】

 本件第一学校名は、ゲームへの感情移入を可能とするために、抽象的な名称である学校名に工夫を加えて、実在の学校名が想起できる名称を作成したものであり、原告の精神的知的活動による創作物である。

 本件第一学校名は、右の点から、プレイヤーがゲームに感情移入してプレイできるという、それ自体が特別の意味を持つものであり、小説や物語、漫画の題名やキャラクター名のように、本体である作品自体が著作物として保護され、それ自体が単独で意味を持たないものと同様に論じることはできない。

【被告の主張】

() 本件第一学校名は、そのほとんどすべてが、単に日本に実在する高等学校の通称をそのまま利用して、その一文字目と二文字目の順番を機械的に入れ換えて構成しただけの学校名そのものであり、単に各学校名を特定するだけの実用的なものにすぎないから、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものということはできない。

() ゲームに登場する団体、人物等の名称として、実在の団体名、人物名等の名称を僅かに加工して利用することは、ゲームソフト「甲子園」の制作以前から既に採用されていた極めてありふれたアイデアないし手法であり、本件第一学校名は、このようなありふれたアイデアを極めて簡易に具体化したものにすぎない。

  そして、本件第一学校名の作成よりもはるかに思想又は感情を創作的に表現したものに近いといえる書籍の題号やキャラクターの名称等でさえ著作物に該当しないとの解釈が確立されているから、本件第一学校名は思想又は感情を創作的に表現したものということはできない。

三 争点三(不正競争防止法に基づく請求)について

【原告の主張】

() 原告は、前記ゲームソフトの題名を「甲子園」とし、その企画、制作、販売をケイに依頼した。ケイは右「甲子園」を企画、制作し、平成元年一〇月以降一五万ないし一六万本販売し、同様に「甲子園」をバージョンアップしたゲームソフト「甲子園2」を企画、制作し、平成四年六月以降、一三万本販売した。

() また、原告は、平成五年一二月一〇日、被告との間でゲームソフト「甲子園2」に関する著作物使用契約を締結した。被告は、ゲームソフト「甲子園3」を制作し、平成六年九月以降、五万三五〇〇本販売し、同様にゲームソフト「甲子園4」を制作し、平成七年七月一四日以降八万二三〇〇本を販売した。

() 原告は、ゲームソフト「甲子園」及び「甲子園2」について、それぞれ発売前後四か月にわたって全国版の二つのゲーム誌に宣伝広告し、テレビのスポットコマーシャルを行った。また、右ゲームソフトは、新聞記事に取り上げられたり、いわゆる「攻略本」が発行されたりしたほか、ゲームソフト業界の展示会に出展し、ゲーム雑誌の人気商品ランキングに取り上げられた。

() 「甲子園」は固有名詞であり、これを原告がゲームソフトの名称として継続して使用してきた結果、購買者はゲームソフトとして「甲子園」という名称を見れば、原告が企画してケイが制作、販売してきたゲームソフト「甲子園」及び同「甲子園2」や被告が原告の許諾の下に制作、販売してきたゲームソフト「甲子園3」及び同「甲子園4」を想起し、安心感と期待感を抱いて新たに発売されたゲームソフト「甲子園X」及び同「激突甲子園」を購入する。それは、正に原告が培ってきたゲームソフトとしての「甲子園」という商品表示に対する信頼感やそこから生み出される期待感にただ乗りすることに他ならない。

【被告の主張】

() 「甲子園」という語は、古くから日本全国において、阪神甲子園球場において開催される全国高等学校野球選手権大会及び選抜高校野球選手権大会を意味する普通名称として広く用いられており、その結果、「兵庫県西宮市の一地区」のみならず、当該地区に所在する「甲子園球場」、さらには、当該球場において開催される「高校野球」の「全国大会」をも広く指し示すものとなっている。

  ゲームソフト「甲子園」及び同「甲子園2」は、全国高等学校選手権大会そのものを題材とする内容のものであるから、そのタイトルに「甲子園」及び「甲子園2」の標章を使用したとしても、単に内容を示すだけとなり、商品の出所を表示する機能を果たすことにはならない。

() 一般にゲームソフトの大ヒット商品と評価されているものは、数百万本単位で販売され、これに応じて宣伝広告されてきたものであり、右のように識別力が乏しい標章について、これを付したゲームソフトが一〇万本強程度販売され、それに応じて宣伝広告されたからといって、不正競争防止法二条一項二号にいう著名性を獲得したということはできない。

() ゲームソフト「甲子園」及び同「甲子園2」は、ケイが企画、制作、販売したものであり、その商品自体及び宣伝広告にも、一貫してケイの名称が販売元、著作権者ないしメーカーとして表示されており、原告の名称は全く表示されていない。

