Stair to Seven
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日本一の物理学者、大門寺兼智が帰宅すると、家族と従者が玄関に出迎える。
「お帰りなさいませ」声を合わせて全員が頭を下げた。
孫娘が大門寺に駆け寄ったが、彼はその子を睨み付ける。孫娘は泣き出した。
「すみません、お父様」嫁が慌てて娘を抱きかかえながら頭を下げる。
大門寺は表情を変えず、そのまま書斎に入る。
「博士、科学技術庁から、お電話が・・」秘書が後ろから言う。
「あとだ」大門寺は睨み付ける。「出ていけ!」
大きな黒い犬が、書斎の中に座っている。
大門寺は、その犬の前に腰を下ろした。
「おーおー、よちよち、チロ、待っとったかね、ほうか、ほうか。誰も遊んでくれんかったか、可哀想にな、よちよち、おーおー、ほうか、ほうか」
「お父様」ドアを開けて息子の信太郎が入ってくる。「実は、私と須摩子は・・」
「あとだ」大門寺は睨み付ける。「出ていけ!」
大門寺は、再び犬を撫でる。
「いけまちぇんねえ、ノックもしないですか。ねえ、チロよしよし」
チロは、しかたがないので、大門寺の顔をなめる。
そのひとなめが、世界の物理学の発展に貢献しているからだった。
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