2002.5.31 掲載

近況 報告 2002年 5月 BDGに参加して

川村 英司

お知らせ致しましたように、4月5月とヨーロッパにおりましたので、様子をお知らせいたします。

10日にBremenの飛行場でOcker先生ご夫妻に迎えていただき、翌11日の夕方の汽車でHamburgに向かいました。残念な事にHamburgの駅で下車するときに脹脛を肉離れで痛めてしまい、びっこの毎日で、Hamburgはタクシーでの移動でした。やっと少々のびっこですむようにはなりましたが、不便な毎日です。

今回のHamburgのBDG (Bundesverband Deutscher Gesangspaedagogen / ドイツ連邦声楽教師連盟)の年次総会では講演のテーマが 「 Belcant bis Belting - Stimme und Stil 」 が主題で中々面白いものでした。12日の9時から始まったのですが、僕は医者に行くことになりしましたので午前中の講座は聞けませんでした。

 

12日

 

9:00‐11:00

Moeglichkeiten der Einbindung der Tomatis-Methode in ein gesangs- paedagogisches Konzept

Dozent: Joachim Kunze

 

9:00-10:30と11:00-12:30に

Werkstatt Eutonie

Dozent: Sissel Hoeyem Aune

 

9:00‐12:30

Pop-Ensemble

Dozent: John Lehman, M.F.A

 

9:00-10:30と11:00-12:30

Forum Solfege

Dozent: Herve Laclau

がありましたが、僕は医者で診察の後テーピングでギプスで固められたよりはマシでしたが歩くのに時間とエネルギーが消費されるので、一番近い場所のPop-Ensembleに顔を出しました。Popsのリズムには中々ついて行けませんでした。

午後は14時から開会式とその後にProf. Dr. Peter Duelke のDer singende Mensch - wechselnde Stil und bestaendige Utopien" と題しての講演がありました。

 

16:00-17:30

Werkstatt Gesang: Belcanto (Stimmtypen und Stimmfaecher)

Dozentin: Prof. Irmgard Hartmann-Dressler

16:00-17:30

Werkstatt Gesang: Musical/Belting

Dozent: Neil Semer

がありましたが、Belcanto: Frau Prof. Hartmann-Dressler のほうを聴きました。彼女は昨年急病でキャンセルした先生でした。ドイツでは非常に有名な先生だそうですが、恐らく彼女の門下は歌手としての寿命は短いのではなかろうかと思いました。最初に受けた生徒はかなり馬力で歌っていましたが注意せず、「こんな出し方をしていたら間も無く声を潰すのでは?」とオッカ−先生に聞くと、先生もそう思うとの事でした。レッスンの状況はMDに入っていますので、希望の方はどうぞドイツ語で聞いてください。全体として何故彼女がそんなに有名になったのか、不思議な気がしました。

先生の価値は生徒がどのようになったかですから、先生の力だけではない事は当然ですが、一般的な先生の評価が正しいか、正しくないかはどうして決めたらよいのでしょう。

例外は勿論ありますが、演奏家として寿命が長ければ正しい発声をしていた、寿命が短ければ悪い発声であったかの証明になりますから、生徒も勿論寿命が長くなけばなりません。でもそれを確かめるにはずいぶん時間がかかりますから、先生の正当な、本当の評価は生前には難しいでしょう。

問題は生徒がどのように先生を信頼するかだと思います。勿論一般的な評価が正しい事もありますが、大変間違った評価もあると思います。

 特に日本においては声に対する「美意識」の問題はありますから、良く考えなければならないでしょう。

 生まれたばかりの赤ちゃんがあの小さな身体で大きな声を出して泣き、その声はとても透る声です。おまけに赤ちゃんには未だ腹筋も背筋もありません。腹筋を鍛えると言ってボクサーや声が汚い運動選手のように喉を詰めて、いわゆる腹筋運動をする事は、喉のために害はあっても益はありません。しかしそれを勧めているボイストレーナーが日本にはどれだけ多く居るのでしょう。腹式呼吸にしても同様です。

 あまりに有名な先生の公開講座でいささか納得がいかなかったので、わき道にそれてしまいました。先生を選ぶ事の難しさを痛感しました。


13日

 

9:00-9:45

Singen - die Ursprache? Zur Hirnphysiologie des Gesanges

Dozent: Prof. Dr. med. Eckart Altenmueller

9:45-10:30

Singen - Zusammenhalt von Geist und Leben Wissenschaftliche und kuenstlerische Aspekte

