★ 不正競争行為、継続的契約、解除原因、背信性、販売代理店契約

H11.12. 9 大阪地裁 H9(ワ)7373 カリタ化粧品不正競争等

平成九年()第七三七三号 損害賠償等請求事件

(争点)

 販売代理店が独自開発の類似商品を自己の顧客に売り込む行為について、販売代理店契約にこれを禁止する明文がなかった場合、当該契約の継続を著しく困難ならしめる事情に当たるか

(判旨)

 被告商品は市場で販売されており、そのスキンケアメソッドやエステティックメソッドも公開されており、被告が商品の構成や営業方法について何らかの工業所有権を有しているわけでもないから、原告が被告商品と類似性の高い商品を企画・販売することは一般論からすれば直ちに違法とはいえないが、原告が被告の販売代理店であるという地位に照らして考えると、被告商品と類似性の高い原告商品を自ら企画・開発し、被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む行為は、原告の売込みの結果、被告商品の取扱量はそれだけ減少するという関係に立つことを意味するから、原告の行為は、被告の利益を直接侵害する行為であって、被告に対する利益相反行為に当たり、幅広く営業活動を行っているから、利益相反の程度も重大であるといえる。よって、原告のこのような行為は、信義則上、被告に対して、原告との間の販売代理店契約の継続を著しく困難ならしめる事情に当たるというべきであり、被告の原告に対する販売代理店契約の解除は有効である。

    新明和リビテック株式会社

右代表者代表取締役      富   岡       公

右訴訟代理人弁護士      岡       時   寿

同              明   賀   英   樹

同              中   村   良   三

同              黒   田   一   弘

告      株式会社カリタジャポン

右代表者代表取締役      成   田   孝   明

右訴訟代理人弁護士      浜   田   正   夫

 

一 原告の請求をいずれも棄却する。

二 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

事実及び理由は、別紙「事実及び理由」のとおりであり、それによれば、原告の請求はいずれも理由がない。

 よって、主文のとおり判決する。

 (平成一一年一〇月一二日口頭弁論終結)

    大阪地方裁判所第二一民事部

  

       裁判長裁判官  小   松   一   雄

 

    裁判官   高   松   宏   之

 

    裁判官   安   永   武   央

 

 

(別紙) 事実及び理由

第1 請求

1 被告は、原告に対し、金1億0055万8896円及び内金7755万8896円に対しては平成9年7月8日から支払済みまで年6分の割合による金員を、内金2300万円に対しては平成9年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告は、別紙取引先一覧表記載の各取引先に対し別紙記載の謝罪文を1回発送せよ。

第2 事案の概要

 被告は、被告が輸入する化粧品について原告と販売代理店契約を締結していたが、原告が自社の化粧品を開発し、被告の他の代理店等に購入を求めたことから、原告との代理店契約を解除し、商品の供給を停止するとともに、他の被告代理店等に原告の商品開発をめぐる状況についての通知をした。

 本件は、原告が被告に対して、@被告による契約解除は無効であり、商品供給の停止は代理店契約の債務不履行に当たるとして、それに基づく損害賠償を請求するとともに、A他の被告代理店等の通知が不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為又は不法行為に当たるとして、それに基づく損害賠償及び謝罪広告を各請求した事案である。

第3 基本的事実関係(争いがない)

1(当事者)

(1) 原告は、理美容関連器具並びに化粧品の製造及び販売等を目的とする会社である。

(2) 被告は、美容器具及び化粧品の製造販売等を目的とする会社である。

2(原告と被告の関係)

(1) 被告は、フランスの化粧品会社カリタ(フランス・カリタ)等との契約により、フランス・カリタの化粧品及びカリタ・エステティック器具その他カリタ全商品の輸入・製造・利用等の全権を有していたが、昭和53年9月18日、原告との間で、被告の輸入にかかるフランス・カリタ・エステティック基礎化粧品の日本国内における販売の権利及び義務を原告に譲渡する契約を締結した(その契約書が乙1)。その後、昭和57年10月1日、同契約をベースとして契約内容が改訂された(その契約書が乙2)。

