掲載 2005.06.17
今 年 春 の 収 穫 川村 英司
BDG 年次総会 2005 に出席して 4月4日午前10時40分に東京を出発し、15時45分にヴィーン‐シュヴェヒャート空港に着陸しました。出発前に風邪をひき、痰がひどかったので飛行中はマスクをして、殆ど寝て過ごしました。乗って直ぐにビールを飲み、食事にRotweinを飲むととてもよく眠れますので、いつものとおりなのですが、特に良く眠れました。
5日、6日とヴィーンでぼんやり過ごして今日7日にデュッセルドルフに飛び、BDGの年次総会が開催されるエッセンに行ってきました。
まずデュッセルドルフ空港のDB(ドイツ鉄道)のひどさに驚きました。(昨年秋にはとても気持ちよく旅行したのですが。)地下鉄の駅には切符の自動販売機しかなく、エッセンまで8ユーロなので10ユーロの紙幣を入れたところ、切符は出てきましたが、おつりが出てこないのです。駅員は誰もいないので文句を言う事も出来ず、泣き寝入りです。かつてのドイツは全ての面できちっとしていましたが、結構いい加減な国になってしまったようで、とても残念です。若い世代が日本と同様にmoltoアメリカナイズされてしまったのでしょう。
ヴィーン留学時代の友人がエッセンにいるので、その夜は20時からのオーケストラ・コンサートに誘われて出掛けました。曲目はシューマンのヴィオリン・コンツェルトとブラームスの交響曲第1番でした。
先ずすごく立派なホールなので驚きました。シューマンのViolinkonzertは演奏される機会が非常に少ない曲です。非常に難しい事と、狂気、精神錯乱の中で作曲されたので、メニューヒンが「シューマンがこの曲を精神錯乱で作曲したのならば、僕も同様に気が狂いたい」と言ったという逸話が残っているそうです。
高度のテクニックが無ければ(指が良く回らなければ)とても弾こなせない曲と感じました。若くしてヴィーンフィルのコンサートマスターになったキッヒルが弾きました。大変だなー!と言うのが僕の実感です。
エッセンは鉄鋼業のKrupp家で栄えた町ですが、第2次大戦では町の80%がめちゃくちゃに壊されたそうです。すごい工場があったので、仕方がなかったそうです。初代は1787年に生まれた人で、代々当時の軍部と組んで拡大して大財閥になったそうですが、最後の後継者は同性愛者で一応結婚はしたとはいえ、勿論子供は生まれず家系は絶えてしまったそうです。
今日4月8日からコングレスが始まりますが、今回は12時が最初の講座でした。明日は9時から始まりますが、Ocker先生は見えていないので、気楽に遅刻できそうです。何しろOcker先生は結構遅く寝ても、ものすごく早起きですので。今回は助かりますが、お会いできず非常に残念でした。
今回のBDGのテーマは "Lehren heißt Lernen"「教える事は学ぶ事」と言って良いでしょう。我々は先ず身体の仕組みを良く理解して、理論的なことを知り、いかに良い方向に実践していくかと言う事で、自分自身が良く学ばなければ、教える事は不可能だと思います。「良い歌手が必ずしも良い先生ではなく」その逆も言えるのです、勿論ろくに歌えない人が良い先生になることの難しさから、かつてのイタリアの有名な声楽教師トージィが「先生はある程度以上に自分自身が歌えなければいけない!」と本に書いていますし、「ピアノも弾けなければならない。」とも記してあります。大学に勤務していた頃、ひどく無神経な音でピアノを叩いている声楽教師を何度も聞きましたが、そんなピアノ伴奏で生徒が神経を使って表現できるのだろうかと不思議に思いました。僕もかつてはもう少し上手にピアノが弾けたのでレッスンは自分で弾きましたが、ここ10年ほどは伴奏同伴でレッスンに来てもらっています。生徒の微妙な表現意欲を僕の雑な伴奏で阻害したくないのです。今後再びピアノの練習を積極的にしたい望みはあるのですが、身体が中々言う事をきいてくれません。
今回のBDGは4月8日から10日まで、次のような形で開催されました。
最初が Werkstatt 1: Fortbildung: Physiologie -Terminologie
Zusammenhänge von Atem, Kehlkopf, Vokaltrakt und Ihre Benennung im Gesangunterricht
Barnara Pfeffer und Dr. Gerrit Wohlt
次が Werkstatt 2: Bänder, Bälle und Ballons -Syenischer Unterricht für die Muskulatur
Prof. Norma Enns
16:00からVortrag: Lehren heißt Lernen ミ Gesangunterricht im Spannungsfeld zwischen Tradition und Zeitgeist
Prof. Berthold Schmid
18:30から総会 Mitgliederversammlung
20:40までかかりその後やっと全員で、と言っても20ユーロ払った人たちでビュフェ形式の食事会でした。
翌9日は9:00 Warming up
9:15 Vortrag: Wie lernt ein Muskel eine neue Bewegung?
