ドン・キホーテ(牧阿佐美バレヱ団)

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05年5月27日(金)

東京文化会館

 

演出・振付: アザーリ・M・プリセツキー, ワレンティーナ・サーヴィナ (プティパ,ゴルスキー版による)

作曲: レオン・ミンクス

美術・装置: 川口直次     衣裳: 川口弘子

指揮: 堤俊作     管弦楽: ロイヤルメトロポリタン管弦楽団

 

   5月27日  5月28日
キトリ 草刈民代 田中祐子
バジル 逸見智彦 森田健太郎
ドン・キホーテ 本多実男
サンチョ・パンサ 山内貴雄
エスパーダ イルギス・ガリムーリン
キトリの友だち(1幕) 橋本尚美,笠井裕子 小橋美矢子,伊藤友季子
街の踊り子 坂西麻美 吉岡まな美
ガマーシュ 保坂アントン慶
キトリの父 加茂哲也
キトリの母 諸星静子
マタドール 山本成伸,塚田渉,武藤顕三,徳永太一,今勇也,邵治軍,中島哲也,高橋章
酒場の踊り子 坂西麻美 橋本尚美
シプシーの首領 山本成伸
ジプシーの女 橋本尚美 吉岡まな美
森の女王 吉岡まな美 笠井裕子
キューピッド 橘るみ 森脇友有里
3人のドゥリアーダ 小橋美矢子,青山季可,伊藤友季子
4人のドゥリアーダ 坂西麻美,金澤千稲,竹下陽子,笠井裕子
キトリの友だち(3幕) 青山季可,伊藤友季子 奥田さやか,海寳暁子
町の女たち 金澤千稲,橋本尚美,吉岡まな美,奥田さやか 金澤千稲,橋本尚美,吉岡まな美,笠井裕子
ボレロ 笠井裕子,小嶋直也 坂西麻美,小嶋直也

 

この日は開演に間に合わず,1幕の途中,闘牛士たちが入場する辺りから見ました。
のっけから悪口を言うのもなんですが,このマタドールたちが「トホホ」なでき。ヌルい,跳べない,マント扱いが下手,と3拍子揃っていて,ううむ,困りましたなー,と。

続いてエスパーダが登場。
ガリムーリンさんは存在感もあり,芝居も踊りのキメ方もかっこよくはあるのですが,あー,うー,体型も動きも重かったです。これならゲストを呼ばずに,団内でなんとかできないのか? と言いたくなりましたが,対案がないのが現実なわけで,ますます困りましたなー。

坂西さんの街の踊り子が美しいプロポーションと適度なお色気の「おとな〜」な感じでとってもすてきだっただけに,それに比べて男性陣は・・・と嘆きたくなり,ここの男手不足はこの作品を上演するにはあまりに深刻すぎるのではないか,などと考察する中に逸見さんが登場。

パフスリーブの白いブラウスに赤いボレロを羽織って,脚が細いから黒いタイツもよくお似合い。動きもきれいで,颯爽としていて,「いやー,やっぱり違うわ。主役を踊るべき人だわ」と,たいそう感心しました。

 

が,キトリが登場してまた盛り下がってしまいました。
草刈さんは,そもそもキトリを踊るのに無理があるテクニックのバレリーナだと思いますが,年齢のせいか,ますます踊れなくなっていたように思います。

もっとも,彼女の場合,そういう致命的なハンディをねじ伏せて,コケティッシュなキトリとクールビューティーなドルシネアと3幕でのプリマの貫禄と,それぞれの場にふさわしい表現を,それなりに魅力的に見せているわけで,そのことについては「たいしたもんだなー」とは思います。

細かいところで「やらなかった」こともあると思いますが(見ていてもそう感じましたが,翌日の田中さんの舞台を見て確信),振付に忠実であろうとして破綻をきたすよりは,最大限自分を魅力的に見せるほうがよいに決まっていますものね。
必須な(観客が当然要求する)部分は,長〜いバランスを見せたり,フェッテも最後まで回ったり,主役の責任は果たしていたと思います。(きれいでないなー,とは思いましたが)

 

そして,逸見さんについても,見ているうちに「ちがうよなあ」感が強まって・・・見ているときは,小嶋さんのことをつい思い出すせいだと思っていたのですが,翌日森田さんを見て,(そういうこちらの精神状態もあったけれど)それ以上に,彼は「バジルでない」ということだったのだ,と思い当たりました。

かっこよくはあったし,3年前に新国立劇場で見たときよりバジルが「板についた」感じで,2枚目半の芝居の違和感が解消されてもいました。
踊りもよかったです。
リフトは「おおっ」とは思いませんでしたが,パートナーの能力(引き上げ不足?)のせいもあるでしょうし,2人でうまく処理して「片手リフトではある」にしてみせたりして,立派だったなー。
ソロも,私には少々物足りないですが,翌日の森田さんに比べれば,高さやキレや安定感で勝っていましたし,要所要所でのポーズも決まっていました。