(2) 昭和60年10月1日、被告と原告は(1)の契約を改訂し、原告が日本国内における販売権を被告に返上するとともに、被告は、フランス・カリタから輸入するカリタ基礎化粧品とその業務用化粧品、カリタメイクアップ化粧品、カリタキャピレール製品とその業務用化粧品について、原告を、日本国内美容ルートにおける唯一の販売元であることを認め、原告に対して同商品を継続して売り渡す旨の契約を締結した(その契約書が乙4)。なお、美容ルートとは、美容室又はエステティック専門店及びこれらに納入する原告の特約販売店への販売ルートのことであり、これとは別に百貨店で販売するルートがあった。

 また、同契約書には、原告は、前記の取扱商品と同種又は類似の他社商品についての販売をしてはならない旨の条項(以下、「類似商品販売禁止条項」という。)が明記されていた。

 この契約は、昭和63年10月1日に改訂されたが、内容に基本的な変化はなかった(その契約書が乙7の1)。

(3) 平成6年3月25日、原告と被告は、「カリタ化粧品事業転換に関する協定書」(乙8)により、(2)の契約を平成6年3月31日限りで解除し、同年4月1日から被告を日本国内の美容ルートにおける唯一の販売元とする契約を締結し、これに伴い、次の内容の合意をした。

ア 平成6年4月1日から平成9年3月31日までの3年間を移行期間とし、その間、原告は、@被告と現販売代理店との調整、A売上伝票及び請求書の発行、B売上金額の販売代理店からの回収及び被告への支払、の業務を担当する。

イ 被告は、事業転換に際し、原告の既存代理店と新たに販売代理店契約を締結する。

ウ 原告が保有する代理店ルート相当分の在庫品について、被告は、平成6年3月31日までに一括引取りをする(代理店ルートとは、原告が販売元として、サロンとの間に介在する代理店に販売する形態をいう。)。

エ 移行期間中、原告は、代理店ルートからの売上代金を回収し、各月の売上から、平成6年度は売上の5%、平成7年度は同4%、平成8年度は同3%の率の手数料を減じて、被告に支払う。

オ 被告は、原告に、サロンルートでの優遇措置として、平成6年度は上代価格の45%、平成7年度は同47%、平成8年度は同49%の仕切率を適用する(サロンルートとは、直サロンルートともいい、原告が代理店を介在させずに、直接サロンに販売する形態をいう。)。

(4) 原告と被告は、(3)の合意に基づき、平成6年4月1日、次の内容の基本契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した(その契約書が甲1)。この基本契約は、平成9年4月1日に、契約の有効期間を平成10年3月31日までとして改訂されたが、基本的な内容に変更はなかった(その契約書が甲2)。

ア 原告は、カリタ化粧品(以下「被告商品」という。)の販売代理店として被告と売買契約を締結するに当たり、カリタブランドのポリシー、イメージ、その美容法の独自性を尊重し、市場のニーズに幅広く応えるため、被告に対して市場動向等の情報の伝達及び提案を行い、被告は原告に対して、積極的な営業活動及びサービスの支援、並びに商品及びマーケティング活動に関する情報を提供するものとする。

イ 被告及び原告は、相互の発展と繁栄を計るため、相協力してカリタブランドの維持と発展に努めるとともに、相互に相手方の立場を理解尊重し、本契約の円滑を期するものとする。

ウ 被告は、同契約の定めるところに従い、被告の商品(カリタ化粧品〔スキンケア、メイク、頭髪、業務用〕及び関連する商品)を継続して原告に売り渡し、原告はこれを買い受けて取扱サロンに販売するものとする。

エ この基本契約では、(2)の契約においては明記されていた類似商品販売禁止条項が明記されなかった

(5) なお、(2)ないし(4)の期間の原告及び他の代理店に対する被告商品の仕切率の推移は、別紙仕切率推移表記載のとおりである。

3(原告による原告商品の販売と被告による契約解除及び通知行為)

(1) 原告は、平成9年5月20日、東京全日空ホテルにおいて、原告が美容ルート販売元時代の系列代理店を集めて、「新明和リビテック株式会社化粧品代理店大会」を開催し(乙9)、原告の開発にかかる新規エステティック化粧品「AUBRY DECENCE(オーブリー デサース)」を発表し、同商品(以下「原告商品」という。)の営業販売活動を開始した。

(2) これに対し、被告は、翌21日、原告に対し、原告商品の販売を中止するよう申し入れたが、原告はこれを拒絶した。

(3) そこで被告は、同月29日差出にかかる内容証明郵便にて、原告に対し、原告商品の販売は、@原告が負っている類似商品取扱禁止義務に違反していること、Aカリタ化粧品のノウハウを盗用する行為であることを理由に、原告商品の販売の即時中止及び本件基本契約を即時解除する旨の通知を行った(その通知文書が甲3)。

