ボリショイ・バレエ&マリインスキー・バレエ 合同ガラ公演
(プログラムA)

サイト内検索 07年一覧表に戻る 表紙に戻る

2007年9月1日(土)マチネ

新国立劇場オペラ劇場

指揮: パーヴェル・ソローキン(ボリショイ)  アレクサンドル・ボリャニチコ(マリインスキー)

管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団     ピアノ: アレクサンドラ・ジーリナ(3つのグノシエンヌ)

 

楽しかったです〜。
「すばらしいっっ♪」もあれば「なんじゃこりゃ?」もあり,「わははは」も「うーむ,気の毒・・・」もあり,全体として「やっぱりロシアバレエはいいよね〜」と。
ただ,1日でマチネとソワレを続けて見たのはちょっと失敗だったかも。2日に分けて鑑賞したほうが,疲れが少なくてより楽しめたかもしれません。

 

第1部 (ボリショイ・バレエ)

『エスメラルダ』 第2幕のパ・ド・ドゥ

振付: ニコライ・ベリオゾフ     音楽: リッカルド・ドリゴ  ロムアルド・マレンコ

エカテリーナ・クリサノワ  ドミートリー・グダーノフ

クリサノワは初見・・・と思ったら,昨年『バヤデルカ』で見ていたようです。(幻影のソリスト。残念ながら強い印象はありませんでした) 
グダーノフは,実際に見るのはたぶん初めて。

よかったですよ。
特に感銘を受けることもありませんでしたが,文句を言いたいこともなく。きっちりお仕事,手堅い上演という感じでしょうか。
タンバリンは,もっと目立つように大きくて,音も派手に大きく鳴るほうが効果的なんじゃないかなー,と思いました。

 

『マグリットマニア』 デュエット

振付: ユーリー・ポーソポフ     音楽: ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーベン  ユーリー・クラサーヴィン

ネッリ・コバヒーゼ  アルテム・シュピレフスキー

コバヒーゼは去年『バヤデルカ』の幻影のソリストを見て,詩情ある雰囲気がすてきだったダンサー。とても楽しみにしていました。
シュピレフスキーは初めて見ましたが,「お噂はかねがね」ですから,興味津々。

どのような振付だったのか既に記憶が消えてしまいましたが,暗い中で踊られる,穏当にきれいな作品だったような。
赤いロングドレスのコバヒーゼは神秘的な雰囲気。美しかったです。
シュピレフスキーは白いシャツにサスペンダーと黒いズボンでサポート担当という感じ。写真で見ていたほどは美男に見えず,ちと残念でありました。

 

『海賊』 第1幕の奴隷の踊り

振付: マリウス・プティパ     音楽: オルデンブルク公爵

ニーナ・カプツォーワ  アンドレイ・メルクーリエフ

カプツォーワは初めて見たのですが,とーーっても可憐で魅力的なバレリーナですね〜♪
羽があるかのような軽やかな動きの美しさ♪ フランス人形? な作り物っぽい白いカツラの似合う愛らしさ♪ すばらしかったです〜♪♪

メルクーリエフは,「はて,この組の演目は『ウイリアム・テル』パ・ド・ドゥであったか?」というチロリアンな衣裳が似合ってカワイイのが何より。
難しそうな大技を入れて「あれま」になっておりました。そういうのはほかの適任者に任せておけばよいと思いますが,こういう催しだと張り切っちゃうのでしょうかね?

なお,ボリショイファンの方から聞いたところによると,ラトマンスキー+ブルラーカ版『海賊』では,このパ・ド・ドゥは正真正銘の「奴隷の(カップルの)踊り」になっていて,グリナーラやランケデムとは別のダンサーが踊るのだそうです。
なるほどー。だから,男性は商売っ気を見せず,女性のほうも無邪気に楽しげに踊るのですねー。(それなら,ベールと「あ,いや」もやめたほうがよいとは思うが)

 

『ジゼル』 第2幕のパ・ド・ドゥ

振付: ジュール・ペロー  ジャン・コラーリ  マリウス・プティパ     音楽: アドルフ・アダン

スヴェトラーナ・ルンキナ  ルスラン・スクヴォルツォフ

実はルンキナも初めて見たのですが(お恥ずかしい),とてもすてきなジゼルでした〜。
ほっそりとした身体,特にたおやかで長い首が,いかにもジゼルという容姿ですし,プリマらしい存在感も十分。雰囲気的には,儚げな幻や赦しを与える魂ではなく,詩的な精霊という感じ。(たしかにウイリーであったと思う)
全幕で是非見たいな〜,と思わせてくれました。

