ドン・キホーテ(東京バレエ団)

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2007年4月14日(土)・15日(日)

東京文化会館

 

原作: ミゲル・デ・セルバンテス     原演出・振付: マリウス・プティパ     改訂演出・振付: アレクサンドル・ゴルスキー, ロスチスラフ・ザハーロフ

新演出・振付: ウラジーミル・ワシーリエフ     引用振付: アレクサンドル・ゴールスキー, カシアン・ゴレイゾフスキー

音楽: レオン・ミンクス, アントン・シモーヌ, ヴァレリー・ジェロビンスキー, リッカルド・ドリゴ, ユーリ・ゲルバー, レインゴリド・グリエール, エドゥアルド・ナプラヴニク 

舞台美術: ヴィクトル・ヴォリスキー     衣裳: ラファイル・ヴォリスキー

協力: チャイコフスキー記念 東京バレエ学校

指揮: アレクサンドル・ソトニコフ     演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

  

 4月14日

 4月15日

キトリ/ドゥルシネア姫 上野水香 小出領子
バジル 高岸直樹 後藤晴雄
ドン・キホーテ 芝岡紀斗
サンチョ・パンサ 高橋竜太
ガマーシュ 古川和則
メルセデス 井脇幸江 奈良春夏
エスパーダ 木村和夫
ロレンツォ 平野玲
2人のキトリの友人 乾友子  佐伯知香 長谷川智香子  西村真由美
闘牛士 大嶋正樹  中島周  松下裕次  野辺誠治  辰巳一政  長瀬直義  宮本祐宣  横内国弘
若いジプシーの娘 奈良春夏 井脇幸江
ドリアードの女王 西村真由美 田中結子
3人のドリアード 田中結子  浜野香織  前川美智子 乾友子  浜野香織  前川美智子
4人のドリアード 森志織  福田ゆかり  村上美香  阪井麻美
キューピッド 高村順子 佐伯知香

 

初めて見たのですが,「東バの『ドンキ』は楽しい」というのが定評ですので,大いに期待して臨みました。
が,その楽しさは「主役以外にメルセデス&エスパーダというもう一組のカップルを設定し,2組のカップルの物語として最初から最後まで話の筋が通っていること」だと理解していたので,初日は「そんなにいい演出か?」と疑問を抱きました。
で,2日目に悟りました。
この版の評判がよいのは,そういう演出の説得力とかなんとかではなく,ごく単純に「踊りがたくさんで見応えがある」だったのですねー。なるほどー。

 

最初に演出の話から。
2幕仕立てで,上演時間が2時間半に短縮されておりました。こういうのは初めてかも?
街の広場とジプシーの野営地と夢の場面を1幕で片付け,2幕は,狂言自殺で結婚を許されて直後に結婚式・・・という,合理的かつスピーディーなものでしたが,この構成がよいかどうかは,疑問です。

とにかく1幕が長すぎて疲れてしまいましたよ。開演にやっと間に合った方などはお手洗い等の問題も出るのではないか,と心配になるような長さ。
2幕のほうは,早替りの必要上,酒場での最後の総踊りの最中に主役2人が去っていくし,メルセデス&エスパーダは狂言自殺の前に既に消えているので,最後がイマイチ盛り上がらない。そして,主役は(衣裳は当然替えますが)同じヘアスタイルで結婚式に登場。うーん・・・幕を改めて,メイクも髪もすっかり変えて,キラキラと登場してほしいなぁ。

プロローグで,ドン・キホーテの髭剃りを頼まれたバジルと仕事が終わるのを待てないキトリが登場し,キホーテがキトリ=ドゥルシネアと思い込むのはこの場面になっておりました。
ということは,キホーテさんはご近所さんだということになりますね。そういえば,ラストも「主従は再び遍歴の旅に」という感じではなかったですが,一方で,街の広場に入ってきたときは遠来の客っぽくもありましたので,少々謎。
まあ,細かいことはいいですよね。プロローグでのキトリとバジルの芝居はかなりコミカルなもので,これにより主役を印象付けることができますし,通常のキホーテとサンチョだけの演出より楽しいし,よい演出だと思いました。

街の踊り子=メルセデスとなっていて,エスパーダとともに結婚式までずっと登場する点(ジプシーの野営地にもいっしょに行き,結婚式ではファンダンゴを踊る)については,悪いとも思いませんが特に効果的とも思えず。
キトリ+バジルとメルセデス+エスパーダは「思い出したようにお友達」状態にしか見えず,改変に意味があるとは思えませんでした。意味があるとすれば,エスパーダの踊りが増えたことでしょうか。

なお,広場でのキトリの友人がそのまま結婚式でヴァリアシオンを踊りましたし,1幕の街の人々がその扮装のまま酒場に登場し,結婚式にも多くが参列。闘牛士たちも酒場にもいたし,着替えてファンダンゴも踊りました。

