★ 特許法70条、プロダクト・バイ・プロセスクレーム、技術的範囲の解釈

H11. 9.30 東京地裁 H9(ワ)8955 酸性糖タンパク質特許

平成九年(ワ)第八九五五号 特許権侵害差止請求事件

(争点)

新規な酸性糖タンパク質に関する物質発明について、特許請求の範囲に記載された「精製することによって得ることができ」という表現(製法)によって特定したクレーム(いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」)がなされているとき、その特許発明の技術的範囲は当該プロセスによって製造された物に限定されるか。

(判旨)

 特許請求の範囲が製造方法によって特定された物であっても、対象とされる物が特許を受けられるものである場合には、特許の対象は飽くまで製造方法によって特定された物であって、特許の対象を当該製造方法によって製造された物に限定して解釈する必然はなく、これと製造方法は異なるが物として同一であるものも含まれると解することができる。

(コメント)

 プロダクト・バイ・プロセスクレームの解釈について、従来どおりの解釈を示した判決である。つまり、「物」が特許を受けられることを前提として、特許請求の範囲にその「物」を製造方法により限定的に記載されていたとしても、当該記載はその「物」を限定するものではなく、単に特定する作用しかない、というものであり、一見して特許法70条の特例的な意味合いを有する。ただし、現在においては、多項性の意味が当時から変わっているので、最近の出願においても同様の解釈がなされるのかどうかは、今後の判例を待つところとなる。

(判旨の抜粋)

第三 当裁判所の判断

争点1(被告遺伝子組換EPOが構成要件二aを充足するか)について

甲第二号証、乙第四号証及び第五号証の一ないし七並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(略)

本件においては、構成要件二aが本件発明に係る酸性糖タンパク質の製造方法を掲げていることから、まず、本件発明に係る酸性糖タンパク質がその製造方法によって得られたものに限定されるかどうかを、検討する。

一般に、特許請求の範囲が製造方法によって特定された物であっても、対象とされる物が特許を受けられるものである場合には、特許の対象は飽くまで製造方法によって特定された物であって、特許の対象を当該製造方法によって製造された物に限定して解釈する必然はなく、これと製造方法は異なるが物として同一であるものも含まれると解することができる。右のように解すべきことは、特許庁の「物質特許制度及び多項性に関する運用基準(昭和五〇年一〇月)」が、特許請求の範囲の記載要領につき、「(1) 化学物質は特定されて記載されていなければならない。化学物質を特定するにあたっては、化合物名又は化学構造式によって表示することを原則とする。化合物名又は化学構造式によって特定することができないときは、物理的又は化学的性質によって特定できる場合に限り、これらの性質によって特定することができる。また、化合物名、化学構造式又は性質のみで十分特定できないときは、更に製造方法を加えることによって特定できる場合に限り、特定手段の一部として製造方法を示してもよい。ただし、製造方法のみによる特定は認めない。」と定めている趣旨にも合致するものである。

本件においては、前記認定のとおり、構成要件二aが本件明細書において「性質」の一つとして記載されていること等に照らしても、本件発明に係る酸性糖タンパク質は、必ずしも構成要件二aに掲げられた製造方法によって得られたものに限定されるものではなく、その製造方法によって特定される物と同一の構造ないし特性を有する限り、構成要件二aを充足するというべきである。