ドン・キホーテ(ミラノ・スカラ座バレエ団)

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2007年6月9日(土)マチネ

東京文化会館

 

振付: ルドルフ・ヌレエフ     振付指導: アレット・フランション

音楽: ルートヴィヒ・ミンクス     編曲: ジョン・ランチベリー

装置: ラファエーレ・デル・サヴィオ     衣裳: アンナ・アンニ

指揮: デヴィッド・ガーフォース     演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

協力: 東京バレエ学校

 

ドン・キホーテ: フランチスコ・セデーニョ     サンチョ・パンサ(従者): ステファーノ・ベネディーニ     ロレンツォ(宿屋の主人): マシュー・エンディコット

キトリ/ドルシネア: マルタ・ロマーニャ     バジル: ミック・ゼーニ

ガマーシュ: ヴィットリオ・ダマート     二人のキトリの友人: モニカ・ヴァリエッティ, アントネッラ・ルオンゴ

街の踊り子: ベアトリーチェ・カルボーネ     エスパーダ: アレッサンドロ・グリッロ

闘牛士たち: クリスティアン・ファジェッティ, ジュゼッペ・コンテ, マッシモ・ガロン, ルイジ・サルッジャ, フランチェスコ・ヴェントゥリーリア, アンドレア・ボイ

ドリアードの女王: ジルダ・ジェラーティ     キューピッド: ブリジーダ・ボッソーニ

三人のドリアード: アントネッラ・アルバーノ, モニカ・ヴァリエッティ, ステファニア・バローネ
四人のドリアード: ラファエラ・ベナーリア, アントネッラ・ルオンゴ, ルアーナ・サウッロ, コリンナ・ザンボン

ジプシーの王と女王: ダニーロ・タピレッティ, カロライン・ウェストコーム     ジプシー: サルヴァトーレ・ペルディキッツィ  二人のジプシー娘: ラファエラ・ベナーリア, ルアーナ・サウッロ

花嫁の付き添い: マリア・フランチェスカ・ガリターノ     執事とその妻: マウリツィオ・タメリーニ, アデリーヌ・スレティー

ファンダンゴのソリスト: サビーナ・ガラッソ, アレッサンドロ・グリッロ

 

このバレエ団の舞台を見るのは2回目。12年前の初来日公演以来でした。
そのときの(やはりヌレエフ版の)『眠れる森の美女』が「なんともかんとも・・・」でしたので,今回は期待値を大幅に低めに設定。「よい舞台を見にいく」のではなく「ヌレエフ版ってどういうのか忘れちゃったから見とこう」という目的に相応と思える価格でチケットが入手できたので,見にいくことにしました。
その結果,あまり誉める気はしない舞台だったのですが,概ねは「うむ,やはりこうであったか」と納得しながら見ることになりました。したがいまして,以下にいろいろ悪口は書きますが,私の気分としては,特に不満というわけではありませんのです。

 

キトリを踊ったマルタ・ロマーニャは,かなりの長身で,大人の雰囲気のバレリーナ。
踊りは,キトリにしてはまったりすぎるし,ドルシネアにしては少々元気すぎる印象。さらに,この作品の主役としてはテクニックが大幅に足りないとも思いました。
特に回転系が弱いようで,1幕で,闘牛士たちがマントを翻す前をピルエットの連続で斜めに進むシーンなど,普通の半分くらいの距離しか進まなかったような。グラン・パ・ド・ドゥのフェッテは,最初から「ん? なんか引っかかった?」で始まり,なんとか軌道に乗ったかと思ったらすぐ失速。後半はピケで処理していました。もしかしたら,この日の舞台で足を傷めるなどのアクシデントがあったのかもしれませんが,見せ場が見せ場にならない・・・どころか,盛り下がってしまって残念でした。