その他の特徴としては・・・1幕でカスタネットではなくタンバリンが使用されること,ジプシーの場面は男性群舞と女性ソロという構成,人形芝居は,キトリとバジルがお姫様と王子様で,邪魔する悪者がメルセデスを連れたエスパーダというヘンテコなもの,酒場でキトリが隠れる芝居は「まずバジルと街の女の1人が抱き合って,次にメルセデスが頭に布をかぶって椅子にすわってみせて」という段取りで,「友人たちの後ろに隠れて」はない,結婚式は公爵邸という設定になっている(そこに至る段取りが唐突すぎて納得いかないんですけどー),結婚式にキューピットが出てくるというロシア系不合理演出の踏襲,結婚式ではガマーシュやサンチョ・パンサはおろかロレンツォまで踊っちゃうこと(腰がイテテのありがちなオチつき)などがありました。

 

14日のキトリは上野さん。
彼女の踊りは,よく言えば「スケールが大きい」,悪く言えば「キレがない」に見えるので,あまりキトリらしくなかったですが,大きな瞳がくるくる動いてチャーミングだし,颯爽とした雰囲気もあるから、そういう点ではとってもキトリでした。
プロポーションはもちろん見事だし,街一番の小町娘らしい華があるのがなにより。

ドゥルシネアは,跳躍して舞台を横切るところのつなぎ? の腕の動きが「?」でした。
雑なのでしょうかね? よくわかりませんが,かなり違和感を感じてしまう踊りで・・・あれはなんだったのだろう?

グラン・パ・ド・ドゥはお見事。
バランス関係は彼女にしては不調? に見えましたが,「普通よりは長い」程度には見せていましたし,フェッテはよかったです。定期的にダブルを入れていましたし,扇を使った技も少々披露して,会場は大いに熱狂しておりました。

バジルの高岸さんは個性が陽気なので,バジルらしさは十分。狂言自殺のシーンで,目を開けて周りのすったもんだの様子を眺める芝居がとっても面白かったですー。
踊りがきれいでないので私のツボには全然入りませんが,この点は織り込み済みなのでオッケーです。バジルに必要なテクニックはありますし,リフトは安定しておりました。

カップルとしては・・・うーむ・・・身長の釣り合いもいいし,技術的パートナーシップも特にまずくはなかったのですが,恋人同士には見えませんでした。(仲良しには見えた)
年齢差が悪いのかもしれません。あるいは,上野さんがおっとり晩生の雰囲気で色気が足りないのが原因かも。よくわかりませんが,「お熱いカップル」には見えないのは,この作品の場合は欠点でありましょう。

 

15日は実生活でも新婚さんだという小出/後藤が登場。

小出さんはキトリは初役だそうですが,そんなことは微塵も感じさせない踊りと演技で,とてもよかったと思います。
かなーりジコチューの姐さん系キトリで,一見「小柄で可憐」なだけに,そのギャップが秀逸。でも,気まぐれにバジルになついてゴロニャンするときもあるのよね〜。

踊りは丁寧で安定していました。
1幕で扇を床に打ちつける動きや背中を反らしての大きな跳躍などに「もうちょっと」感はありましたが,むやみに要求水準を上げてもしかたないですし,「キトリは元気よく・ドルネシアは姫らしくゆったり〜」という踊り分けが見事でした。

後藤さんの主役は初めて見ましたが,予想よりずっとよかったです。(6年前に見たペザント・パ・ド・ドゥは「なんじゃこりゃ?」だったのですが,その後彼がクラシック作品を踊るのを見ないでいるうちに,かなり上達したようですね)
跳躍も回転も「あらら」なデキの難しい技を入れることより,素直にきれいに踊ったほうがよいのでは?(小出さんがフェッテを確実できれいなシングルで通したことを見習っては?)と意見したくはなりましたし,コール・ドと踊るときに主役が遅れて見えるのは困ると思いますが,「おおおっ」というリフトなど見せてくれて,優れたパートナーだったと思います。

このペアは,前日と違って「ラブラブな雰囲気」がありました。
というより・・・「バジルがキトリにラブラブだった」と言ったほうがいいのかも。いつも主導権を握られていて,ワガママぶりに手を焼いていて,でもそれが嬉しい・・・なカレシに見えました。(いいなー,こういうの。こういうダンナや恋人なら欲しいかも〜)
その分1幕での「恋の駆け引き」感は薄かったですが,そういうのもよいですよね。

 

ところで,上野さんも小出さんもナチュラルメイク? だったのが気になりました。キトリには紅いルージュで出てきてほしいなー。個性的な顔立ちで華もある上野さんはともかく,小出さんに関しては「地味に見える」というデメリットもあったと思いますし。

それから,(2組ともそうだったから)振付の話になりますが,見せ場の片手リフトで女性の身体の向きが垂直で180度開脚するのは,私は好きではありませんー。床に水平の形のほうがきれいだし,「離れ技」感も強くて効果的だと思うんですけれどねえ。(どちらが難しいのかは知りませんが)

 