でも・・・私にはバジルに見えなかった。

どこが悪いのかというと,恋する若者の「かわいげ」がないことではないか,と。
「かわいい」と思えるかどうかは見る側の問題もあるとは思います。逸見さんのファンにはかわいく見えるのもしれない。
でも,私は,ファンというほどではないにしても,彼は大好きなんですよ。でも,「かっこいい」とは思えても「かわいい」とは思えなかった,だからバジルに見えなかった,ということだと思います。

これはたぶんご本人の責任ではなく,一種のミスキャストだということなのではないかなー?
技術やスター性から言って,このバレエ団がこの作品を上演するときに彼が主役を踊るのは当然ですから,文句を言う気はないです。いや,すてきですから,機会があればまた見てもいいです。でも,『ドン・キホーテ』という作品を楽しむ,という点ではよろしくなかったと思いますねえ。

 

ソリストについては,まず坂西さん。
↑に書いた街の踊り子もすてきでしたし,酒場でのメルセデスもすてき。すらっとした長身が伸びやかに動いて,いいな〜,きれいだな〜,と思える踊り。
彼女は,年齢ともに美しくなるバレリーナなのですね〜♪

それから,橘さんのキューピットは,「さすが。プリマが踊ればやはり違う」という感じ。
ソロは後半ちょっと音楽についていけてない? と思ったりもしましたが,キューピット特有のポーズの洗練された美しさ・愛らしさがとってもよかった。10代の少女のように見える可憐さと大人が踊るからこその優美さと神話の登場人物(一応,そうですよね)としての格が感じられました。

吉岡まな美さんの森の女王は,意外に地味でしたし「女王」的品格が足りない気がしましたが,きれいでしたし,「この場を仕切る存在」としての説得力がありました。

 

演出については,1幕が長すぎるような? 
普通の1幕に続いて酒場のシーンまで1幕2場として上演されてしまうのです。公爵邸で結婚式をする演出の場合,狂言自殺のあとでジプシーの野営地になるのは常道ですが,その場合も2幕1場として上演されるのが普通だと思うので,かなり驚きました。(以前にも見ていますが,忘れていた)
なんというか・・・1幕で話が終わってしまって,妙だと思いました。ただ,あとから考えると,2幕1場で話が終わる演出(例:新国立劇場のファジェーチェフ版)よりはマシなような気も・・・。

 

というような2幕までを経て,3幕で小嶋さんが登場したわけです。(長かった〜。待ちくたびれた〜)

まず,舞台奥の数段高いところにパートナーと登場してポーズをとるのですが,それだけで悩殺されました。
ルルベして胸を張って片手を上げて立っている,その全身が見事に伸びて美しい。
そして,それをなんと言えばいいのかわからないけれど,目を引くなにかがある。(存在感・・・という言葉の現すものではないと思う。オーラ・・・ともちょっと違う気がする。舞台上の空気が突然張り詰めたような,そういう感じ)

その立ち姿を見た瞬間,「そうだったのか。こんなに美しい人だったのか」と再認識し,同時に「そうだったんだ。私はこれが見たかったんだ」と深く深く納得しました。

踊りについては,彼にしてはヌルい跳躍(かなり高く跳んだけれど,セーブしているのかそういう振付なのかふわっと下りてきて違和感が・・・)や「今ひとつ板についてないかも?」という足踏みみたいなステップなどもありましたが,一つひとつの動きの鮮明さ,美しさが見事。
特に,上体を反らしながらの巻き込むようにする回転技(ランベルセ)が圧巻でした。我が目を疑ってしまうくらい上体が反っていて,それでいて危なっかしさが全くなくて,動き全体が美しい。「うわ〜,こんなの初めて見るわ〜♪ こんなにきれいなのは彼だけだわ〜♪♪」と大いに盛り上がりました。

ほんの数分の出演でしたが,私にとっては至福の時間。
主役が気に入らなくても,彼さえ見事に踊ってくれればいいのよ,それだけで私は幸せになれるのよ,と改めて思ったことでした。

(05.6.12)

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ドン・キホーテ(牧阿佐美バレヱ団)

05年5月28日(土)

東京文化会館

 

この日は,とても楽しめる舞台でした。
「そうそう,『ドンキ』はこうでなくっちゃね♪」という楽しさで,前日の,小嶋さんが出てくるまでは「ううむ・・・なんだかなー」に終始していたのとは全然違う。同じバレエ団を見てこんなに反応が違うとは? と自分でも不思議なほどでした。

で,前日と何が違っていたかというと,主役を踊るダンサーが違っていたわけです。
この日の主役は,ちゃんとキトリだったしバジルだったし,そしてなにより,恋人同士でありました。1幕の「恋の駆け引き」の楽しさ。これが『ドンキ』なのよね〜♪
(したがって,前日は遅刻した私が悪かった,という要素もありますなー)

 

