ライモンダ(アメリカン・バレエ・シアター)

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05年7月24日(日)マチネ

東京文化会館

 

音楽: アレクサンドル・グラズノフ     編曲: オームズビー・ウィルキンス

原振付: マリウス・プティパ     改訂振付: アンナ=マリー・ホームズ
構想・演出: アンナ=マリー・ホームズ, ケヴィン・マッケンジー

美術・衣裳・舞台装置: ザック・ブラウン     照明: スティーン・ビャーク

指揮: チャールズ・バーカー  管弦楽: 東京フィルハーモニー管絃楽団

ライモンダ(ドリス伯爵の一人娘): パロマ・ヘレーラ

ジャン・ド・ブリエンヌ(ライモンダの恋人): ホセ・カレーニョ

アブデラフマン(サラセン人の騎士): フリオ・ボッカ

アンリエット(ライモンダの友人): ユリコ・カジヤ   クレマンス(ライモンダの友人): サラ・レーン
ベルナール(ライモンダの友人/吟遊詩人): クレーグ・サルスティーン     ベランジェ(ライモンダの友人/吟遊詩人):カルロス・ロペス

ドリス伯爵夫人: ジョージナ・パーキンソン   白い貴婦人(ドリス家の守護者): アンナ・リセイカ   家令: ギョーム・グラファン

サラセンの踊り:ルチアーナ・パリス, ダニー・ティドウェル
スペインの踊り:カルメン・コレーラ,ヴィタリー・クラウチェンカ
ハンガリーの踊り:マリア・ビストロヴァ,ジーザス・パスター

 

今回の演出はアンナ=マリー・ホームズ版。
03年にヘルシンキ国立歌劇場バレエ団が初演,ABTは昨年初演したそうです。

この版ではですねー,ジャン・ド・ブリエンヌは出征しないのです。

・・・というところまでは予習していたのですが,あらまー,びっくり,そもそも許婚者ではなく,求婚者として登場。一方のアブデラフマンも堂々たる求婚者として登場。
ライモンダの母親(養母ではないらしい)である伯爵夫人がジャンのほうに肩入れしているという面はありますが,2人は対等な立場で張り合う・・・という実に変わったストーリーでありました。

「婚約者は十字軍で出征している」という設定を観客に理解させるのは非常に難しく,それを表わすべく改訂者の皆さんはいろいろ工夫してきたわけですが,設定そのものを変えてしまうというウルトラCをやってのけたのはスゴイことだわ〜,と思います。
(・・・と理解していたのですが,↑にキャストを転記する作業をしていたところ,あらまー,ジャンは婚約者ではないまでも「ライモンダの恋人」ではあったのですねえ。うーむ,これはますますびっくりです。そうは見えなかったけどなー)

出征しないだけあって,装置にも時代色(十字軍色?)は皆無。いったいどこの時代のどこの国なのか全く意に介さない徹底ぶりには,感心いたしました。
なにしろ,下手奥には,赤の広場の大聖堂を想起させる葱坊主型の塔が見えるのです。私にはあの曲線はイスラム風に見えるので(←建築の知識は皆無ですので,あくまでも「私にはそう見える」という話ね),違和感が大きかったですが・・・絵本に登場する「おしろ」というのはああいう形をしているような気もするから,ま,いいのかしらね〜。

 

以下,特徴的だと思った点を中心に,話の流れに沿って書いていきます。

まず,ジャンは騎士には見えませんでした。これはカレーニョのもの柔らかな個性のせいもあったのかもしれませんが,そもそもこの演出においては騎士である必要がないわけですから,おそらく騎士ではなかったのでしょう。隣の領地の次男坊あたりが幼馴染のお姫さまに求婚するために正装して訪れてきた感じ。
白地に金で飾りを施した衣裳に大きなローブを羽織ってにこやかに登場,ライモンダにベールを贈ります。(ライモンダは嬉しそう)

続いてアブデラフマンが登場。こちらは,赤を基調に金をさらに多く使った衣裳と表が赤で裏が紫のマント,大きな冠までかぶって登場。こちらもライモンダに贈り物をします。(ライモンダはジャンのときより嬉しそうで,母親にたしなめられておりました。わはは)