(4) 同日、被告は、

ア カリタ化粧品取扱サロンに対して、「カリタ化粧品のお取引先変更についてのご案内」と題する通知を行い(その通知文書が甲4)、その中で、「突然のご案内ですが、カリタ化粧品のお取引先の新明和リビテック株式会社様とは平成9年5月29日をもって、取引を停止致しました。その為、今後カリタ化粧品のお取引は弊社との直接のお取引をさせて載くようになりましたのでここにご案内申し上げます。」と述べた。

イ 別紙取引先一覧表記載の代理店(原告の取引先の代理店。以下「本件取引先」という。)に対し、「新明和リビテック株式会社取扱化粧品の弊社対応についてのご報告」と題する通知を行い(その通知文書が甲5)、その中で次の旨を述べた。

() 原告商品の販売開始に対し、被告は、原告に対して、@原告化粧品及びその販売システムは、カリタ化粧品のそれに類似しており、カリタ取扱サロンへの販売を強く意識して作られていること、A原告商品は、取扱サロンがないにもかかわらず、代理店に対してまとめて仕入れさせ、代理店契約の締結を促す行為は、カリタ取扱サロンへの売込みを意図したものと解釈されること、B原告が、元カリタ化粧品の総販売元・総代理店の立場を利用し、原告商品をカリタの流通システムに売り込む行為は、被告に対する営業妨害行為であること、を指摘して、抗議と販売中止の申入れを行った。

() 被告は、原告に対し、平成9年5月29日、()の内容の警告と代理店契約の解除を通知し、同時に新商品の出荷差止め及び損害賠償請求を裁判所に提起し、同時にカリタ化粧品の出荷差止手続を行う予定である。

() 被告としては、「代理店に対し、ほとんどのサロン名簿を保有し、全国に販売網(営業所)を持っている原告が、新化粧品の代理店になって欲しい旨要請することは、半ば、強要しているものと解釈いたします。」

4(原告による発注と契約解除)

(1) 原告は、平成9年6月2日、被告に対し、lスキン外総額569万9405円分のカリタ化粧品の購入を発注した(その発注書が甲6の1ないし3)。

(2) 通常であれば、被告は原告の注文を承諾し、原告が注文した後数日程度で被告の商品が納入されていたが、そのときは、(1)の注文後数日しても、被告は商品を納入しなかった。

(3) そこで、原告は、被告に対し、同年6月11日差出に係る内容証明郵便をもって、同書到達後1週間以内に、本件基本契約に基づき注文商品を供給するよう催告し、同書面は同月13日被告に到達した(甲7の1、2)。

(4) しかし、その後も、被告は、原告に対して注文商品の供給をしなかった。

(5) そこで、原告は、被告に対し、平成9年7月4日差出、同月7日到達に係る内容証明郵便にて、本件基本契約を将来に向かって解除する旨の通知をした(甲8の1、2)。

第4 争点

1 被告による債務不履行の成否

2 被告の前記第3の3(4)ア及びイの各通知は、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知するもの(不正競争防止法2条1項13号)か。

3 被告の前記第3の3(4)ア及びイの各通知が原告に対する不法行為を構成するか。

4 損害額

第5 争点に関する当事者の主張

(略)

第6 争点に対する当裁判所の判断

1 争点1(被告による債務不履行の成否)について

(1) 前記第3記載の事実からすれば、被告は、前記第3の3(3)記載の契約解除が有効でない限り、原告に対し、本件基本契約に基づく被告商品の供給義務(前記第3の2(4)ウ)の債務不履行責任を負うと認められる。

 そこで、以下、被告による本件基本契約の解除の有効性について検討する。

(2) この点について被告は、まず、本件基本契約上、原告は類似商品販売禁止義務を負っており、原告による原告商品の発売はこれに違反するものであると主張する。

ア そこで、まず、昭和60年の基本契約(前記第3の2(2))から平成6年の本件基本契約(前記第3の2(3)(4))に契約内容が変更されるに至った経緯について検討するに、後掲各証拠及び甲28、乙35、証人安藤隆史、同秋野征二の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

