『眠れる森の美女』(英国ロイヤル・バレエ団)

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2008年7月13日(日)マチネ

東京文化会館

 

音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

振付: マリウス・プティパ     追加振付: フレデリック・アシュトン  アンソニー・ダウエル  クリストファー・ウィールドン

復元: モニカ・メイソン  クリストファー・ニュートン (ニネット・ド・ヴァロワ,ニコライ・セルゲーエフ版に基づく) 

オリジナル版美術: オリヴァー・メッセル     舞台美術復元: ピータ・ファーマー     照明: マーク・ジョナサン

振付指導: クリストファー・カー

指揮: ワレリー・オブシャニコフ      演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 

オーロラ姫: サラ・ラム     フロリムント王子: ヴァチェスラフ・サモドゥーロフ

国王フロレスタン24世: クリストファー・サウンダーズ     お妃: エリザベス・マクゴリアン     式典長/カタラビュット: ジョシュア・トゥイファ

カラボス: ジリアン・レヴィ     リラの精: ローラ・マカロッチ

澄んだ泉の精: 崔由姫     お付きの騎士: トーマス・ホワイトヘッド

魔法の庭の精: ローレン・カスバートソン     お付きの騎士: フェルナンド・モンターニョ

森の草地の精: ベサニー・キーティング     お付きの騎士: 蔵 健太

歌鳥の精: カロリン・ダプロット     お付きの騎士: セルゲイ・ポルニン

黄金のつる草の精: サマンサ・レイン     お付きの騎士: エルンスト・マイズナー

リラの精のお付きの騎士: 平野 亮一

フランスの王子: ギャリー・エイヴィス     スペインの王子: マーティン・ハーヴェイ     インドの王子: ヨハネス・ステパネク     ロシアの王子: トーマス・ホワイトヘッド

オーロラ姫の友人:
崔由姫, リャーン・コープ, セリーサ・デュアナ, カロリン・ダプロット, エリザベス・ハロッド, エマ・マグワイヤー, ヘレン・クロウフォード, ロマニー・パジャク

伯爵夫人: イザベル・マクミーカン     王子の側近: ジョナサン・ハウエルズ

フロレスタンと姉妹たち: マーティン・ハーヴェイ, ベサニー・キーティング, ヘレン・クロウフォード

長靴を履いた猫と白い猫; リカルド・セルヴェラ, イオーナ・ルーツ

フロリナ王女と青い鳥: 崔由姫, 蔵健太

赤ずきんと狼: エマ・マグワイヤー, ヨハネス・ステパネク

協力: 東京バレエ学校

 

悪くはありませんでしたが,『眠り』見たなー,という充足感は味わえませんでした。

まず,美術が期待と違いました。
実は私がイメージしていたのは,もっと重厚な感じのものだったのです。
というのは・・・私が初めてロイヤルを見たのは87年で,そのときは『マイヤリンク』を見ただけだったのですが,プログラムに載っていた同時上演の『眠り』の美術は「豪奢で重厚」という感じで,「こっちも見たかったわ〜」と思った記憶が。(あとから調べたら,美術担当はデヴィッド・ウォーカー)
で,今回の『眠り』の特徴の一つが美術の復元だと知った瞬間から,どういうわけか,それを見るつもりになってしまったのでした。

ところが,『シルヴィア』の会場でプログラムを買ったところ,どうも違うような気が。で,見てみたら,全然違いました。
そりゃそうですよね。今回の美術は60年前の復元で,20年前の復元ではないわけです。勘違いした私が悪い。バレエ団は全然悪くない。NBSのせいでもない。全面的に私の責任。
・・・ではあるのですが,期待していたものと違っていたのは事実ですので,少なからず落胆しました。(すみませんです)

実際には,今回の美術は,ふんわり〜と優しいパステルカラーの洪水でした。
たいそう上品な色遣いですし,王族や貴族たちの衣装の布地は凝った美しさのものが使われていますし,チュチュの細部の飾りもさりげなく豪華で,「さすがロイヤル」なのですが・・・3階席から全体を見ていると,主役やソリストが周囲から浮き出してこないという感じも。

次に,2幕と3幕の間に休憩がないせいか,間奏曲が演奏されなかったせいか,全体にコンパクトで短かったような。
特に「この場面をカットした」とか「ここが短かった」というわけではないのですが,3時間程度で舞台が終わってしまうと,『眠り』の魅力の一つである「ゆったりした時間をすごした」感覚が味わえないのですよねえ。もっとだらだらと冗長にやっていただかないと・・・。(という意見は少数派ではありましょうが)