ところで,このアブデラフマンの衣裳はいかがなものか? と思いました。
いや,異邦人なのが歴然としていますし,裕福そうに見えたとも言えますが・・・とにかく全身真っ赤ですからねえ。おまけにあの冠はなんとも・・・。
ボッカはシリアスでワイルドで大人な雰囲気づくりに努めていたと思うのですが,衣裳がそれを妨げて,かっこいいには程遠く,せいぜいマンガの仇役といったところ。私がライモンダだったら,ぜーんぜん悩まないで,直ちにジャンを選ぶでありましょう。(まあ,全体を見たあとでは,この版のなんとも暢気な雰囲気からして,あのマンガチックな衣裳もありかなー,とは思いますが)

自己紹介を終えたジャンとアブデラフマンは,舞台の下手前と上手前に立ち,互いをライバル視しながら中央での踊りを見たり,ジャンが進み出てちょっと踊ると,対抗して同じくらいの長さでアブデラフマンも踊ったりします。(←順序については記憶不確か)
この辺の演出はわかりやすくて面白かったですが,その結果,2人とも「ちょっとずつ踊る」という感じになってしまい,双方とも魅力が発揮できていなかったような気も。
そして,特に場面が盛り上がらないままに,2人とも部下を従えて,粛々と去っていきました。

 

その後は,夢の場面へと進みますが・・・場面転換には大笑い。
背景幕が上がっていって,そこに描かれた例の葱坊主も上がっていくの。ど,ど,どうなるんだ? ろくろっ首でもあるまいし,もしや『くるみ割り人形』のクリスマスツリーのように巨大化?? と注目していたら,わはは,この塔は樹木のように根っこが生えておりまして,それごと引っこ抜かれて,上空へと消えていきましたよ。(珍しい手法ですなー)

そうそう,装置関係で書き留めておきたいこと。
伯爵家の守護神「白い貴婦人」の像は,高い台座の上に据え付けられていたのですが,このシーンが始まってまもなく音もなくするすると下がっていって台座の中に収納され,台座の後ろから貴婦人役のリセイカが登場しました。(なるほどー)

ところで,この守護神はライモンダの夢の中にジャンを登場させ,続いてアブデラフマンも登場するよう取り計らう・・・ということで,あくまでも求婚者2人を平等に取り扱っていたようでした。
なお,この場面の振付は,ジャンとの「穏やかでロマンチック」とアブデラフマンとの「翻弄されてドラマチック」の対比が明確で,よかったと思います。

 

さて,2幕ですが・・・花婿選びの日になったという設定だったのでしょうか,両陣営は,ここぞとばかりに配下を大量動員。
アブデラフマンは通常の演出どおり,サラセンの踊りとスペインの踊りを披露します。(本人は踊りに参加しない)
これに対抗して,ジャンはハンガリーの踊りを登場させます。これは,通常は結婚式の前座で踊られるあの音楽と踊りで,ここに持ってきて「贈り物合戦」にしたのは,よいアイディアだなー,と感心。

ところが,ハンガリーの踊りの間に,なぜかジャンは舞台から消えてしまいまして,その間にアブダラフマンがソロを踊り(ボッカが見事♪),熱烈にライモンダに迫る,迫る。

ところで,この場面のアブデラフマンの衣裳も,どうかと思いました。上半身はオレンジに水色のサッシュベルト,脚のほうはクリーム色のタイツで,おまけにブーツが赤。なんと申しましょうか・・・なんとも申し上げようのない色合わせで・・・。
そういえば,キャラクターダンスの衣裳もすごかった。もう詳細は覚えていませんが,スペインなんて,スカートは長いわ色は妙なオレンジだわで,唖然としたなー。

さて,ライモンダはアブダラフマンの性急さに困惑はしますが,拒絶はしません。伯爵夫人は,我が娘の性格からいって,このままでは押し流されてしまいそうだと判断したのでしょうかねー,慌てて家令にジャンを呼びにいかせます。
しかし,お母さんは心配しなくても大丈夫だったようで,ライモンダは悩んだ末にアブデラフマンに「お断りします」と告げます。その直後に,おっとりとジャンが登場。2人は抱き合います。

