宮城県牡鹿半島 T

平成13年2月24〜27日 ばんち


「仙台空港の天気は雪。場合によっては羽田空港に着陸するか、伊丹空港に引き返すこともございますので、予めご了承ください。」
伊丹空港午前8時発の仙台行き飛行機の機中で、大半がスキー客と思われる満員の乗客に向って乗務員は事務的な口調でこう告げた−
前日までの春の陽気とは裏腹に、冬型の気圧配置によって真冬に逆戻り。そして目的地に着くかどうか分からない飛行機。なんとなく、今回の遠征釣行の行く末を暗示しているかのようだ。
「もし羽田着陸なら、東北新幹線で仙台まで行って、それから空港のレンタカー屋へ。初日は移動だけで終わるかも・・・」
今回の同行者である一本釣り師氏(以下、一本氏)と顔を見合わせ、暗い気持ちになりながら、それでも「なるようになるワイ」と、前日までの仕事の疲れもあって眠りについた。

初日
「当機は間もなく仙台空港に着陸します。お座席のベルトをしっかりとお締めください。」
目が覚めたのはそんなアナウンスが聞こえてきた時だった。
「なんとか目的地に着陸できるみたいですね。」
今回の水先案内人役(彼はこのところ、隔週の東北遠征を敢行している)の一本氏もこれを聞いてホッとした様子だ。
空港近くのレンタカー屋で、あらかじめ送っておいた荷物を受け取り、雪の高速道路を慎重に北上する。そして牡鹿の山道を通って遠征前半の釣り場に到着した頃には、予定より1時間遅れ、昼の12時を少し過ぎていた。
車外に出ると激しい横なぐりの雪。北風はかなり強い。気温も相当低く、慌てて防寒着を着込む。
「・・・。」
「水の色はどうかな?」
岸壁からのぞきこむと、底まではっきり見えるくらい、澄みきっている。
「・・・。・・・。」
荒れたあと、港内まで濁っているようなコンディションの時は大釣りが期待できるのだが、逆に澄んでいる時は確率がかなり低いのだ。
いかなる条件であろうとも、来てしまった限りはその時の条件で竿を出すしかない。これが遠征のつらいところである。
「普通はこんな天気の日に釣りなんかせんよなあ・・・」
といいつつ、かじかんだ手をこすりながら、下針にコガネムシ、上針にマムシを付けて港内を中心に投げ分ける。ポイントは風上方向。それにしても目が開けられないくらいのすごい吹雪、まるで耐寒訓練だ。
1時間、2時間、時間だけが過ぎてゆくが全くアタリがない。いつもなら頻繁にアタる小アイナメも全く顔を見せない。昨日まで暖かかったはずなのに、そんなに急に水温が下がるのだろうか? 結局、初日は魚の顔を全く見ないまま納竿の時間を迎えた。
民宿に帰って反省会・・・等はせず、訓練の疲れを風呂につかって癒し、「明日こそは !」という熱い思いを胸に秘めて眠りについた。

2日目
今日は昨日と比べて風が弱く、雪も降っていない。朝6時から、昨日と同じ波止で竿を出す。
「今日こそは!」
気合も餌の元気も十分、ないのはアタリだけ・・・。ピクリともしない竿先は、魚の食い気のなさを代弁している。昼を過ぎても状況は変わらず。
そんな時、震度2くらいの地震で波止全体がグラグラと揺れる。
「地震やなあ。」
一本氏に告げると、気づいてなかったようで?
「えっ、地震?地震ですか?ちょっと揺れるぐらいの地震のあとはカレイが釣れますよ!」
と、うれしげである。
「へぇ〜、そんなもんかいな。」
釣りを続けていると、しばらくして一本氏が何やら重そうにリーリングしている。
「そんな、まさか。」
そして、「よっこらしょ」と抜き上げたのはマコガレイ。36cmほどか。
「カレイ、おるやん。時合やなあ。」
地震で、食い気のなかったカレイに刺激が加わって食欲が出たのか?ともかく、更に気合を入れて打ち返す。丸ボを逃れた一本氏は少しホッとした様子だ。
しかしそのあと、再び波止に静寂が訪れた。
「・・・。」
たまにかかってくるのはヒトデのみ。それ以外の生体反応は全くないのである。
夕方になると気温が急激に下がり出し、加えて風も出てきた。こうなるとまたも耐寒訓練だ。チラホラ雪も降り出した。結局、4時の納竿までアタリなし。2日間ともパーフェクトボウズである。トホホ・・・
前半の釣りは終了。「明日は、なんとか。」気分転換に焼肉をタラフク食って眠りについた。

