『シルヴィア』(英国ロイヤル・バレエ団)

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2008年7月5日(土)マチネ・ソワレ

東京文化会館

 

音楽: レオ・ドリーブ

振付: フレデリック・アシュトン     復元および振付指導: クリストファー・ニュートン  

オリジナル版美術: ロビン&クリストファー・アイアンサイド     舞台美術復元: ピーター・ファーマー     照明: マーク・ジョナサン

指揮: グラハム・ボンド    演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

 

    マチネ   ソワレ
シルヴィア(ディアナのニンフ) サラ・ラム ローレン・カスバートソン
アミンタ(羊飼い) フェデリコ・ボネッリ デヴィッド・マッカテリ
オリオン(邪悪な狩人) ヴァチェスラフ・サモドゥーロフ ギャリー・エイヴィス
エロス(愛の神) ブライアン・マロニー ジョシュア・トゥイファ
ディアナ(狩り,純潔の女神) マーラ・ガレアッツィ ラウラ・モレーラ
シルヴィアのお付き(1幕) 崔由姫  ヘレン・クロウフォード  フランチェスカ・フィルピ  クリステン・マクナリー  小林ひかる  ローラ・マカロッチ  ララ・ターク  サマンサ・レイン
オリオンの女官 ヘレン・クロウフォード  サマンサ・レイン
奴隷 エルンスト・マイズナー  ジョナサン・ワトキンス
山羊 イオーナ・ルーツ  ジェイムズ・ウィルキー 崔由姫  ミハイル・ストイコ
シルヴィアのお付き(3幕) 崔由姫  ヘレン・クロウフォード  フランチェスカ・フィルピ  クリステン・マクナリー  小林ひかる  ローラ・マカロッチ  ララ・ターク  サマンサ・レイン   ヘレン・クロウフォード  フランチェスカ・フィルピ  小林ひかる  ローラ・マカロッチ  ララ・ターク  サマンサ・レイン 
ケレスとイアセイオン セリーナ・デュアナ  エルンスト・マイズナー
ペルセフォネとプルート カロリン・ダブロット  ヨハネス・ステパネク
テレシプコーラとアポロ シンディ・ジョーダン  エリック・アンダーウッド シンディ・ジョーダン  ブライアン・マロニー

 

『シルヴィア』は,トルクワーク・タッソの原作「アミンタ」をもとに,1876年にドリーブの音楽とメラントという方の振付でパリ・オペラ座で初演された作品。ガルニエ宮の?落とし公演だったそうです。
アシュトン版は,ストーリーの大筋は19世紀の初演を踏襲していますが,振付はすべて独自のもののようです。フォンテーンを主演に1952年に初演され,その後振付者自身が改変したり,年を経て3幕のパ・ド・ドゥだけが上演されるようになったり・・・を経て,アシュトン生誕100年を記念してクリストファー・ニュートンにより復元されたとのこと。

『シルヴィア』全幕を見るのは初めてでした。(ノイマイヤー版の映像は見ましたが,あれは全くの別物ですもんね)
たいへん楽しかったですが,なんとも暢気で牧歌的なストーリーで(原作も「牧歌劇」だそうな)感動できるような要素が少なく,だからあまり上演されないのであろうなー,という気もしました。私はこういうのも,心和んで好きですけどー。

振付は,当たり前ですが,アシュトン風で,えらく難しそうでした。
主役はもちろんですが,コール・ドまで込み入った足先の動きが多く,精霊やニンフはともかく,一般農民にあそこまでややこしいことさせんでもよいんでは? と思ったり。

音楽は好きです。
神話世界が題材だからでしょうか,同じドリーブでも『コッペリア』より壮大でドラマチックだし(ノイマイヤー版のDVDを見たときに「ワーグナーっぽい?」と思ったのですが,プログラムの解説を読むと当たっているみたいでちょっと嬉しい),でも,『コッペリア』同様の愛らしさもあって。

美術も基本的には復元なのですよね。中空に現れる「眠るエンディミオンとディアナ」は19世紀のバレエらしくて興味深く,頭の飾りなどに「古いなー」感があるのが面白く(この場合の「古い」は50年前という意味ね),全体としては「さすがロイヤル」の上品な美しさで感心しました。

 