納得できないアブデラフマンは2人の間に割って入り,ジャンとアブデラフマンはくんずほぐれつ・・・まではいかないものの,素手で取っ組み合いを始めます。(ヘッドロックなど)
ひゃー,もしやこれが決闘・・・? と思ったら,さすがにそういうことはなく,双方剣を持っての通常の決闘に移行しました。(出征しない関係上ハンガリー王は登場しないので,決闘をアレンジするのは家令になってしまいました。舞台上にほかに適任者はいなかったような気はしますが,妙ではありますなー)

 

定石どおりジャンが勝ち,アブデラフマンを殺すのですが・・・この顛末には大きな違和感が・・・。
普通の『ライモンダ』の場合は,殺されるほうは拉致誘拐の現行犯ですし,殺すほうも戦場帰りの高級軍人ですから,こっちも素直に見ていられるのですが,この版の場合,アブデラフマンは,目の前で別の男が選ばれて頭に血が上った粗暴な男にすぎない。(まあ,暴行も刑法犯ではありますが)

殺すほうに至っては,穏やかでにこやかで,よいご領主さまになるだろうなー,よき夫・よき父になるだろうなー,という感じの人。そういう人が豹変して,傷ついた相手にさらに切りつけ,きっちりととどめまで刺す。しかも,直後には,この血腥い出来事にライモンダがショックを受けているのに頓着なく,「さあ,これで安心ですよ,お嬢さん」と言わんばかりに,前と同じにこやかな表情で,両手を広げて彼女を待ち受けているんですから,ひぃええええ,怖いですぅぅ。なんて無神経で得体の知れない男なんでしょー。

・・・と,思ったわけです。
どうやらライモンダも私と同じ意見だったようですねえ,ジャンの腕の中を選ばずに,脇をすり抜けてどこかに走り去っていきました。

私としては,このまま永遠にジャンの前から消え去ることを勧めたい気分でしたが,まあ,それでは話が破綻して作品が成り立たなくなってしまいますもんね。ジャンはライモンダの後を追い,2人はロマンチックな愛のパ・ド・ドゥを踊ります。
ここまでの経緯への感想はさておき,このデュエットを入れたこと自体は,よい演出だと思いました。「互いの愛を確認しあってから結婚式へ」というのは,現代の私たちには大いに納得できる段取りですし,そこまでの展開が「愛し合う恋人どうし」ではなかっただけに,そういう手順の必要性はより大きいと思いますから。

 

結婚式は2幕2場として上演されました。ハンガリーの踊りが1場ですんでいるから,グラン・パと大団円だけ。グラン・パのコール・ドは通常どおり8組でしたが,ライモンダの友人2組も参加しておりました。

グラン・パは「普通によい」程度でしたが,大団円の踊りは非常に楽しめました。ライモンダのシェネやジャン・ド・ブリエンヌの跳躍披露などがあって,「踊りまくる」感じというかアンコールみたいというか。『ライモンダ』自体をあまり見たことがないのではっきりとは言えないのですが,こういう演出は珍しいんじゃないかしらん?
演奏もリズミカルで,手拍子したい気分になり,盛り上がって終わりました。

 

さて,ダンサーの話ですが・・・ヘレーラは,容姿や雰囲気が「お姫さま」タイプではないのが苦しかったですが,周りに比べれば貫禄があるというのでしょうか,最初の登場シーンなどは「うん,この人が主役だな」とすぐわかる感じでした。
踊りは,ていねいさが欠けていた印象でしたし,ポアントの音も大きく,よくなかったと思います。特に,夢の場面でのベール扱いの荒さには唖然。ジャンがプレゼントしてくれたものなのにねえ。
演技も「このお嬢さん,なに考えてんのかなー? 要するに,なにも考えてないのかなー?」という感じでしたが,これは演出のせいかも。