3日目
渡波港には未明に到着。さぁ、今日からは新しい釣り場で気分一新だ。例のごとく、重い荷物を背負って波止を歩く。
つるっ!
「イテテ・・・」
おもいっきり尻餅をついてしまった。そう、波止はまるでスケート場のように全面凍結状態なのである。
それでもなんとか思い思いの釣り座にたどり着き、急いで竿を継ぐ。満潮の潮止り、あたりはまだ薄暗いが今が午前中の時合のはずである。
ひととおり仕掛けまでセットしておき、餌を刺して次々に投入していく。一本氏もハイピッチの戦闘態勢だ。
30分後、アタリもないまま手の平クラスのイシガレイが掛かってくる。
「時合かあ?」2人の間で色めきたつ(?)
しかし、無情にもしばらくして潮が少しずつ下げ出し、やがて飛び出した。こうなると釣りにならない。一本氏はなおも根掛かりと戦いながら急流を攻めているが、こちらは体力温存のため竿を上げてひと休み。前半の疲れもあってウトウトと、やがて波止にもたれかかって眠りについた。

ビュー、ビューッ!
すごい風の音で目が覚めた。突風とも言える程、北西の風が強く吹き、海面には白波が立ち始めた。
「オイオイ、またか・・・」
気温もぐっと下がって、今日もまたまた耐寒訓練モードだ。
昼を過ぎ、潮は上げ潮に転じたがこの状況では希望が持てない。浅場のカレイポイントでは『荒れ』は致命的である。

午後3時頃、全サのイシガレイ日本記録保持者である東北サーフの菅野氏があたたかいコーヒーを入れたポットを持って陣中見舞いに来てくれた。これはありがたい。
コーヒーを飲みながらしばし歓談。菅野氏とは昨年の全日本カレイ以来だ(実は昨年の11月にもここ渡波でボウズを食らった)。氏曰く、
「いやぁ、来るなら前もって連絡してくれたら良かったのにー、釣れてないよぉ、ここ。」
これを聞いて、2人してガックリ、である。地元キャスターの言葉ほど、説得力のあるものはない。それでもせっかく来たのだから、と波止の上で菅野氏と共に記念撮影。相変わらず強風で白波の立っている海を横目に、釣り談義に花が咲く。
そうこうしているうちに日が完全に西に傾き、それまでの強風が収まって、それと共に海面がまるで鏡のように静まり返った。折りしも満潮の潮止まり。
『何かあるのか?』
ホントにわずかな期待を込めて、餌を交換、祈るような気持ちでポイントに投入しなおす。

そして迎えた午後5時30分。
それまで風以外では微動だにしなかった竿のうち、やや強めに投げておいた竿が、何の前触れもなく一気に舞い込み、竿尻が浮いた。
『来た!』
はやる気持ちを抑え、何事もなかったように元に戻った竿を手に取ってフーッと深呼吸。そして、糸フケを取って大アワセ!
次の瞬間、根掛かりでも大ヒトデでもない重量感が竿全体にのしかかった。グッ、グッと絞り込むような手ごたえはまさしく大型カレイを思わせるものだ。
リーリングしながらも、『カレイの他に海草でも引っ掛かってるんじゃないか?』と思うような重量感にドキドキする。なんせ、ほぼ丸3日間アタリが無かったのである。
一本氏に声をかけてタモ入れをお願いする。確実に寄ってはきているが、まだオモリさえ見えない。
テトラの先でようやくオモリが見え、その先には・・・見たこともない大ガレイが付いている!!一本氏がタイミング良くタモを差し出し、無事大ガレイはその中にー
が、次の瞬間、ア然とした。カレイの重みからか、タモの柄の部分が網の根元から、スポッと抜けたのである。
「あっ!」
反射的に飛び降り、カレイの入ったタモ網をつかんで波止に放り投げた。
「ヨッ、シャアー!」
思わず雄叫びを上げてガッツポーズ!
「やりましたね!」
祝福してくれる一本氏とがっちり握手。そして、波止に横たわる大カレイにメジャーをあてると、何と60cmを超えている。
自分がここで今まで釣ったカレイの最大は32cm、それのほぼ倍の大きさである。これぞスーパーイシガレイ!周りのメンバーがここで50オーバーを釣っている中にあって、ようやく自分にも釣れた!しかも夢の60オーバーだ。
ちょうど太陽も沈み、こみ上げてくる嬉しさと安堵感を感じながら納竿。夜は近くの民宿で、菅野氏を交えて祝杯をあげた。

最終日
前夜遅くまで盛り上がったことと、これまでの疲れもあったが、そこは気力を振り絞って5時起床。
私は波止根元付近のテトラ、一本氏は波止中間付近で最後の勝負に臨む。昨日までとは違って風は弱いし天気もいい。
開始早々、手のひらまでのリリースサイズのイシガレイが連発。しかし、ここまで。潮が引き始めると何も釣れなくなった。一本氏のほうもアタリは皆無とのこと。
そして納竿時間の午後2時までこの状況は続き、4日間の東北遠征にピリオドが打たれた。

今回、単発ながら超大物が出て、大満足の遠征となった。



釣果:
イシガレイ  63.5cm(拓寸)