『白鳥の湖』(牧阿佐美バレヱ団)

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2008年3月8日(土)

ゆうぽうとホール

 

作曲: P・T・チャイコフスキー

演出振付: テリー・ウエストモーランド(プティパ/イワノフ版による)

美術: ボブ・リングウッド

指揮: アンドレイ・アニハーノフ   管弦楽: ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

 

オデット/オディール: 伊藤友季子

王子ジークフリート: 京當侑一籠

王妃: 坂西麻美     フォン・ロットバルト: 森田健太郎

【1幕】

王子の友人たち: 
小橋美矢子, 笠井裕子, 加藤裕美, 坂梨仁美, 海寳暁子, 坂本春香
塚田渉, 徳永太一, 今勇也, 邵智羽, 中島哲也, 清瀧千晴

パ・ド・トロワ: 橋本尚美, 吉岡まな美, ラグワスレン・オトゴンニャム

村娘: 安部里奈     家庭教師: 山内貴雄

村人たち:
藤原まどか, 塚田織絵, 鈴木理奈, 今井真彌子, 小塚悠奈, 宮原由后, 柳川真衣
伊藤隆仁, 藤井学, 依田俊之, 石田亮一, 細野生, 高鴿, 篠宮佑一, 鈴木真央

【2幕・4幕】

白鳥たち 大4羽: 橋本尚美, 吉岡まな美, 笠井裕子, 坂梨仁美

白鳥たち 小4羽: 奥田さやか, 小橋美矢子, 加藤裕美, 坂本春香

白鳥たち:
佐藤朱実, 館野若葉, 柄本奈美, 貝原愛, 竹下陽子, 関友紀子, 又吉加奈子, 山中真紀子, 藤原まどか, 大野智子, 金森由里子, 日高有梨, 海寳暁子, 杉本直央, 鈴木理奈, 小塚悠奈, 佐々木可奈子, 柳川真衣, 茂田絵美子, 織山万梨子 

【3幕】

パ・ド・カトル: 佐藤朱実, 奥田さやか, 中島哲也, 清瀧千晴

チャルダッシュ: 
柄本奈美, ムラット・ベルキン
渡辺悠子, 土岐みさき, 野口かほる, 広中玲名, 伊藤隆仁, 藤井学, 篠宮佑一, 濱田雄冴 

スパニッシュ: 吉岡まな美, 柄本奈美, 塚田渉, 保坂アントン慶

ナポリターナ: 森脇友有里, 上原大也

マズルカ: 山中真紀子, 金森由里子, 杉本直央, 茂田絵美子, 坂爪智来, 石田亮一, 高鴿, 宮内浩之 

各国の姫君: 小橋美矢子, 笠井裕子, 加藤裕美, 坂梨仁美, 日高有梨, 海寳暁子

 

伊藤/京當の『白鳥の湖』は一昨年に続いて2回目ですが,私は初めて見ました。
で,思ったのですが,少なくともこの作品に関しては,このペアは,体格差がありすぎてよろしくないのではないか,と。
伊藤さんは小柄ではないですが,頭が小さくほっそりとしたバレリーナ体型。京當さんは長身で肩幅も広いダンスールノーブル体型。それぞれのプロポーションはよいのですが,二人で踊ると「赤頭巾ちゃんと狼」というか「中学生と体育会出身サラリーマンのカップル」というか・・・適切な形容が思い浮かびませんが,とにかく,波乱万丈命がけの恋愛に陥りそうには見えにくく・・・。うーむ,組み合わせというのは難しいものですねえ。

伊藤さんは,清潔感のある可憐なオデット。2幕では,腕の動きなどにちょっと元気がありすぎかなぁ? と思いましたが,4幕ではそれも「可愛いけれど芯が強そう」につながっている感じで,なかなか感動的でした。
オディールのほうは,いたずらっぽく見える笑顔が小悪魔的で,輝きもあって魅力的。ただ,黒鳥のパ・ド・ドゥを踊るにはテクニックが弱すぎるみたい。(脚が弱いのかな?) 「ありゃ」が散見されますし,グラン・フェッテは(音楽が速すぎたせいもあると思いますが)段々足が落ちてきて「がんばって」になってしまうし・・・盛り上がり損ねました。

京當さんは,それなりに立派な王子。サポートやリフトは安定し,ソロでは,回転がきれい。伊藤さんの(「・・・弱いなぁ」な)フェッテの直後に迫力あるグラン・ピルエットを披露して,パ・ド・ドゥ全体を引き締めたのが特によかったです。
彼の課題はお顔の表情の作り方だと思われます。オディールの正体露見後や終幕の大詰めなど,身体も動かして表現するところはよいのですが,1幕のメランコリーも2幕の真剣も3幕の花嫁候補への戸惑いも同じ表情で,しかもそれが「不機嫌そう」に見えてしまうので・・・。

