『白鳥の湖』(法村友井バレエ団)

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2008年10月12日(日)

フェスティバルホール

 

演出振付: 法村牧緒     原振付: プティパ&イワノワ版参照

音楽: ピョートル・チャイコフスキー

指揮: 堤俊作     演奏: 関西フィルハーモニー管弦楽団

衣裳: ノンナ・シェスタコワ(ロシア) 井上恵美子     照明: 大野治 徳田芳美 ((有)アート・オー)     美術: 浦野千香恵(日本ステージ(株))

 

オデット姫/悪魔の娘オディール: 高田万里     ジークフリート王子: 小嶋直也

悪魔ロットバルト: 今村泰典     王妃: 宮本東代子     ピエロ: 秋定信哉

ボルフガンフ: 井口雅之   パ・ド・トロワ: 法村珠里, 室尾由紀子, 奥村康祐      

3羽の白鳥: 杉岡麻魅, 松岡愛, 大森結城     4羽の白鳥: 徳永紀子, 岡村有起, 渡辺桂子, 中尾早織

式典長: 井口雅之     婚約姫: 山森トヨミ, 杉岡麻魅, 法村珠里, 室尾由紀子, 河野浴衣, 辻本絵里名

スペイン: 濱野樹里, 坂田麻由美, 郷原信裕, 新屋滋之     ルスカヤ: 中内綾美    ナポリ: 上田麻子, 吉田旭   チャルダス: 松岡愛, 大野晃弘

 

小嶋直也さんがものすごーく久しぶりに全幕で主演した舞台。
最初に聞いたときには信じられなくて,その後も半信半疑・・・は言い過ぎにしても「なんか現実感がない」気分で当日を迎えました。全幕主演は期待できない状況だと思っていたので,期待してはいけないとずっと自分に言い聞かせてきただけに,「いきなりそう言われても」的な戸惑いが先に立ってしまって・・・。
簡単に言えば「夢みたいだわ〜♪」になりますが,そこまで脳天気な気分ではなく,「なにかの間違いだったらどうしよう」的な馬鹿げた不安と「全幕通して踊って膝は大丈夫なのか」等の合理的な不安を含みつつ・・・。

で,(当然ながら)そんなこちらの気分とは関係なく,尋常に幕が開き・・・(当然ながら)ジークフリートの登場シーンで小嶋さんが登場しました。
ノーブルでエレガント。そして,「主役を踊るのが当然」感の漂うステージ・プレゼンス。私の知っている小嶋直也がそこにいて・・・なんかちょっと拍子抜けしました。

いや,「拍子抜け」という表現は不適切だとは思うのですが・・・なんていうのかなー,今回の主演を特別なイベントとして捉えてしまうこちらの気分に肩透かしを喰らった感じ? 今でも毎月主役を踊っているような熟練感と現役感のある舞台姿で,例えば「久しぶりの全幕で気迫が感じられた」などという形容は絶対あり得ない感じ。なんの気負いも感じさせず,至極自然にジークフリートとして舞台上にいて,踊って演技して表現して・・・それが最後まで続き,カーテンコ−ルでは客演者としての過不足ないマナーで振る舞い・・・今日踊っているのも「日常的なお仕事」にしか見えない感じ?
この人って,正真正銘のプロフェッショナルなんだよな〜,と改めて思ったことでした。

 

さて,そういうふうに小嶋さんが「普通」というか「いつもどおり」だったので(実際には4年半ぶりの主演で「いつもどおり」とは程遠い事態なわけだが),私のほうも,へんなふうに舞い上がることなく,落ち着いて舞台に対することができました。
で,平常心に近い状態で舞台を見た結果としてはですねー,残念ながら今回の『白鳥の湖』は,特に感動的な舞台ではありませんでした。その理由はいくつかあるのですが・・・

まず,オデット/オディールを踊った高田万里さんに特に感心できなかった,ということがあります。
プロポーションがよいし,普通には上手なバレリーナだと思いましたが,「教わったとおりに踊っている」ように見えるというか際立った魅力が感じられないというか・・・。オディールにもオデットにも白鳥あるいは黒鳥らしい個性を見出すことはできませんでした。