スクヴォルツォフも初見でしたが,そうですねー,悪くもないが特に誉めたいこともなく・・・。普通によかったと思います。(そして,Bプロの『ジゼル』を見たあとでは「普通によければ十分だ」という気分になった)

 

『ファラオの娘』 第2幕のパ・ド・ドゥ

振付: ピエール・ラコット     音楽: チェザーレ・プーニ

マリーヤ・アレクサンドロワ  セルゲイ・フィーリン

ルンキナを見て「やはりプリンシパルは違う」と思ったのですが,この2人はさらに違っておりました。これが「スターの輝き」というものなのでしょうね♪ 出てきただけで場の明るさが3倍くらいになった感じですし,何の不安も感じさせない見事な踊り。

このパ・ド・ドゥは初めて見たのですが,聞いていたとおり足技満載で躍動的な振付で,プログラム解説に言う「愛のアダージョ」には見えにくかったです。(だから悪い,とまでは言いませんが)

 

『パリの炎』 第4幕のパ・ド・ドゥ

振付: ワシーリー・ワイノーネン     音楽: ボリス・アサフィエフ

ナターリヤ・オシポワ  イワン・ワシーリエフ

オシポワもコバヒーゼと同じく,去年の『バヤデルカ』幻影のソリストを見ています。丸顔に丸いお鼻という童顔のせいか(ちょっとダーシー・バッセルに似ていませんか?),“影”役は似合っていなかったと思いますが,「ほかの2人より10センチ高く跳ぶ」のでびっくりしたのを覚えています。
そういう彼女にはこの作品はぴったり。溌剌と跳躍し,溌剌と回転し,溌剌と超絶技巧を披露しておりました。

話題の新人ワシーリエフはもちろん初めて見たわけですが,まずは,かりに日本のバレエ団で見ても「スタイル悪いなー」に見えるであろうプロポーションにもかかわらず,「選ばれた人が踊る」というロシアでこの才能が埋もれないですんだことを寿ぎたいなー,と。
天衣無縫な野趣を感じさせるヴィルティオーゾ。笑い出したくなるほどの超難技を威勢よく繰り出す超テクニシャン。
私は超絶技巧が大好きですので大いに楽しみましたが,バレエ的にきれいに踊れるようになると,なおよいと思います〜。

 

第2部 (マリインスキー・バレエ)

『ばらの精』

振付: ミハイル・フォーキン     音楽: カール・マリア・ファン・ウェーバー

イリーナ・ゴールプ  イーゴリ・コールプ

まずですねー,ゴールプはタヒチの舞踏会から帰ってきたようでした。次に,これはダンサーのせいではないと思いますが,手にする一輪のバラがでかくて,色は品の悪い桃色でした。さらに,これもダンサーのせいではありませんが,フランス窓がありませんでした。おまけに,コールプもモルジブで開花した薔薇でした。

コールプの女性的なポールドブラと厚みのある男性的な身体のギャップにはすばらしいものがありますね。もしかするとニジンスキーもこんな感じだったのかなー,なんて思ってみたり。
ただ,映像で見たときに感じた「不気味さ」みたいなものをほとんど感じなかったのが意外でした。「きれいだなー」と見惚れてしまう踊りで,実のところ期待外れ。(この感覚は変だとは思うが,でも,期待していたものが見られなかったのは事実なので)
バカンス明けでまだ本調子ではなかったのかな? それとも,ボリショイとの競演を意識して「今回は正しいばらの精をお見せしましょう」だったのかしらん?

 

『サタネラ』 パ・ド・ドゥ(ヴェニスの謝肉祭)

振付: マリウス・プティパ     音楽:チェザーレ・プーニ

エフゲーニヤ・オブラスツォーワ  ウラジーミル・シクリャローフ

このパ・ド・ドゥってこんなヌルイ感じだったかなー? もっと軽快で技自慢で楽しい感じだったような気がするけどなー? と不審に思いながら見ました。
あとからプログラムを見たところ「ユーモラスなやり取りをしつつ高いテクニックを見せる,楽しいパ・ド・ドゥ」と書いてありまして・・・要するに,作品本来の魅力を出せていない上演だったのではないか,と。

なお,オブラスツォーワを生で見るのはたぶん初めて。なるほど,可憐ですね〜。
シクリャローフは去年の『白鳥の湖』パ・ド・トロワ以来ですが・・・人気があるというか,話題になる頻度が高いのが不可解です。数年後に,「そうであったか。私は見る目がなかったのね」と思わせてくれるよう願いますです。

 

