ドン・キホーテ(新国立劇場バレエ団)

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2007年7月1日(日)

新国立劇場 オペラ劇場

 

振付: マリウス・プティパ, アレクサンドル・ゴルスキー     作曲: レオン・ミンクス     台本: マリウス・プティパ

改訂振付: アレクセイ・ファジェーチェフ

指揮: エルマノ・フローリオ     管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

舞台美術・衣裳: ヴャチェスラフ・オークネフ     照明: 梶 孝三

キトリ: 寺島ひろみ     バジル:  デニス・マトヴィエンコ

ドン・キホーテ:  長瀬信夫     サンチョ・パンサ: 奥田慎也

ガマーシュ: ゲンナーディ・イリイン     街の踊り子: 厚木三杏     エスパーダ: マイレン・トレウバエフ

ジュアニッタ(キトリの友達): 寺島まゆみ     ピッキリア(キトリの友達): 西山裕子

ロレンツォ: 小笠原一真     ロレンツォの妻: 堀岡美香

トレアドール: 市川透, 陳秀介, 貝川鐵夫, 冨川祐樹, 江本拓, 中村誠, 高木裕次, 澤田展生

メルセデス: 西川貴子     ギターの踊り: 楠元郁子     居酒屋の亭主: 石井四郎

ジプシーの頭目: 市川透     二人のジプシー: 越智友則, 八幡顕光

森の女王: 川村真樹     キューピッド: 高橋有里     

3人の妖精: 真忠久美子, 西山裕子, 丸尾孝子     4人の妖精(←たぶん): さいとう美帆, 本島美和, 大和雅美, 小野絢子

公爵: ゲンナーディ・イリイン     公爵夫人: 西川貴子

ボレロ: 湯川麻美子, 貝川徹夫     第1ヴァリエーション: 丸尾孝子     第2ヴァリエーション: 遠藤睦子

友達(←たぶん): 真忠久美子, 西山裕子, 川村真樹, 寺島まゆみ, 堀口純, 小野絢子

 

とってもよかったです〜。質の高い公演だったと思います〜。

まず,寺島さんがとーーーってもよかった。
全体的な印象としては『コッペリア』のときと同じ。ですから,同じ文章をもう1度書きますね。
「キュート」という感じの愛らしさで,主役にふさわしい華があって,演技がきちんとできて(=笑いがとれて),踊りはとても上手。

今回特に感心したのは踊りです。びっくりするような超絶技巧ではないけれど,いかにもキトリらしい歯切れのいい踊り。跳躍が強いし,ポアント技がきれい。(前日のエフセーエワはさておき)東京バレエ団とスカラ座バレエで「キトリにしてはおっとり〜」な踊り方ばかり見ていたせいか,ものすごく感心していまいました。

ドゥルシネアの踊り分けも見事。奥ゆかしさの感じられるほんわかしたお姫様でした。この場面での跳躍は,キトリのときのシャープさと対照的に「ふんわり〜」ジュテで,これにも感心。

グラン・パ・ド・ドゥでのバランスやフェッテは「普通」だったとは思いますが,でもフェッテでダブルを入れたり,最後の決めポーズ直前のバランスを引っ張るなど,それなりに見せてくれました。
それから,アダージオでパートナーの顔を嬉しそうに覗きこんでいて・・・ああいうの初めて見たなぁ・・・いかにも花嫁らしく幸せそうで,見ている側もなんだか幸せ〜。

演技的には,キトリにしてはおとなしめだったとは思います。
でも,ファジェーチェフ版の演出は,現代的なものではなく,「いかにもロシア・バレエ」の古風なものなのですよね。なにしろ,場面の配列からしてゴルスキーよりもっと古く,プティパ演出を採用しているというのですから。こういう版のキトリとしては,こういうふうに「品よくお茶目,品よくやきもち」程度がいいのかも〜,と思いました。

 