でも,この点に関しては,もしかすると小嶋さんの責任もあるのかも?(バレリーナを輝かせることを得意とするとは言いかねる方ですから)
それに,こう言ってはなんですが・・・自分が踊るのに精一杯に見えるパートナーを支え,助ける小嶋さんのサポート姿というのはなかなかに見応えがありました。(頼もしくてすてきだわ〜♪ なんてね) 
したがいまして,高田さんについては誉める気もしませんが,文句を言う気も起きないのでした。

バレエ団全体のレベルにも少々不満を感じました。
このバレエ団の男性ダンサーは,家庭教師役を踊るようなベテランを含めて10人弱しかいないようで,コール・ドを含めてそれ以上の数のゲストが参加しているのですが,そういう方も含めて,容姿も踊りも東京の大バレエ団に比べると見劣りする印象。
白鳥のコール・ドは,それなりに揃えて踊っていて悪くはないのですが,大きな3羽や小さな4羽が弱い。(3羽に以前新国立劇場で踊っていた大森結城さんが出ていましたが,1人だけ見せ方のうまさが際立っていました)

でも,まあ,この辺はある程度予想していましたし,1幕のパ・ド・トロワや3幕のキャラクテール・ダンスでは魅力的なダンサーも発見して楽しみましたし,なにより,コール・ドも含めて舞台上の全員が皆で物語を作り出していたので,不満というほどではありません。

今回の『白鳥』で一番「?」だったのは,演出です。
クレジットは「演出振付:法村牧緒 原振付:プティパ・イワノワ版参照」となっているのですが,プログラムによると基本はマリインスキー劇場版(=セルゲーエフ版)とのこと。実際に見てみると,3幕までは,(細部の振付はともかく)全体の演出はたしかにそっくりでした。
4幕は今回改定したそうで,簡単に言うと「ロットバルトを倒し,結ばれる」ヴァージョンから「ともに湖に身を投げ,死後の世界で結ばれる」ヴァージョンに変わっておりました。なのですが,この改定が「なんだかなー?」なものでして・・・。

いや,「死後結ばれる」という結末を選んだこと自体は別に結構だと思います。そこに至るまでのシーンに説得力があれば。
でも,今回の演出は,「あれ? ブルメイステル版?」な場面になったり(白鳥たちがオデットを連れ去り王子が1人残される),「ん? セルゲーエフ版に戻った?」であったり(王子が肩の上でオデットを掲げて彼女がはばたきを見せるとロットバルトが弱っていく)などの「どっかで見たなー」な場面の連続で,結局,どういう流れで2人が「ともに死のう」という決意に至ったのか不明。というより,互いに心を決めたことさえ演出の中では見えてこないまま,突如身投げしてしまった感じでした。

まあ,演出だけが悪いのではなく,ダンサーの責任もあろうかとは思います。
高田さんについては3幕までと同様の印象ですし,ここまでの各場面で的確な表現を見せてきた小嶋さんも,この幕では段取りに従って演じているようにしか見えませんでしたから。
どういう演出の場合でもこの終幕は難しく,世界に名を響かせるダンサーたちの「説得力ないなー」な舞台もたくさん見たことがありますから,試行錯誤しながら完成したのであろう改定版を1日だけ踊るダンサーとしてはやむを得ないかなー,とも思いますが,うーん,でも・・・彼ならもっとなんとかできたのではないか? とは思ってしまいます。というより,なんとかしてほしかったなぁ。(無念)

 

とはいえ,3幕まではそれはもうすてきなジークフリートで(4幕も,きれいではあったしー),大いに堪能いたしました。
公演直後に詳細に(=だらだらぐだぐだと)書いたレポはこちらで,興味のある方はそちらをご覧いただくとして,なるべくとりまとめて書きますが・・・。

道化や家庭教師や宮廷の人々に対しては穏やかに対しながら威厳があり,王妃と接する姿も大人の落ち着きがありました。あまりに落ち着き払いすぎていて,ジークフリートらしいモラトリアム中の感じがない(満を持して即位の日を迎えるように見える)のは欠点というべきであろうなぁ・・・などと思いながら見ていたのですが,結果としては,それも悪くありませんでした。メランコリックなソロのときだけ突然雰囲気が変わったのが,「表面的には自分の境遇に何の不満もなさそうな人の内面にこんなところがあったとは?」と思わせる効果を生んでいて,ちょっとドラマチックだったので

