大物を求めて全国を釣り歩いているがこの三陸遠征は毎年最も楽しみにしているシリーズである。切り立った断崖絶壁の続く秘境ともいえる景色の中、外洋に面した荒磯で日本記録級の巨アイナメと向き合えるフィールドは全国にもそう例がなく、遠く西日本から遠征するキャスターも多い。
今年は釣友の千葉サーフの竹内氏からお誘いをいただき6月25(土)〜26(日)の日程で遠征することにした。今回のメンバーは私の他、クラブのK副会長、そして千葉サーフの竹内・藤村氏の4人であり関東へ転勤してきたK副会長の歓迎会の意味合いをも兼ねた遠征釣行である。
6月24日(金)午後8時30分に私のグランドハイエースでいつもの集合場所である千葉の幕張PAを出発、東北道経由で片道650キロの道程を4人で運転を交代しながら現地には午前3時半に到着した。
さすがに夜が明けるのが早い。4時前だというのにもう空が白んできている。渡船店で挨拶を済ませさっそく船着場へと向かう。
船長から、週の前半の低気圧通過の影響で少しうねりが残っているようだが、これから日曜にかけてうねりはおさまっていくから大丈夫、との説明を受けひと安心する。
船は湾口に浮かぶ島を右手に見ながら沖へしばらく走ったところにある大きな磯の前で停まりここで2人ずつ磯の左右に分かれて上がるよう指示される。船長によるとこの磯とそのすぐ脇に浮かぶハナレの水道で50センチオーバーのアイナメが釣れているとのことである。
まずは船長の指示どおりハナレとの水道向けに竿をセットし、釣りを開始する。1投目でさっそくK副会長がサラシの中から45センチ級の太いアイナメを抜き上げた。向こうに渡った竹内氏も同型を上げたと連絡が入る。
そしてまたもやK副会長の竿が弓なりに曲がっている。PEラインを使っているため魚の引きがダイレクトに伝わり、リールを巻く手がとても重そうであるが大バリとハリス10号に物を言わせて豪快にゴボウ抜きを敢行する!宙を舞ったのは丸太ん棒のような50センチオーバーのアイナメであった。
これを皮切りに約2時間、左右の磯で入れ食いモード。アイナメの30センチ級が10匹。40センチ級が2匹。45センチ級が1匹、50センチ級が2匹、そしてナメタガレイの47センチが1匹とものすごいペースで魚が釣れるのだが私の方は33センチが一匹だけと完全にカヤの外。「おもろいわ〜」と独り言を言いながら次から次へと巨アイナメを釣りまくるK副会長とは対照的である。しかし、午前9時半頃になってようやく竿先が舞いこみ47センチが釣れてくれホッとする。
昼からは磯替わり。渡船に乗りこみ次なるポイントに向かう。
船は断崖が続く絶景とでもいうべき海岸線を見ながら軽快に航行していく。船長の声にふと目を見やるとなんと断崖の上から竿が出ているではないか。いわゆるクレーン釣りというやつだ。どうみても海面から釣り座まで30メートルはあるだろう。
このあたりはナメタガレイの実績場であり、地元の人は2時間ばかり山の中を歩いてポイントまでやってくるとのこと。話しには聞いていたがそのスケールの大きさに圧倒されてしまった。
| 木下氏とアイナメ | K副会長氏の初日の釣果 | 竹内氏とナメタガレイ |
昼からの釣果は私がアイナメ40センチを1匹。K副会長は40センチを頭に3匹。竹内氏・藤村氏は30センチ級を5〜7匹。午後5時に陸上りしたのであるが皆のクーラーは既に満タン状態である。
宿で一風呂浴びた後は楽しい宴会が待っている。まずはビールで今日の大漁に乾杯し新鮮な魚介類に舌鼓を打つ。船長も一升瓶を抱えてやってきて楽しい釣り談義が弾む中、夜は更けていくのであった。
さて、翌日は午前4時に出船、竹内・藤村氏を湾口に浮かぶ大きな島のポイントで降ろした後、前日(他の3人に比べて)釣れなかった私のリクエストで半島の際奥のポイントに連れて行ってもらうことになった。高さ50メートルは楽にあろうかという断崖絶壁の直下に2つ小磯が並んで浮かんでおり一人ずつ分かれて渡礁し釣り座を構えることにする。2つの磯は小さな水道を挟んでいるだけで互いに声をかけあうことができる距離である。
さっそく二人で4本ずつ竿出しするのだが昨日とうって替わり竿先はウンともスンともしない。今日はハズレたかな…あきらめムードの中、時間だけが過ぎていくのだが…。
午前9時半頃になり潮が動き出したのを合図にアタリが出だした。20メートル程に近投したK副会長の竿に47センチのナメタが!そして私にも足元に投入しておいた竿先が海面に突き刺さらんばかりの大きなアタリで47センチのアイナメを2匹立て続けに釣りあげる。
K副会長は念願のナメタを釣り上げとてもうれしそうだ。
このポイントにはところどころに砂地があるようでK副会長は30センチ級のマコガレイを釣り上げ苦笑している。それからポツリポツリと二人に交互に30〜40センチ前後のアイナメやマコガレイが釣れてきて退屈しない。
そして…時計の針は午前11時30分を回り、さあそろそろ片付けようかという時にクライマックスがやってきた。
K副会長の竿がいい感じに曲がっている。「おおっ。エエ型のアイナメやな」