Dozent: Dr. Michael Buettner

11:00-12:30

Werstatt Gesang: Oper

Dozentin: Anna Reynolds

 

初めの講演から押せ押せで時間がどんどん延びてしまいましたが、Reynoldsさんの公開講座はとても素晴らしかったです。前日の公開講座が納得いかなかった為ではないのですが、 Anna Reynolds 先生の公開講座は全く納得のいくものでした。

Piero Fracesco Tosi(1723)やGiovanni Mancini(1774)がBelcantoについて大論文を書いており、Tosiの発言については折に触れて僕も引用させてもらっていますが、「先ず自分自身がある程度以上に歌えなければ、教えられない。」と言うのは真理だと思います。歌手としてのReynoldsさんの良い演奏を聴いた人は多いでしょう。

最初の生徒がGianni Schicchi のLaurettaのアリア "O mio babbino caro" を歌いましたが、破裂音の p の子音を口先でpp が2個重なっているように発音するように、とか、"Leichter zu singen, nicht schwer zu singen" (軽く歌う事、大変そうに、重く歌わない)、「トランポリンに乗っているつもりで足の裏から声が湧き出るような感じで」とか、「ポルタメントは付けない!」、「もしRicardo Muti なら作曲家が書いていないことは一切させませんよ!」と言った具合でした。「頭から背骨が真っ直ぐになっているように。」、「はっきり、明瞭に発音する、よくしゃべること!」、「Kieferはhaengenlassen」(顎は楽に下げておく)、頑張って声を出そうとする生徒に weniger ist mehr" (小さく出す事がより大きくなる、と言う意味)などうなづける事ばかりでした。特に日本人には誤解されない言い方をして講義をされていたように感じましたので、誰か日本に招聘してくれると良いのだがなーと思いました。それも関西でなく関東で!関西で呼ぶと、どういうわけかとても高くなります。この講座もMDにとったつもりですし、大阪音大の月岡教授がヴィデオで録画しておられましたのでダヴィングをお願いしました。

結局1時間半の昼食時間が40分ほどに短縮されてしまいました。夜は会食でしたので、昼は軽く食べました。

 

14:00‐14:45

Nordeuropaeische Gesangliteratur

Dozente: Barbro Marklund, Per-Arne Franssen

同じく

Arbeitskreis Gesanglehrerausbildung

Leitung: Prof. Gerhard Faulstich

があり、Arbeitskreisのほうに出ました。

 

15:00-16:30

Werkstatt Gesang: Alte Musik Einfuehrung:

Prof. Dr. Peter Guelke

同じく

Musikalische und stimmliche Gestaltung frueh- und hochbarocker Gesangsliteratur

Dozentin: Prof. Barbara Schlick

同じく

Werkstatt Gesang: Jazzgesang Solo

Dozentin: Marianne Racine-Granvik

 

がありましたが、Alte Musikの方に出ました。色々装飾をつけて演奏する事で古典歌曲を歌う意味があるようです。ABA形式の歌曲の繰り返しは結構装飾しなければ意味が無いみたいです。中々ためになる講座でした。

 

20:00から Braukeller Groeninger で Die Mittelalterliche Tafel (25ユーロ)と言う会食でしたが、その割にはおいしく無かったです。アルコール抜きで25ユーロのヴァイキングはドイツとしては高いです。

 

 


14日

9:00‐9:45 Belcanto Dozent: Juergen Kesting の講演でした。これも中々良かったです。

10:00‐11:00 Pop‐Ensemble,Praesentation und Vortrag Dozent: John Lehman, M.F.A  聴いている分には面白く楽しいのですが、中々ついてゆけません。僕の頭は硬いですね。

11:30から Preistraegerkonzert で 1:00 に全過程を終わりました。


BDGの年次総会は年によってテーマがあり、講演や公開講座他があり、有意義な3日間が過ごせます。いささか詰め込みで大変ですが、年末にはそれらの報告が一冊にまとめられて出版されます。

 僕の音楽生活に色々プラスになる事が多く、皆さんもプラスに働く事があると思いますので出席を考えられては如何でしょうか?詳細は年末には分かりますので興味を持たれる方は私までお申し出てください。大阪芸大の月岡教授も毎年出席されていますので彼に聞かれるのも良いと思います。