『ラ・バヤデール』(新国立劇場バレエ団)

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2008年5月25日(日)

新国立劇場オペラ劇場

 

振付: マリウス・プティパ  改訂振付・演出: 牧阿佐美  

作曲: レオン・ミンクス  編曲: ジョン・ランチベリー

舞台美術・衣裳・照明: アリステア・リヴィングストン  照明: 磯野睦

指揮: アレクセイ・バクラン  管弦楽: 東京フィルハーモニー管弦楽団

 

ニキヤ: 本島美和     ソロル: マイレン・トレウバエフ     ガムザッティ: 西山裕子

ハイ・ブラーミン(大僧正): ゲンナーディ・イリイン     マグダヴェヤ: 吉本泰久     黄金の神像: 江本拓

トロラグヴァ: 市川透     ラジャー(王侯): 森田健太郎     アイヤ: 神部ゆみ子     

ジャンペの踊り: 楠元郁子, 堀口純     つぼの踊り: 湯川麻美子

《パ・ダクション》

ブルー・チュチュ: 川村真樹, 寺島まゆみ, 丸尾孝子, 堀口純

ピンク・チュチュ: 遠藤睦子, さいとう美帆, 大和雅美, 井倉真未

アダジオ: 陳秀介, 冨川祐樹

《影の王国》 

第1ヴァリエーション: 丸尾孝子     第2ヴァリエーション: 寺島まゆみ     第3ヴァリエーション: さいとう美帆

 

本島さんは,「無難なニキヤ」という感じでした。悪くはないのですが,際立った魅力もなく,感情表現は薄味。
『シンデレラ』や『コッペリア』の主演のときの演技に感じた「わざとらしさ」がなく,踊りで勝負? していたのはよいと思うのですが,その踊りが私には魅力的でないというか,踊りから感情が伝わってこないというか・・・。

まだ若い彼女を前回の主演者・・・30歳前後だった酒井さんや宮内さん,志賀さんと比べてはいけないのかもしれませんが・・・でも,キャスティングの傾向から判断するに,今のこのバレエ団のプリマは寺島ひろみさんと彼女なんですよねえ? そう考えるとなぁ・・・という気分になりました。

彼女の最大の問題は,踊りが音楽的に見えないことではないかと思います。技術的にもあちこちで「ん?」がありましたが,「ん?」どまりでミスでなかったのは何よりでした。
今回はメイクが薄めで,「きれいな人ね〜」と思えたのが非常によかったです。

 

トレウバエフさんは,テクニックに不足はないですし,個性から言っても「王子よりは戦士」であろうと思い,楽しみにしていたのですが(この日を選んだのは,彼が主演だったからです),少々期待外れでありました。

まず,踊りが「きれい」に見えなかったのですよねえ。プロポーションの問題もあると思いますが・・・うーむ,ワガノワ出身だと思うとなぁ,という感じがしました。ソロルの場合,きれいでなくても戦士らしければよいのかもしれませんが,その点もどうも・・・。「勇猛」や「果断」よりは「篤実」や「誠意」などの形容詞が似合いそうな趣でありました。
それから,これは経験を積めば身に付いてくるのかもしれませんが・・・主役オーラがないのは辛いなぁ,と。

演技はよかったです。「藩主の命には当然従うつもりであったが,ニキヤを眼前にすれば心が痛むのも道理」という素直な役作りで,特に2幕の最後「ニキヤの死に衝撃を受けて,その場から駆け去る」ところが上手でした。思わず駆け寄って,片手を彼女のほうに伸ばし・・・死んだことを得心した瞬間に身を翻して袖に走りこんでいく。こう書くと,単に演出どおりではないか,という気もするわけですが,芝居のタイミングがよかったので,行動に説得力が出ていたと思います。
サポートは超安全運転でしたが,これはパートナーの問題もあると思いますし,危ない橋を渡るよりずっとよいですよね。優しく誠実なパートナーでした。

 

西山さんは可憐でありながら堂々たるガムザッティ。主役二人が初役で少なからずインパクトに欠ける中,3回目のキャリアを生かして,説得力ある演技を見せていました。
ほんとにソロルが欲しくて欲しくて(愛しているのかどうかはわからないけれど)というワガママなお姫さま。そして,それは即ち「自分の気持ちに素直なかわいいお姫さま」なのですよね〜,という感じ。1幕のニキヤとの対決シーンも,婚約式でのソロルに対する態度も,そのセンで一貫していて魅力的でした。

婚約式での踊りから,「我こそは」という押しの強さが感じられなかったのが残念でしたが・・・役作りと一致した表現だったのかもしれませんね〜。優美な踊りでしたし,婚約式に臨むご令嬢らしい愛らしい輝きもあり,よかったと思います。

