★旧特許法41条、要旨変更概念、禁反言の原則

H11.10.26 東京高裁 H11(行ケ)7 ベルト金具係合用レール実用新案

平成11年(行ケ)第7号 審決取消請求事件

     判    決

  原   告      三菱アルミニウム株式会社

  訴訟代理人弁護士     大  場  正  成

               尾  崎  英  男

               嶋  末  和  秀

  被   告        株式会社 伊原工業

(争点)

 同時係属している侵害訴訟における被告の主張を審決取消訴訟における要旨変更の判断に取り込めるか。

(判旨)

 原告は、本件考案の実用新案権に基づく侵害訴訟における被告の主張について触れ、本件補正が要旨変更になることの裏付けとするべきであると主張するが、補正が要旨変更に当たるか否かは、明細書の記載によって判断すべきであって、被告が侵害訴訟でどのような主張をしたかにはかかわりのないことであるから、仮に被告が侵害訴訟で原告主張のような主張をしたとしても、本件補正が要旨変更に当たるものではないとの上記判断が左右されるものではない。

(判決文の抜粋)

     主    文

 原告の請求を棄却する。

 訴訟費用は原告の負担とする。

(中略)

 3 取消事由2(要旨変更)の当否の検討

原告は、係合穴の形状について、当初明細書の「十字状」の記載を平成4年11月19日付手続補正書による「縦穴と横穴とを直行させた形状」に補正することは、明細書の要旨を変更するものであると主張する。

 (1) そこで、上記補正が明細書の要旨を変更するものであるか検討する。

 甲第2号証の4によれば、当初明細書には、登録請求の範囲に「係合穴の形状を十字状にすることにより、レール本体に対してベルト金具を縦横両方向に係合できるようにした」と記載され、これと同旨の記載が考案の詳細な説明の「課題を解決するための手段」及び「考案の効果」の項にもあることが認められるところ、その技術的意義は、縦穴と横穴とが直交して十字状の係合穴を形成することをもって、ベルト金具を縦横両方向に任意に係合させることができるというものであるから、十字状の係合穴の形状とは、縦穴と横穴とがいずれもその中央部付近で交わるように直交させた形状をいうことは自明のことである。

 (2) 一方、甲第2号証の1、4及び弁論の全趣旨によれば、上記手続補正書により、登録請求の範囲の上記部分に対応する箇所が「係合穴が、縦穴と横穴とを直交させた形状になっていて、同一係合穴に対してベルト金具が縦横両方向に係合可能になっている」と補正されるとともに、実施例の項に「本考案の要旨は、レール本体に設けられる係合穴の形状を、縦穴と横穴とが直交する形状にして、同一係合穴に対してベルト金具を縦横両方向に係合可能にする構成に存するので、上記した各実施例のように、厳格に十字穴のものに限られず、縦穴と横穴とが直交している同一の係合穴に、ベルト金具を縦横両方向に係合させることができれば、係合穴の形状は、十字穴に対して多少変形された形状であっても構わない。」(甲第2号証の1の出願公告公報5欄35〜43行。甲第2号証の4の当初明細書8頁参照)という記載が加入されたものであることが認められる。

 そして、補正後の登録請求の範囲における縦穴と横穴とを直交させた形状という表現は、前記(1)のような補正前の十字状の形状の意味するところを敷衍したものにすぎず、また、十字状の係合穴の技術的意義(作用目的)からすると、補正後の実施例の項の加入記載も、登録請求の範囲を補正するとともに、自明の事項の説明を付加したにすぎないものと認められる。

 よって、補正後の「縦穴と横穴とを直交させた形状」は、当初明細書の「十字状の形状」と同義と認められ、上記補正は明細書の要旨を変更するものではないというべきであり、審決が「『縦穴と横穴とを直交させた形状』とは、『十字状の形状』を単に言い換えたものに相当する。してみると、補正明細書に記載される事項は、要旨を変更するものではなく」と認定判断した点に誤りがない。したがって、取消事由2も理由がない。

 なお、原告の主張中には、本件考案の実用新案権に基づく侵害訴訟である名古屋高裁平成11年()第383号事件における被告(当該訴訟の控訴人(第1審原告))の主張について触れ、本件補正が要旨変更になることの裏付けとする部分があるが、補正が要旨変更に当たるか否かは、明細書の記載によって判断すべきであって、被告が侵害訴訟でどのような主張をしたかにはかかわりのないことであるから、仮に被告が侵害訴訟で原告主張のような主張をしたとしても、本件補正が要旨変更に当たるものではないとの上記判断が左右されるものではない。

 東京高等裁判所第18民事部

     裁判長裁判官   永   井   紀   昭

        裁判官   塩   月   秀   平

        裁判官   市   川   正   巳