田中さんは,気の強そうな雰囲気が役によく合っていました。
飛び抜けて容姿が優れているとは思いませんが,周りとの舞台経験の差から来る「格上」感が舞台上での華につながる感じ。
踊りは安定していて歯切れがよく,気風がよくて社交的なお姐さんでした。

森田さんは,「自分が主導権を取らなくっちゃ」とがんばっている年下の恋人の雰囲気。
童顔だからかわいらしいし,全身を見ればかっこよくもある。いや,逆かな。プロポーションがノーブルだから基本的にかっこいいけど,お顔に「青年団」的要素があるからかわいげも出る,と言った方が適切かも。
(彼は基本的に「小さな顔とたくましい上半身」のダンスールノーブル体型なんですよね。さらに,衣裳の選択がよかったのか,シェイプアップに成功したのか,この日は「ちと太い」感もなかったです)

そして,2人の間のバランスがとてもよくて演技がかみあっていました。

この版では,バジルが「床屋で稼いで金持ちになって」という遠大な計画を語るマイムはキトリのお父さんに申し出るのではなくて,キトリに相談する形になっているのですが,「あんたなに考えてるのよ。そんなんじゃダメに決まってるでしょ」と即座に却下されておりました。わはは。

キホーテに満更でなさそうな様子を見せてバジルがヤキモチ焼いたあとも,「ばかね。あなたが一番に決まってるでしょ」,「うん! そうだよね♪(と喜んだところで,それを見透かされてはキトリにまたバカにされるのに気付いて)いや,もちろんそう思っていたさ」という感じ。

全体にこういう調子で,楽しめる場面が続きました。

 

もっとも,主役が「全部よかった」というわけではないのです。
田中さんは「ふんわりお姫さま」タイプではないので,ドルシネアは(きちんと踊っていたとは思うけれど)キホーテの夢見る理想の姫には見えなかったですし,森田さんのソロは,逸見さん以上に物足りない。さらに,グラン・パ・ド・ドゥのコーダでキトリがフェッテを披露している間に普通の歩き方で舞台上を移動していたのは興醒めでした。

でも,この際そういう問題点は見逃してもいいわね〜,と思える程度には,バカバカしくも楽しい作品の世界にこちらを引き込んでくれるキトリとバジルだったのでありました。

 

周りのダンサーで印象的だったのは,笠井さんの森の女王。
上手できれいでしたし,なんというのかしらん,「いいところのお嬢さん」風のおっとりした品のよさみたいな感じがあって,よいなー,と思いました。

ほかの女性ソリストに関しては,「初日がやはりファーストキャストなのであろう」と頷く感じ。
見劣りしたというほどではないですが,全般に,前日のほうがよかったと思います。

保坂さんのガマーシュはなかなかよかったです。
お名前や見た目から察するに,西欧人の血が入っているのでしょうね,風采がよいので滑稽さが引き立つ感じでした。もう少し「やりすぎ」でもいいような気もしましたが,品がいいから,あれはあれでよいのかな。

闘牛士たちはやはりよくなかったと思いますが(ジプシーは悪くない。ほぼ同じダンサーが踊ってるのになぜなのだろう?),中では,邵さんの見得の切り方が芝居っ気があってよかったです。

 

さて,最後に小嶋さんの話。
ええ,そりゃもうかっこよかったです。

前日「もうちょっとかも」と思ったステップが,「うふ。なにをやっても上手なのよね〜」に見えたのは,2回目の舞台だったから踊りがこなれていたのか見る側の気分のせいだったのかはよくわかりませんが,とにかく脚の動きが明晰と言えばいいのか鮮やかと言えばいいのか。
もちろん,腕と上半身で作る形も静止したときの形もきれい。

それから,「2人で踊る」という意味ではこの日のほうがよかったような気がします。
競い合ったり,目を見交わしたり・・・といった対話らしきものが感じられて,よりキャラクターダンスらしい雰囲気が感じられました。(たぶん,坂西さんの功績でありましょう)

そして,再びランベルセという技を見て・・・彼の身体能力に改めて感心しました。動き自体はそもそもの振付なのでしょうが,ああいう極端な踊り方をして全く危なっかしさを感じさせないというのはたいしたものなのではないか,と。
「ほんとに踊れる人なんだなー」と感じ入りましたし,それ以上に「とにかくこの人の踊りが好きなんだわ〜」と(しつこいようだが)悟りましたし,「それなのにしばらく見られないのか」と切ない気持ちにもなりました。

 

というわけですから・・・よい『ドン・キホーテ』の舞台の後の「とっても楽しかったわ〜♪」という気分にはなれなかったわけですが・・・まあ,それはこちらの勝手な事情ですからねえ。

主役の高度な技術と次々に繰り広げられる踊りの連続に興奮する『ドンキ』とは違いましたが,暢気な気分でにこにこしながら楽しめる,よい舞台だったと思いますよん。

(05.06.25)

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