亜空間通信
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第九号 いいふりこきのがんべたかり
A君:
あのぉ~、昨日学校で耳に挟んだんですけどぉ、
「いいふりこきのがんべたかり」ってなんのことっすかぁ?
ボク、解らないんっす~。
ワタス:
また、超ローカルな・・・しかし、なんと強烈な響きを持つ言葉でありましょう。
「いいふりこき」 って表現もすごいけど、「がんべたかり」ってのがこれまたすごい。
これほど粗野にして暴力的な北海道弁を他にワタスは知りません。
いいかい、長くなるから一回しか言わないよ。良く聞きなさい。
■「いいふりこき」 とは関西弁でいうところの「ええかっこしい」、東京弁でいえば「かっこマン」、ようするに「見栄っ張り」のことなんだよ。
「かっこつける」という意味の北海道弁には、「あやつける」というのもあるけど、その違いはと言うと、「いいふりこく」 の場合、「実力もないのに実力以上に格好つけようとする」 という含みがあり、そうした邪(よこしま)な行為を真っ向から否定するニュアンスがあるんだよ。
「あやつける」の場合は、「さりげなく、ちょっとだけかっこつける」という意味で、その実力は認めつつも「でも、なんかちょっと気取ってるんでないかい」というニュアンスになる。
どちらも「かっこつける」 という意味では共通ですが、その内容には大きな違いがあり、似て非なる方言であると言えましょう。
■さて、「がんべたかり」 。
このいかにも方言方言した耳慣れぬ言葉「がんべたかり」とは一体なんなんでございましょう。
え~、実は「がんべ」 というのはですね、「かさぶた」のことなんです。
その昔、ストーブのたき付けに使っていた「白樺の樹皮」、あれを道産子たちは「がんび」と呼んでいるのですが、「かさぶた」がそれと形状的に非常によく似ていることから、道産子はいつしか「かさぶた」のことを「がんべ」と呼ぶようになったわけであります(道産子ならこのくらいのことは知っていないといかんべ)。
したがって「がんべたかり」とは「かさぶたたかり」のことであり、「いいふりこきのがんべたかり」と繋がると、「なんぼカッコつけたって、顔(体)中かさぶただらけのみったくなしだべや」 という、いやはやなんともおそろしく粗野な表現となるのです。
■道産子が「あいつはホントいいふりこきだもなあ」 と言った時は、「誰がどう見てもその人物には不似合いな、ええかっこしいぶり」を揶揄しているわけであり、すなわち当世ギャル風に言うと「え~!何それ~!かっこつけすぎ~!許せな~い!」といった塩梅。
そんな周囲の評価をよそに、いつまでも一人「いいふりこいて」いると、やがてその評価に「がんべたかり」が加わることになり、そうなるとこれはもう最後通告、ここまで来るともう誰にも相手にされなくなってしまうのですね。
ちょっとおおげさに言うと、「いいふりこき」 には若干救いの余地があっても、「いいふりこきのがんべたかり」にはいっさい救いというものがない。
「人として最低」 の烙印を押す言葉が「いいふりこきのがんべたかり」なんだな。
A君:
が、がんべたからないよう、気をつけます・・・。