眠れる森の美女(オーストラリア・バレエ団)

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2007年7月16日(月・祝)

東京文化会館

 

振付: マリウス・プティパ/スタントン・ウェルチ

音楽: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

装置・衣裳: クリスティアン・フレドリクソン     装置・衣装協力: フィオナ・レイリー      照明: ジョン・レイメント

指揮: 二コレット・フレイヨン     演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

オーロラ: ルシンダ・ダン     フロリムント王子: マシュー・ローレンス

フロレスタン王子: ケヴィン・ジャクソン   王: フランク・レオ     女王: キスメット・ボーン     カタラブット(式典長): コリン・ピアズ

宮廷の看護婦: ソフィー・フレッチャー     看護婦: カミラ・ヴァーゴティス, ジュリエット・バーネット, ナタリー・ヒル, ジーナ・ブレシャニーニ

リラの精: ダニエル・ロウ

カナリヤの精: マドレーヌ・イーストー    地の精: 久保田美和子     空気の精: ラナ・ジョーンズ      水の精: アンバー・スコット     火の精: ゲイリーン・カンマーフィールド

リラの精の騎士: アダム・ブル, ポール・ノブロック     青い鳥: レミ・ヴェルトマイヤー

二人のイワン: ダニエル・ゴーディエロ, ツゥ・チャオ・チョウ     ジンジャーキャット:  ベン・デイヴィス     白い猫: ナターシャ・クセン

人形: ジェシカ・トンプソン, ブルック・ロケット, 本坊玲子, ダナ・スティーヴンセン     彫像: ルーク・インガム, ティモシー・ファラー, ゲンナーディ・クーチン, ジョン=ポール・イダシャク

カラボス: オリヴィア・ベル

四人の冬の精: ロビン・ヘンドリックス, ジェーン・カッソン, ステファニー・ウィリアムス, フランシス・マーフィー     フクロウ: シモーヌ・プルガ     カラボスの騎士: 藤野暢央、マシュー・ドネリー

四人の王子: トリスタン・メッセージ, アダム・スーロウ, ルーク・インガム, アンドリュー・キリアン

オーロラの友人: カミラ・ヴァーゴティス, ジュリエット・バーネット, ナタリー・ヒル, ジーナ・ブレシャニーニ

男爵夫人: ジェーン・カッソン

 

事前の宣伝から判断するに,この版の「ウリ」の第一は美術だったと思うのですが,残念ながら私の趣味には合いませんでした。一方で,2番目の特長であろう「ちょっと変わった演出」のほうは,大いにエンジョイ。

 

まずは美術の話から。
ひと言で言えばオリエンタル調ですが,オリエントは広いですからねー,すっげーごちゃまぜ状態。
1幕(普通だとプロローグ)の装置はイスラム風,2幕(普通の1幕)と結婚式は東南アジアの仏教寺院か? で,廷臣たちはロシア風の帽子をかぶった中国人とバリ島の僧侶。女性たちはタイ人やバヤデルカ。オーロラの両親は,『ライモンダ』の時代のハンガリー人のようでした。

混沌としていてそれなりに面白かったのですが,結婚式にはものすごくがっかり。
16歳の誕生祝いと同じ装置だったのが期待外れでしたし,何より照明が受け入れ難い。要は好みの問題なのでしょうが,キンキラキンの装置に赤(と金?)の照明が当たっているのが,非常に下品に感じられて,こんなの見たくないなー,と。

リラを始めとする妖精たちは,白のユニタードの上にチュールの透けるスカート。リラが真っ白で,地・空気・水・火の精はそれぞれの特徴を表わした柄がうっすらと。カナリアの精だけは薄いイエローでした。彼女たちには羽根はないのに,リラの騎士だけは,背中に妖精というより天使? な羽根が。
カラボス一味も白系。女性(四人の冬の精)もはリラたちと似たテイストなのは,同じ種族? の妖精だということなのでしょう。そして,こちらにも2人の騎士が従っておりました。(はて? 羽根はあったかな?)

カラボスは冬の女王だそうですから白系は納得がいくし,あったかそうでかわいいフクロウとかネズミ(子役?)など周りのかぶりものたち(冬だから着込んでいる?)は大いに気に入りましたが,リラ@春の女王一行は謎。もっと「春だわ〜」な色遣いにはできなかったのでしょうかね?

というような周りの中で,オーロラだけがクラシックチュチュで目立つ・・・べきだと思うのですが,そうでもなかったです。色が白系なのが悪いのかなぁ? 
ダンの存在感や技術で「主役はこの人」になっていたと思いますが,衣裳がそれを助けていない感じ。舞台の中で浮き出してこない衣裳だったと思います。

 

演出は,「読み直し」というような大仰なものではなく,「いろいろ工夫してみました。面白いでしょ」という感じ。

この版で一番特徴的なのは,途中で消えたり,最後だけ出てくるような登場人物をなくしたことではないかと思います。
リラが登場する都度彼女以外の妖精たちもいっしょに登場して,結婚式では宝石の踊りと青い鳥のパ・ド・ドゥのフロリナのパートを担当します。一方,通常結婚式で唐突に現れる青い鳥や猫たちは最初から登場し,処理し切れないと判断された? 赤頭巾たちはカット。滅多に上演されない3人のイワン(「人食い鬼と親指小僧」と同じ音楽なのを発見)は2人のイワンとなって1幕から宮廷に勤務していました。
さすがに王子は途中からの登場ですし,男爵夫人を始めとする狩の場の一行はその後は登場しませんが,全体としてすっきり〜とした人員合理化。