 

1幕のパ・ド・トロワは,女性二人はお仕事きっちり。
オトゴンニャムさんは上半身はエレガントですが,下半身で行う仕事は「いっぱいいっぱい」という感じ。菊地研さんの降板による代役で準備期間が短かったせいかもしれませんが,ほかにもっと踊れる人がいそうに思いました。(でも,吉岡さんの身長との釣り合いを考えると,ほかにいないか・・・)

家庭教師をからかう村娘の安部さんは,悪くはないですが,「もうちょっと歯切れよくパを見せてほしい」という感じかな。
ワルツはきれい,村人たちはそれなり,王妃のお付きは優美さ不足。ここの貴婦人役と3幕の姫君たちの付き人に「気品をもって歩くことができる」バレリーナを配することができないと,プロの舞台としては失格だと思いますが,キャスティングを見るとそういう認識はなさそう。困ったものです。

白鳥のコール・ドは,2年前の公演や去年の『眠れる森の美女』よりは「バタバタ」感が減りました。
白鳥らしい詩情やたおやかさは感じられませんでしたし,足音もけっこう大きかったですが,集団としての機能は良好。整然と,舞台上に幾何学模様を描き出しておりました。

3幕は,幕開きのパ・ド・カトルがたいへんよかったです。
なぜよかったかというと,男性二人の実力が高い水準で接近していて,さらに,体格も揃っていたから。この踊りの男性ヴァリエーションは二人いっしょに踊るので,同じくらい踊れて同じくらいの身長のダンサーで揃えてもらうと目に快いですし,それが上手な踊りならさらに効果が増すわけです。で,今回は,「次に主役デビューするのはどっちだろ?」な二人が登場し,見応えある踊りが繰り広げられました。
女性二人もよかったです。細かい足技の多い振付をすっきりこなして安定した踊りでしたし,(「華やか」とは違う)ふんわり和み系の華が感じられました。

なお,「次に主役・・・」については,これはやはり清瀧さんであろう,という結論を得ました。というか,そうしてほしいです。
爪先や指先こそ「まだまだ」ですが(←対小嶋比),全身の使い方がきれい。現在の「徐々に大きな役に」方針を改めて,さっさと主役に登用して鍛えてあげてください〜。

この幕でほかに印象に残ったのは,スペインの吉岡さんの全身をフルに使った踊りと保坂さんの色男ぶり,ナポリターナの二人の小気味よいタンバリンの鳴らし方(上原さんの動きの軽やかさも♪),各国の姫君(花嫁候補)の坂梨さんのたおやかさと小橋さんのにこやかさ。

「?」だったのは,チャルダッシュでの真ん中二人の衝突事件(私には男性のほうが悪いように見えたけれど・・・)とマズルカの迫力不足。
前者はアクシデントだからしかたないにしても,マズルカは,あれではキャラクターダンスになっとらんと思いましたです。

森田さんのフォン・ロットバルトはいつもどおり。
この版のロットバルトは,窓の外に現れたオデットを懸命に追い払おうとするが果たせない(のに,オディールが乗り出すとあっという間に消える)場面に象徴されるように,どうも凄みに欠けるのですが,その辺を存在感と演技のタイミングでカバーして(誤魔化して?)重みを見せているのがさすがでした。

王妃の坂西さんは,私,ファンなので・・・。
ついに主役を踊る機会が来なかったのは,釣り合う身長のパートナーが見つからなかったからだけではなく,技術的に不足があったからだとは思います。でも,同時に,こういう「美しく堂々たる立ち役」への適性がありすぎて他の方より先に格上げされちゃったのですよね。
踊ってほしいんだけどな〜,と思いつつも,優しさと威厳がブレンドされた美しい姿を堪能しました。

この日は,2幕の装置関係でトラブルがあったみたいでした。
最初から紗幕の下り方がなんかヘンでしたし,その影響なのかラストで白鳥たちが上手に走る込むときに次々に袖幕にぶつかったみたいで・・・揺れる,揺れる,装置が揺れる・・・。(きゃー,怖い)
ドラマに浸る妨げになりますから,こういうアクシデントはあってはならないことではありますが,まあ,生の舞台ではいろいろありますよね。

 

全体としては,まずまずよい舞台だったと思います。特に,コール・ドとソリストが2年前より充実していると思えたのが嬉しい。
主役については「要改善」だと思いますが,二人ともまだ二十代半ばですもんね。改善のポテンシャルは十分あるわけで・・・次の上演に期待したいと思います〜。 

(2008.03.12)

 

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作曲: Pyotr Il'yich Tchaikovsky
指揮:
Dmitry Yablonsky
演奏:
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作曲: Pyotr Il'yich Tchaikovsky
指揮: Charles Dutoit
演奏: montreal symphony orchestra

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