次に,マトヴィエンコさんがすばらしかった。数年前の「荒んだ?」が嘘のような充実ぶりでした。(ボリショイに落ち着いてよかったよね〜♪)

「床屋の兄ちゃん」がよく似合うお顔立ちと雰囲気ですし,コミカルな演技もラブラブな演技も上手。それに加えて,パートナーを伸び伸びと踊らせる堅実なリフトとサポート(前から普通には上手だったが,さらに上達したと思う)と多様な難しい技をさらりと見せられるテクニックを持っている。特に回転技はすごかった〜。
いや,ソロに関しては,これでは誉め足りない。えーと・・・難しい技を織り込めるだけのテクニシャンでありながら,指先まで爪先まで美しく踊れるから,テクニックが突出しないですべてがスムーズに見える見事な踊り。

そして何より,「さすがはボリショイ。国際的に一流ダンサー」な存在感と「ゲストというより団員に見える」周りへの溶け込み方の両立がすんばらしい。
黒髪でないこと(と新国の公演なのに小嶋直也でないこと)以外文句なしのバジルでした。ブラヴォ♪

 

そして,脇を固める女性ダンサーの充実ぶり。

キトリの友人を踊った寺島まゆみさんと西山さんは,まず,2人ともプロポーションがよいのが嬉しい♪ 主役の寺島ひろみさんもスタイルがよいわけですが,この2人も負けず劣らず。これだけそろえるのは難しいですよね〜。3人でつるんでいるところは「日本のバレエ団じゃないみたい」でした。
2人ともお顔は「カワイイ」タイプかつ「ちゃきちゃき」が似合う雰囲気。踊りも演技も上手でした。
まゆみさんに関しては,お友達がキトリと同じ顔だというのはいかがなものか? なんて思っていましたが,実際に見たら全然気になりませんでした。

エスパーダを巡る3人の女たち(?) もそれぞれの個性を発揮。
厚木さんの街の踊り子は,今日のお目当ての一つ。容姿は日本人離れしているし,勝気そうなのも適役。踊りはキレているし,音楽の見せ方が上手だし,期待どおりとってもよかったです〜。
西川さんのメルセデスは,キャラクターダンスにしてはアクセントが足りないとは思いましたが,腕の動きがきれいでした。
そして,楠本さんのギターの踊り。大柄な身体が柔らか〜く動いてドラマを感じさせてくれました。踊っているときと「キトリをみんなで隠しましょー」の時のかわいらしさのギャップも魅力的。

森の女王は川村さん。おっとりとした雰囲気と安定した踊りで,そこはかとなく幸せな気分にしてくれました。愛らしい感じなので「威厳ある」とは違うのですが,主役オーラばっちりの寺島さんといっしょに踊って「あっちは姫でこっちは女王」に見えたのも立派なことだと思います。
キューピッドの高橋さんは,こういうのを「役を自分のものにしている」と言うのだろうなー,という感じ。顔の表情を上手に愛らしく作っているし,後ろ脚のはね上げ方(?)もキューピッドらしいし,最後のパ・ド・ブレは細やかですべるよう。さすがはベテランだなー,と思いました。

この場面のコール・ドの美しさは感動ものでした。(2月の『眠れる森の美女』がイマイチだったので,感動がより強まったということもあるかな) 並んでポーズをとっているだけで美しいのですよね〜。ほっそり〜,たおやか〜,優しげ〜。
まあ,その代わり? 1幕での躍動感などはさほどでないわけですが,私にとっては,プティパ的な場面を優美に踊ることこそが「正しいコール・ド・バレエのあり方」なので,改めて「このバレエ団いいよね〜♪」と。

3幕は,まずはボレロ。湯川さんは,こういう役は上手ですよね〜。紫のスカートの裏に見える水色も鮮やかに,色気を見せつつ踊っていました。
グラン・パのソリストは丸尾さんと遠藤さん。2人とも少々地味ではありますが,「きっちりお仕事」で跳躍の多い振付を安定して見せてくれました。