そして,肝心のダンサーたちが今一つ。
主役の二人は,決して悪くはないのですが・・・いや,よかったのですが・・・もうちょっと「キラキラ」してほしいな〜,という感じがありましたし,リラを始めとする妖精たちの踊りが物足りない。コール・ド・バレエは,(予想はしていたけれど)予想を上回って(いや,下回って?)揃っていないし,一人ひとりの踊りもきれいとは思えない。

『眠れる森の美女』というのは,ストーリーに感動したり登場人物に感情移入したりする種類の作品ではなく,ゆったりと客席に腰を落ち着けて,眼前に差し出される舞台を受身で楽しむバレエであるだけに,「きれいだな〜」や「うまいな〜」な要素が少な目なのは,少々キツイものがありました。

 

ラムは,1幕で1曲だけ「元気よすぎ」があってぎょっとしましたが(友人たちの踊りなどのあとで登場する場面),それ以外は丁寧で繊細な踊り。白い肌にブロンドで華奢という「姫」向きの容姿でもあり,とてもよかったです。

1幕は,16歳にしては色香がありすぎで「どう見てもハタチは過ぎてるよね」という感じでしたが,王子たちへの挨拶や花の扱いがお淑やかで,奥ゆかしいお嬢様の感じ。
技術的にも安定していて音楽的な踊り。ポーズもきれい。バランスはそんなに得意ではないようで長くはありませんでしたが,アン・オー@ロイヤルのデフォルトもそつなく見せていました。

幻影は,神秘的な感じがして,すばらしかったです〜♪
『シルヴィア』を見たときに,いかにも「森の中のニンフ」だと感じたのですが,この場面ではそういう個性がぴったりとはまったのでしょう。「透き通った存在」とでも言えばいいのかしらん? 生身のバレリーナではなく,まさに幻影がそこにいる感じ。
うっとり〜,と見惚れました。

3幕は,透明感がありすぎると言えばよいのかな? 「ふんわり〜」とした幸福感があるともっといいのになぁ,という気はしましたし,「あら,腕は長くないのね」という発見もしてしまいましたが,結婚式らしく晴れやか。
ソロは上手だしきれいだし,サモドゥーロフとのパートナーシップがよいのでしょうね,二人で踊る部分はさらに。サポートされながらのピルエットが音楽とぴったり合っているというのは,ソロでのピルエットより珍しく思え,だから決まれば効果はいっそう。気持ちいいな〜,と思いました。

ただ・・・華奢なのが災いするのかしらん? それとも個性の問題なのかしらん? 登場しただけで会場が拍手してしまうような華だけはありませんでした。
『シルヴィア』を見てそれは予想していたのですが,実際に見てみたら,オーロラを踊る上では,これはやはり瑕になるのだとわかり・・・それだけが残念でした。(難しい役ですねえ)

 

サモドゥーロフは,エレガントな仕種とマナーがまさに王子で「そうそう,こうでなくちゃ♪」なのですが,容姿的に華が足りないのが・・・。(そもそも「ほっそりとした美男というより小柄でチャーミング」タイプだったのが,髪が後退し始めて,「分別ありげなおっさん」風になっていた)
踊りは,もっとテクニシャンだったような気がするのですが,うーむ,あんなもんでしたかね? いや,「あんなもん」呼ばわりは失礼だな。柔らかくてきれいなのですが,期待ほどではなかったというか。

プロローグの妖精たちの中では,カスバートソン@魔法の庭の精 がよかったです。リラの精を含めて6人の妖精で同じ動きをするところで,「この人が伸びやかできれい」と思ってオペラグラスで見てみたら彼女でした。
ソリスト〜コール・ドのバレリーナの中にプリンシパルが一人いたわけですから,そうでなくては困るとも言えましょうが,とにかく,目を引く優美な上半身でした。

3幕では,赤頭巾と狼が,かっこいい狼のかぶりものとユーモアとシャープが共存した振付を含めて,非常に楽しめました。
青い鳥のパ・ド・ドゥもよかったです。崔由姫は,(1幕の妖精を含めて)『シルヴィア』を見て期待していたほど際立った魅力は感じられませんでしたが,愛らしく色気もあり上手。蔵健太も,エレガントでないのが惜しいものの,見応えのある跳躍と周りの西洋人よりよっぽど見事なプロポーションで目立っていました。(ユニタード衣装が全然おかしくない)

カラボスのジリアン・レヴィが非常に印象的。
失礼ながらお顔が大きい方で,それはバレリーナとしては短所なのでしょうが,カラボス役については,メイクした顔の凄みが増して見えるし,表情もよくわかるので,そういう要素がプラスに働くのだな〜,男性が踊る場合と共通するインパクトがあるな〜,と感心しました。
なんでこんなに怒っているのか戸惑ってしまうほどの怒りの表出で・・・憤怒と言いたいほど。たいそうな迫力でありました。

