07年7月21日(土)
東京文化会館
音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
振付: マリウス・プティパ, レフ・イワノフ
台本・台本改訂・振付改訂: アレクセイ・ファジェーチェフ ファジェーチェフ補佐: タチアーナ・ラストルグーエワ, ドミトリー・コルネーエフ
衣裳・装置: ヴャチェスラフ・オクネフ 照明: ポール・ヴィダー・セーヴァラング
指揮: ザーザ・カルマヘリーゼ 管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団
オデット(白鳥女王)/オディール(偽のオデット): ニーナ・アナニアシヴィリ
プリンシパル・ダンサー/ジークフリート王子: アンドレイ・ウヴァーロフ
芸術監督/悪魔: イラクリ・バフターゼ 王妃: テオーナ・チャルクヴィアーニ 式典長: ユーリー・ソローキン
パ・ド・トロワ: アンナ・ムラデーリ, ニーノ・ゴグア, ラシャ・ホザシヴィリ
3羽の白鳥: アンナ・ムラデーリ, ニーノ・コグア, ショレナ・ハインドラーワ
4羽の白鳥; マリアム・アレクシーゼ, テオーナ・アホバーゼ, ツィシア・チョロカシヴィリ, ニーノ・マグラーゼ
花嫁候補: ナティア・ブントゥーリ, ニーノ・サナーゼ, エカテリーナ・シャヴァリアシヴィリ, リーリ・ラバーゼ, ルスダン・クヴァツィアーニ, エカテリーネ・チェビニーゼ
ナポリの踊り: ニーノ・マハシヴィリ, アルトゥール・イワノーフ
ハンガリーの踊り: アリーサ・ボクダーノワ, エフゲニー・ゲラシメンコ
スペインの踊り: マイヤ・イリュリーゼ, タマーラ・チェリーゼ, ダヴィド・ホザシヴィリ, ワシル・アフメテリ
ポーランドの踊り(マズルカ): イナ・アズマイパラシヴィリ, ソフィコ・ファンツライア, ヴェーラ・キカビーゼ, ナターリア・リグヴァーワ, アルチル・クヴァツィナーゼ, パーヴェル・イワノーフ, ゲーラ・ペズアシヴィリ, オタル・ヘラシヴィリ
アナニアシヴィリの『白鳥の湖』全幕は初めて見ました。
少々背中に肉がついてしまったせいもあるのでしょうか,人間的な感じのオデットでした。神秘的な白鳥の女王ではなく,愛らしい人間のお姫様が悲しみを踊っているという風情。最近の「細くて背が高くて脚が180度上がって」なバレリーナを見慣れているせいかウヴァーロフの背が高すぎるせいか「オデットにしちゃちっちゃいなー。なんだか説得力ないなー」と思いましたが,美しかったですし,そもそもあの年齢で「愛らしいお姫様」に見えるのがスゴイな〜,と。
オディールのほうもお姫様。悪意などまったくないかのように,大きな瞳を明るく輝かせて,楽しげに王子を翻弄しておりました。そして,王子が真実を知って嘆いているときも同じように明るく楽しげな笑顔で,いやー,これってかなりコワイですよね〜。
グラン・フェッテはシングルでしたが,規則的に片手を上げて華やかに見せていました。ただ,指揮者のせいでしょうか,あまり音楽に合っていなかったような気はします。
「彼女の古典全幕は最後の機会かも」と思ったから見にいったのですが,それがよかったのかどうかは少々微妙な心境。技術面が以前のようではないのは予想の範囲内だからよいのですが,オーラが減少した? という気がしたので。
いや,実のところ,私は全然彼女のファンではないのです。というより,10年くらい前の彼女について「見事とはわかるけれど,華がありすぎて,キラキラしすぎていて息苦しくなるから苦手」などと感じていました。ところが今回見たら,すっかり落ち着いてしまって・・・うーん,そうなればなったで,物足りなく感じてしまいました。(勝手な言い種ですみませんです)
ウヴァーロフはいつもどおり。
長身で見事なプロポーション,信頼できるリフトとサポート,王子役にふさわしいマナー,回転も跳躍も問題なくきれいで,でも,ごめんなさいね〜,私のツボには入らない。1幕でジークフリートの人柄を描けないので損をした面もあるかもしれませんが,なんというか,「いい人そう」に見えすぎてダンスールノーブルらしく見えないのですよね,私には。