『3つのグノシエンヌ』

振付: ハンス・フォン・マネン     音楽: エリック・サティ

ウリヤーナ・ロパートキナ  イワン・コズロフ

この作品は以前見たことがあるような,ないような。(世界バレエフェスティバル辺りで見ているのかも)
サティの音楽は得手ではありませんが(音楽はズンチャカ賑やかなほうが好きなのよ。自分の耳の悪さを白状するようなもので恥ずかしいとは思うけれどね),ロパートキナ出演ですから有り難く拝見させていただきました。

ピアノ演奏とともに,深いグリーンのユニタード(でしたよね?)のロパートキナが美しく舞いました。彼女の凛とした存在感で舞台上の空気が引き締まり・・・温度が数度下がったような気さえしました。

初見のコズロフはたいへんな長身で上半身は筋骨隆々。私の好みとは違いますが,美しく立派な肉体の持ち主でした。
ロパートキナの音楽と一体化したような動きは,もちろん彼女自身が見事に身体をコントロールしているからでしょうが,パートナーの彼のサポート能力も大いに貢献していたのでしょう。拍手〜。

 

『エスメラルダ』 ディアナとアクテオンのパ・ド・ドゥ

振付: アグリッピーナ・ワガーノワ     音楽: リッカルド・ドリゴ

エカテリーナ・オスモールキナ  ミハイル・ロブーヒン

オスモールキナは,『白鳥の湖』の大きな3羽とか終幕の2羽とか・・・を見たことがあります。
快活で明るい雰囲気の動きと伸びやかなポーズで,狩の女神がよく似合っていました。特にアラベスク・パンシェ(でいいのかな?)でのすっきり伸びた脚がきれい。

ロブーヒンは,たぶん初見。
ソロもサポートも「いっぱいいっぱい」に見えましたが,「ロシアバレエだなーっ」と思えるたくましい感じがよかったです。(はて? この場合の「ロシアバレエ」はボリショイによるイメージか?)

 

『グラン・パ・クラシック』

振付: ヴィクトール・グゾフスキー     音楽: ダニエル・フランソワ・オーベール

ヴィクトリア・テリョーシキナ  アントン・コールサコフ

テリョーシキナが,実に,実に,見事でした。
アダージオでのバランス技は「あらら,彼女にしては」だったのですが(「彼女にしては」ですよ),ソロがすばらしかった。
堂々たる押し出し,揺るぎない技術,正しく美しい動き,客席に向ける誇らかな笑顔,そして音楽性。難技を織り込んだ回転技やポアント技が,アクセントやニュアンスの付け方を含めてすべて音楽とぴたっと一致している感じ。「音楽を見る」快感とは,こういう踊りを見ることを言うのであろうなぁ,しかも,このパ・ド・ドゥでそれを見せてもらえるとはなぁ,と感じ入りました。

コールサコフは端正で技術的にも不足なくよかったと思いますが,首の長さが不足? 首から肩のラインに少々難があり,王子系衣裳はあまり似合わないようでした。
それからですねー,全然顔が変わっていてびっくりしました。前に見たときはとってもかわいかったんですよね。(あれは何年前だったのだろう? ルジマトフ主演『くるみ割り人形』で白いカツラのパ・ド・トロワを踊っていたのは) ところが今回は,失礼ながら「目つきが悪い」というのか「人相が悪い」というのか・・・ううむ・・・あんな顔立ちだったでしょうか?

 

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

振付: ジョージ・バランシン     音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

アリーナ・ソーモワ  アンドリアン・ファジェーエフ

ソーモワは,大きな白鳥で見た記憶がありますが,ソロで踊るのを見るのは初めて。
なんというか「隙あらば脚を上げよう」という踊りに見えました。いや,脚を高く上げて踊ること自体は悪くないのでしょうが,上げた結果が「・・・なんかヘンなんじゃ?」なポーズに見えました。
頭がとても小さくて,腕も脚も細くて長ーくて,柔軟性に富んでいるのですが,その肢体とその柔軟性をフルに生かして踊った結果が「・・・なんかヘンなんじゃ?」な動きに見えました。
もしかすると,こちらの感覚が古いだけかもしれませんが,とにかく私には,全然バランシンに見えなかったし,目に不快な踊りでした。

ファジェーエフはいつもどおり優美。
スピード感が魅力のこのパ・ド・ドゥは彼にはあまり向いていないと思いますし,長身・元気ありすぎ・柔らかすぎのソーモワをサポートするのが大変そうに見えましたが,すてきでした。

 