Dr. Thomas Kammer
10:00 Vortrag: Mit allen Sinnen singen Durch Gehirnintegration zu großerer Leichtigkeit beim Singen
Carola Chrisoph
10:45 Vortrag: Physiologie und Klangsinn Ein Balance-Spiel im Gesangsunterricht
Prof. Horst Günter
Günter先生が家の中で転んで急に来られなくなり、急遽対談が入りました。
11:45 Diskussion: Die Umsetzung in der Unterrichtspraxis Gängige Übungsmuster optimieren
Moderation: Annetraud Flitz
14:15 Vortrag: Die Lehrer ミ Schüler ミ Beziehung
Prof. Gerhard Faulstich
15:00 Team - Teaching: Gruppenunterricht
Dr. Michael Büttner
16:00 Vortrag: Naturwissenschaftliche Erkenntnisse als Hilfe in der Gesangsausbildung?
Aus der Arbeit des Studios für Stimmforschung am Institut für Musikermedizin der Musikhochschule Dresden
Prof.Hartmut Zabel, Prof.Dr.Friedmann Pabst, Dr.Dirk Mürber
17:00 Podiumsgespräch: Lebensphasen des Lehrers
Podiumsgäste: Frau Antje Rechtmann, Prof. Helmut Kretschmar
Prof. Hermann Christian Polster
20:00から僕はVilla Hügelで行われたEssen Kammerorchester のMozart‐Konzertを聴きました。ファゴット協奏曲を吹いた25歳の青年はなかなか見事でした。希望でどちらでも選べましたので、Operに行った人が多かったようでしたが。
Villa HügelはKrupp家の別荘でエッセンから離れていたので戦火を免れたそうで、それは素晴らしい建築物です。宮殿と言っても良い造りです。2階がコンサートホールで柱も木材を使っていて彫り物があり、金持ちには非常に良い時代の建造物です。すごい財閥であった事が伺えました。搾取階級が贅を尽くしたものでも、そっくり残って現在我々がその恩恵に預かれるのですから、日本の搾取階級が殆どを「灰」にしてしまったのとは全く違います。勿論紙と木で建築した日本建築、こちらの人が「日本人は焚付けの上で生活している。」と云います。生活習慣の違いですが、不思議な国民性ではないでしょうか。
3日目は9:00 Worming up
9:15 Vortrag: Bel Canto am Broadway
Präsentation eines entwicklungsgerechten Musical-Repertoires für Anfänger und Fortgeschrittene
Prof. Noelle Turner und Prof. Patricia Martin
10:45 Demonstration: Ensemble- und Sololiteratur Neue Musik
Neue Musik für Anfänger und Fortgeschnittene Neue Musik in der Musikschule
Prof. Hanna Aurbacher
12:00 Konzert mit Preisträgern des Bundeswettbewerb Gesang Berlin 2004
13:00 Ende des Kongress
と言うプログラムでした。一度は参加してみたいと思われませんか?結構大変ですが、聞いて見る価値はあると思います。
15日(土)に国立オペラ座(Staatsoper)でWalküreを観ました。かつてB. Nilson, Windgassen, H. Hotterさん達のWagnerを聴いている僕達の年代にはBr殤nhilde, Siegmund, Wotanのイメージがとても強く残っているので、その後は中々満足できないので強いて見に行こうと言う気にならないのですが、とてもよい歌手達だからと勧められたので重い腰をあげて出掛けたわけです。
当日は
Dirigentin Simone Youngその他Walküren 8人と言う配役でした。
Inszenierung Adolf Dresen
Siegmund Christian Franz
Hunding Matti Salminen