旧ソ連のバレエ団だけあって,レベルは高いように思いました。
踊りも悪くなったですが,まず,プロポーションとスタイルが美しい。女性も男性も,総じて頭が小さくて腕も脚も長くて,ほっそりしたダンサー体型。直前に見たオーストラリア・バレエ団のダンサーたちが,プロポーションはよいけれど健康美人とマッチョの集団だったので,「あれはあれで楽しかったけれど,こういう見た目のバレエのほうが好きだわ〜,なじむわ〜」としみじみ思ってしまいました。
白鳥たちはきれいでした。上半身がたおやか〜に動くのですよね。
動きもまずまず揃っていました。日本のバレエ団のように揃っているわけではないですが,文句を言いたくなるレベルよりは上。足音が大きいのが難で,素直にうっとりしにくかったですが,それも旧ソ連のカンパニーの特色かもしれませんねー。
それに比べると,キャラクテールは見劣りしました。ダンサーが専業化していないのでしょうか? キャラクテールダンスらしい動きのダイナミックさに欠ける印象。(日本のバレエ団か? なんて) ナポリでは,「あっちゃー」なミスもありましたし。
中では,スペインの女性2人がよかったと思います。
なお,舞踏会の構成は,最初は王妃だけが登場し,ナポリ,ハンガリー,ポーランドが終わったところでファンファーレ。王子が登場してにこやかに花嫁候補と踊るが1人を選ぶことは拒否。(←かなーり唐突な話の展開) そこにオディール+ロットバルト+配下のスペインが到着。スペインの4人が踊ったのちに黒鳥のパ・ド・ドゥ.という段取りでした。
話が後先になりますが,1幕のパ・ド・トロワはよかったです。特に,ホザシヴィリ(男性)の柔らかで素直な踊りが「ロシア・バレエだな〜(ロシアじゃないけど)」で好印象でした。
そうそう,振付はかなり変えてありました。一般的な振付のほうが魅力的に思いましたが・・・要は「見慣れているから」でしょうかね?
美術を担当したのは,レニングラード国立バレエや新国立劇場バレエ団でおなじみのヴャチェスラフ・オクネフ。
湖畔の場面は中空の満月が印象的。そして,舞踏会の装置は「どっかで見たなー」なものでした。(たぶんレニングラード国立と似ていた) キャラクテールの色遣いは彼にしては落ち着いた感じだったと思いますが,衣裳デザインにはやはり既視感が。そして,きわめつけは花嫁候補たち。「やはり」と描写すべきか「またも」と呆れるべきか,とんがり帽子をかぶっておりました。
ファジェーチェフの改訂演出は,とうてい誉めかねます。
舞台はクラスレッスンから始まり,続いて『白鳥の湖』のリハーサルに。衣裳を着けてのパ・ド・トロワのリハーサル,衣裳なしでランタンなしでコール・ドが去り,愁いに沈むジークフリートのソロの練習へと続くが,芸術監督はダメ出しの末に,匙を投げて? 舞台を去り,取り残された男性プリンシパルは疲れて眠り込む。夢の中では芸術監督がロットバルトとなって現れ,以下は普通どおり湖畔→舞踏会→再度湖畔と続くが,最後オデットはどこかに消え,王子(プリンシパル)は再び眠りに落ち,目を覚ますとスタジオにいる。そしてオデットの幻影? が現れて舞台を一回りして去り,プリンシパル(王子?)は跪いて愛を誓う・・・という感じでした。
事前にジャパンアーツのサイトであらすじを読んだときから「何を狙っての改訂なのか?」と不審に思っていましたが,実際に見てさらに不可解に思いました。特にラストは,ワケわかりませんです。たぶん間もなく本番が始まると思うのですが,あのプリンシパルさんはちゃんと舞台を務められたのでしょうかねえ?
1幕1場の踊りを大幅に割愛し,休憩も湖畔と舞踏会の間の1回だけ。「全幕バレエを見た」という気分になれない演出でした。
もっと言えば,いくら主演がアナニアシヴィリ/ウヴァーロフとはいえ,このバレエ団でこの演出でS席1万8千円は高すぎると思います。まあ,最近はほかの公演もチケット代が高騰していますし,この公演に関してはそれでも順調にチケットが売れたようですから,要は需要と供給の関係ということになるのかもしれませんが。
(2007.7.29)