『瀕死の白鳥』

振付: ミハイル・フォーキン     音楽: カミーユ・サン=サーンス

ウリヤーナ・ロパートキナ

もちろん見事でした。
練り上げられ,磨き抜かれた表現。過剰なものも不足しているものもない美しさ。威厳を保ちつつ死を迎える孤高の白鳥の女王。

 

『ドン・キホーテ』 第3幕のパ・ド・ドゥ

振付: アレクサンドル・ゴールスキー     音楽:ルードィヒ・ミンクス

オレシア・ノーヴィコワ  レオニード・サラファーノフ

ノーヴィコワは『白鳥の湖』のパ・ド・トロワで見ているはずですが,舞台で顔を見たときは思い出せませんでした。(オスモールキナやソーモワについては,すぐに思い出した)
華が足りないバレリーナだから印象に残らなかったのかな?
・・・と思ったのは,この日も地味な印象を受けたから。
黒い髪と黒い眼でキトリは似合っていましたし,はきはきした感じの踊りもキトリ向き,テクニックがあって回転も跳躍も高水準,雰囲気はかわいく溌剌・・・なのですが,こういうイベントのトリの『ドンキ』には,「出てきただけで華やか」が欲しいかも。

サラファーノフについては,「軽やか」はバジルに似合う形容詞ではない,ということでしょうか。
いや,悪くはないですよ。彼にしては滑らかさやに欠けていたと思うけれど,会場を盛り上げる跳躍や回転の超絶技巧は立派だったし,リフトもサポートも問題ないし,ガラのバジルにふさわしい見得切りの「オレを見ろ」もある。
でもねー,私には全然バジルに見えなかったのよねー。軽量級すぎるのよねー。ごめんねー。

ところで,アダージオの後半で女性の背後で横向きのグラン・ジュテをするのを見て「わお,ルジマトフとおんなじ振りだぁ。キーロフだぁ。見にきてよかったぁ。」と,意味なく嬉しくなりました。(マリインスキーだけど)

 

フィナーレは,全員が音楽に乗せて登場したあと再び舞台からはけて,ひと組ずつが上演した作品の一部の振りを再現し(または多少アレンジして得意技を見せ),最後は全員で舞台中央に集合しポーズをとるというもの。(音楽は,グリエール『赤いけし』ソヴィエト水夫の踊り だったとのこと)
なお,その後のカーテンコールでは,指揮者だけでなく,両バレエ団の芸術監督も登場しておりました。(ワジーエフの髪がかなり白くなっているのにはびっくりしたなぁ。まだ40代なのにねぇ)

フィナーレで印象的だったのは,ロパートキナが踊ると「空間が広がる」ということ。身体の使い方が違うのでしょうか,それともオーラの問題でしょうか?
そして,それ以上に印象的だったのはオシポワ/ワシーリエフのペア。なにがなんだかわからないものすごい勢いの跳躍でワシーリエフが舞台に飛び込んできて,続いてオシポワがものすごい勢いでものすごく遠くからパートナーに向かって『春の水』風に飛び込んで,ワシーリエフががっちりと抱きとめておりました。 すっげーー。(・o・)

(2008.03.19)

サイト内検索 上に戻る 07年一覧表に戻る 表紙に戻る

ボリショイ・バレエ&マリインスキー・バレエ 合同ガラ公演
(プログラムB)

 

2007年9月1日(土)ソワレ

新国立劇場オペラ劇場

指揮: アレクサンドル・ボリャニチコ(マリインスキー)   パーヴェル・ソローキン(ボリショイ)

管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団

 

第1部 (マリインスキー・バレエ)

『アルレキナーダ』

振付: マリウス・プティパ     音楽: リッカルド・ドリゴ

エフゲーニャ・オブラスツォーワ  アントン・コールサコフ

小柄でお顔の輪郭が丸顔タイプのオブラスツォーワはコロンビーヌにぴったり。愛らしくてチャーミング。かわゆい〜♪
アルルカンの妙技にパチパチと拍手を送るシーンや投げキッスなどをいかにもわざとらしく演じていて,「古き良きロシアバレエ」感を醸し出していたのが特によかったです。

コールサコフは,仮面を着けるのではなく,眼の周りを黒く塗って登場。この隈取のおかげでAプロで気になった「目つきが悪い」感が消えていたのが結構でした。
踊りは上手だったと思いますが,演技は物足りなかったかな。もうちょっと愛矯が欲しいなー,と思いました。

 

『病めるばら』

振付: ローラン・プティ     音楽: グスタフ・マーラー(録音テープ)

ウリヤーナ・ロパートキナ  イワン・コズロフ

今回開演前にプログラムを読んで,この作品が「すべてを焼き尽くすような情熱をもつ虫と,暗く内に秘められた激しいその情熱に滅ぼされてゆく美の化身としてのばらを描いている」と知り,少々意外でした。以前にこの作品を見たときの印象は,そういうほの暗い不健全? なものではなく,そうですねえ・・・例えば「色あせ朽ちていく薔薇とそれを見守り支える存在」という感じだったので。(踊ったのはドミニク・カルフーニ/ジャン=シャルル・ベルシュール)

そして,今回の上演も「すべてを焼き尽くす(以下略)」には見えませんでした。コズロフには「暗い情熱」という感じはなかったし,ロパートキナは・・・えーと,そのまま『瀕死の白鳥』?

