眠れる森の美女(新国立劇場バレエ団)

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2007年2月2日(金)

新国立劇場 オペラ劇場

 

作曲: ピョートル・チャイコフスキー

台本: マリウス・プティパ, イワン・フセヴォロジスキー

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: コンスタンチン・セルゲーエフ  演出: オレグ・ヴィノグラードフ

舞台美術・衣装: シモン・ヴィルサラーゼ  照明: ウラジーミル・ルカセーヴィチ

指揮: エルマン・フローリオ  管弦楽: 東京交響楽団

オーロラ姫: 川村真樹     デジレ王子: 貝川鐡夫

フロリナ王女: さいとう美帆     青い鳥: 江本拓

カラボス: ゲンナーディ・イリイン     リラの精: 湯川麻美子

国王: 長瀬信夫     王妃: 坂西麻美

優しさの精: 本島美和   元気の精:寺島まゆみ   鷹揚の精:西山裕子   呑気の精:高橋有里   勇気の精:遠藤睦子

カタラビュート: 小原孝司     カタラビュートの従者 串田光男

花婿候補: 市川透, マイレン・トレウバエフ, 冨川祐樹, 中村誠

女官: 寺島ひろみ, 本島美和, 寺島まゆみ , 丸尾孝子

踊り子: 遠藤睦子, さいとう美帆, 西山裕子, 大和雅美

伯爵夫人: 楠元郁子     ガリフロン: 石井四郎     村の娘:高橋有里   猟師:吉本泰久

ダイヤモンドの精:大和雅美   サファイアの精:寺島ひろみ   金の精:大森結城   銀の精:前田新奈

白い仔猫: 本島美和   長靴をはいた猫:陳秀介     赤ずきん:高橋有里   狼:奥田慎也

 

うーん・・・公演としてはイマイチだったような気がします。
この日のお目当ては ♪川村さんの主役デビュー♪ で,これに関しては「うん,よかったですよ」と言えるのですが,ほかで「あれ?」や「え?」が多すぎて・・・。
(新国への期待水準が上がりすぎているのかもしれません。それと,この間見たマールイ『眠りの森の美女』があまりにもよかったので見劣りした,ということもあるのかも)

 

まずコール・ドが「へ? 今見てるの新国だよね??」でありました。
まずもって動きが揃っていない。男性や子役も参加する1幕のワルツなどではそんなに気になりませんでしたが,プロローグのリラの妖精や2幕の幻影の場ではかなり「むむむ・・・」と。メンバー表などからして昨シーズンで退団した方がけっこういるとは思っていましたが,こうも如実に反映しちゃうのねえ・・・とある意味感心してしまいましたよ。
(念のため書きますが,決して悪くはないのです。でも,以前のこのカンパニーの水準からすると,なんとも・・・)

次に,デジレ王子について「あらまー,これじゃ誉め言葉を探すのが難しいわねえ」と。
誉めるとすれば,「頑張っていました」ということになろうかと思います。プロに対してはこれでは全然誉め言葉になっていないというか,むしろ失礼な気がしますが・・・。
立居振舞は王子でも貴公子でもなかったですが,「王子らしくエレガントに振る舞おう」としているのはわかりました。サポートとリフトは「ありゃ」続出でしたが,安全第一に真摯に取り組んでいるのはわかりました。ソロはきれいだとは思いませんが,元気に跳んでいました。

最大の長所は,やはり,容姿でしょうか。プロポーション的にはさほどでないですし,お顔もハンサムとは言えないと思いますが,背が高くてほっそり〜としていますから。前髪を垂らすという王子らしからぬヘアスタイルのせいもあって,現代青年にしか見えませんでしたが,衣裳は一応似合っておりました。
それから,「脚が上がる」というか「脚が開く」というか・・・なので,パートナーとのユニゾンでアラベスク? など見せて踊るときに,脚の高さを揃えられるのは利点。(というほどのことでもないかもしれませんが,第一人者の山本隆之さんには見せられない技? なのですよね)

そして,リラの精とカラボスは「悪くはない。悪くはないが,だが,しかし・・・」という感じ。
湯川さんは今回が初役だと思います。個性や団内での地位? からして当然キャスティングされそうな方が今まで踊ってこなかったのにはそれなりの理由があるわけで・・・要は,彼女は全然プティパ向きではないのですよね。母性的な雰囲気を上手に出していましたし,場を仕切ってもいましたが,踊りのほうは物足りない。別にミスをしたというようなことではないのですが,リラ役に必要な「ラインの美しさ」みたいなものが欠けていたと思います。
イリインさんは初役ではないと思いますが,初めて見たような気がします。で,ひと言で言うと「つまんなかった」です。(すみません) 腰の曲げ方を徹底してお婆さんらしさを出そうとしていましたが,面白くも怖くもなくて,地味な印象。

