★ 意匠法3条2項、容易推考性、物品の機能による形状の制限、認定手法

H11. 9.21 東京高裁 H10(行ケ)316 インクリボン付カートリッジ意匠

平成10年(行ケ)第316号 審決取消請求事件

(争点)

他の物品においてすでに知られている形状をその一部に採用した意匠の容易推考性の判断手法

(判旨)

 上記形状は、置物台などを物品とした意匠においてすでに知られていることは否定できないから、インクリボン付カートリッジの意匠を創作する出発点とはなり得るものであるが、現実にこれをインクリボン付カートリッジに適用するに当たっては、置物台などと違って、意匠的要素とは別のその機能への配慮などのために、意匠に関する発想の自由が制限される面のあることは避けられず、その結果、事後的に考えれば、容易であったはずのものが、その時点では、現実には容易ではなかったということも、往々にして生じ得ることである。

(判決文の抜粋)

(1)本件登録意匠の基本的な構成態様ACの四隅を小さい斜状に隅切りしている形状及び具体的な構成態様Eの形状では、筺体の上面において両隅を小さい斜状に隅切りしたのみならず、筺体の下端部、すなわち、インクリボン付カートリッジのリボンと接する側にも両端に小さい斜状に隅切りを設け、しかも、斜面の大きさを、単純に四隅すべてに同じくすることはなく、上端側と下端側とで差を設けているため、正面視あるいは斜視したときに、本件登録意匠の上記形状は、従来の筺体の上面において両隅が小さい斜状に隅切りしたのみの形態との対比において意匠的な特徴を有していることは明らかである。そして、本件登録意匠に係る物品であるインクリボン付カートリッジを離れて見た場合、略直方体形状の物品の四隅と斜めに直線状に切除したものは、審決も挙げる花瓶敷きや置物台に見られるように広く知られた形状であるが、この形状をインクリボン付カートリッジに適用することが容易であったとは、直ちにはいえない。上記形状は、インクリボン付カートリッジの意匠を創作する出発点とはなり得るものであるが、現実にこれをインクリボン付カートリッジに適用するに当たっては、置物台などと違って、意匠的要素とは別のその機能への配慮などのために、意匠に関する発想の自由が制限される面のあることは避けられず、その結果、事後的に考えれば、容易であったはずのものが、その時点では、現実には容易ではなかったということも、往々にして生じ得ることであり、本件はそれに当たると思われる。前述のとおり、本件登録意匠の登録出願前になされた相当数の特許あるいは実用新案の公開公報においてそこに見られるインクリボン付カートリッジは、隅切りがなされていないのではなく、現になされているにもかかわらず、甲第3号証の2及び甲第3号証の3の11という同一人の出願に係る少数の例外を除き、上面においてしかなされていないものばかりであるという事実が、これを裏付けているといえよう。要するに、本件登録意匠の上記意匠的特徴は、当業者にとって意表をつく形状であったものというべきである。

(2) 具体的な構成態様F、J、Kのうちの、筺体の下面部の中央寄り左右対称に設けられた凹部の外側において、中央寄りから両端の斜面部までの間に、最奥部に小さい爪部のある細溝部、次に、奥行きが筐体の厚みの半分の切欠き状となっている矩形状窓部を設けるという形状は、従来の意匠にない独創的なものというべきであって、広く知られた形状等に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものということはできない。また、これらの意匠的特徴を、局部的なものあるいは微細なものとして軽視することはできないというべきである。

 具体的な構成態様Lの、筺体上面左右両隅の斜面際にごく小さな凹状切欠き部を各1個対称状に設けている形状もまた、従来の意匠にない独創的なものというべきであって、広く知られた形状等の結合に基づいて容易に意匠の創作をすることができたものということはできない。これもまた、その意匠的特徴を、局部的なものあるいは微細なものとして軽視することはできないというべきである。

 具体的な構成態様Mのうちの、切欠き状凹部の奥行き中央に左右幅一杯に細幅突条の爪部を配している形状は、従来の意匠にない独創的なものではあるが、局部的なものであるため、本件登録意匠全体に対する意匠的な効果は、さほどのものとはいいがたい。

(3) 以上のとおりであるから、本件登録意匠につき、意匠法3条2項該当事由が存し

たとすることはできず、これと同旨の審決はその限りにおいて正当である。その他審

決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

(コメント)

意匠の審決取消訴訟の判決文を読んだことがないので、勉強の意味で採録した。

判旨においては、公知の形状を当該物品に適用することの困難性を容易推考性の根拠として認定しており、その認定要素として物品の機能により物品形状が制限される点や、出願人、第三者の出願した特許、実用新案公報を容易推考性の認定資料にしている点など、参考になる点が多い。

また、後半では、容易推考性を認定するために、@意匠の一部分の独創性、Aその独創性が意匠全体に及ぼす影響、という二つのステップによって行っていることが明瞭に表れており、参考になる判決である。