Wotan Falk Struckmann
Sieglinde Susan Anthony
Brünnhilde Lisa Gasteen
Fricka Petra Lang
先ず指揮者が女性である事を、彼女が出てきて初めて知りました。ヴィーンのStaatsoperで女性が振る事に驚きました。来シーズンにも結構度々振るようですから、かなり認められている指揮者なのでしょう。振り始めて、指揮者が女性かと一寸ばかりがっかりした自分を恥じました。中々ダイナミックに振って音楽を纏めていました。もう少し"P"を聴かせてくれれば、全く文句はありません。今までに何人かの女性指揮者を聞きましたが、女性特有の良さが出る反面、何となく物足りなさがありました。しかし今回はすっかり女性指揮者を見直しました。時々馬に乗っているように跳ねるのは止めて欲しいと思いましたが、バーンシュタイン以降飛び跳ねる指揮者が多くなったのは、オールド音楽家にとっては「何故?」と言いたいのです。クナッパーツブッシュのように右手だけで全てを表現した指揮者を実際に見て、聴いているので一層そう思うのでしょう。カラヤンやベームを年中聴き、ミトロプーロスその他1950年代後半に多くの指揮者に接する事が出来たのはとても幸せでした。残念ながら仕事とぶつかって、最後のブルーノ・ワルターを妻だけが聴き、僕は友人にチケットを譲らなければならなかったのは、いまだに心残りでした。折角買ってあったのにグラーツでレクイエムを歌わなければならなかったのでした。
話は脱線しましたが、歌手はWotanを歌ったStruckmannはとても良かったです。Hotterさんのイメージが強く残っている僕にとって、高音を歌う時に膝を曲げるのは支えのテクニック上仕方ないのでしょうが、そこまで曲げなくとも自然に支えを深くする事は出来るのではないかと、それがWotanの演技を少し妨げているように思いましたが、声は中々良い状態で、後半少し疲れたようでしたが、破綻なくWotanを歌い終えました。僕にとって新しいWotanの誕生と思いました。カラヤンがFischer=DieskauにWotan(本来Wotanはリリックバリトンの役とWagnerは考えていたようですので。)を歌わせたのとは違った意味で良かったと思います。
SiegmundもかつてはWindgassenを何度も聴いていてHeldentenorの典型のように思っていましたが、Franzのテクニックは中々良かったです。"P"がとても澄んで聴こえました。彼が何歳なのか知りませんが、もう少し喉を大切にすると素晴らしいテノールになるだろうと思いました。
Hundingを歌ったSalminenはすごい大男で非常に役を良くこなしていました。
Brünnhildeを歌ったGasteenは初めてStaatsoperで歌った人でした。オーストラリアで生まれ、オーストラリアで勉強し、ロンドンでも勉強を続けてイギリスでデビューした人です。とても良く歌っていましたが、残念な事に最高音で馬力(stoßen)になり、そのためにdickになりNilsonのように綺麗な音色のまま最高音を伸ばす事が出来ませんでした。どちらかと言えばNilsonの素晴らしさを思い知らされたと言うべきなのでしょう。最高音をもっと喉を楽に開けて(offen)、細く(dünn)、息をもらうように歌えば、響きも、音色も変らずに歌えるはずだと思ったりするのは、声楽教師の悲しさなのでしょう。
同じようにSieglindeを歌ったAnthonyの場合も高い音になると太くなるのが残念でした。60歳前後まで歌うのならば、若い時に頑張って(stoßen)、太く(dick) 歌う事のないようにしなければ、寿命が短くなります。 彼女達が何歳まで歌えるのか見守りたい気持ちでした。しかし久し振りに満足したオペラ鑑賞でした。
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4月23日にはベルリンでGesangwissenschaftliche Tagungがあり丁度良い機会なので参加してきました。
Peter SchreierもVortragをします。10時から30分刻みで17時までVorträgeがあります。
ヴィーンでは図書館通いをしています。今回は1800年代の古い詩集なども探して比較しています。
Fischer=Dieskauが ,,Die Welt des Gesangs" と言う本を出しましたのでエッセンで買いました。
Doblingerにも通っていますが、3,4日後に価値のある古本が来るそうですので楽しみです。
早朝5時起きでベルリンに飛び一日聞いてきましたので様子を書きます。
36. Berliner Gesangswissenschaftliche Tagung 昨2005年4月23日に行われた、36. Berliner Gesangswissenschaftliche Tagungに初めて顔を出してきました。今までいつも案内は頂いていたのですが、時間的に都合がつかず、今回はヨーロッパに滞在中でもあったので、出掛けてきました。場所はCampus Charit MitteのGroßer Hörsaal im Hochhausで、内容は次のとおりです。
