★ 商標法4条1項8号、同条「他人」の解釈、特許法6条、権利能力のない社団、商標登録無効審判

H11. 9.30 東京高裁 H10(行ケ)380 日本美容医学研究会商標

平成10年(行ケ)第380号 審決取消請求事件

(争点)

権利能力を有しない者は、商標法4条1項8号の「他人」に当たらないのか。

(判旨)

商標法が無効の審判の手続をする能力を権利能力なき社団に与えたのは(商標条77条2項において準用される特許法6条)、無効審判によって守られる類型の利益の範囲においては、権利能力なき社団に対しても法人と同じ保護を与える旨を手続の面から表明したものであるから、権利能力なき社団は、商標法4条1項8号の「他人」に当たると解すべきである。

(コメント)

権利能力のない社団である原告が、自己の名称に類似の商標登録を得た被告に対して、商標法4条1項8号を理由に無効審判を請求した事案である。被告は、原告には権利能力がないから、法律上「人」ではなく、同条「他人」にはあたらないとして争ったが、判旨の述べるとおり、被告(原審の被請求人)の敗訴に終わった。特許法6条の趣旨は、法人ではないものでも現実に社会に登場する以上、独占排他権である特許権に対して、実質的な利害をもつに至る場合があるので、一定の行為能力を認めたものであるとされているが、判旨は本条の趣旨を忠実に踏襲するものとなっている。

(審決の理由)

 審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりであり、要するに、原告は、法人格を有しない団体であって権利能力を有しないので、本件商標の登録を無効とする利益を享受することができないから、商標法4条1項8号の「他人」に当たらず、本件商標の登録を上記規定に該当するとして商標法46条1項1号により無効とすることはできない、としたものである。

(裁判所の判断の抜粋)

1 審決は、法人格を有しない団体には、たといそれが後に述べる「権利能力なき社団」であったとしても、商標法4条1項8号の適用による利益の享受は認められないとの前提で、本件商標の登録を商標法46条1項1号により無効とすることはできないと判断しているが、失当である。

 商標法は、77条2項において特許法6条を準用しており、特許法6条は、「法人でない社団又は財団であつて、代表者又は管理人の定めがあるものは、その名において次に掲げる手続をすることができる。」とし、その3号に「第123条第1項又は第125条の2第1項の審判を請求すること。」を掲げており、同法123条第1項には特許の無効の審判の請求が規定されているから、法人でない社団又は財団で、代表者の定めがあるもの(以下「権利能力なき社団」ということがある。)は、その名において、すなわち当事者として、商標法46条1項の商標登録の無効の審判を請求することができることは明らかである。

 それでは、商標法は何のためにこのようにして権利能力なき社団に対して商標登録の無効の審判を請求する能力を認めたのであろうか。手続上無効の審判によって守られるべきものとされている類型の利益については、権利能力なき社団に対しても権利能力のある社団(法人)と同一の保護を与えることが、その主な目的であったと考える以外に、この問いに答えることはほとんど不可能であり、少なくとも、そのように答えるのが最も合理的な解答というべきである。

 換言すれば、商標法が無効の審判の手続をする能力を権利能力なき社団に与えたのは、無効の審判によって守られる類型の利益の範囲においては、権利能力なき社団に対しても法人と同じ保護を与える旨を、保護を実現すべき手続の面から表明したものと理解する以上に合理的な解釈は、あり得ないのである。

 したがって、権利能力なき社団に対し商標法上どのような保護が与えられるべきかという一般的問題はしばらくおくとして、少なくとも無効の審判により守られるべきだとされている類型の利益については、それを無効の審判の手続で守ろうとする限りにおいては、権利能力なき社団も権利能力ある社団(法人)と同じに扱うべきものと解すべきである。

このように考えた場合、商標登録の無効の審判により守られるべき利益の典型の一つである自己の名称(商標権者から見れば他人の名称)に関し、権利能力なき社団に対しては「他人」としての資格を認めないとの解釈は、権利能力なき社団に対しても無効の審判の手続をすることを認めた出発点との間に、説明することの極めて困難なずれを生じさせるものというべきであり、それを肯定すべき何か特別な根拠が要求されるものというべきである。しかし、そのような根拠を見出すことはほとんど不可能である。