商標法19条2項2号、商標更新登録無効、試作品、流通に置く意思
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H11. 9.22 東京高裁 H11(行ケ)52 カラータッチ商標平成11年(行ケ)第52号審決取消請求事件(平成11年9月1日口頭弁論終結)
(争点)
テスト販売のためにわずか200本を生産されたに過ぎない商品に使用した商標について更新登録を認めることができるか。
(判旨)
(判決文の抜粋)
3 登録された商標は、商標が付された商品についての出所表示機能を有するとともに、当該商品についての品質保障機能や宣伝広告機能をも有するものである以上、当該商品自体も、一般の流通市場において取引の対象となり得るような流通性を有するものでなければならないと解されるところ、前記認定事実によれば、本件商品は、そもそもテスト販売のためにわずか200本が少量生産されたものであり、4色からなるものであっても商品コードが1つしか付されておらず、原告の通常の製品のようにバーコードも設定されていないから、上記のような流通性を認めることは困難である上、その商品ラベルとして、ゲインズ社のために原告が製造販売を継続しているタイヤペイント商品と著しく近似したデザイン及び文章を使用しており、同社の商品と同一のものと受け取られるおそれがあるから、これをそのままの形態で市場に流通させ取引の対象にしようとすることは、ゲインズ社に対する商道徳上も極めて疑問である。
他方、原告は、平成7年以降、ゲインズ社商品と同様のタイヤペイントを本格的に販売しようとする際には、同社に対して事前にその旨の了解を得ており、商品自体も、同社商品及び本件商品と全く異なるデザインを使用して販売され、各色ごとに異なった商品コード及びバーコードが付されているなど、本件商品の場合と異なり、明らかに一般市場での商品としての流通を念頭に置いたものとして生産されている。しかも、原告は、本件商品について、全く宣伝広告活動を行っておらず、従前、直接の取引関係のなかったナニワ社及びサンクリエイティブ社の2社に対してのみこれを販売したものであり、実際に、委託販売のために95本購入したナニワ社は、商品がほとんど売れないためこれを回収廃棄処分としており、無償で配布する景品用として15本購入したサンクリエイティブ社も、これを全く使用していないから、両社においても、本件商品を正規の商品として一般市場の流通に置く意思が希薄であったものといわなければならない。
原告は、新規商品の開発を行う必要上、市場動向を調査するため、しばしば、試験的に小ロットの商品を自社ブランドにて市場で販売し、その売行きや卸売店、小売店の評価を測定することがあり、本件商品もこれに該当すると主張する。
しかし、前示認定のとおり、本件商品は、ゲインズ社のために原告が既に製造販売を継続しているタイヤペイント商品と著しく近似したデザインを使用しており、それ自体が市場動向を調査するためのものとは到底認められないから、上記主張を採用する余地はない。
また、原告は、いったん商品を販売した以上、その販売先からの商品の流通についてはコントロールが不可能であり、審決が、このような商品の流通部分をとらえて試作用かどうかを認定することは許されないと主張する。
しかし、本件商品が、その製造販売の段階から、一般市場での通常の流通を予定していたものでないことは前示認定のとおりであり、審決が、単に販売先からの商品の流通の経路によってその流通性を問題としたものでないことも明らかであるから、原告の主張はその前提において誤りがあり採用できない。
その他の原告の主張は、前示認定事実に照らしていずれも採用することができず、したがって、審決が、「被請求人が本件商標を使用しているとする商品『自動車タイヤ用塗料(タイヤペイント カラータッチ 8
ml)』は、新製品開発若しくは市場動向調査のために試作用としてのみ製造された商品であり、実際に一般の市場において流通されたものとは認め難く、その後、引き続き反復継続して製造販売された事実もない。そうとすれば、本件更新登録の使用説明書に記載された本件商標の使用に係る商品『自動車タイヤ用塗料』は、単に試作用に一回のみ製造されただけの商品でその後反復製造されず、かつ、一般の市場には流通しなかった商品と認められるものである。」(審決書15頁1〜14行)と判断したことに誤りはない。(コメント)
商標更新登録において、商品に流通性があるかどうかが問われた事案である。流通性について、少量生産の事実のみならず、原告の宣伝活動の有無、原告使用の他社製品向け既存商標との類似性、販売先の商品の流通扱いなどを総合判断して流通性がなかったことを導いており、事実認定の面で参考になる。