次に,リラとカラボスとは春と冬との闘争だという設定。
事前の知識なしに春とか冬とか理解できる演出だったかは少々「どうだろ?」ですし,そんなに春がエラいんかい? 冬が悪とはこれいかに? という本質的な疑問はあるわけですが,まあ,「命名式に呼ばれないので怒り狂って」にこだわる必要もないでしょうから,悪くもないですよね。

・・・程度に思って見ていたのですが,ラストで意表を突かれました。
祝祭感の中で上手奥に去っていく人々の後ろからゆっくりと歩いていくカラボス。舞台中央まで来たところでゆっくりと観客席に振り返って・・・。
もしかして,あのカラボスを見せるための設定だったのでしょうか? 季節は巡る。時は移る。冬が100年続いたなら春も100年続くかもしれない。しかし永遠はあり得ない。そんな寓話なのかしらん?

フロリムントのオーロラ救出劇にはリラは同行せず(寒すぎて城に入れない?),替わりに? 助手として弟王子が登場したのはユニークだったと思います。(にしてもフロレスタン王子って・・・? オーロラのパパの名前を借りてくるのはテキトーすぎ)
ものすごく頼もしい助っ人でもなかったですが,2人で足らざるを補いあってめでたく目的を達したわけで,結構なことです。(というより,弟登場の主目的はそこではなく,宝石のパ・ド・サンクの男性ダンサーの調達だったのか?)
なお,カラボス一味に勝てたのは,剣の力や知恵の力によるものではなく,劣勢で素手になりながらも必死に戦う中でカーテンを引きちぎり(プログラムによると窓を破り)日光が入ってきたから・・・ということでした。春と冬の対立構造を踏まえたもっともな演出ですよね。

独自の点がもう一つ。
命名式でのカラボスとリラのいざこざの場面は,オーロラのゆりかごの脇で,親指大に小さくなった妖精たちによって行われたらしいです。(私は「小さくなっている」とは気付かなかったが,宮廷の人々がいないところで話が進んでいくのはわかった)
したがって,「16歳の誕生日が危ない」とは人間たちは認識していませんし,そもそもつむぎ針も登場しません。2幕の最初(編み物をする女たちの音楽)でカラボスはマッジのように魔法で呪いの黒薔薇を作って,お転婆なオーロラは興味本位にそれを掴んで・・・という話になっていました。

細かい点ですが,「ネコつーよりタヌキ?」な姿のオス猫(ジンジャーキャット)が,パ・ド・ドゥを踊るべく登場したカナリアに襲いかかろうとしていたのは,さすがネコ。こういう楽しい演出で楽しませてくれるのもよいですよね。

 

振付は,かなり改変してありました。中途半端にもとの踊りが残っている感じで私は落ち着かない気分になりましたが・・・でも,ノイマイヤー版『眠れる森の美女』を見て思ったのですが,プティパをそのまま踊ると粗が見えてしまうようなカンパニーの場合は,定番の振付にこだわらないほうが賢明なのですよね。

でも,男性の踊りを無理に難しくするのはやめたほうがよいのでは? 
具体的には,ローズアダージオのラスト近く。オーロラが4人の王子の捧げる花を受け取りながら上手奥から下手前に進んでいく場面なのですが,どういうわけか,王子たちがトゥール・ザン・レールをして跪いて花を捧げるという振付になっていました。派手で見栄えのする改変とも言えるでしょうが,王子たちのザン・レールのデキがあまりにもスリリング。(ダン@オーロラのバランスの1万倍くらいはらはらしちゃったわよ)
その結果,花を差し出す動きに余裕がなくなり,オーロラ役が「花をひったくって音楽に合わせる」破目に陥っていて,なんとも気の毒だなー,と。

 

ダンサーについてはオーロラを踊ったダンが圧倒的でしたが,世界バレエフェスでパ・ド・ドゥを見て「すばらしいっっ♪♪♪」だったほどではなかったかな。プロポーションなどを含めて,オーロラにしては健康的すぎるように見えてしまいました。(まあ,カラボスに平手打ちを喰らわすようなお姫様だから,あれでいいのかもしれないが)
見事なバランスと高さのある跳躍がほんとーに見事。

フロリモントのローレンスについては,見直しました。
世界バレエエフェスのときには「ダンのほうはすてきなんだけど,もっといいパートナーいないのかしらね〜?」などと思って見たのですが,カンパニーの中で見ると,立ち居振舞などが,正真正銘「真ん中を踊るべき人」でありました。

リラのダニエル・ロウもカラボスのオリヴェア・ベルも美しかったですし,ほかのダンサーたちも皆役にはまっていたと思います。王様だけは(年齢に不足はなさそうでしたが)貫禄不足だったかも。

ソリストたちの踊りもよかったです。「きれいだわ〜」という感じではなかったですが,女性の跳躍の強さと男性のリフトのスムーズさには感心しました。
コール・ドは,うーむ,やはり揃っておりませんでしたが,そういうことを追求しない振付になっていたので,まあいいか,と。

 

全体としては,見られてよかったなー,という感じ。見逃さなくてよかった,というほどではないですが,珍しいモノは見ておきたいですし,今回見ておかないと次の機会があるかどうかわかりませんし。
私は,もっと正統派で格調高くて退屈な『眠れる森の美女』が好きですが,こういう変わったモノもいいですよね〜。

(2007.08.11)

 

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