() 原告は、昭和53年に被告商品の国内における販売権を取得し、昭和60年に国内美容ルートにおける唯一の販売元となっていたが、原告は、各地で既存のサロンの従業員を集めて講習会を行う等の教育や支援を行って、被告商品を取り扱うサロンを開かせたり、既存のサロンに被告商品を取り扱うよう売り込む等の方法によって、被告商品を取扱うサロンを開拓していき、各地域の代理店に、全国に散らばるサロンを管理させてきた。そして、契約内容の変更について被告から提案がなされた平成5年9月の時点では、原告は、各地の代理店を通じて約500のサロンに被告商品を販売するルート(代理店ルート)を有するとともに、代理店を介在させずに直接に約100のサロンに被告商品を販売するルート(直サロンルート)を有しており、原告を介在させずにサロンに被告商品が販売されるルートはなかった。

 当時、被告から原告へは、@サロン店頭で消費者に販売される商品(店販用商品)については店販価格の42%で販売され、原告はそれを代理店に店販価格の50%で販売する、Aサロンで使用する商品(業務用商品)については、対サロン販売価格の55%で販売され、原告はそれを代理店に対サロン販売価格の72%で販売するものとされており(乙7の1、別紙「仕切率推移表」)、原告はこれらの差額をマージンとして得ていた。

() ところが、平成5年9月、被告では、被告商品の売上高の減少に直面し、その原因として内外価格差の存在と並行輸入品の存在があると判断したことから、国内流通経費の圧縮のために、原告に対し、国内美容ルートの総販売元の地位から一代理店の地位に変更するよう契約内容変更を申し入れた(乙20、甲9の1)。この内容は、従来の代理店ルートの関係で原告を流通ルートから外し、原告が従来の直サロンルートの関係の一代理店としての地位のみを有するようになることを意味していた。

 これに対して原告は、翌10月ころにかけて内部で検討を行い、基本的には避けて通れない道ではあるが、交渉はゆっくり行い、有利な条件を引き出すという方向性を決定し、契約変更のための条件として、他ブランド化粧品の取扱いの自由や他の代理店より有利な仕切率を定めること等を検討した(甲9の1)。

() 被告からの契約変更の正式な申入れは、同年11月18日に行われた(甲9の3)。これに対し、原告では更に社内で検討を経て(甲9の4)、11月27日に正式の回答をした(甲9の5)。その回答では、被告からの申入れについては検討する用意があるが、その際には原告がこれまで培ってきた流通ルートの開拓に要した投下資本を考慮した上で、営業補償を求めるとともに、数年をかけて一代理店に段階的に移行することや事業転換のための資金調達のための在庫品の一括引取り等を提案した(甲9の5)。

() その後、原被告間で、原告の要求する営業補償の内容等をめぐって交渉が行われ(甲9の6、7、10及び11、乙21、乙22)、平成6年2月18日の時点で、契約変更後3年間を移行期間とし、@移行期間中は原告は既存の代理店ルートについてディーラーマージンを有し、初年度5%、2年度4%、3年度3%とし、4年度以降は廃止する、A直サロンルートの仕切率は初年度45%、2年度47%、3年度49%とし、4年度以降は他の代理店と同じ50%とするという内容について合意が得られ(乙23)、同年3月9日には、被告から原告に対し、契約書の草案(甲9の12)が示された。

 この草案に対して、原告からは若干の修正要求がされ(甲9の13)、同月25日に最終的な協定書(乙8)が成立した。

() また、この協定書に沿って同年4月1日に本件基本契約(甲1)が締結されたが、本件基本契約の契約書は、原告がそれまで代理店と締結していた契約を雛形として被告から提示されたものであった。

 なお、前記移行期間の経過後の平成9年4月1日に原被告は協定書を改訂したが、直サロンルートの仕切率を49%とする点だけは維持された。

イ 以上に基づいて検討するに、アで認定したような経緯によって締結された本件基本契約書(甲1。その後の更新に係るものとして甲2)中には、前記第3の2(4)のとおり、従前の契約書(乙4、7)には明確に存在した類似商品販売禁止条項が設けられていないのであるから、特段の事情がない限り、本件基本契約上、原告に類似商品販売禁止義務が課せられていたとはいえない。

 被告は、甲1の契約書は、従前に原告が代理店との間で締結していた契約書を雛形として使っただけであり、類似商品販売禁止義務が原告に課せられることは当然の前提であったと主張するが、アで認定したとおり、原告と被告とは相当の期間に協議を重ねて本件基本契約の締結に至ったものである上、本件基本契約の契約書の草案は被告から原告に提示されたものなのであるから、被告の主観的な意図は別として、客観的な契約内容としては、類似商品販売禁止義務は原告に課せられていなかったと解するほかはない。