1幕は森の中,エロスの神殿の前の空き地・・・という感じ。

幕開けは,男女6人ずつの精霊たちの踊りから。
水の精と木の精と森の精がいたようですが・・・衣装の色から考えるに,男性6人が水の精で,女性は木と森と3人ずつかな? それとも,先に登場したほうの女性3人の「手をひらひら〜」が水の精か?・・・まあ,よくわかりませんが,夜の闇の中で愛の交歓が行われておりました。

続いて思い悩む風情で羊飼いのアミンタが登場。シルヴィアへの想いを踊ります。(たぶん,以前この場所でその姿を垣間見て一目惚れしたという設定なのであろう)
このソロは,序盤はアラベスク多用でロマンチック,段々と想いが高まり,最後はマネージュで終わるというもの。例えばダウエルが踊れば,さぞすてきだろうなー,という感じでした。

ファンファーレが鳴り響き,舞台後方の回廊にニンフたち(シルヴィアのお付き)が次々と登場。狩から帰ってきたところらしく,4人がかりでかなり大きな獲物(私は熊かと思いましたが・・・ギリシャには熊はいないか?)を運ぶなどして,おお,さすが狩の女神に仕えるニンフたち。勇猛なのですね〜。
最後に回廊の上に現れたのがシルヴィア。アミンタは身を隠し,お付きの8人が舞台中央に現れて踊り出し,途中からシルヴィアも加わって,女戦士らしい溌剌とした踊りが繰り広げられました。

えーと,作品全般にも言えることなのですが,この踊りは(少なくとも現在の英ロイヤルのコール・ドには)難しすぎるようでした。脚を前に蹴り出して直後に後ろに伸ばして・・・の連続など,「伸びきらないうちに次の動き」という感じになってしまう。フォーメーションが単純でない(4×2や2×4が続くのではない)のは魅力的ですが,パはより単純にしたほうが見栄えがよいのではないかなー? それではアシュトンではなくなってしまうかもしれないが・・・などと思いました。

シルヴィアは狩の成功で高揚した気分のまま,エロスを嘲り,お付きもそれに追随し・・・の次は,兜を脱いだシルヴィアが再び踊り出し,途中からお付きも加わりました。この踊りは,かわらしい音楽で,若い乙女らしい伸びやかさを見せる感じのもの。
踊っていないときのシルヴィアとお付きの雰囲気は仲良し女子高生・・・よりはちょっとレズっぽい感じもしたかな。

アミンタは神殿の後ろに隠れて彼女たちを盗み見ているという設定なわけですが,一方,回廊上にはオリオンが現れ,踊るシルヴィアたちを見ていました。(アミンタが発見されたところで消えたような気がする。違ったかな?)

一行に発見され,誰何されたアミンタはシルヴィアに想いを訴えます。盗み見した上に,恐れ入るどころか求愛しだしたアミンタに怒ったシルヴィアは,そもそも愛などというものがこの世にあるのが怪しからん! ということなのでしょうかね,エロス像に弓を向け,像を庇ったアミンタが矢を受けて倒れた・・・らしいです。(そもそもアミンタを狙ったようにも見えた)

シルヴィアは倒れたアミンタに目もくれず,再度エロス像に弓を放とうとした瞬間,あらまー,びっくり,像が動いて弓を構え,いわゆる「エロスの愛の矢」がシルヴィアの胸に突き刺さる。
愛の矢だから生命に別状はないわけで,案じる仲間たちに「大丈夫よ」と答えて一行は姿を消しました。

いや,しかし,あの像には仰天しましたわ。そこまでは微動だにしないから,まさかダンサーが演じているとは思わなんだ。マチネは下手側で横から像を見ていたこともあり,動いた後でもあれが人なのかどうか半信半疑。その後像が後ろに引っ込んでいくのを見るまで,思い悩んでしまいましたよ。
それから,「矢を放つ」と「矢が刺さる」ところの仕掛け? が秀逸。マチネではさっぱりわからなかったのでソワレではかなーり気を付けて見ていたのですが,結局どうなっているのかわかりませんでした。

さて,一人残されたアミンタは神殿まで身を運び,そこで倒れる・・・と奥から農民たちが登場。男女8人ずつだったんじゃないかな? 鋤とか鎌などの作業道具を持参し,(なぜか既に収穫物が入っている)手押し車なども持ち出され,全員で楽しげに踊って去って行きました。(勤勉だから夜明け前から働いている・・・のかなぁ?)

