★ 著作権法20条2項4号、同一性保持権、「やむを得ないと認められる改変」

H11. 8.31 東京地裁 H9(ワ)27869 漫画カット著作権等

(争点)

漫画の引用に際して、漫画の原カット中の人物の人格的利益を守るために、描かれている人物の両目部分に目隠しをする改変が著作権法二〇条二項四号にいう「やむを得ないと認められる改変」に当たるか?

(こばやしよしのりの「ゴーマニズム宣言」を批判する目的で作成された著作物の発行者が被告とされている事案である)

(判旨)

@ 原著作物に相当な改変を施すことを許容しなければ、当該著作物を引用する際に、引用者において右第三者の人格的利益を侵害するという危険がある場合、原著作物に対し相当な方法で改変をすることは、著作権法二〇条二項四号にいう「やむを得ないと認められる改変」に当たる。

A 相当な方法としては、一般に広くおこなれている方法であり、上記危険回避のために相当の効果があり、改変が引用者によることが明示されていることが要件である。

 

(判決文の抜粋)

B 原カット~で漫画に描かれた人物は、原告漫画中でHIV訴訟原告団のうちの特定の人物であると明示されているところ(甲一五)、原カット~中の右人物は、同人がこれを見れば不快に感じる程度に醜く描写されているものと認められるから、同人の人格的利益たる名誉感情を侵害するおそれが高いと考えられる。

 このような場合、原著作物に相当な改変を施すことを許容しなければ、当該著作物を引用する際に、引用者において右第三者の人格的利益を侵害するという危険を強いることとなり、さもなければ、当該著作物の引用を断念せざるをえない。

 著作物の適正な利用の確保を目的とする著作権法二〇条二項の趣旨に鑑みると、右のような場合に相当な方法で改変をすることは、著作権法二〇条二項四号にいう「やむを得ないと認められる改変」に当たると解するのが相当である。

 しかるところ、描写された人物の両目部分に目隠しを施すという改変方法は、描写された人物の権利を保護するために一般に広く行われている方法であり、原カット~に目隠しをすることによって目の部分が隠されたため名誉感情を侵害するおそれが低くなったものということができる。また、右1アのとおり、被告書籍において目隠しは引用者によることが明示されている。したがって、原カット~に対する目隠しは、著作権法二〇条二項四号にいう「やむを得ないと認められる改変」に当たるということができる。

(コメント)

20条2項は同一性保持権の阻却要件を定めているが、建築物の増築やコンピュータプログラムのコンバージョン等、必要最小限のやむを得ない場合に限定されており、特に、その包括規定である同4号の運用はかなり限定的になされていた。本事案は、漫画の登場人物に目線を入れるという改変について同号に該当するとしているが、このような改変は原著作物の表現を大きく減じることから、従来にない大幅な改変について同一性保持権侵害を阻却している。対立利益(特定人の名誉感情)が存在するという配慮が働いているように思われる。