なのですが,せっかくの凄みが生きない演出ではありました。リラの精が出てくると,一方的に劣勢に陥り,リラが詰め寄るとへなへなとくず折れてしまうという力のなさ。
リラのマクミーカンが威厳と力のある存在というよりは「ワケ知りで世話好きのお姐さん」風に見えたこともあり,なんでこんなに弱いんだか・・・の説得力に欠けたような。

 

今回の版は,美術だけでなく演出・振付も,当時のニネット・ド・ヴァロワ+ニコライ・セルゲーエフ版を復元し,一部その後の版の中の振付を採用したようです。
王子の名前(フロリモント)を始めとするいろいろな面で,牧阿佐美バレヱ団が上演しているウエストモーランド版と共通する点が多く,「やはりこういうのが英国風の演出の特徴なのだろうなぁ」と再確認しました。(↑に書いたリラとカラボスの力関係の点もそう)

その他の特徴ですが・・・プロローグでは,妖精たちにカヴァリエールと小姓がついており,小姓たちがそれぞれの妖精の贈り物を捧げて登場しておりました。妖精たちの名前も,ウエストモーランド版と同じですし,振付も似ていました。さらに,カラボスがほとんど踊らず,部下がかぶりもののネズミだとところも似ていました。(もちろん,ウエストモーランドのほうがド・ヴァロワを踏襲していると考えられる)

1幕のワルツは男女8人ずつで始まり,あとから女性4人が加わりました。見覚えがないし,なんとなく現代風のフォーメーションに見えましたが,最近の振付を採用した部分でしょうか?
4人の王子は出身国が明示され,それぞれのお国ぶりの衣装で登場しました。(フランスの王子だけ髭がないのは何故なのだろう? そういえば,国王も髭がない。カタラビュットもないし・・・ちとヘンですね) オーロラの踊りは,バランス重視。王子たちと次々に・・・の場のバランスでのアンオーももちろんですが,その後のアティチュード・パンシェの連続も一人で。(ウエストモーランド版と共通)
オーロラの友人の踊りは,見慣れない感じの振付でした。

2幕では,矢投げ競争? はなく,王子と公爵夫人のイミシンなやりとりはありました。(ウエストモーランド版と共通)
一人になった王子はメランコリックなソロを踊るのですが・・・この踊りは,音楽も含めて,初めて見たような気がしました。
幻影の場は,最初は空中にオーロラが現れるところも,全体の振付もダウエル版と似ていたと思うので,もしかすると「追加振付:アンソニー・ダウエル」というのはここのパートなのかもしれませんが・・・自信はないです。

王子とリラが出発してからオーロラの目覚めまでの段取りは,まさに(私のイメージする)英国風でありました。王子はまったく戦わず,リラの精のあとについて順調にオーロラのもとに到着。彼女が眠っているので困惑し,「自分で考えなさい」と言われて接吻することを思いついたことだけが自助努力。
ここで,オーロラの寝台の上の鏡? にカラボスの姿が映っていて,キスの瞬間にその鏡? が割れてカラボスが倒れる(死ぬ?)というのは,話の顛末がわかりやすくてよかったです。

3幕の最初のほうでは,リラは登場せず,当然ヴァリエーションもありませんでした。
宝石たちの踊りは「フロレスタンと姉妹たち」というパ・ド・トロワになっていましたが,こういうのは初めて見たような? (ところで,フロレスタンというのはオーロラのお父さんと同じ名前ですが・・・従弟か何かでしょうかね? そういえば,オーストラリア・バレエのウェルチ版では,フロリムントの弟のフロレスタンというのが登場しましたが?) 男性は最初の音楽の後半でソロを踊り,女性は,(たぶん)金とダイアモンドの曲でヴァリエーションを踊りました。
グラン・パ・ド・ドゥは,もちろんフィッシュ・ダイヴ付き。(この日の二人はひっじょーにスムーズ&派手に決めておりました)

 

ロイヤルだから演劇的なのかと思っていましたが,特にそんなことはありませんでした。マイムが多いほうのオーソドックスな版,という印象。

で・・・おなじみの演目で演出もオーソドックスとなると,それなりレベルの上演では「よかったわ〜♪」とは思えないでしまうのですよね。普段から見ているバレエ団ならおなじみのダンサーの勤務評定のような楽しみ方もできますが,私にとってはそういうカンパニーではありませんし,おまけにかなーり高額のチケット代。

というわけで,不満というほどでもないが満足したとも言いかねる公演だったのでありました。

(2008.07.12)

 

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