ジャンのカレーニョは,数日前の公演で負傷したというベロゴロセフスキーに替わっての急遽の出演。(私はどちらも同じくらい好きだし,かといってどちらにも思い入れはないので,「立派な代役でよかったなー」という感想)
急な変更だったからか,サポートは「うまく合わせてるなー」程度でしたが(もちろん悪くはない),存在感がありましたし,端正でエレガントでテクニックもあって,よかったと思います。
演技については,彼も「なに考えてんのかなー? 要するに,なにも考えてないのかなー?」感はありました。やはり演出のせいでしょうか。

ボッカを見るのはものすごく久しぶりだったのですが(もしかすると10年ぶりくらいかも),1幕1場では動きが重い感じで「ううむ,こんなもんだっけ? それとも年齢のせいかなぁ? 彼が出るからこの日を選んだのになー」と思いましたが,夢の場面でサポートの見事さに感心。さらに,2幕1場のソロでは「すっげー。今でもこんなにキレキレなんだー」と感嘆しましたし,決闘前後の演技もよかったと思います。(部下が必死で止めるのを振り切るシーンとか)
ただ,とにかく,↑で悪口を言いまくっているように衣裳がトホホの極致だったので,「うまいなー」とは思えても「かっこいいなー」とは全然思えなくて・・・気の毒だったというか残念だったというか・・・。(彼がプロポーション美男でないせいもあったとは思うけれど,あの衣装を着て「すてきだわ〜」と思わせることが可能なダンサーっているのだろうか???)

 

ソリスト級の中では,ライモンダの友人2人がよかったと思います。
ユリコ・カジヤは,ほっそりとしていて腕も長く,踊り方も,私好みの日本人的たおやかさがあり,たいへん気に入りました。
サラ・レーンも,愛らしさがあり,踊りも安定していてよかったです。

キャラクター・ダンスは,あまり面白くなかったですが・・・まあ,衣裳のせいもあったのかな。
ハンガリーのソリストで,ボーン版『白鳥の湖』日本公演に主演したパスターが出ていたので,やはり注目してしまいましたが・・・特に語ることもない感じでした。

コール・ド・バレエは,わはは,いつもどおりと申しましょうか,「やれやれ,ダメですなー」と。
例えば・・・夢の場面の女性コール・ドはベールを手にして踊るのですが,幻想的に見せる目的で少しずつずらして腕を動かす振付なのに上手にできていないのか,本来揃えて動くべきができていないのか,判断に苦しむような有様でありました。
男性のほうも,(これはコール・ドというよりソリストと呼ぶべきかもしれませんが)グラン・パのパ・ド・カトルで,終始一貫してトゥール・ザン・レールに失敗している方がいるなど,誉めかねるでき。

コール・ドの衣装は,全体として濃い目のパステルカラーの色調。ディズニーランドという意見があるようですが,うーむ,むしろサンリオピューロランドかもしれん。
いや,私,キティちゃんは大好きなので,ああいう感じ自体は嫌いではないのですが・・・男女とも,似合っていない方が多かったように思います。

 

・・・というわけで,かなり悪口を言っているような気がしますが・・・公演自体は,たいへん楽しいものでした。
「グランド・バレエを見た」という気分には全くなれませんでしたが,ABTらしい暢気な娯楽作を見る楽しみは十分味わえましたし,本来の『ライモンダ』とは全く違う演出について「わはは」とか「なるほどー」と反応するのも楽しいものです。結論としては,「改訂するならこれくらい徹底したほうがいいかも〜」と思えるよい演出だと思いましたしね。

(05.9.19)

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Glazunov: Raymonda
Alexander Konstantinovich Glazunov Alexander Annissov Moscow Symphony Orchestra
B00000149F

バレエ音楽『ライモンダ』の全曲CD・・・らしいです。

Glazunov: Raymonda - Music from the Ballet
Alexander Konstantinovich Glazunov Edwin Paling Neeme Jarvi
B000000AE5

こちらも,全曲入っている・・・のかなぁ? アマゾンのリストに入っている曲数が少ないし,2枚組でないようでもあり・・・?

 

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