そうそう,アントレを踊る友達6人はソリスト中心。夢の場面の3人の妖精・4人の妖精もそうでした。こういうキャスティングが舞台のレベルを上げているのですよね。
そういえば今回の公演は,研修所を卒業したばかりのメンバーも皆さん出演していたのですが,最初からソリストで入団する小野さんはこの辺りにキャスティングされておりました。きれいな方なので,これからが楽しみです〜。

 

という女性陣の充実に比べると,男性のほうはイマイチでした。(見にいく前からわかっていたことではありますが)

まず,トレアドールの皆さんがおとなしい。踊れていないとは言いませんが,要するにおとなしい。バレリーナだけでなく男性ダンサーもたおやか〜を目指して日々精進しているのか? 
などという冗談を思いつくくらい迫力に欠ける闘牛士たち。見た目指数はかなり上がっていると思うのですが,うーむ。

いや,男性が皆おとなしいわけではないのですよね。「ちっちゃいが踊れる」ダンサーで揃えたセギディーリャの最前列の皆さんは,陽気で覇気ある踊りでした。
中でも目立ったのが一番上手寄りの方で・・・2幕でわかりましたが,2人のジプシーの1人を踊った越智さん。動きにキレがあるし,キャラクテールらしいダイナミックさもあり,「オレを見ろ」もあって,よいダンサーですね〜。
とはいえ,「踊れるがちっちゃい」がまた増えちゃったわよぉ,という気もしました。うーむ。

もっと元気だったのは,エスパーダを踊ったトレウバエフさんです。
踊りはコントロールが効いてきれいだし,エスパーダらしいポーズや体の反りはキメキメだし,伊達男らしい演技もしているし,移籍してきたころの「地味だよねえ」なんて微塵もない存在感だし・・・なのですが,「かっこいい」とは全然思えなくて笑いたくなってしまいましたよ。(ごめん)
たぶんご本人の責任ではなく,プロポーションとお顔立ちが伊達男向きではないということだと思います。(重ねてごめん)

長瀬@ドン・キホーテ&奥田@サンチョ・パンサは,いつもどおり。うん,新国の『ドンキ』だな〜,と思えるのが何よりでした。
イリインさんのガマーシュは,面白くないわけではないですが,存在感が薄いなぁ。
そうそう,ロレンツォは小笠原さん。この日一番の抜擢キャスト? でしたが,大きな身体だからそれなりにお父さんに見えましたし,演技も悪くなかったです。

 

演出はいつもどおり。美術もいつもどおり。(当たり前だな) 絶賛するようなものではありませんが,特に不満はないです。東京にはたくさんバレエ団があるわけで,各バレエ団それぞれ違う演出を見せてくれるのは結構なことです。
それに,『ドン・キホーテ』という演目は,演出ではなくダンサーが勝負。キトリだったか? バジルに見えたか? 踊りの技術は? 演技は笑えたか? で印象が決まる作品だと思います。そういう意味で,この日の舞台は高水準。
ものすごーく盛り上がったわけではないですが,「楽しかったわ〜。『ドンキ』見たわ〜。よかったわ〜」という気分になれるよい公演でありました。

(2007.08.06)

 

Don Quixote

Minkus Terekhova Ruzimatov

B0006212TU

テレホワ/ルジマトフ主演
キーロフ・バレエ

リージョンフリーの輸入版

ミハイル・バリシニコフの「ドン・キホーテ」

ミハイル・バリシニコフ アメリカン・バレエ・シアター ミンクス

B000CSUUHS

ハーヴェイ/バリシニコフ主演
アメリカン・バレエ・シアター
 

ロシア国立チャイコフスキー記念ペルミ・バレエ ドン・キホーテ(全3幕・プロローグ付)

ニーナ・アナニアシヴィリ アレクセイ・ファジェーチェフ ミンクス

B000PSJ86O

アナニアシヴィリ/ファジェーチェフ主演
ペルミ・バレエ

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