ウ もっとも、証人安藤は、原告との協議を重ねる過程で、@平成5年9月の時点で、安藤から原告担当者の秋野に事業転換として予定する内容について問うたところ、当時から原告が取り扱っていた男性用化粧品(商品シリーズ名「デサース」)の販売拡充を述べただけで、女性化粧品の取扱いについては何も言及がなかった、A平成6年1月20日の協議の際に、移行期間が終了する平成9年度以降も競合商品を取り扱わないよう申し入れたところ、原告担当者の秋野は、契約条項には入れることはできないが女性用化粧品は取り扱わない旨返答したと証言し、その際の安藤のメモとして、被告は乙36を提出する。

 しかし、@の点については、安藤証言によっても、女性用化粧品の取扱いについては秋野から何の言及もなされなかったというにすぎない上、証人秋野によれば、平成5年9月の段階では原告側は事業転換の必要性は強く意識していたものの、その内容として特に具体的な展望を有していたというわけではなかったことが認められ、さらにアで認定したとおり、平成5年10月ころの時点で事業転換の内容として他ブランド商品の取扱いも視野においていた(甲9の1)のであるから、@のやりとりをもって類似商品販売禁止の合意がなされたと見ることはできない。また、Aの点については、平成6年度からの契約変更の協議をしている際中に、3年の移行期間を経過した後の平成9年度以降の話がされたというのは不自然であるし、その際の安藤の手控えとして提出された乙36の記載でも「競合 3年 申し入れNO」とあるにすぎないから、このときに協議されたのは、もっぱら3年間の移行期間中の競合商品の取扱いについてであって、原告側はその提案を拒否した旨の証人秋野の証言の方が合理的である。したがって、Aの点から、原被告間に類似商品販売禁止義務の合意がなされたと見ることもできない。

エ また被告は、本件基本契約において、原告に対して仕切率等の点で他の代理店に比べて優遇する措置を講じたことの反射的効果として、原告には類似商品販売禁止義務があると主張する。しかし、アで認定した経緯からすれば、本件基本契約において原告に認められた各種の優遇措置は、原告が昭和53年以降にサロン等を開拓し、昭和60年以降も国内美容ルートの総販売元として被告商品取扱いサロンの開拓と管理を行ってきたという既得的地位を放棄する代償として認められたものであることは明らかであり、そのような措置を理由として他の販売代理店とは異なる特別の契約上の義務を負ったものと見ることはできない。しかもその措置の期間も移行期間である3年間に限定され、原告が原告商品の販売を開始した平成9年5月の時点では、仕切率が1%優遇されている点を除いては本件基本契約当初に定められた優遇措置は姿を消しているのであるから、少なくとも原告が原告商品の販売を開始した時点において、原告に優遇措置が認められていたことを理由として、原告に他の販売代理店には課せられない類似商品販売禁止義務が契約上課せられていたということはできない。

オ 以上よりすれば、原被告間で類似商品販売禁止義務の存在を肯定し得る特段の事情も認められないから、原告が契約上の義務として、類似商品販売禁止義務を負っていたということはできない。

(3) しかしながら、本件基本契約のような継続的な代理店契約においては、相互の信頼関係を基礎として継続的な契約関係が形成されているものであるから、当事者間に契約関係を存続させることが著しく困難ならしめる事情があれば、信義則上、将来に向かって契約を解除することができると解するのが相当である。

ア この点について被告は、@原告の地位の特殊性、A原告商品と被告商品との類似性、B原告商品の販売方法の3つの観点から、原告による原告商品の販売は、本件基本契約の継続を著しく困難ならしめる背信的事情が存すると主張するので、検討する。

イ 原告の地位の特殊性について

 被告は、この点について、原告が本件基本契約上の優遇措置を受けている点を指摘するが、それが原告に対して何らの特別な契約上の義務を負わせる根拠とならないことは先に述べたとおりである。

 しかし、本件基本契約上、原告は被告の販売代理店であって、第3の2(4)のとおり、契約書前文においても、「甲(原告)および乙(被告)は、相互の発展と繁栄を計るため、相協力してカリタブランドの維持と発展に努めるとともに、相互に相手方の立場を理解尊重し、本契約の円滑を期するものとします。」とされている(甲1)。この趣旨に照らせば、原告は、一代理店としてであっても、少なくとも被告の利益を害する利益相反行為を行わないことは、当然の前提とされていると考えられる。