はてな? 誰かがアミンタに気づくのではないのか? この人たちは何のために出てきたのだ? と首を捻っていたら,アミンタがよろよろと前のほうに進み出,一方,神殿の影からはオリオン登場。アミンタを倒して息の根を止め,烈しい憎しみの踊りを披露しました。
この踊りは迫力があってかっこいいのですが,相思相愛のシルヴィアの恋人というわけでもないのに,なんであそこまでアミンタに怒っているのだろう? という基本的な疑問が・・・。シルヴィアが放った矢を受けるなんてうらやましいとか? いや,まさか。

と,上手からシルヴィアが登場。オリオンには気づかないまま,恋を知り思い惑うソロを踊り,その愛しい人を殺してしまったのを悲しみます。(これを見た後ならオリオンが怒りに燃えるのは理解できるんだけどねえ)
ここでオリオンがシルヴィアの前に現れ,アブデラーマン的な強引な求愛行動。(衣装もそういえばアブデラーマン風。オリオンというのはギリシャ人ではないのか?) 拒むシルヴィアを抱き上げてひっさらっていきました。

茂みの後ろに隠れて一部始終を目撃していた農民が仲間に通報。牧童と農民だから知り合いだったのでしょうね,皆が心配してアミンタを取り囲み,その死を嘆いているところに,グレイのつば広帽子とマントに身を包んだヘンテコな人がひょこひょこと踊りながら現れ,魔術? 神通力? でアミンタを蘇らせました。
シルヴィアが拉致されたと知ったアミンタが惑乱する中,例のヘンテコな人が神殿の石段を登り,マントを脱ぐとエロスその人。農民たちとアミンタはその威令を讃え,エロスの示唆によって,アミンタはシルヴィアを追って舞台から駆け去って幕となりました。

このエロスさんの踊りは軽々とした足技でしたが,なんだかとっても笑えるもので・・・でも,場内は粛然としておりました。アミンタを救う手続きも初心者の手品みたいな手法で(白い花を赤く変えて,赤い花から生命を吹き込むと同時に花は白く戻る),私はこれにも笑ったのですが,やはり客席は静まり返っておりまして・・・でもおかしかったよねえ?

 

2幕はオリオンのアジトが舞台。
島の洞窟らしく,そう言われてみれば,装置は確かに洞窟の中に見えるのですが,オリオンとその配下の衣装テイストはアラブ風でありました。(ギリシャ人ではないのか? と再度問うてみる)

オリオン,シルヴィア,二人の女官と二人の奴隷が板付きで登場し,女官たちがシルヴィアにせっせと新しい服やショールや装飾品や・・を勧めるが,シルヴィアは関心を持たない・・・というシーンから話が始まって,うーむ,行動パターンもアブデラーマンですなー。

女官でダメな様子を見てとったアブデラーマン・・・じゃなかったオリオンは,シルヴィアの後ろから一際豪奢な首飾りを着けてやり,そっと抱きしめようとするのですが,もちろんシルヴィアは拒否。エロスの金の矢を大切そうに扱う姿に怒ったオリオンは矢を奪い取ろうとし,荒々しいパ・ド・ドゥに。
大切な思い出の矢を奪われ,逃げようとすれば奴隷が立ちはだかり・・・万事窮して泣き崩れる様子に困惑した?(反省した? 戦法を変えようと思った?)オリオンはシルヴィアに酒を勧めます。

酒を見たシルヴィアは一計を案じた様子。急に打ち解けた態度を見せて,逆にオリオンに酒を勧め,さらに,冒頭に差し出された衣装に着替えるため場を外します。上機嫌のオリオンンは奴隷に踊るよう命じ,そのうちに妖艶なアラビア風衣装に身を包んだシルヴィアが登場。積極的に媚態を見せて踊りながらオリオンに酒を注ぎまくり,奴隷や女官たちも飲み,かつ,踊って,さながら『シェヘラザード』@おとぎ話風,という趣の場に。

面白かったのは,奴隷や女官も楽しく飲み食いしていたことです。オリオンだけでなく彼らにも眠ってもらわないことには,シルヴィアが逃げ出すことができないので,当然の話の運びではあるのですが・・・オリオンがシルヴィアを口説いている後ろで,「姫さんは引き止めてやったし,あとは親分の仕事だぜ」みたいな涼しい顔をしながら果物をつまんだり,杯を空けたりする「奴隷」って・・・さすがは民主制で知られる古代ギリシャですなー。(←違うって)