10:00 - 0:30 Cornelius Frömmel ( Berlin )
Leben, lieben, sterben -Musik als Teil der Evolution
10:30 - 11:00 Harm K. Schutte ( Groningen )
Klang und Farbe bei Stimmregistern
11:00 - 11:30 Johan Sundberg ( Stockholm )
Gesangstechniken von Oper und Country
11:30 - 12:00 Michael Büttner ( Potsdam )
Auf der Suche nach der effizienten Stimme - Wege und Irrwege
12:00 - 12:30 Renate Faltin ( Berlin )
Prävention von Stimmestörungen während der Gesangsausbildung
13:00 - 14:00 Mittagpause
14:00 - 14:30 Peter Schreier ( Dresden )
Dirigieren und Singen - Ansätze zu neuen Interpretationsmöglichkeiten
14:30 - 15:00 Wolfram Seidner ( Berlin )
,,Und ging heraus . . . "- Untersuchung von Evangelistenstimmen aus Bach's Matthäuspassion
15:00 - 15:30 Jürgen Kersting ( Hamburg ) Der Schrei und der Tod ミ Wie klingt der letzte Seufzer und das Sterben?
15:30 - 16:00 Jürgen Wendddler ( Berlin )
Die Sängerstimme
大体の持ち時間で話は終り、少しずつは伸びましたが、一人30分と言うプログラムの進行には少なからず驚きました。午前の12:30に終わる予定が15分くらい押していましたが、その後直ぐに質疑応答があり、これが30分以上かかったために昼食時間が短くなり忙しいものとなりました。昼食は前もって10ユーロで注文してあったので混乱はなく食べられましたが、10ユーロは少々高いなーと思いました。
午前はSundbergさんの話が、午後はSchreierとSeidnerさんの話が面白かったです。
Sängerformantと言う意味が今なお僕には良く理解できないのですが、一人の歌手でFormantのついた声と、Formantを取り除いた声を同じ騒音の中で歌わせたのを聴きました。Formantが無ければ声が非常に通らなくなるのです。殆ど騒音に消されてしまうのです。オペラなどでマイクを使わなければならない日本人歌手はFormantの乏しい証拠だと感じました。オーケストラに消されないで声が通ってくるのはフォルマントがある声で、無い声だと聴こえなくなってしまうのです。それらをプロジェクターで見せながら、音は録音で聞かせてくれるので、とても分かりやすく、納得のいくことが多かったです。しかしまだ完全にはFormantの意味が分からず、納得できない部分があります。
午後の最初はPeter Schreier氏が指揮をしながらEvangelistを歌う事について話しました。Interpretationの可能性が広がる事など、とても面白い話でした。
次はSeidnerさんのEvangelistが歌うペトロの裏切りの場面の,,und ging heraus ・・・"の部分を10人のテノール歌手で比較しての話も大変興味がありました。それぞれの歌手でこんなにも表現が違い、また時代による表現の流行もあるのかな?と思いました。
音だけはMDで録音しましたので、もう一度ゆっくり時間をかけて聴いてみたいと思っています。
この会には音声科のお医者さんが半分以上なのかなと思いました。僕も先ず医者かと昼食の時に尋ねられましたから。勿論声楽家や声楽教師も多く、BDGのメンバーも結構見えていました。そもそも行われた場所が、かつての東独の大病院のホールですから、音声にかかわるお医者さんが多いわけです。
次回はPotsdamの大学で10月8日に行われます。興味をもたれる方は一度行ってみる事をお勧めします。僕は10月16日にリサイタルを企画していますので、残念ながら出掛けられません。
と言うことでした。外国(先進国)ではお医者さんと学者、声楽家が共同で色々と研究をしています。かつてオッカー先生が、ハンブルグの病院の音声科で協力して色々声、呼吸のことを調べたと話されていましたが、それぞれの分野の人が客観的に話し合うことが日本では特に必要だと思います。
皆さんも遠慮なく意見を述べてください!