オデットに対するときも,性急なおぼっちゃん的なところは皆無(←情熱的でないとも)。静かに寄り添い優しく語りかける,品格高い王子でありました。
舞踏会では,花嫁候補に冷たい,冷たい。もー冷たい。(オデットが来ていないかと)顔を覗き込んだりしないのはもちろんですが,花嫁選びを嫌がって顔を背ける気配もなく,平然と1人ひとりの顔を見て礼儀正しく順番に踊り,表情は全く動かない。作法は完璧でありながら,実は無作法の極みの立居振舞。(ここ,大好きなの〜♪♪♪)

そして,黒鳥のパ・ド・ドゥでは,うってかわって,それはもう幸せそう。舞台の外で完全に騙されたという解釈なのでしょうね,踊りながら陥落するのではなく,最初から幸せいっぱいで嬉しくて仕方がないみたいな感じでした。(1幕やこの幕の登場シーンでの「王子のお仕事」的なにこやかさとは全然違う晴れやかな笑顔♪)

真実が明かされてからの芝居も好きです。1幕でもそうだけれど,マザコン度ゼロ。王妃に抱きついたりしないで,手をとって足許に跪いて,別れを告げて去っていく。
今回印象的だったのは,「愛の誓い」のポーズを再現した直後の演技。掲げた右手を下ろしながら,左手で激しく撥ねつけるようなマイムを見せていて,「オディールに愛を誓った」という事実に怒りをぶつけているのかしらん? それとも,「オデットへの愛の誓い」が偽りになったことへの烈しい悔恨? どちらかしら〜? なんて。

踊りは,もちろん見事でした。
1幕のソロや黒鳥パ・ド・ドゥでのヴァリアシオンは抑え目でしたが,その分コントロールがよく効いていて,滑らかで柔らか。1幕での群舞とともに踊るときのステップは軽やかで音楽的(大好き♪♪)。 湖へと(舞台下手奥へと)一直線に向かうグラン・ジュテの連続は,まさに「矢のよう」。サポートは安定し,リフトは磐石。

白眉は,黒鳥パ・ド・ドゥのコーダ。浮遊感あるグラン・ジュテの連続と右足の爪先が常に上方を向いてのマネージュ。跳躍として見事なのはもちろん,それがそのまま感情表現になっているのもすばらしい。ジュテの高さと大きさは王子の高揚を表し,マネージュの鋭さは,オディールを求める気持ちの表現。(この振付はそのためにあったのか! 初めてわかった!! なんて思ってしまいましたよ♪)

 

1幕のパ・ド・トロワは,3人とも初めて見るダンサーでしたが,主役を踊ることもある方たちのようです。室尾由紀子さんは端正で,法村珠里さんは華がありました。そして,奥村康祐さん(地主薫バレエ団)は魅力的ですね〜。背が高くてプロポーションもよく,特に首がすんなりと長い。踊りは「まだ荒い」でしたが,清々しく品もあり,お顔もまずまずハンサム。(ジャニーズ系) 

ロットバルトの今村泰典さんも,同じく主役を踊ることもある方。背が高いし,動きもなかなかダイナミック。3幕ではメイクなどに耽美な感じがあり(美川憲一風というか),よいロットバルトだと思いました。
王妃は宮本東代子さん。さすがの存在感と優美な衣裳捌きでした。

舞踏会のキャラクテールでは,ルースカヤ(キャラクター・シューズの役)を踊っていた中内綾美さんが,エキゾチックな美貌と堂々たる押し出しでたいへん印象的。
それから,ナポリの上田麻子さんが,軽やかな動きとチャーミングな笑顔で,とてもよかったです。

 

このバレエ団の公演には初めて行ったわけですが,動員力に感心しました。(2階席はわかりませんが)あのだだっ広い1階席が後ろのほうまで,端のほうまでほとんど空席なし。1日公演とはいえすばらしいことだと思いましたし,小嶋さんが久々に主演者として登場した舞台がほぼ満席だったというのは,(彼の動員力でないのは承知していますが)そこはかとなく嬉しかったです。

それにしても,どういう事情があったのかはわかりませんが(=なぜ法村圭緒さんが踊らなかったのか謎なのですが),小嶋さんを招聘してくれたこのバレエ団にはどんなに感謝しても感謝し足りない,という気分です。
ほんとうにありがとうっっ!!! (もし機会があったら,また呼んでくださいね〜)

(2008.11.30)

 

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