キトリの演技はとってもよかったです〜。
演出そのものが「ガマーシュ徹底拒否」路線なのだと思いますが,それを見事に体現。父親の言うことなんかはなから聞く気がないし,ガマーシュなんか歯牙にもかけないし,バジルには指図しまくりだし,キホーテに対しても面白がって相手をしているだけ。コケテュッシュや愛らしさなんてもってのほか。「自立した女」風の味わいで,すっげーかっこよかったです♪
ドルシネアのほうは「庶民的にこにこ」で踊っていて「夢の中に現れた姫」には見えなかったですが,キトリとは別人には見えたから,悪くもなかったかな。

プロポーションはカンパニーの中で際立っていましたし,主役にふさわしい華も感じられましたし,もうちょっと踊れるとすてきなキトリだったと思うのですが・・・。

 

バジルのミック・ゼーニは,なんと申しましょうか・・・「普通」でした。

ヌレエフの「なんだってこんなに細かい足技を?」や「なんだってここでこっち向きに?」やグラン・パ・ド・ドゥでのヴァリアシオンの始まりの「ドゥミ・ポアントでゆっくり片脚をアラベスクに上げて静止(・o・)」を問題なく踊っていましたので,上手なのだとは思います。でも,跳躍も回転も,「おおっ」と思える瞬間がなくて・・・そういうものがないとバジルはキツイですよね。
それから,背中が硬いのでしょうかね? 腕はきれいなのに,バジルっぽい決めポーズがイマイチかっこよく見えませんでした。

演技は,まさに「普通」でした。穏当にバジルを演じていましたが,これといって印象に残るものがない。伊達男でもなければコミカル路線でもなく・・・。ロマーニャのほうがキャラ立ちしていただけに,もったいないことでした。
容姿も「普通」程度でしたし,そのせいか地味な印象でもありました。(衣裳が茶系なのも悪かったのかもしれませんが)

2人のカップルとしてのバランスもよくなかったです。
ロマーニャにはゼーニは小さすぎる=ゼーニにはロマーニャは大きすぎるのだと思います。
サポートはこれも「普通」でしたが,リフトは常に両手で,それでも大変そうでしたし,「(もしかするとヌレエフ版に忠実なのかもしれませんが)普通はここでもっと大技見せるよねえ?」なシーンもありましたし。
あ,でも,ユニゾンで踊るところなどはきちんと合わせておりました。(ジプシーの場面の前のラブラブな踊りなど)

 

コール・ドは悲惨でした。1幕での演技などはラテンなノリで大いに楽しませてくれるのですが,踊り出すと,『ドンキ』にしといてよかったねえ,これが『白鳥』や『ジゼル』だったら・・・という感じ。
きれいでないし,ぜーんぜん揃っていないし,だいたいですねー,きれいに見えるように身長順にダンサーを並べるという発想がないのでしょうかね? 立って並んでいるだけでデコボコが・・・。

ソリスト役についても,感心できませんでした。踊りもさほどでないですし,プロポーションも「・・・」の方が多いですし。
中では,ジプシーの踊りの中心で踊っていたペルディキッツィが印象的。そもそも音楽も振付も盛り上がりやすい「おいしい役」ではありますが,コサック・ダンス?風の振りなどもスムーズにこなしていました。
あとは,キューピッドのボッソーニ。小柄な割りに愛らしさより色気に傾斜していた気はしますが,「いつも踊ってるんだろーなー」と思える仕草のこなれ方。踊りも安心して見られました。

 

装置はシック&豪華でよかったです。

衣裳もシックですてき。赤を使ってもこんなふうにハイセンスにできる・・・という感じでした。(多少野暮ったくてももっと派手なほうが『ドンキ』らしくて好みだなぁ,とも思いましたが)
それから,ガマーシュや結婚式のお客さんなどの衣裳が普通見るものより現代に近かったです。19世紀くらいの感じ? たぶん,時代設定を変えたのでしょうね。(そのことに意味があるとは思えないが)

