『白鳥の湖』(マリインスキー・バレエ)

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2009年11月23日(月・祝)

神奈川県民ホール

 

音楽 :  ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

振付 :  マリウス・プティパ,レフ・イワノフ     改訂振付 : コンスタンチン・セルゲーエフ     台本 : ウラジーミル・ベーギチェフ,ワシーリー・ゲーリツェル

装置 : シモン・ヴィルサラーゼ     衣裳 : ガリーナ・ソロヴィヨーワ

指揮 : パーヴェル・ブベリニコフ     管弦楽 : 東京ニューシティ管弦楽団

オデット/オディール : エカテリーナ・コンダウーロワ     ジークフリート王子 : ダニーラ・コルスンツェフ

王妃 (王子の母) : エレーナ・バジェーノワ     王子の家庭教師 : ソスラン・クラーエフ     道化 : ラファエル・ムーシン

悪魔ロットバルト : イワン・シートニコフ

王子の友人たち : エリザヴェータ・チェプラソワ  マリーヤ・シリンキナ  マクシム・ジュージン

小さな白鳥 : エリザヴェータ・チェプラソワ  ヤナ・セーリナ  ヴァレーリヤ・マルトゥイニュク  エレーナ・ユシコーフスカヤ

大きな白鳥 : ダリア・ヴァスネツォーワ  ユリアナ・チェレシケーヴィチ  アナスタシア・ペトゥシコーワ  リリヤ・リシューク

2羽の白鳥 : ダリア・ヴァスネツォーワ  オクサーナ・スコーリク

スペインの踊り : アナスタシア・ペトゥシコーワ  ヴァレーリヤ・イワーノワ  イスロム・バイムラードフ  カレン・ヨアンニシアン

ナポリの踊り : アンナ・ラヴリネンコ  マクシム・フレプトフ

ハンガリーの踊り : ポリーナ・ラッサーディナ  ボリス・ジュリーロフ

マズルカ : アリサ・ソコロワ  オリガ・ベリク  ナターリア・ドゥゼヴリスカヤ  スヴェトラーナ・シプラトワ  ドミートリー・プィハチョーフ  アレクサンドル・クリーモフ  ニコライ・ナウーモフ  セルゲイ・サリコフ

 

コンダウーロワは背が高く,腕も脚も長いバレリーナ。それは8年前にワガノワの公演で見たときから知っていて,(その後舞台で見る機会には恵まれなかったものの)きっと『白鳥』は向いているであろう,と期待しておりました。
実際に全幕で見た結果,それに加えて「細すぎないから押し出しが強い」という新たな長所を発見しました。女優のような存在感,とでも形容すればいいでしょうか。

オデットは,堂々と優美な白鳥の女王。儚さとか神秘性は薄いのですが,女性らしい情感はたっぷり。自らの運命にジークフリートを引きずり込むファム・ファタール性もたっぷり。
特にグラン・アダージオがすてきでした。コルスンツェフの堅実なサポートのもとコントロールの効いた動きが次々と繰り広げられ,「しっとりと舞う大人なオデット」という風情。見惚れました。

オディールは「ゴージャスな美女」という感じ。魔性とか妖艶とかの装飾ではなく,美しさと華で正面から勝負していて,その華は見事なまでに大輪なのでありました。
大型ダンサーの宿命である「ちょっと大味?」感はありましたが,技術的安定感は十分。フェッテはダブルを定期的に入れて,一点から動かず。ぐいぐいと舞台に引き込んでくれました。

 

コルスンツェフの王子は,いつでも即位できそうな落ち着いた王子殿下で,マザコン度が低く,メランコリーもなし。しかし,ロマンチックな趣はあって・・・運命の人との出会いを待っている青年という感じでしょうか? 出会いのドラマ性は薄いのですが,オデットの身の上をそのまま受け入れる度量がある感じなのが好ましく。