Aプロで見た彼女自身の『瀕死の白鳥』と非常に近い印象で,生を求めながらも徐々に死を受け入れていく気高い存在に見えました。たいへん清冽な美しさで・・・例えばベジャールの『アダージェット』のときはあんなにも官能的に聞こえるこの音楽がこんなにも清浄に聞こえてくるとは・・・ということに感嘆しました。
彼女の動きは精緻と言いたい繊細さで音楽を美しく表現し,それと同時に(そのことにより?)その音楽を彼女の個性で染め上げている。これって稀有なことですよね?

なお,最初にフランス語(←たぶん)で原作? のブレイクの詩(←これも,たぶん)朗読されました。
そうそう,最後にテープの音楽が「ぶつっ」と切れた(あるいは,「ぶつっ」と切れる音がテープに入っていた?)のは興ざめでした。完璧主義者のロパートキナもこういう点は「ロシアのダンサーはアバウト」の例外ではないのでしょーか?

 

『眠れる森の美女』 第3幕のパ・ド・ドゥ

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: コンスタンチン・セルゲーエフ     音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

アリーナ・ソーモワ  アンドリアン・ファジェーエフ

ソーモワの「隙あらば脚を上げよう」はオーロラでも健在。王子の肩に手を置いてのアティテュードの度にチュチュのスカートがひっくりかえってヒップが見えるのはいかがなものか・・・とは思いますが,でも,もしかすると,ギエムやザハロワがオーロラを踊ると同じ事態が起きるのかも?
・・・という気もするので,そっちは置いておくとしても,彼女の踊り方はやっぱりヘンだと思いますー。動きもポーズも柔らかすぎて芯がない感じで・・・率直な物言いをすれば,くねくねしていて気持ちが悪い。

というふうに私には見えるソーモワの踊りですが,ソロよりはアダージオのほうが形(フォルム?)が整っていたと思います。で,それはもちろんファジェーエフのサポートの力だと思うわけです。でもって,「このお姫さまのお守りはたいへんだろうなー,ご苦労さんだなー。その苦労のせいか老けたなー」とも思ったわけです。
いや,「老けた」という形容は違うかもしれませんねー,「少年の面影が失われた」と言ったほうが適切かも。お顔の輪郭が鋭くなって,「いやん,かわいい♪」な雰囲気が失せて,年齢相応の皺なども出現して,年齢とキャリアにふさわしいプリンシパルらしく見えました。
ただ,踊りのほうはソロで「?」がけっこうあって精彩がなく・・・やはりソーモワ姫のお相手でお疲れだったのでしょーか?

 

『ジゼル』 第2幕のパ・ド・ドゥ

振付: ジュール・ペロー  ジャン・コラーリ  マリウス・プティパ     音楽: アドルフ・アダン

オレシア・ノーヴィコワ  ウラジーミル・シクリャローフ

ノーヴィコワは軽やか。両脚を後ろに跳ね上げながら進むシーンでの「体重のなさ」など巧みな踊りだったと思いますし,夜の世界らしいひんやりとした感じもありました。が,しかし,2幕のジゼルに見えたかというと・・・?
なんだか溌剌として見えてしまったのですよね。技術的にはルンキナより上手だったと思いますので,雰囲気づくりが今後の課題・・・なのかもしれませんが,以前見たヴィシニョーワやザハロワの2幕にも似たような問題点があったと思いますので,ダンサーの適性の問題なのかも?

シクリャローフは,容姿的にはアルブレヒト向きだと思いますが,サポ−トが「なんじゃこりゃ?」でありました。軽そうなノーヴィコワをリフトするのに,あんなに腰を入れなければならないとは・・・体型的にはサラファーノフなどより上半身がしっかりしているように見えるのですが,不思議なことです。よほど非力なのでしょうかね? ソロが安定しないのも,もしかすると上半身の鍛え方が足りないせいなのかしらん?