振付は,「ヌレエフだなー」なものでした。むやみに難しそうで,特に足技が多くて,男性主役の踊りが増えていて。
演出については,「おお,ヌレエフ」という感じでしょうか。私は,どこかに「暗さ」が漂うのがヌレエフの作品の特色だと思っているのですが,今回は,ドルシネアを襲う黒マントの男たちを見せる演出などに,それを感じました。

 

以下,順を追ってメモしておきます。

まず,前奏曲でのプロローグが長い。
騎士物語らしき書物を読むキホーテの眼前にドルシネア姫(の幻影)を登場させ,黒いマントの男たちが彼女を拉致する場面を見たキホーテが悪漢一味との戦いを夢想する・・・というシーンが追加されています。(親切でわかりやすい演出で,よいと思います〜)
その前には酔っ払って使用人に運び入れられる? シーンや使用人たちが勝手に書物を燃やすシーン等があり,その後の,食べ物を盗んだサンチョが追われて逃げ込んで来たのを従者にして・・・という段取りはそのままなので,かなりの長さ。(なにしろ,この場が終わったところで拍手がわいたくらい)

1幕のキトリ登場+ソロ1曲に続いてバジル登場。ここに早速「ヌレエフだなー」な振付のソロが追加されておりました。(音楽は,酒場でのエスパーダのソロの曲)
ガマーシュ登場のいざこざの後主役2人は舞台から去り,町の人々の踊り。続いて,街の踊り子・闘牛士軍団・エスパーダの踊り。この後,町の男たちと闘牛牛の間でいざこざが起きる芝居があったのが珍しかったです。原因は,闘牛士が町娘に手を出したから?
続いて,キホーテ主従が登場しますが,えらく立派な馬(人動)に乗っていたので違和感がありました。(ヌレエフ版だからではなく,スカラ座の美術がたまたまそうなのかもしれない)
サンチョがからかわれる場面になる辺りで初めて気付いたのですが,舞台上の女性たちは町娘グループと街の踊り子グループに分かれているようでした。(闘牛士たちのステディに見えたので,とりあえず「街の踊り子」と分類しますが,もしかすると最初から舞台上にいたのかなぁ?) 踊り子グループはサンチョをからかうが,町娘たちは親切にしてくれて,それで気をよくしてお尻をさわったりしたので男たちが怒って・・・という話の流れだったようです。最後はトランポリン状態ではなく胴上げでした。

主役2人が戻ってきての踊りでも,「ヌレエフだなー」な男性ソロが追加されておりました。(音楽は,バリシニコフ版におけるエスパーダが酒場で踊るソロの曲) 続けてキトリの友人とのパ・ド・トロワを踊るという構成で,いやはや大変そう。
最後は,キトリを頭上リフトしたまま人々の間を縫って消えていく・・・ということで,(これは他の演出でも見たことがありますが)やはり大変そうでした。

 

2幕は,ジプシーの野営地とドン・キホーテの夢という2場構成。
冒頭は,恋人2人が登場しての長いデュエットになります。リフト多用のデュエット→バジルのソロ→ユニゾン中心のデュエット・・・という感じ。異色だったのは音楽で,『バヤデルカ』1幕後半(逢引の場面以降,という感じ)が使われていました。
眠りを妨げられたジプシーたちと揉め事になったところで,ロレンツォ・ガマーシュ・キホーテ主従が登場の気配。なんとか匿ってくれとキトリのイアリングで袋(変装用具が入っていたらしい)を購入し,2人が舞台から去ったあとは,キホーテその他を観客に,ジプシーたちの踊り披露になりました。
最初は男性ソリストが男女群舞を引き連れての踊り。続いて,女性2人の踊り・・・と思ったら,途中から髭で変装したバジルと顔をスカーフで隠したキトリも参加しましたが・・・いったいなんの意味が?
さらに,子役による人形芝居では,髭のバジルが親方を務めておりました。この人形小屋をキホーテがぶち壊す→風車突撃は普通どおりの流れでしたが,この後の夢の場面への転換(の前半)は,「おお,ヌレエフ」な感じ。

