◇ 頑固者のお嬢さん
「1年半の拒食」
先日 約1年半拒食を続けていたXLサイズのワイルド個体が餌を捕りました。
この個体はあるショップさんがBall pythonの成長した姿を
幼蛇購入のお客様に見て貰おうと,「とにかくXLサイズを!」とのオーダーのもと
輸入された数頭の中の1頭でした。私も今までXLサイズの入荷はかなり目にして来たのですが、
そのどれよりもボリューム感を受けた個体であり、
たまたま居合わせたUSのブリーダーにも「Good female!」と言う言葉を頂くほど見事な雌個体でした。
ちょうど 良いサイズの雌を探していた所でしたので、ワイルドと言う不安はありましたが、
これだけのボリュームがあればゆっくりと取り組めると思い購入を決めたのでした。(2000年 6月)
個体導入から1ヶ月間は環境への順応にあてる事に勤め、
ダニの駆除なども様子を見ながら時間をかけて行いました。
8月の後半、通常 冬季を前に食の上がる頃を見計らい、
給餌を試みたのですが食べるそぶりをまったく見せません。
色々と餌の種類を変えてみたりしましたが
(マウス ラット ヒヨコ サイズの変更 活餌等)
その年は採食する事なく休眠期間に入ってしまいました。
2001年、休眠も明け活動期に入ってからもその状況は変わりません。
9月になってもうすぐ今年の休眠期を迎えてしまうという頃、
たまたま 六本木R(現在は上野に移転)のS店長と
この個体の話しになり
「やっぱり、WCのBall Pythonには*****が有効なんですよね〜」
と云う共通の意見でまとまり。
後々の入手を考え、迷っていた禁断の餌「*****」をいよいよ試すことにしました。
やはり初めは活餌で試す方が良いだろうと、
そのままケージに「ぽいっ」と放ちましたが弱らす事をしなかった為、
ケージ内をぐるぐると走り廻るばかりです。「これではダメだ、弱らさなければ」と思うのですが、
動きが速くケージから取り出す事が出来ません。
そんな動きのなか*****が雌個体が潜むシェルターの内にすーっと入った瞬間です、
自分の頭部ほどの大きさの小さな*****を瞬時に「ズバッ!」と捕らえ、
そして「グルグルッ」と巻きついたのです、
私の所に来ておよそ1年半、これが初めての「捕食の瞬間」でした。
「*****の正体とは」
その正体は「ジャービル」でした、いわゆる砂ネズミです。
結局、このワイルド個体は私の元に来てからの1年半、
出荷時期を考えると、
およそ2年近くを与えた餌(マウス・ラット)を食べた経験の無い生き物として警戒し、
餌としての記憶があったのだろう小型の砂ネズミ"ジャービル"を捕らえたのでした。
人間が順応させようと言う思惑をかわし本能にしたがったのか?