 

『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』 アダージョ

振付: ウィリアム・フォーサイス     音楽: トム・ウィレムス(録音テープ)

イリーナ・ゴールプ  イーゴリ・コールプ

この作品は通常「エッジィ」とか「ソリッド」とか「無機質」といったような形容詞を伴って踊られるものだと思うのですが,そういう類の印象が皆無の上演でした。
前々回の世界バレエフェスティバルでこの演目を見たときも思ったのですが,この作品は今や「現代の古典」となり,いろいろなダンサーによっていろいろな味付けで踊られるようになった・・・ということなのでしょう。

今回の味付けは,「優雅」でしょうかね? あえて言えば,むかしむかーしの世界バレエフェスティバルでピエトラガラ/デュポンで見た舞台と似ているかな? 「クラシック・バレエ風」な上演でした。
予定調和的すぎてスリリングな感じがなく,これをフォーサイスと言っていいのか? という気はしましたが,2人の身体能力の高さは十分発揮されていたと思いますし,大柄なコールプの腕の中で舞うゴールプは,Aプロの少女役よりずっと愛らしく見えました。

 

『タリスマン』 パ・ド・ドゥ

振付: マリウス・プティパ     音楽: リッカルド・ドリゴ

エカテリーナ・オスモールキナ  ミハイル・ロブーヒン

Aプロに続き「神話もの」だったわけですが,オスモールキナはこういう作品が似合うバレリーナのようですね。たおやかな姫や可憐な少女になれるのかどうかはわかりませんが,気風のよさと言いましょうか,踊りにもポーズにも颯爽とした趣があって魅力的。気に入りました。

ロビーヒンは,「ダイナミック」に一意専心。Aプロ同様余裕がない踊りで「きれい」が伴わないので,私の好みではありませんが,まあ,悪くもないのでは?

 

『瀕死の白鳥』

振付: ミハイル・フォーキン     音楽: カミーユ・サン=サーンス

ウリヤーナ・ロパートキナ

美しかったです。
Aプロのほうは「運命に抗しつつも受け入れる」ヴァージョンで,こちらは「死のときが近づいているのを恐れつつも覚悟している」ヴァージョンかな?

 

『海賊』 第2幕のパ・ド・ドゥ

振付: ピョートル・グーゼフ     音楽: リッカルド・ドリゴ

ヴィクトリア・テリョーシキナ  レオニード・サラファーノフ

えーと・・・「海事を司る貴顕の家の姫君は,戦となれば自ら陣頭に立ち笑顔で全軍を鼓舞する女丈夫。軽業を以って仕える奴隷は,首を刎ねられないために,日々新たな技で彼女を楽しませねばならない」みたいなカップル?

テリョーシキナは,技術も音楽性も気品もプリマの輝きも,それはもう見事でしたが,「護ってあげたい」風味だけは徹底的に欠けておりますね。
その結果,私のイメージの中にある「マリインスキーのメドーラ(というより,キーロフのメドーラ)」とは違ったものになっていました。かっこいいから好きですけどー。

サラファーノフは,ワジーエフから「ワシーリエフに負けたらクビ」とでも言われたのでしょうかね? 大技披露だけが自らの使命であるかのようなパフォーマンスで,見ていて気の毒になりました。
たしかに技はスゴイですが,その準備のため棒立ちになってタイミングを計るような踊りで,音楽なんかあさってのほう。こういうの,私は見たくないなぁ。(一瞬,不調のあまり踊るのを止めるのかと思って,血が凍る思いがしましたよ・・・)

 

第2部 (ボリショイ・バレエ)

『ばらの精』 

振付: ミハイル・フォーキン     音楽: カール・マリア・ファン・ウェーバー

ニーナ・カプツォーワ  イワン・ワシーリエフ

カプツォーワが,とーってもとーっても愛らしかったです。衣装が似合って,まさに社交界デビューの少女ですし,動きも軽やか〜&伸びやか〜。

ワシーリエフは,わははは,今思い出しても笑っちゃうくらいヒドかったです〜。
まずですねー,基本的にミスキャストだったと思います。プール・ド・ブラの美しさが不可欠なこの作品を,(いくら,もう一つの重要要素の跳躍力があるとはいえ)ロシア人離れした腕の短さのこのダンサーに踊らせるとは・・・。しかも,衣裳が,写真で見たニジンスキー自身のものと似ていて,それがいっそうプロポーションを悪く見せていました。

とはいえ,この点は,ダンサーの個性の問題だから「これはこれであり」と言えないこともないでしょう。「ちっちゃくてバネがあるが薔薇の色香とは縁遠い」ダンサーたちが踊ることも多いですから。
カワイイ子鬼ちゃんが,ピーヒャラドンドンと少女の周りで楽しげに跳ねている・・・と思えば,まあよいかなー,と最初のうちは思いました。

が,しかし,「踊り慣れていないんだろーなー」が観客に見えてしまう「振りをこなすので精一杯。いや,こなせていないよねえ」状態であったのは困ります。後半になるにつれそれが顕著になって,「最後までがんばれ」と言いたくなる感じ。(後日知ったのですが,初役だったそうです) 若いダンサーですから応援モードで見ればいいのかもしれませんが,公演の趣旨からすると疑問です。ラトマンスキーはなにを考えていたのやら?