サンチョが助けを呼びにいって,1人倒れている中で見た悪夢なのでしょう,わらわらと登場した黒マントの男たちと戦うというか,彼らに翻弄されるというか。中に,(肩車か何かでしょうかね?)身長3メートルくらいの不気味な親玉? がいたのは,「風車を巨人と思い込み・・・」という話を踏まえてでしょうか?
男たちが消え去り,よろよろと前方に出てきたところで舞台転換のために紗幕が下りて,幕前の場面に。顔をベールで隠したドルシネアが黒子にリフトされて登場。左右に移動しながら踊った(というか,空中でポーズを見せた)後にしばし退場。今度はベールを外して手に持って現れ,キホーテの首にスカーフをかけてくれたところで紗幕が上がって2場となりました。(最初のほうで顔を隠していたのはどういう意味合いなのだろう? もしかして,ロマーニャの着替えの時間を稼ぐため別のバレリーナが踊っていた?)

夢の場面で特徴的だったのは,キューピッドがチュチュ姿(背中に矢筒)だったことくらいで,あとは普通の構成だったと思います。「キホーテが舞台上をうろうろする」系の演出でした。

 

3幕は酒場のシーンから。これはかなり珍しいのでは?
普通は主役2人の踊りで始まると思いますが,同じ音楽でエスパーダとキトリの友人2人も参加するパ・ド・サンクが踊られました。で,エスパーダのソロはなかったような気がします。それどころか,メルセデスがいませんでした。ジプシー女の踊りは2幕ですんでいるからないし,ギターの踊りもなかったし・・・少々自信はないのですが,たぶん,すぐにガマーシュほか御一行が到着したのでしょう。
狂言自殺シーン→結婚許可のあとは,バシルがロレンツォの頭にマントをかけて,2人は駆け去っていくという展開。ほかの演出でもありますが,「なんつー親不孝な」ですよねえ,これ。(ところで,剃刀を持つバジルを周りが顔を背けないで正視していたのに,なぜ狂言だとわからなかったのだろう?)

続いて,怒ったガマーシュがキホーテに決闘を申し込み,およそ迫力に欠ける戦闘シーンを経て,優勢のキホーテがガマーシュの鬘をとると実はハゲであった・・・という脱力系のオチで1場は終わりました。
ふと気付くと,舞台にはファンダンゴの一行が。(紗幕が上がったのだったか?)
さて,ファンダンゴに続いてグラン・パ・ド・ドゥ。もちろん「ヌレエフだなー」な振付ですが,流れとしては普通です。アダージオと男性ヴァリアシオンの間にヴァリアシオン(花売り娘)が一つありましたが,これもよくあるパターンですし。
踊り終えて,友人たちと(それともお父さんと?)わやわやしているところで,中央奥からしずしずと顔を隠した人が登場。(ドルシネアだと思い込んで?)近づいたキホーテの頭に一発喰らわせて,(実は)ガマーシュが嬉しそうに逃げていきました。
最後は,総踊りの中幕が下り,キホーテ主従は・・・あらら,記憶がありませんです。たぶん,どこかの段階で去っていったのでしょう。

 

音楽は,ヌレエフの要望に従ってランチベリーが編曲したのだそうです。
テンポが普通と違ったり,オーケストレーションが普通と違ったり・・・がかなりあったと思います。プログラムによると,その結果「より軽妙なタッチが加わった」ということですが,うーむ,私には『ドンキ』らしい弾む感じやスピード感が薄れたように感じられました。なんだか「まったり〜」した感じに聞こえたのですよね。
それとも,編曲のせいではなく,演奏のテンポのせいだったのでしょうか? もしかして,スカラ座のダンサーがヌレエフの振りを踊れる速度で演奏すると「まったり〜」になってしまうのでしょうか?(あら,最後まで悪口になってしまったわよ)

 

(2007.05.03)

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