 

コール・ドはすばらしかったです〜♪ ほんとにほんとにすばらしい♪♪
影の王国の緊張感を伴う整然たる美はもちろんですが,2幕のワルツも優しげに美しく。ザハロワさんが「世界一」と誉めるのは,決して社交辞令だけではないのだろう,と改めて確認したことでした。

2幕のブルー・チュチュ4人,ピンク・チュチュ4人も出色。ソリストとコール・ドの間のような役ですが・・・このバレエ団はコール・ドのみならずこの辺りが実に見事だと思います。
「主役を踊ることもある」ソリストを投入していながら,「揃えて踊る」も実践し・・・見応えがありました。

ほかに目立ったソリストは,1幕の巫女で出ていた厚木さん。「この人きれい」と思ってオペラグラスで覗いたら彼女で,「なるほど,そりゃそうだろ」と納得しました。
というか・・・私は彼女のプロポーションはニキヤ向きだと思うし,個性はガムザッティ向きだと思うので,「もったいない使い方であることよ」と思ってしまいました。

3幕では,寺島まゆみさんの第2ヴァリエーションがとてもよかったです〜♪ 
止めるところはきちっと止まり,動きは歯切れよく,ポーズは伸びやか。ひろみさん同様に脚が強いようで,3人での踊りでは一番高く跳んでいました。彼女の主役も見てみたいかも〜。

男性では,吉本さんのマグダヴェヤ。
1幕の踊りは溌剌としていて気持ちがよかったですし,演技も上手い。「ソロルを慕いながら大僧正には逆らえず」という二律背反を上手に見せていました。

残念だったのは,江本さんの黄金の神像。かなーり「・・・」なデキでした。
初演の小嶋さんと比べようとは思いませんが,前回見た吉本さんやバリノフさんや・・・に比べて見劣りする印象。『オルフェオとエウリディーチェ』で「すてきなダンサーだわ〜♪」と思った者からすると,これが実力とは思いたくないのですが・・・。

トロラグヴァやソロルの部下たちも,あまりよろしくなかったです。この作品独特のインド風お辞儀の形ができていない感じでした。
お辞儀といえば,ラジャーの森田さんもイマイチでした。彼の場合,前回ソロルを踊ったときもこの点が「?」だったので予想の範囲内ではありましたが,存在感あるラジャーであっただけに,もったいないことでした。

 

演出については,ほんっっとにスピーディーだなー,と改めて感心しました。初演のころは『ラ・バヤデール』という作品を見る機会が少なく,特に違和感はなかったのですが,その後海外のバレエ団で鑑賞回数を重ねると,「あと8小節長くしては?(16小節か32小節かも)」と思う場面が多々。大僧正がニキヤに迫るシーンやガムザッティがニキヤを呼びつけてから腕飾りを与えるまでとか・・・。

それから,インドの踊り(太鼓の踊り)がないのは,やはり残念なことです。初演のころは「新国は男手不足だからなぁ」と納得していましたが,今回の1幕1場でのファキールたちの踊りなど見ると,何とかなりそうな気もするのですが・・・?

そういえば,ラストシーンは「坂を上るニキヤが最後の段に至って,突然ベールの端を坂に下ろしてソロルに掴ませる」という段取りになっていて,非常に不自然な感じを受けたのですが・・・以前からこうだったでしょうかね???

 

美術は大好き♪
装置は繊細で優美で,作品世界に貢献していて,今まで見たいろいろな『バヤデール』の中で一番優れていると思います。
衣装の色遣いの品がよいのもよい点です。影の王国でのニキヤの衣装と影たちの衣装のデザインが違うのは(ニキヤの影だと考えると)残念ですが,テイストは同じだから,そんなに気にしなくてもよいのかな。あ,オウムが登場しないのもポイントが高いです〜。

なお,1幕で,聖なる火が舞台正面(というより,寺院の階段の正面)にあるのは,やはり問題あり,だと思います。
本島さんの責任もあるのかもしれませんが,ニキヤが火を迂回して正面に出てくる足取りに乱れが生じてしまい,「巫女」感が薄れるもとだと思うんですけどー。

 

全体としては,演出のせいか主役2人に求心力が足りないせいか,ドラマ性が薄い上演でしたが,作品自体が好きなので,大いに楽しみました。
そして,やはり,コール・ド・バレエ♪ コール・ドを見るだけでも足が運ぶ価値があるバレエ団なのだよなー,としみじみ思ったことでした。

(2008.06.08)

 

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パリ・オペラ座バレエ

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ラ・バヤデール

ミラノ・スカラ座バレエ

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ラ・バヤデール

英国ロイヤル・バレエ

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