 とりわけ、被告商品の流通網における販売代理店の役割は、前記(2)アで認定したとおり、全国に散らばるサロンを管理する点にあり、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう努めることが、被告と販売代理店の双方にとって契約上の前提とされているものと考えられる。

ウ 原告商品と被告商品との類似性について

() 販売形態について

 乙1034によれば、被告は、消費者自身による日々のスキンケアとサロンでの定期的なエステティックトリートメントを組み合わせた美容法を提案し、それに基づいた構成の化粧品を販売しているものと認められる。したがって、被告商品の消費者は、サロンにおいてエステティックトリートメントを受けるとともに、同じくサロンにおいて店販用商品を購入して自宅でスキンケアを行うことが主として予定されているといえる。

 このような販売形態を予定している点は、原告商品も同様で、エステ・美容ルートでの販売を企図している(乙9、33)。そして、前記第3の3(1)のとおり、原告は、平成9年5月20日に開催した「新明和リビテック株式会社化粧品代理店大会」において、被告の販売代理店を招待し、原告商品を発表した(乙9)。この会の後には、原告に対して原告商品の注文もあった(甲28)。また、原告は、平成9年7月7日に大阪で、同月8日に東京で、被告商品を取り扱うサロンに対しても原告商品の発表会を行い、この発表会には大阪では27店、42名が、東京では31店、38名が出席し、発表会後には注文もなされた(甲192028)。

() スキンケア用化粧品の構成について

(a) 原告商品は、美容室・エステサロンでの販売ルートのみを念頭に置いたものであり、業務用・店販用併せて16種類のものがある(乙9)。その構成は、クレンジング(4種類)、化粧液(3種類)、スペシャルケア(5種類)、ファンデーション(2種類)、業務用専用(2種類)となっている。

 このような原告化粧品の構成に対しては、それぞれについて、同じ用途・形態の対応する被告化粧品がある(乙10)。例えば、4種のクレンジングを見ると、原告商品では、@ノーマル〜オイリー肌向けのクレンジング・ゼリー、Aノーマル〜敏感肌向けのクレンジング・ローション、Bノーマル〜乾燥肌向けのクレンジング・ミルク、Cフキトリ用化粧水(クリア・ローション)の構成であるが、これと同じ構成が被告化粧品にもある(乙1014)。

 そして、このような原告商品を用いて行われるスキンケアの構成は、被告が平成2年ころまで用いていた「2(クレンジング・フリュイド)+1(ファンデーション)」(場合によっては+スペシャル)の構成に則ったものと認められる(乙283334、証人酒井)。

(b) もっとも、原告商品と被告商品とでは、異なる点もある。すなわち、@化粧液(フリュイド)については、必ずしも各商品が対象とする肌の類型が一致していない、A被告では、平成2年ころから、スキンケアメソッドを、「2+1」から「3+1」の構成に変更しているので、付加された1ステップ(保護のステップと呼ばれる。)用の化粧品については、被告商品には存しても原告商品には存しない、B原告商品のうちの1つには対応する被告商品がない(対応する被告商品が平成4年に廃番になったため)、C化粧品の成分が異なるという点である(乙1012、証人酒井、弁論の全趣旨〔原告1998年2月3日付け準備書面添付の表示成分比較表〕)。

 しかしながら、他社の化粧品の構成を見ると、@資生堂では洗顔・柔軟・保湿・収斂・栄養のステップによる美容法を採用し、Aエスティローダー社では、クレンズ(洗顔)・リペア(修復)・ナリッシュ(栄養)のステップによる美容法を採用し、Bランコム社では、クレンジング(洗顔)・化粧水・美容液・アイトリトメント・デイ&ナイトトリートメントのステップによる美容法を採用し、各社においては、これらの各ステップに対応した構成の化粧品を販売していることが認められる(乙28ないし31)。そして、これらのメーカーの化粧品構成とそれが前提とする美容法は、先に見た被告商品の構成とは異なっている。また、原告が平成7年11月以降に代理店として取り扱っているアクアトナル化粧品について見れば、必ずしもその全体構成は明らかではないが、甲29の4に示されているスキンケアの一例によれば、アクアムース・ローショントニックアージュ・クレームジュールアージュ(夜はクレームニュイアージュ)のコースが示されているが、甲29の3によれば、アクアムースはクレンジングであり、ローショントニックアージュは老化防止用ローションであり、クレームジュールアージュ及びクレームニュイアージュは、いずれも老化防止用クリームであることが認められ、被告のスキンケアの構成との類似性は高くないものと認められる。