 

その他のソリストも,別に悪いわけではなく普通にはよいのですが,「さすがだわ〜。こうでなくっちゃ〜」とうっとりしたり,「おおっ,次はこの人でオーロラをっ」と盛り上がれる瞬間がありませんでした。
なにしろ一番印象が強かったのが花婿候補の一人のトレウバエフさんだったくらいで。(困惑)

そのトレウバエフさんですが・・・3人目に登場して主たるサポート役4人目と鞘当てを演じる役回りで登場。「気取りかえった」濃い演技で目を引いていました。
ただ,それがよいのかどうかは・・・うーん,どうなんでしょうねえ? たしかにセルゲーエフ版では花婿候補たちはちょっと戯画的な描かれ方をしていますし,本家マリインスキーではあれくらいやっているような気はしますが,新国の「よくいえば上品,悪くいえばおとなしすぎる」舞台の中で見るとかなーりの違和感がありました。

青い鳥のパ・ド・ドゥはさいとう/江本。
さいとうさんはちょっと不調でしょうか? 悪くはなかったのですが,姫オーラが感じられない踊りで,前回のほうが輝いていたと思います。江本さんの青い鳥は初めて見ましたが,かなり深く「く」の字や「つ」の字を描いていました。柔軟性に優れたダンサーなのでしょうね。
長靴をはいた猫のバリノフさんは,着ぐるみに似合わぬ? 美しい跳躍。今回は青い鳥に配されていないようですが,理解に苦しむキャスティングだなー,と思ってしまいました。

よかったのは,4人で踊る女官と踊り子(1幕)。ソリストとコリフェを投入しているわけですから当たり前とも言えますが,さすがでした。
それから狩の貴族たち。こちらもソリストですから,立ち姿も演技も立派。こういうキャスティングが舞台に厚みを加えるのだなぁ,と毎回思います。

 

さて,川村さんですが・・・それはもう立派なデビューでした。
初役どころか全幕初主役ですし,しかも(おそらく)オーロラというのはかなり難しい役なので,こういうケースでは踊る側の緊張が見る側にも見えてしまって「手に汗握る」になってしまいがちなのですよね。
ところが,今回の川村さんは落ち着いて見えましたし,笑顔が自然だったので,応援モードにならないですみました。ちょっとポアント弱いのかなぁ(2幕で舞台からはけるときに躓きかけたので,そのとき足を傷めたのかも?)とか,上半身がもうちょっと伸びやかだともっといいのになぁなどという感想を持ちましたが,そういうことを考えながら見られるというのは,つまり,こちらが平常心で見られるくらい安定した踊りだったということで,それだけで,とってもすばらしいことだと思います。

そして,それだけではないわけです。
「姫」らしいキラキラがありましたし,大柄なほうだから堂々と舞台映えするし,おまけに美人ですからねー,にこにこしてくれるだけで「かわいいわ〜。オーロラだわ〜」と納得させてくれました。

1幕はおっとりと素直に育ったお姫さまの感じ。踊り出す前の恥じらいが過剰すぎず,「戸惑いながらも勧められると素直に従う」様子が,いかにも「育ちがよい」感じで好ましかったです。
2幕は,うっすら笑みを浮かべて踊っていました。「王子を誘っている」ようには見えないで,おっとりしたお姫様が控えめに登場した風情。幻影らしさは不足していたので今後の課題かもしれませんが,儚げではありました。(ちょっと痩せたのかも?)
3幕は,登場のときのロングドレスもグラン・パ・ド・ドゥのチュチュもよくお似合い。気品がありましたし,幸福感もありました。

 

というわけで,すてきなオーロラでした〜。
着実にキャリアを積み重ね,満を持しての全幕初主役で花開いた,という感じでしょうか。仕事を早退して見にいった甲斐がありましたし,彼女のこれからの舞台も楽しみです。

残念だったのは,パートナーシップの問題でしょうか(というより貝川さんはリフトが苦手?),アダージオの大技系がぎこちなく見えたことです。
男性主役の育成も大切ですが,初役どうしというのは大胆すぎるような気がしますねえ。もっと安心できるパートナーを配してあげてほしかった・・・と強く思いました。

(2007.02.25)

 

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ルドルフ・ヌレエフ振付・演出「眠れる森の美女」プロローグ付3幕
パリ・オペラ座バレエ マニュエル・ルグリ オレリー・デュポン

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眠れる森の美女 バレエ
ボリショイ劇場管弦楽団 セミゾロワ(ニーナ) ファジェーチェフ(アレクセイ)

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