この場面は,奴隷二人のアクロバティックな踊りもありましたが,いやはやほんとに,シルヴィアって踊りまくる役なのねー,という印象。奴隷たちにリフトされたり,オリオンと踊ったり,妖艶なソロでオリオンを誘い,かなーりのところまでいったり。(床に寝そべったりするので,ふーむ,あの淑女のフォンティーンもこういうの踊ったのかー,と感心)

さて,オリオンたちを酔いつぶしたものの,帰り道がわからないわ,困ったわ・・・なシルヴィアが途方に暮れて座り込むと(あらすじによると,そうではなくて,祈ったらしい),岩の上にエロス登場。
いや,このときのエロスの衣装がですねー,いかにも「ギリシャ神話の神様」風の露出度の高い白いヒラヒラ〜に金色の翼。おまけに聖火を手にしておりまして,いや,もー,笑っちゃうよねー。あの翼はなんなんでしょ。弓を持ってくるならともかく,聖火とはこれいかに。(道案内のためだろーか?)

で,エロス様がしずしずと崖を下りるとともに,洞窟は左右に分かれ,上手には立派な船が現れました。(そうだった。「オリオンの島」だった)
感謝するシルヴィアにアミンタの幻を見せた後,彼女を船に乗せ,自分は舳先で聖火をノーブルに掲げて(←当然私は笑ったが,場内は静か)船は出発し,2幕は終わり。
いや,しかし,エロスさんという方は只者ではありませんなー。(神様だから只者なワケはないが)

 

3幕は下手奥にディアナの神殿がある海岸。(海岸には見えなかったが,後ほどシルヴィア一行が船で到着したから海岸なのであろう)

バッカスを讃えるお祭りが行われているという設定で,赤いミニスカートの男性4人がラッパを吹いたりバッカス像を支え持ったりしながら行進する中,男女4人ずつの春の精,同じく男女4人の夏の精が踊りながら登場。(ブルーの衣装とグリーンの衣装があったが,どっちが春でどちらが夏か不明)
続いて,ケレスとイアセイオン(←どういう方たちでしたっけ? こういうのもプログラムで説明してくれるとよいのにね),山羊のカップル(振りがどことなく『眠り』の猫のカップルに似ている),ペルセフォネとプルート(こちらは「赤頭巾ちゃんと狼」風),テレプシコーラとアポロ(コール・ド8人つきで,ちゃんと9人のミューズになっている)が登場。「おお,大団円」という感じの総踊りとなりました。

これを見ているうちに,話は既にハッピーエンドになっている気分になって,さあ,最後に主役の二人がいっしょに登場してパ・ド・ドゥ・・・を待っていたのですが,あら,そうだった,まだ結ばれてはいなかったのですね。舞台には,シルヴィアを捜し求めるアミンタが登場しました。
残念ながら行方を知る人(というより神様や動物)はなく,途方に暮れたアミンタがディアナの神殿前でメロウになっているところにエロスの船がゆるゆると到着。今回は,幸いにしてエロスは翼と聖火は捨てて登場してくれました。

船からは(どういうわけかシルヴィアといっしょに宗旨変えしてしまったらしい)お付きたちが次々と現れました。ところで,お付きのバレリーナは,マチネは8人いたのに,ソワレは6人に人員整理。どなたか怪我したなどの事情でしょうか?
さて,最後にベールで顔を隠したシルヴィアもエロスに手を取られて登場。エロスの踊り(初めてまともに踊ったよね,この人!)の後にベールが取り去られて主役二人はついに再会し,さあ,今度こそハッピーエンドだわ〜。

というわけで,まずは,有名なピチカートの音楽で,(ひっじょーに難しそうな)愛らしいシルヴィアのヴァリエーション。続いて,アミンタの晴れやかなヴァリエーション。コミカルなかわいらしさの山羊のデュエット(やっぱり猫に見えるんですけどー)で和んだあとに,主役二人のアダージオがありました。

ゆっくりした音楽によるもので,高々とリフトされてのしずしずとした登場で始まり,後ろ向きに跳びこんでフィッシュでポーズする大技あり,背後に立つアミンタに身体をあずけつつバランスを見せる動きもあり,サポートされながらの細かい足先の動きも見せ,もちろん恋の喜びも表出し,最後はショルダーリフトで終わりました。
すてきなパ・ド・ドゥでしたわ〜。

