『ドン・キホーテ』(東京バレエ団)

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2008年8月24日(日)

東京文化会館

 

原作: ミゲル・デ・セルバンテス     原演出・振付: マリウス・プティパ     改訂演出・振付: アレクサンドル・ゴルスキー, ロスチスラフ・ザハーロフ

新演出・振付: ウラジーミル・ワシーリエフ     引用振付: アレクサンドル・ゴールスキー, カシアン・ゴレイゾフスキー

音楽: レオン・ミンクス, アントン・シモーヌ(第1幕 メルセデスの踊り), ヴァレリー・ジェロビンスキー(第1幕 ジプシーの娘の踊り), リッカルド・ドリゴ(第1幕“夢”の場面 ドゥルネシアのヴァリエーション), ユーリ・ゲルバー(第2幕 アントレ), レインゴリド・グリエール(第2幕 エスパーダの踊り), エドゥアルド・ナプラヴニク(第2幕 ファンダンゴ)

舞台美術: ヴィクトル・ヴォリスキー     衣裳: ラファイル・ヴォリスキー

協力: チャイコフスキー記念 東京バレエ学校

指揮: アレクサンドル・ソトニコフ     演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 

キトリ/ドゥルシネア姫: ポリーナ・セミオノワ    バジル: アンドレイ・ウヴァーロフ

ドン・キホーテ: 野辺誠治    サンチョ・パンサ: 氷室友      ガマーシュ: 松下裕次

メルセデス: 井脇幸江     エスパーダ: 後藤晴雄     ロレンツォ: 平野玲

【第1幕】
2人のキトリの友人: 高村順子, 乾友子

闘牛士: 中島周, 長瀬直義, 宮本祐宣, 横内国弘, 梅澤紘貴, 安田峻介, 木下堅司, 柄本武尊

若いジプシーの娘: 奈良春夏

ドリアードの女王: 西村真由美     3人のドリアード: 吉川留衣, 渡辺理恵, 川島麻実子     4人のドリアード: 森志織, 福田ゆかり, 村上美香, 阪井麻美     キューピッド: 佐伯知香

【第2幕】 第1ヴァリエーション: 高村順子     第2ヴァリエーション: 乾友子

 

この公演を見にいった趣旨は,「評判高いウヴァーロフさんのバジルを1回くらいは見とこう。12月のボリショイ日本公演は平日のみで無理だろうからこの機会に」ということでした。
その結果は「おお,なるほどー」と世間の評価に大いに納得。というか,もしかして,王子や貴公子役よりこういうほうが彼の個性に合っているのかも?

踊りはもちろん一級品だし,大柄に似合わぬ? スピード感もあるし,演技は達者だし,意外なほどに庶民的な雰囲気があるし,サポートは上手だし,大人のかっこよさがある一方で可愛げもあるし,ひと頃より痩せたのか? 黒いタイツがよかったのか? 「デカイ」というより「すらっと長身」に見えるし・・・黒髪でないこと以外は非の打ち所のないバジルでありました。

踊りについては,もしかすると簡略化? と思うところもありましたが,大きな怪我をした後だというこちらの先入観のせいかもしれませんし,もともとテクニックがウリのダンサーではなく「ダンスールノーブルの踊るバジル」なのだから,特に不満はありません。
あ,でも,1幕1場のパ・ド・トロワはイマイチだったかも。合わせるためのリハーサルが足りなかったのか? 女性2人との身長差がありすぎるせいなのか? 調和に欠けて見えました。

雰囲気的には「お茶目でありながら大人の余裕のバジル」という感じかな。
「そんなこと言わないで,ねえ,お父さん〜」のゴロニャンに参加するところなんか,身体が大きいだけに違和感が大きくてとても楽しい。一方で,かなーりジコチューなキトリに対しては過剰に反応せず「しょーがないヤツだなー」とのんびり構えた風。こういうバジルもよいですね〜。

ゲスト嫌いの節を枉げて見にいく価値があるバジルが見られて所期の目的は達成。満足しました。

 

セミオノワさんは,元気いっぱい,我儘いっぱいなキトリ。
この役にしては可愛らしさが足りないような気はしましたが,父親から結婚を許す条件を聞くなり,バジルに向かって「お金ですってよ。あんた,何とかして」とけんか腰で要求するところなど,新鮮で面白かったです。

我儘に見えるのは,演出のせいもあるのでしょう。昨年見た上野さんと小出さんからも似たような印象を受けましたから。
ただ,上野さんは「ほんわか」した雰囲気で,小出さんは小柄な容姿で,その辺を「ワガママだからカワイイ」に転化できていたのに対して,セミオノワさんは容姿も雰囲気も堂々としすぎているし,初役で演技もストレートなので,ちょっと「ヤな女」に見えてしまったのかなー,と思います。

踊りは磐石。初役だそうですが,私が見た日が3回目ということもあってでしょうか,不慣れな感じはありませんでした。
1幕もグラン・パ・ド・ドゥも,伸びやかでダイナミックでした。グラン・フェッテは規則的にダブルを入れながら,前半は扇を開いてみせ,後半は両手を腰に。
夢の場面は「姫」というより「女王」みたいでしたが,キトリとは踊り分けて品格を見せて踊っていたと思います。ただし,ドゥルシネアとしては,あまりに日焼けしすぎで・・・夏休みのアルバイトとはいえ,その辺は考えていただきたいものですねえ。

パートナーシップは・・・どうなんでしょう? ウヴァーロフさんが上手に合わせていた感じ? 
片手リフトはとーってもよかったです。まず形が好み。派手に開脚するのは私にはキレイに見えないのです。女性の身体が水平になって,客席に笑顔を見せながらタンバリンを揺らすのが私にとってのデフォルトなので,こちらのパターンを採用してくれて好印象。さらに,長―いし,2人とも姿勢が動かないし,音楽が止まった中タンバリンのシャラシャラという音をたっぷり聞かせてくれて,「そうそう,こういうのが見たかったのよ〜♪」と大いに盛り上がりました。