メルセデスは14日が井脇さんで15日は奈良さん。
井脇さんは,予想どおりの男前系・大人系のメルセデス。酒場のシーンでの身体の反りを見せる踊りが実に見事。演技では,ロレンツォからキトリを匿うために,顔に闘牛士のマント? をかぶって「ふてくされたキトリ」風に座っている様子がたいへん上手で感心しました。
奈良さんは今回初めて認識した方。特に印象に残る踊りや芝居はなかったですが,目鼻立ちがくっきりした美人さんですね〜。

この2人はメルセデスを踊らない日は,「若いジプシーの娘」のソロを担当しておりました。これは,かなり激しい情念系のソロでしたが,もしかしてキトリたちへのおもてなしの余興みたいなものなのでしょうか? 趣旨不明というか,かなりの唐突感が。
踊りは2人ともよかったと思いますが,奈良さんのほうが印象的。緩急の切り替えのメリハリが強くて,よりドラマチックでした。

エスパーダは両日木村さんでしたが,一番印象に残るのはヘアスタイルですねえ。(すみません)
初日は,七三というより八二くらいに左右に分け,八のほうの前髪がウエービーに額に垂れるという珍しい形。(踊るとき前が見にくくないのでしょーか?) 翌日はオールバックでしたが,少々上方に膨らんでおりまして,板前さんのようでした。

踊りは『ドナウの娘』での見事さが記憶に残るだけに1幕では「はて?」と思いました。初日よりは2日目のほうがよかった気はしますが,もしかして跳躍に比べて回転のほうは少々苦手なのでしょうかね? マントの捌き方も普通程度。
ジプシーの場面でのソロはよかったです。初めて見たので,木村さんが優秀なのか振付がよいのか判断できかねるところはありますが,エスメラルダみたいに全身でタンバリンを鳴らす動きが小気味よく決まって,かっこよかった〜。
酒場のソロは,踊りがどうこう言う前に,振付がヘンテコでした。横を向けば牛のポーズ,前を向けば秘密戦隊ゴレンジャー(←古い?)のポーズ。ワシリーエフの振付センスは謎ですなー。

 

ドリアードの女王とキューピッド(←トではないのか???)は,初日の西村さんと高村さんがよかったです。
西村さんは,上野さんといっしょに踊るとプロポーションの違いで不利は否めないのですが,ていねいな踊りでしたし,女王らしい落ち着きや包容力があるのがよかったです。温かくキホーテを歓迎する女主人といったところでしょうか。
高村さんはブラヴォ♪ 高く美しく軽やかな跳躍と自然な愛らしさの表出♪♪

男性については,サンチョ・パンサの高橋さんが愛らしくてよかったです。まめまめしくキホーテのお世話をする実に有能な従者で,表情豊か。
トランポリン? については、高さはあるものの形は「要練習」だと思いますが,「踊る」シーンでの動きが軽くて愛嬌たっぷり。

そうそう,ガマーシュにも従者がついておりまして,こちらも甲斐甲斐しく働いておりました。ジプシーのシーンでガマーシュのためにベンチをふきふきする等。
結婚式では消えてしまいましたが,キャスト表に名前を載せてあげたらいいのにねえ。(プログラムのキャスト表によると佐々木源蔵さんという方だそうです)

古川さんのガマーシュは,演技が細かくて楽しませてくれました。キトリが踊る度に,「きゃあああ,キトリちゃん,がんばって〜♪」と盛り上がるガマーシュ。(珍しいですよね? そうでもないですか?)
広場だけでなく結婚式でもそうだったのには大いにウケました。しかも,バジルが踊るときには「くぅぅぅぅ(口惜し泣き)」なんかしているので,さらに笑える。

闘牛士たちについては,容姿も踊りも期待ほどではありませんでした。
あとから思い出したのですが,容姿については『ドナウの娘』を見たときも「へ?」だったのですよねえ。どうやらこのバレエ団の男性容色レベルは,新国立劇場程度まで下降したようです。(それとも新国の容色レベルが上がったのか?)
踊りのほうは,要は「マントは難しい」ということでしょうか? 同じダンサーたちが踊ったジプシーの踊りのほうは,「おおっ,いいねえ♪」でしたから。中でも目立ったのは中島さん。踊りのキレとニヒルな感じの立居振舞がとってもかっこよかったです。

 

衣裳は,「なるほどロシア製」という感じの色の洪水。シックとか上品とはいいかねますが,いかにも『ドンキ』らしく華やかなのがよいです〜。夢の場面はふんわりパステルカラーでしたし,こういうのがこの作品の王道衣裳ですよね。
装置は・・・はて? あまり記憶がありませんが,夢の場面の背景幕に白の扇が描いてあったのはきれいでした。

それから,装置の話ではありませんが,「風車に突撃」シーンが印象的でした。
照明や音響を大いに活用して「おお,現代の演出だなー」と感心。(というか,ああいうのは初めて見たような気がするなー)

 

以上,とても楽しかったです。
2日間とも大入り満員。拍手やブラヴォーも多く,会場の雰囲気が盛り上がっていたのもよかったですし,うん,『ドンキ』はいいよね〜。

(2007.05.03)

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