次の音楽は盛り上がるもので,登場人物たちが少しずつ踊り,最後には主役二人も踊り,全員でポーズ。
めでたしめでたし,ハッピーエンド・・・と思ったら,あらまー,執念深くもオリオンが登場。仲裁しようとしていたエロスはいつのまにか消え,素手で戦うもアミンタは倒され,シルヴィアはディアナの神殿に逃げ込みました。

オリオンは神殿の扉を壊しかねない勢いですが,そのとき稲光が走り,神殿の主のディアナが威厳に満ちて登場。弓で射られたオリオンは苦しみながら退場し,さあ,今度こそハッピーエンド・・・ではなく,ディアナは純潔の誓いを破ったシルヴィアへ怒りを向けます。ああ,そうか。そうなるよね。なるほどー。

懇願する恋人たちに拒絶の姿勢を貫くディアナですが,ここで登場するのが,いつも困ったときに助けてくれた頼りになる神様エロスさんなのでありました。
1幕と同じグレイのヘンテコな衣装でヒョコヒョコと前に歩み出てくるのを,今度は何をやらかしてくれるのかなー,と期待に胸膨らませて(←おおげさー)待っていたら,おお,なんと舞台中空に「眠るエンディミオンとディアナ」が現れたではありませんか。(装置にブラヴォー!)
かつての恋を思い出したディアナは態度を軟化させ,恋人たちに祝福を与えます。

これでようやっと本当のハッピーエンドにたどりつきました。
中央でポーズする主役の周りを皆が取り囲み,ディアナは自身の神殿の前に立ち,エロスは船の舳先で聖火を掲げて(←あっちゃー,やっぱり持ってきていたのか!)ポーズし,アポテオーズ。
ああ,面白かった♪

 

ラムは,初めて見ましたが,すてきなバレリーナですね〜♪
小柄でほっそりとしたプロポーションで愛らしい美人。繊細な雰囲気があって,いかにも「森の中のニンフ」という感じ。狩を司る身としてはたおやかすぎる気がしましたし,主役の華も普通程度だと思いましたが(普通にはある),ディアナその人ではなく,それに仕える身なわけですから,丁度よいくらいかも。

踊りは軽やかできれい。ペース配分もばっちりで,体力の必要そうな役を最初から最後までよどみなく。
表現面も,それぞれのシーンごとに,処女の潔癖,匂やかな乙女らしさ,初恋の戸惑い,追い詰められた姿,偽りの妖艶,そして,恋人と結ばれる幸福感などを過不足なく見せてくれました。

カスバートソンは,初役だそうですが,確かにそんな感じの舞台でした。特に1幕は「あっちゃー」や「う−む」があちこちに。
思ったのですが・・・2幕や3幕の彼女からは「おっとりしたお嬢さん」という感じを受けましたから,1幕は,(自分のニンではない)強い女性を表現しようとしすぎて失敗してしまったのかも。むやみに元気がよい踊りで,上半身が(アシュトン風「かっちり」がなく)雑でしたし,足元も(アシュトンらしい)繊細さがなく。

2幕以降も,マイムや踊りに「ここ,ラムは上手だったのだなぁ」と思ってしまう箇所が多かったのですが,でも,それはそれとして,自分の身体をきちんとコントロールした上で伸び伸び踊っていて,チャーミングでした。
長身で押し出しがよいのが強みですよね〜。健康的なプロポーションですので,2幕の衣装が似合っていないと思いましたが,これは好みの問題が大きいのかも。3幕のチュチュ姿は「見栄えするなー。堂々たるもんんだなー」という感じでした。

なにより,(ほかの作品では主演しているとはいえ,この役は)初めてですもんね。今後彼女のシルヴィア役を見る機会があるとは思えませんが,もしあれば,「成長したなー」を見せてほしいものです。

 

アミンタは,「しどころがない役」という感じでしたが,ボネッリはマッチョなプロポーションと「いつも主役を踊っている人」らしい雰囲気で,存在感をもって舞台上に存在していました。
「いい人そう」な個性と最初のソロでのロマンティックな感情表出が,「(自分では特に何もしないが)無事に恋が成就する」という役周りに説得力を与えていたと思います。

踊りも主役にふさわしいレベルで上手だったと思います。なんかアシュトンっぽくないなー? という気はしたのですが,マッカテリも同じ印象でしたから,そういう振付だったのかしらん? 
サポートが安定していてケレンも不安がなく見られたのが,とてもよかったです。