 

エスパーダの後藤さんは伊達男というより優男なエスパーダ。長身のゲストと同じ舞台の上にいて,「ありゃ,ちっちゃい」感がないのがよかったです。(それにしても,彼はどうしていつでもあの髪型なんですかね? いや,木村さんのように日替りにしろと言っているわけではなく,あのチリチリはエスバーダらしくない,と)

井脇さんは,陽気で大人なメルセデス。明るい笑顔でスペインらしさを感じさせてくれました。ナイフの縫っての踊りが「じゃあ,ちょっと遊んでみましょうか」という雰囲気で,先日見た牧バレエの田中さんと対照的なのも興味深く見ました。(田中さんのせいで,当分この場面にこだわってしまいそうだ)

ドン・キホーテは野辺さんでした。(と書きつつ,未だに顔がわからない) 存在感は薄いのですが,完全に「あっちいっちゃってる」人なのが面白かったです。
サンチョの危機にもぜーんぜん無関心。ガマーシュとその召使が耳元で「あんたの従者が大変だぞ」,「いいのか。ほっといていいのか」と大騒ぎしているのを尻目に,ひたすら自分の世界に没入しておりました。

そうそう,キホーテの芝居の話ではないのですが・・・結婚式に参列するキホーテの髪のトンガリ? を後ろの闘牛士が触ってみて,隣の闘牛士に叱られているのには笑ってしまいました。
こういうふうに,周りの小芝居が多いのも,このバレエ団の『ドンキ』の楽しさなのでしょうねー。もっとダンサーの顔を見分けられると,もっと楽しめるだろうなー。

ガマーシュは松下さんでしたが(彼もお顔が分からない),気取った感じを上手に出していたと思います。ソリストだそうですから,普段はエレガントなダンサーなのかな,もしかして?
それにしても,この版のガマーシュはおいしい役ですねえ。キトリがヴァリアシオンを踊る後ろで,あんなに目立つ高い場所でギターを構えているなんて。

で,実は,ガマーシュ以上に気になったのが召使でした。去年に引き続いて佐々木源蔵さんという方が演じているようなのですが,うーむ,なんだか全然印象が違う。前回は,まめまめしい働き者でして,アルブレヒト伯爵家の従者に推挙したいようだったのですが・・・今年は,ニカっと口を開けて動きはカクカクしていて,頭のネシが1本足りない風。

解釈が変わったのか? 演技派なのか? もしかすると私の記憶違いかもしれませんが・・・いずれにせよ,2回とも「このダンサーは誰なんだろ?」とキャスト表をチェックし,載っていないのでプログラムを開いたら,同じ名前を目にすることになったのでした。次にこのバレエ団の『ドンキ』を見るときには,開演前にプログラムでこの役のキャストを確認する必要がありそうです。・・・つーより,キャスト表に載せたらいいんでないの?

女性ソリストでは,まず高村さん。キトリの友人を歯切れよく踊っていたのですが,結婚式の第1ヴァリエーションには目を瞠りました。動きの一つひとつがクリアですし,跳躍が軽やかで高い! 去年見たキューピッドでも同じ点に感心したのですが,このヴァリエーションも見事。よいダンサーですよね〜♪ キトリもいけそうに思うんだけど,どうかしら〜?

西村さんの森の女王もよかったです。エレガントな風情とゲストといっしょに踊っても「女王」に見える風格と。
(ところで,この版には,森の女王とドルシネアが前後して舞台を斜めに横切っていく振付はないのですね。ちょっと物足りないような)

周りのダンサーについては,女性は普通によく,男性はイマイチ・・・いや,イマニかな。特に,闘牛士の皆さんはイマサンだったと思います。
キャスト表を見ると知らないお名前が多いので,大嶋さんや古川さんの退団などに起因する若返りの過渡期なのだと思いますが・・・うーむ,マント捌きやナイフの舞台への突き立て方などはともかく,隊列くらいは整えていただきたいものです。

 

演出・振付については,昨年見たときと同じ。特によいとは思えません。

街の踊り子=メルセデス→ファンダンゴとエスパーダ→ファンダンゴは初心者的な観客(とメルセデスやエスパーダを踊るダンサーのファン)には親切かもしれませんが,「1回しか行かないが『ドンキ』は何回も見ている」バレエファンにとっては迷惑だと思うなー。例えば・・・高岸さんや木村さんが出てこないのは大御所扱いでよいとしても,中島さんが闘牛士(たぶんジプシーも)でどこにいるんだか・・・? なのはもったいない。エスパーダとファンダンゴを分けて,後藤さんと中島さんと両方見られるほうがよいですよねえ?

2幕仕立ても好きではないです。途中経過(ジプシーと酒場の順序等)はどうでもいいけれど,結婚式の前には休憩をおいて,主役2人はヘアも含めて十分なお召し替えをして,晴れの舞台に臨んでいただきたいものです。(「額にくるりん」のヘアスタイルのままのキトリ@結婚式はヤだなー)

美術についても,昨年と同じ印象。「ロシアに発注すればこうなるであろう」という派手で明るい色遣い。垢抜けているとは言いかねますが,これはこれで結構だと思います。ただ,闘牛士の帽子に「ダンサーの顔を隠すのが目的か?」な飾りがついているのはねえ。見ていても邪魔くさいのでダンサーはさぞ・・・なんて思ってしまいましたが,実際にはそうでもないのかしらん?

(2008.10.11)

 

 

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