眠れる森の美女(新国立劇場バレエ団)

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05年5月2日(月)・3日(火・祝)

新国立劇場 オペラ劇場

 

作曲: ピョートル・チャイコフスキー

振付: マリウス・プティパ  改訂振付: コンスタンチン・セルゲーエフ  演出: オレグ・ヴィノグラードフ

舞台美術・衣装: シモン・ヴィルサラーゼ  照明: ウラジーミル・ルカセーヴィチ

指揮: デヴィッド・ガルフォース  管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

   5月2日  5月3日
オーロラ姫  志賀三佐枝 真忠久美子
デジレ王子 デニス・マトヴィエンコ 山本隆之
フロリナ王女 さいとう美帆 島添亮子
青い鳥 グリゴリー・バリノフ 冨川祐樹
カラボス マシモ・アクリ
リラの精 西川貴子
国王 ゲンナーディ・イリイン 
王妃  楠元郁子
優しさの精 湯川麻美子
元気の精 内冨陽子
鷹揚の精 本島美和 
呑気の精 高橋有里 さいとう美帆
勇気の精 厚木三杏
カタラビュート 小原孝司
カタラビュートの従者 串田光男
花婿候補 市川透, 貝川鐵夫, 冨川祐樹, 中村誠
女官 鶴谷美穂, 寺島まゆみ, 本島美和, 丸尾孝子
踊り子 遠藤睦子, 西山裕子, さいとう美帆, 大和雅美
伯爵夫人 湯川麻美子
ガリフロン 石井四郎
村の娘 高橋有里
猟師 吉本泰久
ダイヤモンドの精 大和雅美 西山裕子
サファイヤの精 川村真樹
金の精 厚木三杏
銀の精 寺島ひろみ
白い仔猫 寺島まゆみ 本島美和
長靴をはいた猫 陳秀介 グリゴリー・バリノフ
赤ずきん 中島郁美
貝川鐵夫

 

2日は,志賀さんの最後の全幕主演の舞台。
とてもすてきなオーロラで,もう見られないと思ったら悲しくて,何回か涙が出てきてしまいました。

4年前に見たときは,技術も表現もなんの不足もないけれど,オーロラに必要な華だけはないんだよなー,と思ったのですが,今回見たら,きらきらしていてびっくりしました。
いや,ちょっと違う。「きらきら」ではない。派手ではなくて,透明感がある輝き。(うーむ,なんて形容すればいいんだろう?)
これは舞台経験を重ねる中で備わってきたプリマの輝きなのであろう,天性の華ではないだけにいっそう貴重なものなのではないだろうか,と感嘆。(ああ,もったいない)

 

踊りは,とっても音楽的。
余計なことは何もしない。チャイコフスキーの音楽を純粋に表現したらこういうふうになる,という感じ。
音楽が溌剌としているところは踊りが溌剌としていて,繊細なところは繊細で,優しげなところは優しげで,音楽が盛り上がると踊りも盛り上がる。当たり前かもしれないけれど,当たり前のことをこれくらいさらりとやってのけられるってすごい,と思いました。(うう,もったいない)

そして,音楽を見事に表現できれば,それがそのままオーロラになるのだなー,とも思いました。
1幕は初々しい少女で,2幕は(王子を誘う気配なんてみじんもない)純粋な悲しみで,3幕は幸福感溢れる新妻で・・・全体を通して楚々として品がいい。

演技なんか踊りのオマケなのよね〜,なくてもいいのよね〜,と過激なことも考えたりして。
(志賀さんが演技していなかったという意味ではないですよ。王子たちから受け取ったお花を投げ捨てたりしないで,ポーズをとりながら優しく床に置く動きのしとやかさなど,すてきだと思いますよ)

 

それから,今回初めて認識したのですが,彼女は「脚が歌う」のですね〜。
1幕のソロのロン・ド・ジャンブとか,王子にサポートされて前後に伸びていく脚とか,グラン・パ・ド・ドゥのヴァリアシオンでのポアント・ワークとか,脚の動きにニュアンスがあって,音楽を表現できる。
これは,かなりすごいことなのではないでしょうか?(しつこいとは思うが,ほんとにもったいない)

 

マトヴィエンコさんは,王子役で見る度に地味になっている(☆王子さま☆指数が減ってきている)気がして,その点がどうにも不可解なのですが,上手できれいで柔らかくてよかったです。