 また、証人安藤の証言によれば、原告商品に対しては、代理店から同じタイプの化粧品を売り込まれても困るとの意見が被告に寄せられたことが認められる

(c) このように見ると、原告商品の構成は、平成2年ころの被告商品の構成を基本的に踏襲しているものと評価することが可能であり、前記のような相違点もあるにせよ、他社化粧品と比べると類似性が高いといえる

() エステティックメソッドについて

 エステティックメソッドの行程については、被告側の構成(乙2627)と原告側の構成(乙9)とを比較すると同一であり、さらに顔部分のエステティックメソッドについても、被告側(甲14の2)と原告側(甲13)を比較すると、額部分を除き、同一である。さらに、被告では、リンパドレナージュ手技によって、ひまわりの種子を含むレノバトールによるトリートメントがエステの中核に置かれている(乙2734)が、ひまわりの種子を原料とした化粧品によるトリートメントが中核に置かれている点は原告でも同様である(乙34)。

 このように、原告商品が前提としているエステティックメソッドも、被告のものと類似性が高いといえる(証人長部の証言)

 これに対し原告は、被告のエスティックメソッドも特殊なものであるとはいえないとして、甲12(エステティシャン向けの雑誌「ソワンエステ」の記事)、24(エステティック用語辞典)を挙示するが、甲12と乙27(被告のエスティックメソッドが記載されているパンフレット)を比較すると両者は異なる点も多いことが認められ、証人長部の証言も併せ考えれば、原告の主張は採用できない。

エ 以上に基づいて検討する。

 前記のとおり、他社商品と比べて、原告商品は被告商品と類似性が高いといえるが、被告商品は市場で販売されており、そのスキンケアメソッドやエステティックメソッドも公開されており、また、被告が商品の構成や営業方法について何らかの工業所有権を有しているわけでもないから、販売代理店という関係を離れて見た場合には、原告が被告商品と類似性の高い商品を企画・販売したからといって、直ちに違法とはいえないし、また、そのような商品を被告の販売代理店や取扱サロンに売り込むことも、原告の営業の自由に属する事柄であって、直ちに被告に対する営業妨害を構成するわけではない。

 しかし、前記のような販売代理店としての原告の地位に照らせば、被告商品と類似性の高い原告商品を自ら企画・開発し、被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む行為は、被告に対する直接の利益相反行為であると認めるのが相当である。

 なるほど、被告の販売代理店は、類似商品販売禁止義務を負っておらず、販売代理店が複数のメーカーの商品を取り扱うことも多いが、これは、顧客の多様なニーズに応える必要があるからである(証人秋野及び同長部)。したがって、販売代理店が複数のメーカーの商品を取り扱ったとしても、メーカーと被告が直接的な競合関係に立つことはあっても、被告と販売代理店とが直接的な競合関係に立つことはない。

 しかし、原告は被告の販売代理店という地位にあるにもかかわらず、被告商品と類似性の高い原告商品を自ら企画・開発し、被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込んだのである。このことは、原告の売込みの結果、被告の販売代理店や取扱サロンが原告商品を取り扱う場合には、類似性の高い被告商品の取扱量はそれだけ減少するという関係に立つことを意味する(このことは証人秋野自身も認めるところである。)。すなわち、原告は、被告の販売代理店として活動する一方で、自らが被告と直接的な競合関係に立ち、被告の利益を害する行為を行ったものと解される。そして、前記のとおり、被告の販売代理店は、全国に散在するサロンを管理し、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう努めることが、被告と販売代理店の双方にとって契約上の前提とされているものと考えられる。

 これらからすれば、原告が原告商品を被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む行為は、単に原告が被告商品と類似商品を販売したというにとどまらず、被告の利益を直接侵害する行為であって、被告に対する利益相反行為に当たるというべきである。しかも、原告は、被告の販売代理店やサロンに対して幅広く営業活動を行っているから、利益相反の程度も重大であるといえる。