人間(私)の完敗でした。
S店長との話の中で、ラットはどことなく甘い匂いがし、
ジャービルはほこり臭いとの話がありましたが、
確かにラットは脂質のせいか?乳臭いような匂いがします。
しかし、この様な違いだけで他種の餌に対し警戒心を抱き、
これだけの期間拒食し続けるとは‥‥。
また、驚いたことにこの採食の2日後、
ごく小さな糞を排泄し、さらに3日後には脱皮をしたのです。
この糞は捕食した餌のものとは考えにくい為、代謝が高まり、
滞留していた残留物が排泄した物と思われます。
脱皮は時期が重なった為とも思いますが、
逆に脱皮前にも関わらず捕食するとは‥‥。
<レギウス・コメント>今回の長期に渡る対応は
この個体の大きさがなせる行為だったと思いますが、
30年以上も生きる事の出来るBall pythonの生命力を再確認した思いです。
「いったい何が違うのか?」
初めての捕食から1週間、シェルターから顔を出し、
外の様子を伺う行動が見られた為、
深夜の暗い状態での給餌を試みました。
人肌程に暖めたホッパーラットをトングで挟み、
距離をおいてゆらゆらと動かすと明らかに関心を示し、
シェルターから這い出て来て、そう少しでラットに触るのではと思う位の距離で、
舌をチョロチョロと動かします。
いよいよ「頑固者のお嬢さん、陥落か!」と心を躍らせる瞬間です。
・・・が、そこから先の「ズバッ!」が来ません?明らかに
興味を示して近づいては来るのですが、そこから先が・・・。
痺れを切らしてこちらから餌ラットをスーッと近づけますと、
なんとシェルターにクルックルッと戻ってしまいました。
結局この日はその後の進展も無いまま終ったのでした。
3日後、時期的にも早く餌を捕って欲しいとの思いから、
再度 ジャービルを試みるしかないと、
今回は活餌では動きが速く問題もある事から、
初めから絞めた置き餌で試す事にしました。
シェルターの前にソーッと置いて見る、すると辺りの様子を伺い、
顔を近づけたかと思うと、捕食と云う言葉とは程遠い、
ゆっくりとした動きでなんの躊躇もなく呑み込んで行きます。
まるで、のんびり屋のCB個体が食べる様に・・・。
ま、食べ方などこのさい関係はありません、とにかく捕食(採食)?
してくれたのですから。やはり1度採食した事から、
徐々に空腹感に襲われて来ての反応なのでしょうか、
ただこんな自分の頭部ほどの小さい餌を食べた所で、
とても満足できる筈は無いと思い、
今回順調な給餌が進んだ時の為に用意していた"隠し玉"、
倍サイズは有るだろう「別種ジャービル」も試す事にしました。
捕食した餌を飲み込むのを確認しながら、 その"隠し玉"を急ぎ絞め、
暖かさが伝わる新鮮なこの別種のジャービルをゆっくりと差し出しました。
案の定、採食後の興奮もあり、すぐに反応し近づきます・・・近づきますが・・・。
食べません。何故?そのまま3時間程、
放置しましたがシェルターに戻ってしまった『頑固者のお嬢さん』は全く動こうとしもません。
種類が違うとは言え、同じジャービル、いったい何が違うのか?どこが違うと云うんだ!
それともタイミングの問題なのか? この『頑固者のお嬢さん』かなり手強い。
「キーワードは匂い!」
2度目の給餌から1週間、様子を見ているのだが余り動きに変化は見られない。
しかし、お気に入りの餌に対しては反応があるのだから明らかに空腹の筈である。
今までの経過を整理すると、いくつかのキーワードは得る事が出来た。
まず、活餌でも置き餌でも問題はないと云う事、さらに暗がりの中での給餌から、
餌の色やサイズの問題でもないと言う事。
しかし、問題はラットに対する拒絶はともかく、
同じジャービル種に対しても反応に違いがあった事である。
ある程度の長い期間、自然界で生きた者が携える警戒心からなのか、
本能が「記憶にない餌」に危険信号を送る為なのか?
ただ、3回の給餌により明らかに反応が見られる様になった事も確かである。
あとは餌であると言う認識を個体に植え付けてあげるだけなのだが、
やはりキーワードは『匂い』と言う事か‥‥。
4回目の給餌には「キーワード」を確認する為、
これまでとは違った条件での給餌を試みる事にする。
まず、照明は点けたままの明るい状態、
餌はあえてラットのホッパーサイズを使い、トングで挟んでの給餌を試みる。
ただ1つのポイントは絞めたラットを唯一食べるジャービルの床材(糞尿)でまぶし、
その『匂い』を移行させると云う点である。
多少は「匂い」に違和感はあると思うがキーワードの確認には返ってちょうど良い。
シェルターを退かし、初めは個体との距離をおきながら、
"ゆらゆら"餌を振り個体の反応を見る、「頑固者のお嬢さん」は舌を盛んに出し入れし、
餌としての確認する様な仕草を見せたが、自分からは近づく素振りはを見せない。
そこで此方から段々に"ゆらゆら"と近づけてみる、
そして個体の鼻先10cm・・・。「ズバッ!グルグル!ギュゥー!」余りにも突然の衝撃!