磯の上に座ってのんびりと取りこみを見物するのだが、様子がどうもおかしい。
もうそろそろゴボウ抜きしてもおかしくないのだが、その気配がまるでないのである。しかも竿は根元から折れんばかりに曲がっていてガクンガクンと大きな節を付けて激しく・そして強く締めこみ出したのである。
魚の動きに耐えられなくなったのか、K副会長は竿先を動かしながら磯の上を縦横無尽に走り出した。
竿を上下左右に動かしてやりとりするその姿は…まるでテレビの釣り番組で離島の超大型尾長グレを掛けた某釣具メーカーのインストラクター氏のよう…と形容すればよいだろうか。
そして磯の後ろの低いところに回りこんだと思った瞬間、K副会長の姿が視界から消えた。
竿先だけが見え隠れする状況がどのくらい続いただろうか。
「ナメタや!」大声が静寂の断崖絶壁に響いた次の瞬間、K副会長が遠目でも超大物とわかるくらい大きなカレイを手にぶら下げて姿を現した。
「どれくらいあるの?」
K副会長はメジャーを当てた後「58センチ位やな」と返してくる。
「ええっつ!そ、そ、それってひょっとしして日本記録とちゃうの?」
「いや、そんなとこまでいかへんのちゃうかな」
K副会長は至ってクールである。釣った本人よりも横で見ていた私の方が焦っている始末である。
二つの小磯を隔てる水道が浅ければ…腰まで海水に浸かってでも駆け寄っていくのだが…。
12時、約束どおりやってきた迎えの渡船に乗りこみ陸へ上ってさっそく検寸を行う。魚を見た全員がそのケタはずれの大きさ、ぶ厚さに言葉を発することができない。固唾を飲んで見守る中、魚体にメジャーを当ててみる。
目盛りの数値は60センチをわずかに超えている。もう一度当ててみる。今度も60センチを下回ることはない…そしてもう一度、念のため「投げ釣り手帳」で再度確認する。現在の日本記録は拓寸60.2センチで間違いない。
「日本記録釣ったデー」。M会長に携帯電話で報告するK副会長。緊張の糸がほぐれたのか…ここでようやく笑顔を見せた。
さて、これからが大変だ。まずは一刻も早く日本記録認定委員の現認を受けなければならない。藤村氏があちこちに電話連絡し仙台で東北協会の日本記録認定委員であるH氏に現認を受けてもらう手はずを整えてくださった。
幸いにしてナメタはまだエラを動かしている。発泡スチロールに海水を張り、エアーポンプを作動させた後、ガムテープで蓋をして車の荷室の最奥に収納する。
魚の縮みを少しでも押さえるため生かしたまま持ちこもうというものである。
渡船店に挨拶を済ませた後、グランドハイエースは仙台を目指して走り出した。ハンドルを握るのはもちろんK副会長である。道中渋滞もなく約3時間で待ち合わせの場所である東北道仙台宮城ICに到着した。
ほどなくH氏が来てくださりさっそく検寸となる。
荷室からナメタを取り出し、H氏が真剣なまなざしでメジャーを当てる。
認定は59.4センチ。残念ながら少し縮んでいたが許容範囲の5%があるので大丈夫だ。
そしてH氏立会いの下、白紙の上に置いた魚の上に全日本サーフ指定のメジャーを当てた写真を撮影する。
「あとは魚拓をきっちりとってください」とおっしゃってくださったH氏にお礼を申し上げてお見送りした後、一路帰路に着く。千葉で竹内氏・藤村氏を降ろした後、PM11:50ようやく横浜のK副会長宅に到着したのだがこの後大変な苦難が待ちうけていた。
二人がかりで魚拓をとろうとするのだがナメタガレイは水分が非常に多く魚体を拭いても拭いても水分が染み出してきてなかなかキレイに魚拓がとれないのだ。魚に紙を当てていくK副会長・そして用紙の端を持つ木下。疲労困憊の中、悪戦苦闘を繰り返しなんとか魚拓が完成したのは真夜中の3時前であった。
ここでビールで乾杯し、眠りにつきたいところだが夜が明けるとお互い仕事が待っている。
私はこれから浜松へ帰らなければならない。K副会長は残った魚の魚拓を徹夜で取るとのこと。襲いかかる睡魔と闘いながら東名を走り抜け浜松に帰着したのは夜もすっかり明けきったAM6:30過ぎであった。
魚拓はM会長経由で連盟に送られ、審議されるとのこと。
無事、その他のカレイの日本記録として認定されることを心よりお祈りする。
タックル(ナメタガレイ)
竿 プロサーフ425BX-T リール パワーエアロ 6000 道糸 PE 5号 ハリス フロロカーボン10号(シーガー) ハリ ビッグサーフ16号 オモリ ジェットテンビン30号 エサ アイナメ マムシ・カメジャコ ナメタガレイ 青イソメ |
釣果
| K副会長氏 ナメタガレイ48〜60.6センチ 2匹 アイナメ 51センチ 3匹 45〜50センチ 2匹 40〜45センチ 3匹 30〜39センチ 6匹 マコガレイ 32センチ 1匹 計 17匹 |
木下氏 アイナメ 46〜47センチ 3匹 40〜42センチ 2匹 30〜38センチ 4匹 マコガレイ 36センチ 1匹 計 10匹 |
| 竹内氏 ナメタガレイ 47センチ 1匹 アイナメ 44センチ 2匹 30〜38センチ10匹 計 13匹 |
藤村氏 アイナメ 40〜45センチ2匹 30〜39センチ7匹 計 9匹 |