サポートは例によって少々「懸命」感が漂うものでしたが,その甲斐あって誠実なパートナーだったと思いますし,志賀さんへの敬意の感じられるマナーもよいです〜。(ありがとうっ♪ でも,カーテンコールはもうちょっと仕切ってあげてほしかったなー)

グラン・パ・ド・ドゥのヴァリアシオンはガンガン踊っていて,「これではデジレ王子ではないですなー」と笑いたくもなりましたが,まあ,この辺は好みの問題でしょうし,それでもきれいな踊りだから,立派なものと言えましょう。

 

オーロラが登場する度に盛大な拍手がわいて,グラン・パ・ド・ドゥのあとなんて,劇場のダンサーの日では珍しいよね? という「拍手で舞台に呼び戻す」もあって,遅い時間なのにカーテンコールも続いて,この劇場での最後の舞台にふさわしい雰囲気の客席。
カーテンコールには,芸術監督(というよりは,志賀さんの恩師ですよね,この場合)の牧阿佐美さんもちょっと登場して,二人で抱き合う感動的なシーンもありました。

こういうふうに感動的な形で「引退公演」ができるダンサーは珍しいから,志賀さんは恵まれているのかもしれませんね〜。(とはいえ,やはりもったいない)

 

3日の真忠さんは,「音楽についていけないわ」があるなど安定感に欠けました。まあ,これは逆に,デジレが「守ってあげたい」気になるのに説得力があった,という誉め方もできるかも。
ただ,1幕から3幕まで似たような感じだったのはいかがなものか,と。でも,初役ですし,主役経験も多いとは言えませんから,今後に期待いたしましょ〜。
よかったのは,愛らしさ。貴重な資質だと思います。

 

一方の山本さんには,たいそう感心しました。
今までは,「お顔だけはノーブルだが,踊りも立ち居振舞いもプロポーションも全然ノーブルでない」などと失礼なことを思っていたのですが,幻影の場を見て,評価を改めました。

登場直後の狩の場面でも「おお,しばらく見ない間に,だいぶ王子(=周りより偉い人)になったなー」と見直したのですが,幻影の場のすばらしさにはびっくり仰天。驚天動地。

腕の動きが,手の使い方が,とても柔らくてていねいで繊細で,そして,その動きが,指先がオーロラへの憧れを語る。「助けてあげたい」という気持ちを物語る。
こんなにエレガントでこんなにエロクアントなダンサーだったなんて〜。(私の目は節穴だったのかしら〜?)

まあ,3幕では,もう少し胸を張って立ったほうが王侯貴族らしいのではないでしょーか? とか,白いタイツは今ひとつ似合わないようですなー,とか,言っても詮無いことながら踊りはやっぱり物足りないんだよね(←安定していたし,上達していたとも思うが)とか,いろいろ言いたくなったのですが,そんなことはこの際棚上げにして,あの2幕を見られただけでチケット代の価値はあった,と思います。

あんなにすてきな幻影の場のデジレってめったに見られるものではないです。
ブラヴォー♪♪

 

リラの精は,2日とも西川さんでしたが・・・うーん・・・身体の使い方(特に脚の上げ方)に滑らかさが欠けている感じ。「きれい」とは思えませんでした。(不調だったのかな?)

雰囲気的にも,リラの精向きではないと思います。妖精の第一人者なのはわかるのですが,なんというか・・・「包容力ある」とか「威厳ある」ではなく,お局様的な存在に見えてしまうというか・・・。
技術や身長の関係から言って,彼女がキャスティングされるのは理解はできるし,以前より上半身から優しさが漂ってくるようになったとは思うので,ご本人は努力されているのでしょうが・・・。

 

1幕の妖精たちは,なかなかよかったと思います。
特に2日の日は「みんななんて上手なのかしら〜。すばらしいわ〜」とむやみに感動。

あとから落ち着いて考えてみたら,直前に見た『眠り』が「うーむ,プティパの振付を生かすという演出意図はわかるが,踊るほうがなんとも・・・」なハンブルク・バレエだったのが大きかったような気がしてきました。
3日はそういう分析の後に見たので,「そんなでもないなー」とは思いましたが,とにかく,あのくらい破綻なく踊れるダンサーを揃えられるのは立派ではないか,と。

 

3幕のディベルティスマンも楽しめました。
特に,プロポーションとお顔で揃えた(?)3日の宝石たちはきれいでしたし,2日の大和さんのダイヤモンドも,軽快でよかったです。