まさに『捕食』の文字そのものの迫力!いつも見慣れている光景だが何故か嬉しい・・・。
やはりキーワードは『匂い』と言う事か。
<レギウス・コメント>
今回の捕食(採食)までの長期に渡る取り組みは、
たまたま、個体が状態の良いXLサイズであったからと云えます。
全てにこの様な試みを繰り返し、自発的捕食を待つ事が出来る訳ではありません。
但し「食べない」という理由には多様な要因が隠れており、
食べさせるための方法、条件も多様であると思うのです。
最終的手段の前にはいくつもの方法があると言えるのです。
「最終章」
2000年、6月の購入から数えて約3年、
2003年 7月、長かった「頑固者のお嬢さん」との
長きに渡る戦いにとうとう終止符が打たれました。
例年、私の所では春先の暖かさが感じられる頃になるとまず、
亜成体に動きがみられるようになります。
水を良く飲むようになり、脱皮後2~3週間の内にはその年の給餌が始まるのです。
成体に於いては個体ごとに多少のばらつきはあるものの、
概ね初夏を迎える頃までには同様の流れで採食が始まります。
2003年 5月、「頑固者のお嬢さん」が今年最初の脱皮を終え、
給餌の時期を迎えました、例年の成体の反応時期を考えますと、
少し早い様に思いましたので、
新鮮な水のみの補給で6月は様子を観るだけに留まりました。
7月に入るとシェルターから外を覗う様子が頻繁に観察できた為、
いよいよ給餌を試みる事にしました。
去年すでに「匂いの細工をしたラット」に反応を示していましたので、
今年は匂いの細工をする事も無く通常の冷凍ラットを人肌程度に
暖めただけの給餌を試みる事にしました。
夕方、照明が落ちた薄暗さのなか、
鼻先を覗かしているシェルター開口部に無造作にラットを近づけました・・・。
「ズバッ!」・・・あっけないまでの捕食行動!(笑)
今までの長きに渡る戦いが嘘のような迫力ある捕食振り。
「ふぅ〜、これならもう大丈夫だな」と言う安堵感に浸りました。
其の後も順調に給餌は進み、今までの苦労が嘘のような食欲振りです。
ラットを完全に餌と認識しての事なのか、
飼育環境の慣れなども影響しているのか定かではありませんが、
これで「頑固者のお嬢さん」との長きに渡る戦いに終止符が打てたと云えるでしょう。
「総括」
時間と歳月を掛けての今回のワイルド個体の飼育だった訳ですが、
結果的に色々と学ぶ事が多かったのは事実です、
餌の嗜好や選択・様々な給餌方法・個体ごとのサイクルなど・・・。
今後のBall飼育の上で大変貴重な糧となりました。
Bp・SupplyブリーダーメンバーがUSで得た情報の中に
USブリーダーのこんな言葉の報告があるのですが、
「全ての生物は本来、内在性リズム、行動、生理機能を築き上げているものであって、
ワイルドの成体導入にはこの「体内時計」に合わせた飼育・繁殖を行う事が
とても重要な鍵となるだろう、もしこのような個体を飼育場所の年間サイクルに
合わせようとするならば、数年はかかるかも知れない・・・」
と云うものでした。
この言葉を借りれば、私の「頑固者のお嬢さん」も
長年に渡り築き上げたアフリカで備わった「体内時計」を3年という月日を使い、
ゆっくりと調整していたという事なのでしょうか?
Bp・Supplyでは現在、WC個体導入に際しての、
立ち上げ・捕食行動誘導等の、解決策を何通りか検証中であり、
徐々に良い成果も得ていますが、この「体内時計」の調整という部分では
USの報告等と併せ、1つの検証を終えたと言えるでしょう。
|