 したがって、原告のこのような行為は、信義則上、被告に対して、原告との間の販売代理店契約の継続を著しく困難ならしめる事情に当たるというべきである。

 この点について原告は、類似商品販売禁止義務は、原告の営業の自由に対する制約であるから、契約に明示されない限り安易に認めるべきではないと主張する。しかし、上記のとおり、原告の行為は、単なる類似商品販売の域を超え、被告の代理店として活動する一方で自らが原告商品を開発、販売することにより被告と直接的な競合関係に立つことを意味するから、被告に対する利益相反行為といえるのであり、その程度も重大であるから、契約関係の解消を被告に認めたからといって、原告の営業の自由を不当に制約するとはいえない。

 また、原告は、被告の販売代理店や取扱サロンは、もともと原告が開拓した取引先である点を指摘するが、そのような原告の功績は、本件基本契約の締結時において各種の優遇措置(補償措置)を講じることによって、被告との間では清算されたというべきであるから、それらの者を原告が開拓したことを理由に、原告の売り込みについて被告が異議を唱えることができないということはできない。

 さらに原告は、アクアトナル化粧品の代理店となったときには、被告は何ら異議を唱えなかったと主張し、証人秋野の証言でもその事実は認められる。しかし、前記のとおり、アクアトナル化粧品は、被告商品との類似性が高くないから、原告商品を自ら企画・販売する行為と同列に論じることはできない。

(4) 以上より、被告による契約解除は、契約関係を継続することが著しく困難な事情に基づくものということができ、有効なものと認めるのが相当である。したがって被告に本件基本契約の債務不履行は認められない。

2 争点2(被告による不正競争行為の有無)及び争点3(被告による不法行為の有無)について

(1) 本件における原告の行為は、要するに、自社開発の化粧品を被告商品の流通ルートにある販売代理店や取扱サロンに売り込もうとした行為であるが、先にも述べたとおり、このような行為は、販売代理店契約の関係を離れて、一般的な競争関係として見る限り、正当な競争行為であるといえる。しかし他方、被告が原告の行為に対して、自らの顧客と流通ルートを維持するために、販売代理店や取扱サロンに対して原告商品を取り扱わないよう要請するのも、一般的には正当な競争行為であり、ただその要請を行う際に、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する場合には不正競争行為として違法となり、また、販売代理店等に対して不当な圧力をかける行為を行った等の場合も不法行為として違法との評価を受けることがあるというべきである。

 そこで、原告は、甲4及び5の文書を被告が配布したことが、不正競争行為又は不法行為を構成すると主張するので、以下、この点について検討する。

(2) 甲4について

 甲4は、被告から取扱サロンに対して配布された文書であり、その内容は前記第3の3(4)アのとおりであるが、そこでは、被告が原告との取引を停止したこととそれに伴う今後の取引方法の通知がサロンに対してなされているにすぎない。そして、被告による契約解除が有効であることは先に述べたとおりであるから、甲4の文書の内容に虚偽の点はなく、また、他に違法性を基礎付ける要素も認められない。したがって、被告が甲4の文書を配布したことが不正競争行為又は不法行為を構成するとはいえない。

(3) 甲5について

 甲5は、被告から販売代理店に対して配布された文書であり、その内容は、前記第3の3(4)イ記載のとおりである。そして、@原告商品が被告商品と類似していることは前記のとおりであるから、この点の記載について虚偽はなく、A原告商品の販売が被告に対する背信的な行為と評価し得ることも前記のとおりであるから、原告商品の販売が被告に対する営業妨害行為であるとの記載も実質的には虚偽とはいえない。また、B被告による解除は前記のとおり有効であるから、被告が原告に対して被告商品の出荷を停止した旨も虚偽ではない。さらに、C原告は販売代理店に契約締結を半ば強要していると解釈する旨の記載は、必ずしも事実に即しているわけではないとしても、背信的行為を受けた被告が、自己の解釈として、「半ば、強要しているものと解釈いたします」と述べているにすぎず、読み手たる販売代理店(その中には原告から直接に勧誘を受けた者も多い)に対して、原告が真に契約締結を強要しているとの印象を抱かせるとは考えられないから、実質的に見れば、虚偽の事実を告知するものとはいえない。そして、他に甲5の記載内容に違法性を基礎付ける部分も見出せない。

 したがって、甲5の文書の配布が不正競争行為又は不法行為を構成するとは認められない。

(4) 以上によれば、被告は、原告に対し、不正競争防止法又は不法行為による損害賠償責任を負わない。