 

『ライモンダ』 第2幕のアダージョ

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: ユーリー・グリゴローヴィチ     音楽: アレクサンドル・グラズノフ

ネッリ・コバヒーゼ  アルテム・シュピレフスキー

とーーーーってもよかったです。魅了されました。

コバビーゼの「夢見るバレリーナ」という風情の美しい容姿とたおやかな叙情性はすばらしいですね〜。シュピレフスキーは立居振舞の品格こそ「もうちょっと」でしたが,長身にマントが映える美丈夫ぶりで,サポートやリフトはたくましく。
ほの暗い照明の中,白い衣裳で踊る二人の美しさは,まさに夢のように思われ,終わったときにはため息が出ました。

アダージョだけの上演だったのは,シュピレフスキーが(もしかするとコバヒーゼも?)ソロで観客を納得させる力がないからかもしれません。
・・・なんて,意地悪なことももちろん考えましたが,あのアダージョの後に,(いつもボリショイのダンサーたちがガラで踊る)ヴァリオシオンを見せてもらうと,「夢の場」感が失せそうだから,という理由かもしれません。少なくとも私には,「短いからこそ一場の夢」という感じが加わって,より儚く美しく感じられました。

 

『白鳥の湖』 第3幕の黒鳥のパ・ド・ドゥ

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: ユーリー・グリゴローヴィチ     音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

エカテリーナ・クリサノワ  ドミートリー・グダーノフ

クリサノワは,「男を惑わす」系のお顔立ちがオディールによくはまっていましたし,ヴァリエーションは小気味よく,グラン・フェッテは両手を上げてみせる難技を織り込み,王子を欺く演技もきちんと。「小粒」感はありましたが,若いバレリーナの踊るオディールとしては上々だったと思います。(何年か後には全幕で見てみたい,と思えた)

グダーノフには感心できませんでした。演技は淡白ですし,挙措の王子らしさも今ひとつ。かといって踊りで観客を納得させるだけの優れたテクニックもないようで,少々不安定。かなり物足りなかったです。

 

『スパルタクス』 第3幕のパ・ド・ドゥ

振付: ユーリー・グリゴローヴィチ   音楽: アラム・ハチャトリアン

スヴェトラーナ・ルンキナ  ルスラン・スクヴォルツォフ

「わ〜い『スパルタクス』だぁ。ボリショイだもんね,これがなくっちゃ」という気分を裏切らない,よい上演だったと思います。

特に,ルンキナがすばらしかった♪ 
たおやかな風情と凛とした気品の両立。スパルタクスへの妻としての想いと「革命派の女」らしい燃える想いの両立。嫋々たる女らしさと胸の奥に秘めた強さの両立。「これぞフリーギア」と思わせてくれました。
モノローグはドラマチックでしたし,アダージオでのリフトはさらにドラマチック。単に美しく空中にいるだけでなく,リフトされながらアクセントをつけて,より効果的に見せているのですよね〜。見事でした。

スクヴォルツォフは,ヒロイックな感じがあまりなく,ルンキナほど印象的ではなかったですが,あの難しそうなリフトをスムーズに見せていたのが立派でした。(もっと高いともっとよいとは思うが,ベロゴロフツェフやクレフツォフと比べてもしかたない,という気もした)

 

『ミドル・デユエット』

振付: アレクセイ・ラトマンスキー     音楽: ユーリー・ハーニン

ナターリヤ・オシポワ  アンドレイ・メルクーリエフ

3演目グリゴローヴィチ振付による「ボリショイならでは」の作品が続いたあとは,現在の芸術監督ラトマンスキーのこれも「ボリショイならでは」の作品・・・とはいかずに,かつてラトマンスキーがマリインスキーに振り付けた小品が登場。
私は初めて見たのですが,最近のマリインスキーのガラでおなじみの演目なので,評判はかねがね。・・・というか,誰も誉めないが,詳細を描写して貶す方もいないので,「どういう作品なのかさっぱりわからなかったのを,やっと自分の目で見られることになってよかった」という気分で臨みました。