青い鳥のパ・ド・ドゥは,さいとう/バリノフはかわいい感じ。
さいとうさんは,あっさりさっぱりとした雰囲気が水色の衣裳とあいまって,和風の愛らしさ。清潔感が感じられました。
バリノフさんは,跳躍は軽やかできれいだし,サポートも上達しているし,なによりかわいい。あまり「青い鳥」っぽくはないとは思ったけれど・・・なぜだろう? それから,衣裳が似合っておりませんでした。(いや,悪いのは彼ではない。衣裳のほうだ)

3日の島添さんは,さいとうさんに比べると「大人〜」の雰囲気がすてき。
指先まで,爪先まで神経の行き届いたたおやかな踊りは見事で,「丹精した」などという言葉が似合いそう。そして,この方の芸風も和風だなー,と思いました。そうですねえ・・・日本の伝統工芸,例えば西陣織や七宝細工のような,そういう精緻な美しさ。
冨川さんは,細かい脚さばきは「要努力」ですが,跳躍に高さがあるのがよいです。なにより,あの衣裳が(似合う,とまではいかないものの)おかしくないプロポーションは貴重だと思うので,いっそう精進していただきたいものです。

あとは,バリノフさんの長靴をはいた猫(3日)のキュートさが印象的。軽快なステップがいいのよね♪(青い鳥よりこちらのほうがずっと似合っていると思います〜。なんて言ったら,ファンに怒られそうだが) 
白猫のほうは少し文句を言いたい。本島さんは「コケティッシュ」の範囲内だと思いますが,寺島ひろみさんは,それを通り越して少々お下品。私は好きではありませんー。

 

貴族を始めとする立ち役は,ソリスト大量投入と王妃やバチルダを持ち役としていた登録ダンサー鳥海清子さんの参加(♪)の甲斐あって,悪くなかったと思います。
花婿候補も適度にノーブルで適度にコミカル。(中村さん,ソリスト目指してがんばってね〜)

アクリさんのカラボスは,新国立で演じるときはおとなしめであまり面白くないですが,演出の要請に合わせているのでありましょう。

楠元さんの王妃は,大柄で見栄えがしますし,美しかったです。
一方,イリインさんの国王役は初めて見たのですが,ううむ,よくなかったです。なんか中途半端なお笑い役に見えてしまいました。見慣れた長瀬さんと違って,ノーブル役経験がないのが悪いのではないかなー? 
演技も今ひとつでした。(編み針発見で怒りまくったあまり心臓発作が起きる・・・ところなんか,あれじゃ意味不明だわ)

 

コール・ド・バレエはたいへん上手でした。

特に,1幕のリラの妖精たちは出色。
全体として揃っていてきれいだということもありますが,一人ひとりがたおやかな動きで,「お姫さまの誕生を心からお祝いしています〜」という雰囲気を出していて,すばらしかった!
ブラヴォー♪♪

2幕のワルツも「今日はめでたい誕生祝い」感が出ていてよかったです。
それから,籠のどの辺りを持って踊るかが統一されているのには,いつ見ても感心します。(キーロフやレニングラード国立は,こういうところはテキトーですもん。むんずと掴んで踊る方もいるくらいで)
子役も愛らしかったですしね。

それに比べると,幻影の場は「?」が・・・。
大きな足音を立てながら整然と跳躍してフォーメーションを変えるところなど,「こ,こ,これはもしやウイリーか?」と・・・。いや,揃っているという意味では揃っていたのですが,うーむ・・・あれでは「森の妖精」ではないですなー。(私は気付かなかったのですが,音楽がかなり速かったそうで,そのせいだったのかしらん?) 

 

全体としては,2日間とも「見られてよかったな〜」という舞台でした。
志賀さんのオーロラを見逃さないですみましたし,予想以上にすてきでしたし,そして,山本さんには驚いた。(こういう形で予想を裏切ってくれるのは大歓迎ですわ〜)

そして,セルゲーエフ版はよいですよね〜。
衣裳の色合いが全体として美しいし(カツラもオペラグラスを使わなければオッケー),間奏曲もしっかり聞かせてくれるし,ドラマチックすぎる感情表現もないし。
忙しい現代人の生活を忘れて,馬車で移動していたころの時間の流れに入れるような気がして,「これがバレエなのよね〜」と見る度に思います。好きだな〜。   

(05.5.15)

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異色のジャケットですねー。上はデジレ王子でしょうが・・・下はカラボス? それともリラ?

眠れる森の美女―完訳ペロー昔話集

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これを読むと,3幕の登場人物たちについてだいぶわかりそうです。私も買おうかしらん。

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