踊りはもちろん上手でした。
いつ見ても感心してしまうのが,彼の手の動き。ほんとにエレガントですよね〜。あれだけ大きくて目立つのに,常に外れることのない「王子の手」であるのはすばらしいことだと思います。

 

ロットバルトは,たぶん初見のイワン・シートニコフ。05年入団とのことですので,若いのですよね。
いかにも「若いダンサーが踊るロットバルト」で,舞台上を元気よく跳び回るので見応えがありましたが,「大物」感は不足しておりました。

道化のムーシンも,初めて見る若いダンサー。(06年にバレエ学校卒業)
キャラクテール専門のテクニシャンではなく,「比較的小柄で愛嬌もあるから,まずは道化にキャスティング」で将来はノーブルなソリスト役に移行するダンサーなのかなー,と推測したのですが・・・違うかな?

王妃は,いつもどおりバジェーノワで,いつもどおり美しかったです。

1幕のパ・ド・トロワでは,ジューシンがよいと思いました。3年前にもこの踊りで見ていて,(同役を踊った)シクリャーロフより上手だと思った記憶があったのですが,今回はさらに印象的。柔らかくてきれいな踊りでした。
女性2人は,「派手に踊りすぎ」ではないかなー?

で,「派手に踊りすぎ」は,ワルツを踊るコール・ドの女性たちにも共通の問題のようで・・・かつてのたおやかで淑やかだった「キーロフのコール・ド」はどこに行ってしまったのでしょうか・・・?
中で前列の1人,王子と絡んだりするようなバレリーナの甘やかで優しげな風情に惹かれました。確信は持てないのですが,オストレイコーフスカヤだったような?(プログラムには名前があるのに,主要キャストには入っていなかったことだし)

なお,白鳥たちについては,1幕1場と違って,特に違和感はなく。(なぜだろう?)
揃って背が高くプロポーションの整った美しいバレリーナたちが,白いクラシックチュチュで整然と動く様子には,1幕1場の男性コール・ドの白いタイツ姿の似合い方と並んで,「これぞバレエだ。王道だ」と思わされました。

舞踏会のキャラクター・ダンスでは,スペインの男性2人が印象的。
「いい感じに渋くなってきたな〜」な赤のバイムラードフとそれに遜色ないかっこよさ,黒のヨアンニシアン。どちらを見ればよいのやら・・・状態でした。
女性のほうは,美人なのがイワーノワで,動きがより大きく見えた浅黒い肌のダンサーがペトゥシコーワなのだと思います。(彼女の名前は2羽の白鳥にもあって,踊りのダイナミックさ・大きさが際立っていました)

 

演出振付については,このセルゲーエフ版こそが定番なのだなー,と改めて思いました。
この演出に言いたいことがないわけではないけれど,もっと魅力的な解釈もあるとは思うけれど,でも,この勧善懲悪・ハッピーエンドの版こそが,私にとってのデフォルト。

特に,1幕2場の最初,人間の姿に戻る前の白鳥たちの装置が好きです。とにかくたくさんバレエを見たくて,でもお金がなかった初心者のころ,3階の最後列で見たあの白鳥たちがすばらしく幻想的に見えてうっとりしたことを思い出します。
湖面に映る白鳥たちの影。並んで去った白鳥たちのあと,1羽だけ離れて現れるティアラを着けた白鳥姫。それだけで溢れる詩情。

 

この日の舞台が特に感動的だったわけではありませんが,主役には文句はなく,白いコール・ドは美しく,演出はおなじみの好みのもの。楽しみました。

残念だったのは,(いつものことながら)日本公演のスケジュールとこちらの仕事のスケジュールの相性が最悪だったことです。この年のツアーで見られたのはこの1回だけ。日本初演のラトマンスキー版『イワンの仔馬』は平日公演のみで当然見送り,『眠り』やガラ公演も日程が合わなくて見られず。
なんだって,毎回こんなことになるんでしょ?

(2010.01.05)

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