で,予想していたほどヘンテコなものではなかったです。
えーと,音楽方面に疎いのですが,ああいう音楽はミニマリズムということになるのでしょうか? 速くて規則的なリズムを刻む音楽の中,黒い簡素な衣裳の2人が間断なく踊り続ける作品でした。二人が向かい合うより,客席を向いて男性が後ろから女性を支える動きのほうが多い印象。その結果,オシポワの集中力と身体能力が非常に印象的で,メルクーリエフのほうは黒子的に見えてしまいました。

なにを言いたいのかはさっぱりわかりませんが,音楽の表現という意味では,よい作品のように思われました。
ただし,現代モノが得手でない私には,長すぎました。一本調子で盛り上がりや変化に乏しかったせいもあるのかな? いったん二人が倒れたあと,再び踊りだしたときには「やれやれ,まだ続くのかよ」と徒労感に襲われましたし,「また見たい作品」には全然該当しないで終わりました。

 

『ドン・キホーテ』 第3幕のパ・ド・ドゥ

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: アレクサンドル・ゴールスキー     音楽: ルードヴィヒ・ミンクス

マリーヤ・アレクサンドロワ  セルゲイ・フィーリン

溢れるスターオーラと安定した技術と見せ場を心得たプリンシパルらしい表現で,ガラの最後を飾るにふさわしいペアが登場し,最後を飾るにふさわしい作品を見事に踊った・・・という感じでした。

特にアレクサンドロワはかっこいい。
大柄な身体を真紅のチュチュに包んで出てくるだけで華やかですし,舞台を明るくするような自然な笑顔もすてき。そして,踊りが大きくてダイナミック。観客をぐいぐいと自分の世界に引き込んでいく磁力がありました。グラン・フェッテはシングルで通しましたが,最後まで音楽とぴたっと合って,ポアントが一点から動かず,痛快そのもの。ガラのキトリはこうでなくっちゃ〜,という感じ。
以前気になった顎を突き出す感じの姿勢も解消したようですし,ほんと,彼女はすてきなプリマになりましたね〜♪

フィーリンは,「ダンスールノーブルの踊るバジル」を見せてくれました。踊りは省エネモードだったと思いますが,熟練のサポートと男の色気と見得きりのタイミングのうまさで,たいそうかっこよかったです。
以前の世界バレエフェスティバルでこのペアを見たときは,新進のアレクサンドロワに対する先輩フィーリンの熱のなさに失望したのですが(そのせいで,今でも彼は少々苦手・・・),今回はそんなことは全然なく,対等の実力のプリンシパルが演じ合い競い合うことで相乗効果を生むという,優れたパートナーシップを見ることができました。

 

フィナーレは,Aプロと同じ音楽で,同じ演出。一番「おおっ」だったのは,スパルタクスのペアが見せ場の大リフトで登場した瞬間。見事でした。(作品の中でのリフトより決まっていたかも?)
Aプロと違って二人の芸術監督は登場しませんでしたが(マチネで登場したのは,NHKのテレビ収録があったから?),それぞれのカンパニーの先任プリマがそれぞれの指揮者を迎えにいくという演出は同じでした。

今回の公演は,内容も充実していたのですが,それ以前に企画コンセプトが非常によかったと思います。ありそうでなかったですよね,こういうの。
際立った実力で拮抗するバレエ団が国内に二つあり,しかも招聘元が同じだということを生かした優れた企画ですし,「紹介してもらわなくても知ってます」なスーパースターの参加を最小限にしているのもたいへんよかった。奇を衒わずにパ・ド・ドゥを並べたというシンプルな構成も,次にバレエ団として来日したときにどのダンサーの日を選ぼうかしら・・・の参考になってよいですよね。

というわけで,個別のパフォーマンスについては誉めたり貶したりしましたが,全体としては大いに満足した公演でした。
毎年・・・とは言いませんが,どちらのカンパニーも来日しない年には,こういう公演をまた開催してもらうと嬉しいな〜。(そのときは,ヴァカンス焼けは勘弁してほしいな〜)

(2008.03.19)

【広告】 両バレエ団の過去の貴重な映像

B000MGBPXI ボリショイ・バレエの栄光
ボリショイ・バレエ
WARNER MUSIC JAPAN(WP)(D) 2007-03-07

by G-Tools
   
B000MGBPX8 キーロフ・バレエの栄光
キーロフ・バレエ
WARNER MUSIC JAPAN(WP)(D) 2007-03-07

by G-Tools
サイト内検索 Bプロの文頭に戻る 上に戻る 07年一覧表に戻る 表紙に戻る