マッカテリは,特によいとも思いませんが,悪くもなく。無難な主役ぶりでした。
彼の容姿や雰囲気にはスイートなところがないので,私にはダンスールノーブルに見えないみたいです。長身だしハンサムだしテクニックも主役を踊るのに不足はないと思いますが,「アミンタよりオリオンなんじゃ?」と言いたくなる感じ。(ガラで『ロミオとジュリエット』を見たときも「ロミオよりティボルトなんじゃ?」だったのを思い出しました)
ところで,彼の3幕の衣装は,方肌脱ぎではなく,普通のノースリーブでした。プログラムの写真を見ると,専用仕様のようですが・・・なぜでしょう? (身体に自身がないとか?)

 

サモドゥーロフを見るのは10年ぶりくらい? いや,もっと久しぶりかも。キーロフ(現マリインスキー)で『白鳥の湖』の道化を見たり,テクニシャンの踊るパ・ド・ドゥを見たりして以来かしらん?
身長から考えて,キーロフにとどまっていたらプリンシパルは無理だったんじゃないかなー? なダンサーですから,オランダ国立を経てロイヤルに落ち着き「出世してよかったね〜」な気分で楽しみに見にいったのですが・・・少々踊りが重く,期待ほどではありませんでした。
演技は,「ちょっとマヌケで憎めない悪役」の感じ。もうちょっと凄みが欲しい気はしましたが,なにしろ暢気な作品だから,こういうのもいいかも〜。

エイヴィスもものすごーく久しぶり。新進ソリストだったころに『ロミオとジュリエット』のパリスを見て「うわ,すてき♪」だった記憶がありますので,こちらも楽しみにしておりました。
で,「(Kバレエに参加し,脱退し,いつの間にかロイヤルに戻るなど)いろいろあったんだろうけど,うん,よい感じに年を重ねたのね〜」と思いました。好色で悪辣そうなオリオンで,長身だから見栄えもよく,髭も似合ってかっこよかったです。

 

この舞台で一番目立つのは,主役のシルヴィアではなく,実はエロスなのではないでしょーか?
・・・と思ってしまうくらい,ヘンテコな役ですよね。インパクト強いですよね。現代のバレエではこういうのは絶対に見られないよねえ? という感じですよね。面白いですよね。

特にマチネのマロニーは,ヘンテコぶりを存分に発揮しながら,立ち姿は神様らしく威厳があり,3幕で初めて踊ったら,あらまーびっくり,軽やかな跳躍と端正な上半身,そしてクリアな脚さばき。(この日プリンシパル・ロールを踊った4人よりアシュトンらしく見えた) ちょっとファンになったかも〜。

ソワレのトゥイファはけっこうカワイイお顔立ち。踊りや「神様らしさ」はマロニーほどではなかったですが,愛嬌があってよかったです。

インパクトが強いと言う意味では,ディアナも負けてはおりません。
最後の10分くらいしか出てこないのに,マンガチックな威厳と憤怒を見せ,次いで女らしい困惑の演技をし,最後には保護者的な威厳を示すという忙しさ。
長身のガレアッツィは威厳に優れ,モレーラは怒りの強烈さで印象を残しました。

 

その他のダンサーについては見分けがつかないので「この人いいわ」と思っても誰が誰やら・・・だったのですが,見分けがついた中では,崔由姫が愛らしい容姿と伸びやかな踊りでよかったです。(特に,1幕のお付きの場面)

それから,3幕の青い衣装のコール・ドの中で,最初の踊りが終わったときに上手端にいた方(隣は日本人のように見えた)が,エレガントな動きで「この中では抜きん出ているわ〜」でした。

コール・ド・バレエについては,↑(1幕のシルヴィアのお付きの踊り)のところで振付の問題として書きましたが・・・まあ,要するに,かなり問題があったと思います。
でも,今回は,上演ではなく作品を見にいったという要素が大きいので,舞台を楽しむ妨げには全然なりませんでした。

 

うん,楽しかったです〜。
世界中のバレエ団で上演してほしいような名作かどうかは疑問ですが,貴重な作品ですよね〜。

余計な話:
この「古き佳きバレエ」の設定だけは使いつつも,全然違う物語を作ったノイマイヤーってスゴイ人だと思います〜。パリ・オペラ座も是非日本で『シルヴィア』をっっ!

(2008.07.12)

 

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