  また、ゲームソフト「甲子園3」、同「甲子園4」、同「甲子園X」及び同「激突甲子園」は、被告が企画、制作、販売したものであり、その商品自体及び宣伝広告にも、一貫して被告の名称が発売元、著作権者ないしメーカーとして表示されており、原告の名称は全く表示されていない。

  ケイが被告との間でゲームソフト「甲子園3」の開発委託を中途解約して廃業し、被告がゲームソフト「甲子園3」の開発を継続した事実をも考慮すれば、仮に「甲子園」を含む標章がゲームソフトの出所を示すものとして認められるとしても、その出所は被告と認められるべきものであり、少なくとも原告と認めることはできない。

(中略)

理   由

 二 争点二(著作権に基づく請求)について

  1 争点二2(著作物性)について

   () 証拠(甲5(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、本件第一学校名は、そのほぼすべてが、日本に実在する高等学校の通称名ないし略称名の第一文字目と第二文字目の順番を入れ替えて作成されたものであることが認められる。

     著作物として保護されるためには、思想又は感情の創作的表現であることが必要であるところ(著作権法二条一項一号)、本件第一学校名は、右のとおり、実在する高等学校の名称(通称)を加工したものにすぎず、それらの高等学校名の選択や配列に特段の工夫は見られないばかりか、その加工方法も、名称(通称)の第一文字目と第二文字目の順番を入れ替えたのみであって、極めて簡易かつありふれた手法にすぎず、表現としての創作性を有すると認めることはできないから、本件第一学校名を著作物ということはできない。

     原告は、本件第一学校名は、実在の学校名を容易に想起できる点に独自性・創作性があると主張するが、右の点が独自性・創作性を有するか否かはひとまず措くとしても、原告が独自性・創作性があると主張するところはいわゆるアイデアにすぎないものであって、本件第一学校名は、右のようなアイデアを実現するための表現手法としては、第一文字目と第二文字目の順番を入れ替えた極めて簡易かつありふれた手法を採用しているのであるから、原告の主張は失当である。

   () そうすると、本件第一学校名は著作物たる要件である表現としての創作性を欠くものであって、著作物と認めることはできないから、原告の著作権侵害に基づく請求は、その余の点を判断するまでもなく失当である。

 三 争点三(不正競争防止法に基づく請求)について

  1() 証拠(丙2225ないし36(枝番を含む。以下同じ。))によれば、「甲子園」という名称は、兵庫県西宮市の一地区を示す地名であるとともに、同地区に所在する甲子園球場、ひいては右球場において毎年春に開催される選抜高校野球選手権大会及び毎年夏に開催される全国高等学校野球選手権大会を指す普通名称として一般に用いられていることが認められる。

   () 証拠(丙23)によれば、平成一〇年三月末現在で、日本国内において販売されたゲームソフトのうち、最も総売り上げ本数が多いものは約七〇〇万本であり、そのほか総売り上げ本数の上位第二〇位までは二〇〇万本を超えていること、平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日までに販売されたゲームソフトの総売り上げ本数の上位七本はいずれも一〇〇万本を超えていることがそれぞれ認められる。

   () 証拠(甲7の2)によれば、ゲームソフト「甲子園3」の製造本数は五万三五〇〇本であること、ゲームソフト「甲子園4」の製造本数は八万二三〇〇本であることが認められる。

     そうすると、仮にゲームソフト「甲子園」及び「甲子園2」の販売本数が原告の主張のとおりであったとしても、その販売本数はいずれも一〇万本台であり、また、ゲームソフト「甲子園3」及び「甲子園4」の販売本数はいずれも一〇万本に満たないことになるのであって、前記1で認定したとおり、「甲子園」という名称が前記のとおり選抜高校野球選手権大会ないし全国高等学校野球選手権大会を示す普通名称として用いられていることに加え、前記2で認定したとおりのゲームソフトの市場規模をも併せ考慮すれば、右各ソフトの販売に伴って宣伝・広告がされ、あるいは雑誌等の記事に採り上げられたとしても、「甲子園」の名称が何れかの出所を表示するものとして著名となっているものと認めることはできない

     右認定を覆すに足りる証拠はない。

  2 したがって、原告の不正競争防止法二条一項二号に基づく請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

四 以上の次第で、原告の請求は、主文第一項掲記の限度で理由があるが、その余は失当である。

(平成一一年八月二六日口頭弁論終結)

  大阪地方裁判所第二一民事部

            裁判長裁判官   小   松   一   雄

               裁判官   渡   部   勇   次

               裁判官 水   上       周